路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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Three46話

【アグライア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)も終わりに近づいているのは戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加している両派閥の団員達だけでなくこの戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦している者達も気付いている。

どちらが勝利を手にするのか、それは誰にもわからない。

勇者(ブレイバー)】を団長に首脳陣のもと一致団結した互いを補完し合う【フレイヤ・ファミリア】と並ぶ二大派閥とまで呼ばれていた【ロキ・ファミリア】。

その実力、名声は迷宮都市では知らない者はいない。しかしそれは【アグライア・ファミリア】も同じだ。

五年と少しという歳月で【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】と並ぶ三大派閥とまで呼ばれるようになった【アグライア・ファミリア】。組織を率いる【覇王(アルレウス)】ミクロ・イヤロスはLv.7にまで【ランクアップ】を果たした傑物。

その傑物が率いる組織全体の実力も【ロキ・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】にも劣っていない。

どちらの派閥が勝利を手にするのか、それは誰にもわからない。

「お、おい、これってどっちが勝つんだ……?」

「し、知るかよ」

「こんなの俺達なんかがわかるわけがねぇ……」

とある酒場でそんな声が出てくる。

『鏡』の先に映る光景。両派閥の攻防はそれだけに拮抗していた。少なくとも下級冒険者にはどちらが有利不利なのか見極めることもできず、ただ困惑する一方で。

「よっしゃいけ! そこだ!」

「よし! 勝て! 【ロキ・ファミリア】!」

「負けるな! 【アグライア・ファミリア】!」

戦いに、賭けに熱中し盛り上がる者もいる。

そして【アグライア・ファミリア】本拠(ホーム)夕焼けの城(イリオウディシス)』では今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加させなかった非戦闘員、新人達は啞然としながら団長や団員達の戦闘を見ていた。

「あれが団長……」

「もう、なんでもありにゃ……」

まだ入団したばかりということで今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は参加できなかったファーリス達。戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加できなかったことに不満はないと言えば嘘になるが、今ならば彼等彼女等は思う。あの場に自分達がいても足手纏いだということが。

「団長、素手で地面を……」

「ベルさんも、はや……目で追えない」

「セシルさん、【重傑(エルガルム)】と正面から……」

「いや、副団長と【剣姫】も、え、人って空飛べたっけ?」

想像を絶する戦いにただ困惑する。

これが自分達の先輩なのだと。改めてその実力を思い知らされた。

「相も変わらずの化物っぷりですわね……」

セシシャは紅茶を飲みながら暢気に観戦に徹していた。団長であるミクロの非常識などもう慣れたものだ。

「ベル様……」

春姫もまた不参加。春姫の規格外の妖術である階位昇華(レベル・ブースト)を公にしない為の他に今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の目的は互いの【ファミリア】の戦力強化。どうしても勝たないといけない戦いでない限りは春姫を参加させるつもりない。

はらはら、と落ち着きのない様子で『鏡』に映るベル達を見守る春姫の肩にアイカは優しく手を置いた。

「大丈夫だよ~」

「アイカ様……」

「みんな強いからね~。だから落ち着いて~」

「……はい」

アイカの言葉に少しだけ落ち着きを取り戻す春姫はじっと戦いの行く末を見守りながらも内心は焦燥に近い感情が湧き上がる。

(私にも何かできることがあれば……)

彼等の傍にいることができるのか、と思う狐人(ルナール)にアイカは温かい眼差しを送る。

 

そうして戦争遊戯(ウォーゲーム)終了の合図である大鐘が鳴り響いた。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)終了。

その合図と共に戦闘を繰り広げていた両派閥の団員達は得物を下ろし戦いを終わらせる。勝敗は【ガネーシャ・ファミリア】が破壊された両派閥の団旗を確認し終えてから発表されることになっている。

