『
「流石はフィン。俺が尊敬する人だ。このスキルを発動させるなんて」
ミクロのスキルである『
つまりそれを発動したということはフィンはミクロにそこまで
知恵を、策略を、力を、技を、魔法やスキルの全てを駆使してミクロに
正直心のどこかに弛みがあったのかもしれない。Lv.7になってからこのスキルを使う相手がいるとすればそれは同じLv.7である【猛者】ぐらいだと思っていた。
だけどそれがどうだ?
ここにもう一人、このスキルを発動させるまで自分を追い詰めた強者がいる。
一滴でも眼前に強者を甘く見ていたことに関して謝罪。それと同時にミクロは甘さを捨てる。
「この戦いの勝利は俺が貰う」
ゴキリ、とミクロは指の骨を鳴らして告げる。
「
「!?」
ほぼ無意識による反射神経でフィンは顔を横に逸らした。そしたら一瞬遅れてミクロの拳がフィンの頬を掠る。
(速い………………ッ!?)
先程よりも目で追いきれない程の速度で放たれた拳撃。だが、そんなことを考えている余裕はない。続けて放たれる蹴りによってフィンは蹴り飛ばされる。
「ぐ、ぅ……………!」
苦痛に歪むフィンの眼前には既に攻撃態勢に入っているミクロ。咄嗟に身を捻り、回避するも―――
「!?」
一撃。
ミクロの一撃が地面を砕いた。
それも魔法によるものでも武器によるものでもない。素手で。
ぞっと背筋が凍るフィン。それと同時に思う。ミクロはこれまでの戦いは相手を殺さない様に加減して戦っていたことに。
それはミクロの優しさでもあり、甘さでもある。だけど今はその優しさも甘さも捨てた。
本気で
ミクロのずば抜けた耐久力にスキルにより底上げされた
そんなミクロの一撃一撃がフィンの命を破壊せんと迫る。
「くっ!」
息つく暇もない怒涛すらも生温い攻撃に己の戦闘経験によって危機的に回避するフィン。
しかし―――
「捕まえた」
「っ!?」
腕を掴まれ、地面に叩きつけられる。
「ガ、ハ…………………」
背中を強打して肺から空気が抜けていくと同時に口の中が血の味で染まるもそれを気にさせてくれる暇も与えずにミクロは拳を振り下ろす。
「
地面を砕いたその一撃をフィンはまともに喰らってしまう。
バキボキゴキ、と全身の骨が壊れていく音を耳にしながらフィンは歯を噛み締めて耐え――
「うおおおおおおおおおおおッッ!!」
渾身の拳撃でミクロを攻撃するが、ミクロは避けることもせずに受けた。
そしてお返しとばかりにもう一撃をフィンに叩き込む。
「がふ………………ッ」
口から盛大に血を吐き出す。
こんなにも血が出てくるものかと思えるぐらいに血を吐くフィンだが――――
「流石」
フィンは立ち上がった。
もはや殺してもおかしくはない攻撃をしたのにそれでも立ち上がったフィンを讃える。
意識があることさえ奇跡的だ。そういう攻撃をしたんだ。それなのに立ち上がり、震えるその足で大地を踏み締める。
そんな強者を讃えないでどうする。
だが――
「簡単に
そうでなくてはならない。
強者との戦いはまだ始まったばかりなのだから。
―――誰かは思った。
【
―――誰かは笑った。
【
――誰かが妬んだ。
【
しかし―――
そんな彼等は今、自分達が如何に愚かで脆弱で浅はかで妄想で自分を慰めていたと知る。
啞然としながら彼等――冒険者が見つめる『鏡』。
そこから映し出される光景に彼等は畏怖する。
絶対的強者による蹂躙。あの名を轟かせた【
【
前半では数多くの
心のどこかで嘲笑い、疑っていた【
それと同時に誰もが思った。
【
【
相手が悪い、と。
【
無理もない、と。
面白い戦いだった、と。
しかしこれまでだ、と誰もがフィンの勝利を諦めた。
万策尽きた【
それでもたった一人、否、一柱だけは違った。
「………………………………」
白亜の巨塔『バベル』の三十階。そこでロキは糸目をすっと開きながらフィンが勝つことを信じている。
