路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第二十一話

「それでは【ファミリア】の新たな結成と団長、ミクロの【ランクアップ】を祝して乾杯!」

アグライアの言葉に新たに結成した【アグライア・ファミリア】の団員達はジョッキをぶつけあう。

二十を超える団員が酒場で有名な『豊穣の女主人』で宴を始めた。

酒を飲む者、料理を食べる者、騒ぎ合う者、談話する者、静かに賑やかな物を眺める者。

多くの団員達は楽しんでいた。

「さぁ、私の子供達!今日は騒ぎなさい!」

アグライアの言葉にどうするように更に勢いを増して騒ぎだす団員達に周囲の者は圧倒されながら小声で今、有名な【アグライア・ファミリア】のことを口にしていた。

たった数人での階層主、ゴライアスの討伐。

所要期間約半年でのLv.3に【ランクアップ】した団長、ミクロ・イヤロス。

畏怖、憧憬、疑惑、様々な視線を感じながらもミクロは気にも止めずにエールを飲む。

「ささ、団長。どうぞ」

「ありがとう」

人間(ヒューマン)の女性にエールを注がれて一口。

「はいはーい!団長の真似!覚悟のある奴だけは残れ」

団員の中にはミクロの真似をする者もいればそれに大笑いする者。

賑わっていると思いながら改めて団員達を眺める。

飲む、食う、笑う団員達の殆どはミクロやリュー達を中心に騒ぎながら話を振っていた。

新たな団員と飲み比べを始めるリュコス。

それを呆れるように傍観しながら団員達と談話しているティヒアとパルフェ。

杯を突き出されてそれを頑なに受け取らずに水を飲むリュー。

その光景を眺めながら微笑ましくワインを口にするアグライア。

「本当に賑やかだ……」

一年半前までの自分では想像もできなかった今の光景。

アグライアが手を差し伸ばしてくれた。

そのおかげで自分はこうして新しい仲間達と共にいられる。

今、胸にある感情は何なのかはまだわからない。

だけど、胸にある暖かい今の感情はミクロは決して忘れることはない。

騒がしく、賑やかな宴は閉店時間まで続き、その場で全員解散した。

酔い潰れたリュコスを抱えながら本拠(ホーム)に帰還したミクロ達も明日に備えてすぐに就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

中央広場(セントラルパーク)に【アグライア・ファミリア】の全員が集まっていた。

「総員、装備が整い次第、ダンジョンに向かう。俺、リュー、ティヒア、リュコスの四班に分かれてお前達の実力を見極めさせてもらう」

全員の正面に立ち告げるミクロの声に団員達の顔が険しくなる。

Lv.2以上の実力を持つミクロ達がそれぞれに分かれて指揮を取り、団員達の実力を把握する為の云わば新人教育を施す。

「金は一人十万ヴァリスまでなら俺が出すからしっかりとした装備を選ぶように」

金に無頓着なミクロは前のゴライアスを討伐するまで既に二百万ヴァリス以上の金が溜まっていることに気付いた。

どうせ自分は使わないのなら団員に使えばいい。

「今日は班で行動するが次からは自由に動いていい。単独(ソロ)でもパーティを組むのも自由だ。だけど、これだけは言っておく」

一呼吸おいてミクロは団員達に告げる。

「死ぬことを恐れろ、無謀をするな、俺のようになるな」

その言葉に誰もが息を呑み込む。

事情を知っているリュー達もその言葉の真意を理解している。

「以上だ。昼前にもう一度ここに集合次第、ダンジョンに向かう。解散」

武具を揃える為に歩き出す団員達。

その中でリューはミクロに駆け寄る。

「ミクロ。貴方は……」

「ああいった方が効果的だ。俺は約一年半でLv.3になった。死ぬようなこともあれば、無謀もよくしていた」

Lv.2になる時は強化種のオークを。

Lv.3になる時はゴライアスを。

普通なら死んでいてもおかしくないその状況下でミクロは生き残り、【ランクアップ】を果たした。

だが、その行為は自殺行為と言われてもおかしくない。その為にミクロは自分を反面教師として団員達に無茶も無謀もさせないように発言した。

「その度にリューによく怒られた」

「当り前です」

心配するこちらの身にもなって欲しい、と言うリュー。

「だから今のが一番効果的だ。ああ言えば無謀なことをしようとする奴も減るだろう」

自虐ではなくあくまで団員の事を考えての発言だと理解したリューはそれ以上は何も言わなかった。

それから他の団員達と共に装備を整えてから昼頃には班ごとに分かれてダンジョンに潜っていた。

ミクロが担当する班には大剣を抱える猪人(ボアズ)の男性、短剣を握り締める人間(ヒューマン)の少女、杖を持つ女性と弓矢を背負うエルフに男女、大槌を肩に担ぐドワーフと種族問わずの班でミクロ達は現在二階層に留まりながらゴブリンやコボルトを倒している。