それまでは一時的として用意されている簡易的な治療施設に怪我をした団員や動けない団員を抱えてその場所に向かう。

体力と傷を回復させる為に両派閥はそこで身体と心を休ませる。

「あ~~死ぬかと思った~~」

「まったく、肝を冷やしたぞ」

バーチェの毒で死にかけたティオナも今ではもう回復しており、バーチェと一緒に身体を休ませている。

「何度も言わせんな!! 団長が強くて最高に決まってんだろ!!」

「違う、ミクロだ。あれほどの雄はいない」

「まだやってるよ……」

戦争遊戯(ウォーゲーム)が終わったにも限らず今もなおどちらの(おとこ)がいいのか言い争っている姉二人に妹二人は揃って溜息を口に溢した。

その身体は満身創痍の筈なのに治療師(ヒーラー)からの治療も受けずに言い争う二人に両派閥の団員達も近づけなかった。

誰も恋する狂戦士(バーサーカー)から距離を取っていた。

「ラウル、平気?」

「あはは、なんとか大丈夫っすよ。アキこそ平気っすか?」

「なんとかね。【流星猟犬(スターハウンド)】にしてやられたわ」

「自分もっす。【白雷の兎(レイト・ラビット)】は強かったす……」

ラウルとアキは今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)で敗北に等しい負け方をしてしまった。ラウルはベルにアキはティヒアに。二人は敗北感を抱きながらもその瞳は諦観を抱いてはいなかった。

「【アグライア・ファミリア】……味方の時は頼もしかったけど実際に戦うとなると厄介ね」

「本当に敵じゃなくてよかったす……」

これから先の未来、次に活かす為に話し合う【ロキ・ファミリア】第二軍の二人。闇派閥(イヴィルス)との戦いもあるなかで今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)は有益な経験を得られることができた。

「ところでラウル、さっきから気になっていたのだけどその小型盾(バックラー)はどうしたの?」

「あー、これっすか。実はこれ外せないっすよ……」

「え?」

その近くでレフィーヤは治療師(ヒーラー)の手伝いをしていた。

「はい! 回復薬(ポーション)です!」

「お、おう、ありがとな……」

「いえ! あ、そっちの方もどうぞ!」

「ありがとう。手伝わせてごめんね。他派閥なのに」

「いえいえ! 今はそんなこと関係ありませんから!」

レフィーヤは自派閥他派閥関係なく回復薬(ポーション)を配ったり、治療用の道具を用意したりと戦争遊戯(ウォーゲーム)の後だというのに忙しなく動いている。

そんな彼女に【アグライア・ファミリア】も団員達も思わず警戒を緩めてしまう。

「【千の妖精(サウザンド・エルフ)】。良ければ今度俺とデートでも」

「あ、その馬鹿は適当にあしらっといていいから」

「酷いなおい!!」

「あはは……」

苦笑。

「負けた……」

簡易の天幕でセシルが意識を取り戻した頃には既に戦争遊戯(ウォーゲーム)が終了していた。目覚めてすぐに自身がガレスに敗北したことを思い出し、悔しそうにぼやく。

「いや【重傑(エルガルム)】と正面からやり合っていただけでも凄ぇよ」

「そうさ。あんたがいなけりゃ私も含めて散々な目にあっていた筈さ。最後の一撃なんて私から言わせたらよくやったよ。あれは相手が悪い」

魔法と魔剣。二つの力を組み合わせて相乗効果を生み出しての強力無比な暴嵐の一撃。それを正面から受け止めたガレスの方が異常だ。むしろ、そのガレスと正面から戦い、団員達の戦意を蘇らせたセシルは本当によくやったと言える。

労いの言葉はあってもセシルを責める言葉はない。ヴェルフもアイシャもそれをよく理解している。

それでもセシル本人は納得できなかった。

「でも勝ちたかった……」

「「……」」

悔し気に拳を握りしめる。

相手が悪い。確かにそうだ。

相手はあの【重傑(エルガルム)】。第一級冒険者。そしてセシルは第二級冒険者。隔絶した実力差があるにも関わらず、それに食らいつき、最後の最後まで戦い抜いたセシルは称賛に値する。

だが、それが本人にとって喜ばしい結果ではない。

いったい何人いるのだろうか?

