路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第二十二話

ミクロ達は新たな到達階層である19階層を目指していた。

実力と対策を十分に考慮して前衛をミクロとリュコス、中衛をリュー、後衛をティヒアを隊列を組み、パルフェと数人の団員はサポーターとして行動していた。

中層の16階層のモンスター達がミクロ達を襲っては来るが【ランクアップ】を果たしてLv.3になったミクロと十分な実力を持っているリュコスの二人で十分事足りていた。

新しく入ったサポーターとしてついて来た新人冒険者のフールとスィーラは改めて主力戦力であるミクロ達の実力に驚かされる。

「行こう」

魔石を拾って足を進めるミクロ達は前に討伐したゴライアスの階層を超えて18階層に辿り着いた。

「ここが18階層……」

18階層に初めて来たティヒア達はその光景に目を輝かせる。

「少し休憩」

モンスターが産まれない安全階層(セーフティポイント)である18階層で小休憩を取るミクロ達はその場で腰を下ろして休息を取る。

「ミクロ」

「アリーゼ達によろしく」

【アストレア・ファミリア】の墓参りに行こうとするリューにミクロは間髪入れずに答えるとリューは頷いてその場を離れていく。

「ミクロ、リューは?」

「墓参り」

尋ねるティヒアはミクロの言葉に納得する。

ミクロもその場に座ってポーションを飲み、失った体力と精神力(マインド)を回復させる。

リューが戻ってくるまで休息を取るとミクロ達はリヴィラの街へ足を運ぶと(リヴィラ)の住人達が武装をして騒いでいた。

「おお、ミクロじゃねーか!?」

「あ、ボールス」

「相変わらず敬語を使わねえガキだな」

眼帯をつけた大男のボールスがミクロに歩み寄る。

「聞いたぜ。Lv.3になったんだってな。それに……」

視線をリュー達に向けるボールスは悪態をつくように舌打ちした。

「相も変わらず羨ましいガキだぜ、オメェはよ」

「?」

その言葉の意味に首を傾げるミクロは気付いていなかった。

リューを始めとする団員も普通以上の美貌の持ち主だということに。

その女性達に囲まれているミクロがボールスは羨ましかった。

「まぁ今はそれはいい。俺もLv.3になってこの街の大頭(トップ)になったんだがな、早速問題が起きやがった」

「問題?ポーカーに負けて借金が増えた?」

「ぐ、ま、まぁそれもだが………」

図星をつかれたボールスだが、それとは別の問題をミクロ達に話した。

19階層から出現する希少種(レアモンスター)である炎鳥(ファイヤーバード)が大量発生している。

火炎攻撃を行う鳥型のモンスターであり、18階層にまで被害が及ばないようにこれから(リヴィラ)の住人で討伐を行おうとしていた。

それにミクロ達も手伝えとボールスは言った。

「わかった」

どの道19階層に向かうミクロ達も他人ごとではない為、炎鳥(ファイヤーバード)の討伐に協力することにした。

「よーし!なら、着いてきな。火精霊の御衣(サラマンダー・ウール)はこっちで準備してやる」

意気揚々と他の住人達のところに案内するボールス達にミクロ達は黙って従い、(リヴィラ)の住人達と一緒に19階層に向かった。

 

『――――ゲェッ!?』

 

宙に浮遊しながらヘルハウンドを優に超える高出力の火炎放射を放つ炎鳥(ファイヤーバード)

