『
その『
「まったく、いきなりやってきて
呆れるように息を吐くアグライア。
「フン!そんなもの決まっておる!貴殿の眷属が儂を侮辱した!その償いとして
「ただいま」
「あ、お帰りなさい、ミクロ」
「話を聞けぇぇぇええええええええええッッ!!」
興味も持たず帰ってきた子に視線も向けるとディアンケヒトは吠えた。
そのディアンケヒトの前にアミッドが立って自身の主神の代わりに説明をする。
「アグライア様。つい先ほど、貴方の団長であるミクロ・イヤロスさんが我が主神に侮辱の言葉を述べました」
「そうなの?ミクロ」
「事実を言っただけ。こいつ胡散臭い」
またもはっきりと告げる。
「そうね。でもね、いくら事実でも正直に言っちゃダメよ。胡散臭くても、ミアハの嫌がらせが趣味でも、その上負け犬根性が染みついていてもあれでも一応は神なのだから今度は遠回しに言いなさい」
「わかった」
「アグライア!貴様の仕業かッ!地上の子に変なことを刷り込ませるな!」
注意しながら神に対する言葉遣いを教えるアグライアにディアンケヒトは大声を上げた。
だけど、アグライアはディアンケヒトの大声を無視してミクロの頭を優しく撫でる。
一通り撫でると視線をディアンケヒトに向け直す。
「たかが子の言葉一つを受け入れないで
一笑しながら心を見透かすかのような発言にディアンケヒトは眉根を寄せるがすぐに笑みを浮かべた。
もう隠すこともないかのように。
「バレていたとは已むを得ん!その通りだ!貴様の眷属である【ドロフォノス】が『神秘』のアビリティを発現していると聞いたのでな、儂の【ファミリア】に加われば更なる発展が可能となる!」
恥じることもなく目的を語り始める。
「初めはミアハのところから引き抜いて徐々に協力関係を築き上げてからと思っておったのだが、もうそのような狡い真似はせん!さぁ、受けるがよい、アグライアよ!」
「ミクロ。
「問題ない。残りは倉庫に置いてくる」
「無視をするでないわ!!」
全くと言っていいほど話を聞いていなかった二人にまたも吠える。
そのディアンケヒトに疲れるように息を吐きながらアグライアは言った。
「そもそもこちらが受けるメリットがないわ。仮に受けたとしても貴方の子達では私の主戦力には勝てるわけないでしょう?貴方と所の子は確か団長はLv.3でそれ以上はいないのでしょう?」
【ディアンケヒト・ファミリア】の団長がLv.3で後は数人のLv.2を残して大半がLv.1.
例え、人数が上回っていたとしてもミクロ達の敵ではなかった。
「いい加減変な悪だくみはやめて少しでも真面目に生活してみなさい。貴方は腕は確かなのだから後は嫌がらせを止めて紳士的に振る舞えばミアハのようになれるはずよ」
「あのような貧乏人と一緒にするではない!」
犬猿の仲であるミアハと比べられることに憤る。
「それは子に不憫な思いをさせない為にでしょう?私も同じ立場ならそうしていたわ」
ミクロの頭に手を添えながら宥めるように告げるアグライアだが、ディアンケヒトの憤りは止まらなかった。
「それには儂も同意しよう!だからこそミアハの頼みを聞いてやった!だが、それでミアハがどうなろうとは別問題よ!」
眷属の為。という一点に同意してミアハの頼みを聞いたディアンケヒト。
だけど、法外な額を課せられた為にナァーザを残して残りの眷属はミアハを見限った。
そのことに関してはディアンケヒトに何の関係もない。
「貴様も【ファミリア】の主神であればミアハではなく儂の【ファミリア】を選んだらどうだ!?【ドロフォノス】が
「断るわ。ミアハは私の神友よ。見限る気も裏切る気もないわ」
即答するアグライアに歯を食いしばるディアンケヒト。
「それに私は別に名を上げるつもりで【ファミリア】を作った訳じゃないわ。子とこの世界を堪能する為に【ファミリア】を作っただけよ。後はミクロ達が頑張ってくれたおかげ」
「貴様も名を上げた【ファミリア】の主神なら自覚を持ったらどうだ!?いつまで落ちぶれたミアハの肩を持つ!?貴様まで落ちぶれたいのか!?それとも臆したのか!?