第一級冒険者と戦い、それでも勝ちたかったと言える冒険者が……。

「もっと、強くなりたい、お師匠様のように、ベルのように……」

不屈の少女もまた憧憬のその背を追いかけ続ける。

「【卑小の我は祈る。光り輝く生命の粉塵は汝に万能の治癒を施し、あらゆる怪我と病を癒す。我は汝を想い、汝の為に我は身を呈して祈りを捧げる】」

詠唱を完了させて治癒魔法を発動するパルフェは負傷していたリュコスの傷を治す。

「……」

「目が覚めた? 調子はどう?」

「……最悪さ」

完敗。その二文字がリュコスの頭に浮かび上がる。とっておきの魔法を使っても【凶狼(ヴァナルガンド)】には届かなかった。

「クソがっ」

手を顔を覆うリュコスにパルフェは何も言わずに天幕から出て行く。一人でないと表に出せない感情というものがある。それを知っているパルフェは励ましも慰めもしなかった。

ただ立ち上がって前を向いてくれることを信じて。

「パルフェ、リュコスや他の皆はどう?」

「ティヒア。うん、軽傷者や重傷者はいるけど死者はいないよ。【ロキ・ファミリア】の方も問題ないみたい」

「そう。それはなにより。後は勝負の結果を待つだけね」

冷静に告げるティヒアだが、その尻尾は忙しなく動いている。それはもうご褒美を目の前にして待ての状態に犬のようだ。それを見てなんとなくその理由を察したパルフェは苦笑いをしながらその理由を尋ねてみた。

「えっと、ミクロからのご褒美は貰えそう?」

「ええ」

その顔は自信に満ちている。

(ああ、これは頑張ったんだな……)

いったいどれだけ頑張ってきたのか。恋する乙女の力は凄い。

今回は回復要員の為に戦闘には参加しなかったパルフェだが、どれだけ戦場を駆け巡り団旗を壊してきたのかなんとなく想像できてしまったパルフェだった。

「ベート・ローガぁー! 大丈夫!? レナちゃんが手当てしてあげるよー!」

「いるかァ!?」

「なら昂ったその身体をレナちゃんが一肌脱いで――」

「脱ぐんじゃねぇ!?」

ベートもまた恋する乙女、アマゾネスに言い寄られている。

「……ここは」

「目が覚めたか、フィン」

「リヴェリア……」

「まったく無茶をしおって」

「ガレス……」

【ロキ・ファミリア】首脳陣。フィンの目覚めを待っていたリヴェリアとガレスは半分呆れるような目でフィンの目覚めを待っていた。

「ミクロから聞いたぞ。無茶をしたようだな?」

「そうだね」

フィンは否定はしなかった。無茶を通してミクロと戦ったその自覚はある。それでもフィンの表情はどこか晴れやかだ。

「だけど意味はあった」

手を握り拳を作る。それはまるで大切な何かを掴んだようにさえ見える。

「……そうじゃな。儂も久々に楽しめたわい」

「私も彼等との戦いに得るものはあった。勿論、アリシア達にも」

【ファミリア】の戦力強化。少なくとも【ロキ・ファミリア】にとって今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)には意義はあった。肉体面だけでなく精神的にも得られるものがあったのは大きい。

「ミクロ・イヤロスには借りを作ってばかりだな」

「彼はそんな風に思っていないだろうけど、いずれ返そう」

ミクロ本人もフィン達に借りがあるとは思っていない。考えてもいないだろう。ミクロはそういう人間(ヒューマン)だ。だから借りを返すのではなく感謝の気持ちとして借りを返そうとフィンはそう考える。そしてリヴェリアとガレスは『人工の英雄』としてではなく一人の『冒険者』の顔をしているフィンの横顔に浅く笑みを溢していた。

「アイズさん!」

「……ベル」

戦闘で負傷した傷が完治したアイズは一人歩いているとレフィーヤ同様に治療師(ヒーラー)の手伝いをしていたベルが駆け寄ってきた。

「怪我はもう大丈夫ですか?」

「うん、もう平気。ベルは?」

「僕はそこまで怪我はしなかったので……」

見ればベルに傷らしい傷はなかった。装備は多少汚れてはいるもそれだけ。

「よかった」

傷がないことに安堵しつつもアイズはベルがまた強くなっていることに内心驚きつつもミクロの居場所について尋ねた。

「ミクロは見なかった?」

「団長でしたらリューさん、副団長と一緒に怪我をした人達の治療に回っています」

「そう、なんだ……」

アイズもミクロとリューが回復、治癒魔法が使えるのは知っている。犠牲者は出なかったとはいえ、負傷者は多い。回復魔法が使える人は駆り出されるのは必定とも言える。

話がしたかったけどそれなら仕方がない、とアイズは話はまた今度にしようと決めた。

「あの、アイズさん……」

「なに?」

「も、もし、もしもですよ? こ、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)でその、僕達が勝てたらその、【ロキ・ファミリア】の人が改宗(コンバージョン)するんですよね?」