信じる根拠などない。それでもロキは【ファミリア】の主神として一柱として、なによりまだ諦めずに立ち向かおうとするフィン自身を見てロキはフィンが勝つことを信じ続ける。
『鏡』に映し出される光景をロキはただ黙って見据える。
もはやフィンは意識があるのかさえ把握できない。
もう痛みすらも感じなくなった体でそれでも立ち上がって挑み続けている。
「まだ、立つか…………」
そんなフィンをミクロは迎えていた。
もはや満身創痍で片づけていい状態ではない。本来であればミクロが渡してある
もしかするとフィンは初めからそれを付けていないのかもしれない。だが、それならそれでそれはフィンが選んだ選択。ミクロが情けをかける必要はない。
拳を握りしめて向かってくるフィンに一撃を与えて地面に叩きつける。それでもフィンは立ち上がってまた向かってくる。
もう決着はついている。これ以上は本当に命に関わるのにフィンは諦めずに立ち向かってくる。
こんな状態で勝算があるのか? 少なくともミクロはあらゆるパターンを計算して思考を巡らせてみたけど現段階でフィンがミクロに勝てる可能性はゼロに近い。
なによりフィンにはもう意識がない。
辛うじてあると思っていた意識も既に絶たれて虚ろな双眸でミクロを見据えながら拳を握りしめて前へ進んでいた。
意地か、根性か、勝利への渇望か、もしくはその全てかはミクロにはわからない。
ただ向かってくるというのなら容赦しない。それだけだ。
拳を振り上げてくるフィンに対してミクロもまた拳を振り上げてフィンに炸裂させる。
手加減も容赦もない渾身の一撃。それでもフィンは立ち上がって幽鬼のような足取りでまた向かってくる。
異様な迫力を醸し出すフィンにミクロは不気味すら思う。
なら―――
「四肢を断つ。悪く思うな、フィン」
『アヴニール』を取り出してその矛先をフィンに向ける。
今のフィンがまともに戦えるとは思えない。けれど、ミクロの勘が言っている。
危険だと。だからこの場で四肢を絶ち、動きを完全に封じる。
今のフィンの状態でそれは危険だから正直使いたくはなかったのだが、ミクロはフィンの危険性を警戒して実行することを選んだ。
無論、
ミクロはその槍を持ってフィンの四肢を切断する。
刹那。
この一帯に響き渡る大鐘が鳴り響いた。
その大鐘にミクロの動きはピタリと止まって顔を上げてオラリオがある方角を見る。
「………………………………なるほど。フィン、これがお前の狙いだったのか」
フィンの狙いに気付いたミクロ。意識がない筈なのにまるで勝ち誇ったかのような笑みと共に地面に崩れ落ちるフィンにミクロは小さく息を吐く。
「もう、そんな時間だったのか………………………」
今の大鐘は
「騙された」
ミクロはフィンが自分に勝つつもりで戦っていると思っていた。だけどフィンは個人の勝利ではなく【ファミリア】の勝利を信じて
ミクロはその事に気付かずに完全にフィンに騙された。
騙されたことに唇を尖らせるミクロはフィンに治癒魔法を施して背負う。
「結果はどうなったんだろう?」
今回の
決闘ではミクロはフィンに勝利したけど、【ファミリア】での勝敗はまだわからない。
だけど、ここでフィンがミクロを縫い付けておかなければ【ファミリア】が敗北する可能性はぐっと上がってしまう。
そういう意味ではフィンはミクロを出し抜いた。
死んでいたかもしれないのに最後まで戦い抜いてこの場にミクロを縫い付けさせていたフィンにミクロは負けを認めた。
「次は勝つ」
そう呟くミクロ。もし、フィンに意識があれば『二度目は御免かな』と苦笑しながら呟いていただろう。
こうして【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の
「他の皆はどうだったかな……………………?」