言葉の途中で喋るのを止めたディアンケヒト。
いや、喋ることを止められた。
喉元にナイフを突きつけているミクロによって。
「アグライアを困らせるな」
「………ッッ!?」
淡々と告げられた言葉に息を呑むディアンケヒト。
神は子の嘘を見破ることが出来る。
だからこそ、ミクロの言っていることが本当だとすぐに理解出来た。
「ミクロ。止めなさい」
アグライアの言葉にナイフをしまう。
「ごめんなさいね、ミクロは私や【ファミリア】の事を大切にしてくれているから。でも、今回はしつこい貴方にも責任はあるわよ、ディアン」
微笑を浮かばせながら言うアグライアにディアンケヒトは疲れを取るように息を吐く。
そんなディアンケヒトを見てアグライアは言った。
「でも、こちらにも責任もあるし、これ以上関わられるにも面倒だから受けてあげるわ。
微笑を浮かばせたまま『
「でも、ミクロを
眷属が増えて悩み種であった
その分の支払いをディアンケヒトに支払うように言うアグライアにディアンケヒトは思案顔で勝負の内容を尋ねる。
「内容はどうする?」
兵力差はディアンケヒトが上回ってはいるがLv.差はミクロ達が有利。
目的であったミクロの
だが、勝負の内容によって有利か、不利が左右される。
アグライアの口から一騎打ちなど少数での勝負方法を言ったら躊躇いなく反論する気だった。
「内容は貴方の戦える子全員とこちらはミクロ一人よ。ハンデぐらい付けてあげるわ」
だが、予想外の事をアグライアは口走った。
多対一の勝負内容を言うアグライアの表情からは焦りも不安もない。
「………」
【ディアンケヒト・ファミリア】で戦闘を行えるのは少なくとも三十人は超えている。
それにも関わらず自分から不利な条件を告げた。
「ふはははははははっ!!後悔してももう遅いぞ!いいだろう!勝負の内容はそれでこちらも問題はない!準備はこちらで全てしてやろう!」
豪快に笑いながら去って行くディアンケヒトと一礼して主神について行くアミッド。
二人を見送るとアグライアは息を吐いた。
「まったく。変わらないわね、ディアンは」
呆れながら『
「ミクロ。貴方に罰を与えるわ」
神に向けた暴言、脅し。
主神の為とがいえ、本来ならそれだけでも重罪に課せられる。
だからアグライアは『
ディアンケヒトはお調子者ではあるが、馬鹿ではない。
こちらが不利な条件はその事をなかったことにするという意味も込められており、ディアンケヒトもそれに察して条件を呑んだ。
だけど、ケジメはつけなければならない。
「わかった」
いつも変わらず平然と罰を受け入れるミクロにアグライアは告げる。
「貴方自身の望みを見つけなさい」
「望み?」
予想していなかった罰に首を傾げる。
「ええ、何を望み、何の為に戦い、それを欲するか。それを見つけなさい。期限は
「………」
課せられた罰に思案する。
ミクロに与える罰は何の効果もない。
例え、拷問したとしても何食わぬ顔で平然としている。
望みらしい望みもなく、欲もない。
本来持っているべきものをミクロは持っていない。
だからこそこれを機会に罰を与えた。
与えられたものではない、ミクロ自身の望みを見つける。
「誰かと相談することも禁止にするわ。貴方自身で考えた答えを見つけてちょうだい」
ミクロは
「………」
街中を無言で歩きながら考える。
こうして普通の生活を送れているのはアグライアのおかげ。
アグライアがいてくれたからこそこうして自分がいる。
家族を作って世界を堪能する主神の望みに応えるのが眷属の役目。
でも、それは自分の望みではない。
全部がアグライアやリューが与え、教えてくれたこと。
「俺の……望み……」
地位、名誉、名声などに興味も感心もない。
金にも執着する理由がない。
あれこれと考えている内にミクロはバベル付近に到着してミクロはダンジョンに足を向ける。
久しぶりの
ミクロは襲いかかってくるモンスターを撃退しながら足を進めると一つ気になったことを思いつき、襲いかかってくるゴブリンを蹴り飛ばした。
足を折って動きを封じて動かなくなるまで痛めつけてみた。
かつてされていた冒険者達の真似事をしてみたが特に何も思わなかった。
弱者を痛めつけるというものに何も感じなかったことを理解したミクロは下へと足を進める。
撃退しながら進んでいくと遂には18階層まで到達してしまった。
強くなっていることは理解出来た。
だけど、強くなることに喜びなどなかった。
18階層で小休憩していると前にボールスが言っていたことを思い出した。
19階層の
『アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
あと少しで到着するところでモンスターの
そして、すぐに正体を現した。
尾を含めた全長、七
ダンジョンの中でも絶対数が少ない最上位の
19階層から24階層に出現する、女体竜尾のモンスター『ヴィーヴル』。
竜の種族だけあって、非常に高い戦闘能力を有している。
それを証明しているかのように『ヴィーヴル』の足元には冒険者だったものが多く転がっている。
『ヴィーヴル』から発生する『ドロップアイテム』は鱗でも爪でも破格の額で取引され、その額にある紅石『ヴィーヴルの涙』は巨万の富が約束されているほど価値がある。
欲に目がくらんだ冒険者達は返り討ちにあったのだと理解したミクロはナイフと梅椿を構える。
「【駆け翔べ】」
高い戦闘能力を持つ『ヴィーヴル』相手に出し惜しみせず超短文詠唱を唱える。
「【フルフォース】」
白緑色の風を纏ったミクロは『ヴィーヴル』に向かって突貫した。
「全開放」
初めから全力を出すミクロ。
強敵との戦闘で興奮や高揚するのか。
勝った時の達成感や喜びがあるのか。
自分の全力を出し切っても勝てるかわからない相手に何を感じるのか。
それを知る為にミクロは『ヴィーヴル』に突貫した。
荒れ果てた
灰になっている『ヴィーヴル』とその『ドロップアイテム』である鱗を見つめながら『ヴィーヴル』との激戦を思い出す。
強かった。それだけは確かだった。
武器や
持てる限りの力だけではなく、地形を利用したり、
次は勝てないだろうと断言できる。
この一勝は運も含まれての勝利だと思った。
最後の
「………」
強敵である『ヴィーヴル』相手に勝利した。
全力を出し切った。
価値の高い『ドロップアイテム』も手に入れた。
それなのにミクロは何も感じることが出来なかった。
いや、一つだけ感じるものがあった。
スキルによる破壊の快楽。
だけど、これも与えられたものであってミクロ自身の感情ではない。
何も望んでいない、何のために戦っているかもわからない。何かを欲しいわけでもない。
与えられたものをこなしていただけだったと思った。
「君がここにいたモンスターを倒したのかい?ミクロ・イヤロス」
不意に声が聞こえた。
声の方に振り向くとそこには槍を片手に持つ小金色の髪をした
「【ロキ・ファミリア】」
二大派閥の一角がミクロの前に現れた。
【ロキ・ファミリア】の団長を務めている【
「ここで何があったのか詳しいことを僕達に教えてくれないかい?」
「わかった」
特にこだわる理由もなくミクロは首を縦に振った。