「うん。確か私とティオナとベートさんと後はレフィーヤだったかな?」

一年間の限定とはいえ、【ロキ・ファミリア】が敗北した時はその四人のうち誰かが【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)することになっている。

それを聞いてベルはそうなった場合のことについてお願い、自身の希望を口にしようとした時だった。

 

『それでは結果を発表します!!』

 

ギルド本部の前庭で魔石製品の拡声器を片手にたった今【ガネーシャ・ファミリア】が今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)――旗取り合戦(スクランブル・フラッグ)の結果が発表が始まる。

両派閥の団旗の数は二十本。それをどちらの派閥がより多く破壊した方がその戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者となる。

激戦を繰り広げた両派閥。その勝敗が明らかになる。誰もが静まり返るなかただその結果に耳を傾ける。

市民も、冒険者も、神々もその結果を逃すまいとする。

『まずは【ロキ・ファミリア】! 壊した団旗の数はなんと十七本!!』

おおっ! と誰もが声を上げた。

ほぼ全ての団旗を破壊した【ロキ・ファミリア】。流石というべき功績。これには【ロキ・ファミリア】の団員達も思わずよしっと声を出した。

予想以上の功績。これには思わず喜ばずにはいられない。同時に称賛するしかない。

【ロキ・ファミリア】とて油断していい【ファミリア】ではない。これまで多くの偉業を成し遂げてきた最強派閥の一角。その実力を改めてオラリオに世界に示した。

『対する【アグライア・ファミリア】は――』

ゴクリ、と誰かが生唾を呑み込む。

自分達の予想を大きく上回る団旗の破壊数に敗北という二文字が脳裏を過る。

「……ティヒア、何本壊したの?」

「……十三本」

単独で半数以上の団旗を破壊した。恋する乙女を力に変えてよく頑張ったといえる。それでも【ロキ・ファミリア】が叩き出した数には及ばない。

もうできることはない。あるとすればこれから発表される事実を素直に受け入れるだけだ。

『【アグライア・ファミリア】が壊した団旗の数は――十八本! よってこの戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝者は【アグライア・ファミリア】に決定しました!!』

僅差で【アグライア・ファミリア】が勝利を手にした。

拡声器によって拡声された言葉は波が轟くように、観衆と建物の群れを呑み込んだ。

 

『『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!』』』』

 

「「「「ッしゃあ!!!」」」」

 

「「「「ちくしょうぉッ!!!」」」」

 

民衆と神々、【アグライア・ファミリア】、【ロキ・ファミリア】が感情のままに吠える。決定した勝敗に歓声を上げ、罵声を飛び散らし、ガッツポーズを取り、絶叫を上げる。

【ロキ・ファミリア】の敗北。それは勢力図の書き換わりを意味し、新たな最強派閥の誕生の瞬間でもある。【ロキ・ファミリア】を超えた新たな最強派閥【アグライア・ファミリア】の雷名は瞬く間に下界中を轟かせることになるだろう。

「……勝ったか」

治療を終えて聞こえてきた勝敗にミクロは小さく呟いた。

ミクロの予測では勝敗は自派閥の敗北で終わると予測していたが、団員達の心にある慢心を壊す為に一度徹底的な敗北を知るべきだと判断したから。だが、実際は違った。

ミクロは団員達を見誤っていた。誰一人油断も慢心も抱いてはいなかった。どこまでも強くなることに貪欲で強さと弱さを履き違えない。団員達はもう立派な冒険者だと再認識させられたミクロは薄っすらと口角を上げていた。

知る人しかわからないようなぎこちない笑みを見たリューは嬉しそうに頬を緩ませながらミクロの隣に立つのだった。

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