【ロキ・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の
その戦いの一つであるリューとアイズとの戦いも終わりが近づいて来ていた。
「【
再び超短文詠唱を口にして風をその剣、その身に宿すアイズは疾駆する。
Lv.6の
しかし―――
「っ!?」
リューは風を纏ったアイズと同じ速度で対応し、攻防を繰り広げている。
繰り出される木刀を剣で防ぐもリューは連撃はせず、すぐに離脱して疾走を重ねていく。そして打ち合う度にその威力が上がっていく。
―――――ベートさんと同じ疾走系の『スキル』?
同僚である
そしてその推測は正解であった。
リューが有する【
冒険者同士の戦いは『技と駆け引き』は大前提ではあるが、『魔法』と『スキル』を探るのも重要な要素だ。敵の能力を見極めなければ最後の最後でどんでん返しもあり得る。
特に実力者同士の戦闘では、その手札の差が明暗を分けることが多い。
「――――ふッッ!」
「ッッ!」
アイズは熾烈な剣舞を交わす。
始めはまだ風を付与したアイズに速度では分があった。だが今は速度は互角。攻撃力は相手の方が上。
(この人はまだ…………魔法を使っていない)
遠征の際に目撃したリューの魔法。その威力、攻撃範囲は決して無視していいものではない。少なくとも直撃すれば
風で防御したとしても完全に防ぐことは恐らくは無理。それならアイズが取れる手段は二つ。魔法を発動する前に詠唱を止めるか、範囲外まで逃げるか。その二つに一つ。
しかしそのどちらも不可能に近いことをアイズは知っている。
ミクロに『並行詠唱』を教えたのはリュー。それならミクロが見せた攻撃・防御・移動・回避・詠唱の五つの行動の同時展開をしながら詠唱を完了させる可能性が高い。
そしてリューの魔法は詠唱が始まってすぐに離脱したとしても背後から撃たれて終わる。
もし、詠唱を始められたら終わり。
そう考えるアイズの背筋は凍りつく思いでリューの木刀と剣を交差させるも現状では魔法がどうとかという問題ではない。
激戦と一途を辿るリューの動きは凄まじい疾走と思えば、一瞬速度を緩め、次には
絶妙な速度の緩急をもって『駆け引き』を高速戦闘の中で織り交ぜてくる。
それはほんの僅かな、けれど類を見ないほどのち密な動きにアイズはただ驚嘆する。
これが【アグライア・ファミリア】副団長、【疾風】リュー・リオンの実力。
「………………………この
熾烈な剣舞を交えながら告げられるその言葉に目を見開く。
自分でもこんなに手を焼いているのに自分の目標となるミクロにとってはこれほどの速度をこの程度と言わせる。
それはつまり
「わかりますか? それほどまでに彼は、ミクロは強い。その強さは既に私達の手の届かない場所にいる」
「どうして、それを私に……………?」
金の双眸と空色の双眼が視線を交えながら告げる。
「そこに辿り着く為の強さがいる。そう言えばわかる筈だ」
―――決着をつけよう。言外に告げられたその言葉に意味を察したその瞬間、リューの足元に空色の
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」
「ッ!?」
決着をつけにきたリューに焦りが生じるアイズ。だけどリューは攻撃の手を一切緩めることもなくアイズと得物を交える。
(なんて強い魔力……………ッ!)
その魔力の圧力にアイズの頭に
(このままじゃ……………!)
敗北。その二文字がアイズの脳裏をよぎるもアイズは防御を捨ててでも詠唱を止めようと攻撃に移るが―――
「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を】」
詠唱が崩せれない。それどころか加速している。
「【汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
『並行詠唱』を行いながらの詠唱。その技量はアイズの知る魔導士リヴェリアを上回る。
「くっっ!」
詠唱が進むにつれて焦燥が大きくなっていく。
「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ】」
一歩間違えれば自爆。それでも『魔力』の手綱を手放さないのは才能でも技量でもない”慣れ”だ。
最前線で守られることもなく『必殺』を扱う死と隣り合わせの戦い。それを数え切れないほどに繰り返してきた『魔法剣士』。
それがリュー・リオンというエルフの戦士の実力だ。
「【星屑の光を宿し、敵を討て】!」
そして遂に詠唱は完了した。
「【ルミノス・ウィンド】!」
発動する『魔法』。
緑風を纏う大光玉。その数は五十を超えてリューの
「【
反射的にアイズも魔法を発動させる。
全
迫りくる光弾の濁流。逃げ場のない砲撃の嵐を前にアイズはその嵐に突っ込んだ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
逃げ場がない。それなら突き進む。
アイズは颶風の矢となって砲撃の嵐に突貫する。
無謀ともいえるその行動。いくら風をその身に纏っているとはいえど決して無傷で済む問題を超えている。良くて致命傷、悪ければ死。それでもアイズは大光玉と衝突する。
「ぐっ、うっ……………!」
激しい砲撃の嵐のその身を大きく傷つけるもそんな傷を無視してアイズはただ勝利を掴む為に突き進む。
その結果。アイズは
しかし―――
「ミクロと同じ魔法を持つ貴女ならそうすると思っていました」
「!?」
リューはそれを読んでいた。
以前に【シヴァ・ファミリア】に所属していたエスレアの逃げ場のない魔法を前にミクロはその魔法に突き進み見事にその魔法を突破した。
ならアイズもそれと同じことをするだろうとリューは予めそれを予測していた。
放った大光玉。それを五つほど自分のもとに残していた。そしてその五つを自分の靴裏に炸裂させた。
風を纏う光玉が与える爆発的な『推進力』。リューは魔法を使い果たし、身動きが取れないアイズに最後の一撃を与えようとリューは
迫りくるリュー。アイズはその動きが緩慢に見える。いや、目に見える全てがゆっくりに見えてしまう。
防御をしないと、思うも自分の動きが遅いことに苛立つ。
防御も間に合わない。
このままでは一秒も満たされない内にその木刀がアイズの身に当たるだろう。
直撃すれば敗北は避けられない。
(私は……………!)
負けたくない、負けられない。
強くならないと、
私に『英雄』は現れてくれない。なら私が強くなるしかない。
その為に私は『剣』を執った。執るしかなかった。
迫りくる木刀がアイズに身体に触れるその瞬間――――
アイズの剣はリューの身体を貫いた。
それでもリューの一撃はアイズに直撃。互いに致命傷を負いながら地面に倒れる。
負けたくない。その一心で最後の最後まで防御を捨て攻撃をもって迎え撃ったアイズ。
確実に勝利を獲得しようとしたリューは最後の最後でアイズが迎撃してくる可能性を低く見積もっていたその結果。最後の一撃を許してしまった。
「………………………私も、まだまだ」
己の油断を猛省する。
魔法を使い果たして、動きを封じても、渾身の一撃を用意してもそれが勝利に繋がるわけではない。
その時、この一帯に響き渡る大鐘が鳴り響いた。
気は失っているも命に別状はない。リューはアイズに肩を貸してこの場を離れようとする。
「………………………私、は」
意識を失いながらも何かを呟いているアイズにリューは一言。
「きっと貴女にも『英雄』は現れる筈です」
一度は復讐者としてその身を堕としたリューだけどそこから自分を救ってくれた英雄がいる。ならきっと彼女にも彼女だけの英雄が現れるはずだ。
そうあって欲しいと願いながらリューは歩を進める。