だが、その火炎放射を放つよりも早くミクロはナイフで切り裂き、両断。

地面に着地をする前に近くにいた炎鳥(ファイヤーバード)の口を鎖分銅で巻き付けてそのまま着地と同時に地面に叩きつける。

動かなくなったのを確認してミクロは周囲を見渡す。

まだ複数の炎鳥(ファイヤーバード)が宙に浮遊して火炎攻撃を繰り返していたが、それぞれで対応しながら討伐をしている。

「セイッ!」

強化魔法で強化した身体能力を活かして壁を跳躍しつつ炎鳥(ファイヤーバード)を蹴り落とすリュコスやそれにトドメを刺すパルフェ達。

追尾属性の魔法を持つティヒアも的確に急所に狙いを定めて浮遊している炎鳥(ファイヤーバード)を倒していた。

圧倒的速さで次々に炎鳥(ファイヤーバード)を倒すリュー。

(リヴィラ)の住人含めてこの場で一番Lv.が高いリューがより多くの炎鳥(ファイヤーバード)を討伐していく。

今の調子で行けばそう時間もかからないで炎鳥(ファイヤーバード)の討伐は終える。

「………」

問題はないと思いながらミクロは改めて【ランクアップ】をした今の身体能力を確認。

始めは感覚がおかしいと思ったところはあったが今は既に馴染んでいる。

【ランクアップ】した今の体に慣れて来ていたミクロだが、もう少し場数が必要と思い、もう一度、炎鳥(ファイヤーバード)に向かって跳躍する。

再び討伐を開始するミクロ。

あと少しで終わろうとしていた時、モンスターの雄叫びが聞こえた。

「おいおい!マジかよ!?」

叫ぶボールス達の視線の先には更なる炎鳥(ファイヤーバード)の大群。

四十はいるであろう炎鳥(ファイヤーバード)にボールスは一時撤退を伝えようとしたが、炎鳥(ファイヤーバード)の大群にミクロは駆け出す。

「【駆け翔べ】」

唱える超短文詠唱。

「【フルフォース】」

白緑色の風を纏ったミクロは風の力を使い飛翔、周囲の木々を利用しながら炎鳥(ファイヤーバード)に攻撃を開始した。

抑えているにも関わらず前よりも威力も効果も跳ね上がっていることに気付いたミクロは炎鳥(ファイヤーバード)を使って魔法の調整も行う。

白緑色の風を纏ったナイフと梅椿を炎鳥(ファイヤーバード)を薙ぎ払うように切り裂く。

一度に複数の炎鳥(ファイヤーバード)を薙ぎ払いながら威力の調整を確認すると、今度は白緑色の風を足に集中させて、更に加速する。

威力、効果、共に上昇を確認し終わり、炎鳥(ファイヤーバード)は悲鳴を上げることなく戦闘は終了した。

魔法の発動を解除してナイフと梅椿をしまう。

激変した身体のズレ及び魔法の調整を完了したミクロ。

これで問題なく動かせると納得する。

「ミクロ。怪我は?」

「ない」

心配そうに駆け付けるリューに問題なく答えるミクロは高等回復薬(ハイ・ポーション)精神力回復薬(マインドポーション)を飲んで回復。

「ティヒア達は?」

「彼女達も問題はありません。今は魔石とドロップアイテムの回収を行っています」

視線をティヒア達に向けるとリューの言葉通りに魔石とドロップアイテムを拾っていた。

「この後はどうする?」

「一度リヴィラの街に戻りましょう。そこで態勢を整えるべきだ」

「わかった」

改めて初めて来た19階層。

19階層から24階層の区域を『大樹の迷宮』と呼ばれて、中層までとは違い、巨大な樹の中を進むような通路となっている層域特有の植物群。

炎鳥(ファイヤーバード)の討伐と自身の身体の確認に集中していた為、よく周りを見ていなかったミクロは改めて中層とは違う階層なんだなと思った。

その時だった。

その僅かに気が緩んでいる所を狙ったかのように突如現れた蜻蛉型のモンスター、狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)がミクロに狙いを定めて金属質の射撃弾を発射。

「ミクロ!?」

炎鳥(ファイヤーバード)の討伐直後に気が緩んでいた瞬間を狙われたミクロにリューは叫び、身を挺してでも助けようと動く。

だが、間に合わずに狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)の射撃弾は直撃。

ミクロは後方にと吹き飛ばされた。

再び射撃弾を発射しようとする狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)を瞬殺したリューはすぐにミクロの傍に駆け寄ろうとするがミクロは何事もなかったかのように立っていた。

「ミクロ!怪我は!?」

「大丈夫。少し飛ばされただけ」

腹を擦りながら問題ないと答えるが、そんなわけがないと思ったリューはミクロの上着をその場で捲り上げて当たったであろう患部を見るが肌が少し赤くなっているだけで特に怪我らしい怪我はなかった。