猪人(ボアズ)のドアスとドワーフのカイドラが前衛でモンスターを相手にして、人間(ヒューマン)の少女、フールが中衛で取りこぼしたコボルトなどを倒し、男のエルフ、スウラが支援、女のスィーラが魔法で攻撃。

前衛、中衛、後衛とバランスとれたパーティ。

連携はまだまだだだが、パーティの利点を生かして上手く二階層のモンスターを倒している。

とはいえまだ二階層。油断は出来ないことを理解しながら周囲を警戒する。

「団長。そろそろ下の階に行かないか?」

「賛成じゃ、今の調子なら平気じゃろう」

前衛を務めているドアスとカイドラは三階層に進むように進言。

「お前達はどうする?」

「私達も大丈夫です」

スィーラの言葉に頷くスウラとフールを見てミクロは決断した。

「全員ポーションを飲んで今日は三階層で切り上げる」

「別にポーションを飲まなくても平気だぞ?」

「ダンジョンではその油断は命とりだ。敵はモンスターだけじゃない」

ダンジョンでは冒険者が冒険者を襲うということはよくある。

その警戒も含めて全員にポーションを飲むように進言する。

その言葉に納得したドアス達はポーションを飲んで三階層に向かって足を運ぶ。

三階層でも調子よくモンスターを倒すドアス達だったが、少しずつ動きが悪くなってきていた。

上層とはいえ、命を懸けた戦闘を繰り返しているのだが心身ともに疲労が襲ってくることはよくある。

ドアスとカイドラは武器を握り締めてはいるが肩で息をしていて取りこぼすモンスターも多くなってきていた。

フールも息が荒くなり、スウラの矢も当たらなくなったり、スィーラも精神力(マインド)が尽きかけて来ていた。

いくら『恩恵』があっても動き続ければ疲労も貯まる。

始めてダンジョンに潜るとしたら尚更だ。

切り上げようとした瞬間、ドアス達が一体のコボルトを取りこぼした。

フールは短剣を握り締めてコボルトに斬りかかるがコボルトは躱して爪でフールを斬りつけようと襲いかかる。

反射的に目を閉じてしまうフールだがいつまでたっても襲いかかってこない痛みに恐る恐る目を開けるとナイフを持ったミクロが目の前に立っていた。

「目を閉じるな。しっかりと見ていないと死ぬぞ」

「は、はい!」

注意してミクロの班はそこで探索を終えて地上を目指した。

ミクロが前衛に立ち団員達を守りながら地上へと戻って来たミクロ達は他の班が戻ってくるのまで待機しながら各自で今日の反省をさせる。

そこでミクロ自身は反省というより一つの疑問があった。

ミクロは初日から平然と一人で三階層まで行き、数日には五階層から先に進んだ自分はおかしいのだろうかと。

今日のドアス達を見てミクロは不意にそう思った。

しばらくしてリュー達も戻り、各自しっかり休息を取るようにと言ってその場で解散した。

ミクロ達も本拠(ホーム)に戻って今日の事を話し合った。

「どうだったかしら?」

「普通?」

「ええ、普通です」

「三階層止まりでしたよ」

「私の班も同様にね」

誰もが三階層辺りで疲労が見え始めてその場で切り上げて地上に戻って来た。

既に中層まで行ったことのあるパルフェ以外の殆どは素人同然の者が多く、それが普通なのだとリューは言う。

「さて、ではこれからの私達の事ですが、何人かをサポーターとしてついて来てもらい、19階層に向かおうと思います」

19階層まで向かう案を出すリュー。

本来ならいつもの中層止まりにしようと考えていたが、ミクロが【ランクアップ】を果たしたおかげで少しは先へと足を運んでも大丈夫だと判断した上でミクロ達に提案した。

「サポーターがいなくてもパルフェの魔法があればいいじゃないのかい?」

「私の魔法は魔力によって上限があるから沢山は無理なの」

収納魔法を持つパルフェだが、上限がある為一度に大量の荷物を収納することはできない。

だからある程度の荷物を持つサポーターが必要だった。

「私は賛成。とにかく今はお金を稼がないと」

新人の武具の整備、ギルドからの税金の徴収、本拠(ホーム)の増築などととにかく金が要る。

19階層からは道具(アイテム)の原料となる物も多く持ち帰れば高く売れる。

戦闘を最小限に避けて道具(アイテム)の原料を集めて持ち帰っても金が多く手に入る。

「俺も賛成。【ランクアップ】した今の体のズレを直したい」

激変した身体能力を確かめる為にも場数が必要なミクロもリューの案に同意。

「それでは明日何人かに声をかけて明後日には出発しましょう」

ミクロ達も次に向けて行動を開始する。

 


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