怪我がないことに安堵しつつ疑問を抱くリュー。

直撃したら運が良くても骨は確実に折れてもおかしくない。

だが、本当に軽度で済まさせる程の傷しか負っていない。

「何やってんのよ?こんなところで……」

半眼で睨んでくるティヒアにリューは初めて気づいた。

ダンジョンの中とはいえ、今は大勢の冒険者達がこの場所に居合わせてその真ん中に等しい場所でミクロの上着を捲って周囲に晒している。

人だかりのなか、異性の肌を直視していることに気付いたリューはすぐに頬が赤く染め上がる。

「リュー?」

羞恥心が乏しいミクロは気にも止めてはいないが、潔癖で他者の肌の接触を容易に許さないエルフであるリューは違う。

異性の肌を見る。

それだけでリューにとっては羞恥心に等しい。

「す、すみません……」

「?」

手を離してミクロから離れるリューだが、何故謝ったのかとミクロは首を傾げる。

離れたところでリュコスやボールス達はニヤニヤと卑下に近い笑みを浮かべて、パルフェ達は苦笑を浮かべていた。

状況がよくわからないミクロはついでに先ほどリューが倒した狙撃蜻蛉(ガン・リベルラ)の魔石も回収して、道具(アイテム)の原料になりそうなものも採集した。

「【閉じるは隠し部屋の扉】」

収納魔法の詠唱を唱えるパルフェ。

すると、回収した魔石やドロップアイテムの下に魔法陣が出現して姿を消した。

パルフェの魔法で荷物を魔法でしまって、ミクロ達は一度18階層に戻って休むことにした。

「いやぁ、助かったぜ!ご苦労だったな、ミクロ!」

「ボールスも」

肩をバンバンと叩きながら労いの言葉を贈るボールス。

リヴィラの街の大頭(トップ)になって初めての異常事態(イレギュラー)に無事に完遂できたことに笑声を上げるボールス。

「お前のおかげで何とかなったぜ!これからもよろしくな!」

「報酬と街の宿の支払いをボールスが持つなら」

「ぐっ!」

何気にちゃっかりしているミクロにボールスは言葉を詰まらせる。

浅ましくも面倒事があればミクロを利用しよう考えていたボールスだったが、しっかりと釘を刺されてしまった。

ちくしょうと嘆きながら炎鳥(ファイヤーバード)の討伐の報酬をミクロに渡す。

「ああ、そうだ。ミクロ。19階層の食糧庫(パントリー)には行かねえほうがいいぞ」

「何で?」

「いや、俺もまだ詳しくは知らねえが、凶暴なモンスターがいやがるとかなんとかって『下層』から来た他の冒険者がいるとかほざいていやがったんだ。まぁ、気をつけろ」

「わかった。ありがとう」

忠告するボールスに礼を言うミクロ達は全員集まってこれからどうするかを話し合う。

「どうするんだい?もう一度下に行くかい?」

「今日は帰ろう」

もう一度19階層に行くかと尋ねたリュコスだったがミクロは地上へ帰還することを提案した。

戦闘と道具(アイテム)の原料の採集と金を稼ぐ。

目的は達成できた以上深追いはしないように必要以上に警戒と仲間(パーティ)の安全を考慮して発言した。

その案に誰もが首を縦に振って小休憩の後で地上への帰還したミクロ達は一日の成果を発表後にそれぞれの自室で休んでいる間、ミクロは19階層で採集してきた物を使って魔道具(マジックアイテム)の作製に取り掛かった。

『神秘』のアビリティを発現してから考えていた物があった。

これなら役に立てると思いながら『神秘』のアビリティと採集した物を使って一晩懸けて一つの魔道具(マジックアイテム)を作り出した。

「出来た……」

それが生まれて初めて物を作ったミクロの感想だった。

壊すことに長けているミクロにとって作ることは壊すことは異なる気持ちがあった。

だけど、それを正確に述べれる言葉が思い浮かばない。

いずれはその言葉がわかる日がくればいいと思った。

 


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