騒めく空気の中で多くの者は闘技場に足を運んでいた。
本日行われる【ディアンケヒト・ファミリア】と【アグライア・ファミリア】の『
勝負の内容は【ディアンケヒト・ファミリア】の団員三十五人に対して【アグライア・ファミリア】は団長であるミクロが一人の決闘。
どちらかが倒れるまで続く
『
立ち見する者もいれば酒場に足を運ぶ者も多くいる。
盛り上がっているなかでアグライアは静かに眷属達と一緒に始まるのを待っていた。
控室にいるミクロには付き添いでリューが付いている。
『勝つから問題ない』
いったいどのような対策を考えたのかは主神であるアグライア本人も知らされていない。
不安に強いられている眷属達を宥めながらアグライアは開始時間まで待っていると【ディアンケヒト・ファミリア】の団員とミクロが闘技場に姿を現した。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』
ミクロ達が姿を現したことにより人々は色めき立ったがアグライアは【ディアンケヒト・ファミリア】の団員を見て目を見開いた。
「何よあれは……」
完全武装の【ディアンケヒト・ファミリア】の団員たちを見て苛立つように声を上げた。
まるでこれから階層主を討伐に行くかのような装備を身に着けている。
たった一人の人間に対してそれは明らかな重装備。
ディアンケヒトの用意周到に目を細める。
油断をしていればまだ勝ち目はあったと思っていたが隊列を組み始めている【ディアンケヒト・ファミリア】の団員たちを見てそれは皆無だと思い知らされた。
それに対してミクロ自身に特に変わった様子は見られなかった。
ただ静かに開始の合図が来るのを待っているかのように棒立ちしていた。
客席の神々からは異様な盛り上がりを見せていたがそんなことはどうでもよかった。
『ほな、時間も迫ってきたことやし、実況はうちが務めさせてもらうで~』
拡声器を片手に声を響かせる【ロキ・ファミリア】主神ロキ。
その隣にはハイエルフが面倒事を押し付けられたかのように息を吐いていた。
『まずはゲームの確認や。ディアンケヒトとこかアグライアとこがどっちが戦闘不能になるまでが続行や』
実況を務めているロキが今回の『
確認が終えたロキはその糸目をうっすらと開く。
『ほな。
号令のもと、戦いの幕は開けた。
それと同時にミクロは駆けた。
「盾!構えろ!」
駆けるミクロを見て【ディアンケヒト・ファミリア】の団長は盾を持っている団員に指示を出すと団員達は素早く盾を構える。
「
弓を番える
盾を持つ重装備を前に立たせて後方には遠距離の
自身も含めて軽装の者は中衛を務めて自身は指揮を執る。
正直やりすぎと思ってはいたが主神であるディアンケヒトの命では仕方がないと判断。
一方的な
「は……?」
まぬけな声を出しながら自身の横を通り過ぎた何かを見ると盾を持つ
冷や汗を流しながら視線をミクロに向けると拳を握り締めていたミクロを見てわかった。
「殴り飛ばしたのか……?」
おおよそ推測を立てたが自身でさえその言葉が信じられなかった。
ミクロは自分と同じLv.3。
ミクロが殴り飛ばした団員はLv.2。
決して不可能とまでは言えないが問題はその威力だ。
殴り飛ばされた団員は少なくとも20
主神の命で前衛は少なくとも『力』や『耐久』に優れている者を前衛に指示した。
にも拘らず殴り飛ばしたうえでの一撃KO。
何がどうなっているのかと思考しているとドガンという破砕音が聞こえて前衛の一人がまたも殴り飛ばされていた。
「
油断と慢心を捨ててすぐさまに
だが、ミクロはローブから取り出した鎖分銅を回して矢を弾き落とす。
「今度はこっちの番」
淡々と話すミクロは邪魔者を払うように前衛を次々殴り飛ばしていく。
その両腕には見慣れない漆黒色に輝くガントレットを身に着けて。
ミクロが新たに作り上げた
装備した者に怪力を宿す
元々はミクロ自身の力不足を補うために考察していた作品だったのだが、試す暇もなくぶっつけ本番で使用してみるとミクロ自身も驚くほどの威力があった。
精々盾をへこませる程度としか考えていなかったがまさかの盾ごと人一人が吹き飛ぶほどの威力がるとは予想外だった。
前に発現した新たなスキル『
「魔導士!詠唱を始めろ!
後衛の魔導士が団長の指示にすぐに詠唱を唱え始めて
それを見てミクロは地面に煙玉を叩きつけて煙幕を作り、姿をくらませる。
狙いを定めることのできない
何人かの
何故なら同じ【ディアンケヒト・ファミリア】の団員だったからだ。
ミクロは【ディアンケヒト・ファミリア】の団員をブーメランのように
「クソ!人を何だと思っていやがる!」
苛立ちを滲み出す【ディアンケヒト・ファミリア】の団長。
だけど、煙幕の中で姿をくらませているミクロに下手に手は出せなかった。
間違って同じ団員を攻撃してしまう可能性も十分にあったからだ。
それに対してミクロは一人。その心配は全くなかった。
どうするかと考える前に自分自身が剣を片手に煙幕の中に突っ走った。
「出てこい!【ドロフォノス】!俺が相手になる!」
団員ではもう手も足でない以上、同じLv.である自分が前に出た。
だけど、一向にミクロは姿を見せなかった。
剣を振るうが空振りで終え、どこにいるかを模索する。
すると、突然の光が襲いかかっていた。
「え?」
闘技場全体を震わせるほどの爆発が起きた。
闘技場の端でミクロは倒れている【ディアンケヒト・ファミリア】の団員と団長の姿も確認して手間が省けたと思った。
ミクロは初めから煙幕の中にはいなかった。
煙幕を張ると同時に【ディアンケヒト・ファミリア】の団員を速やかに倒したうえで煙幕の外から投擲した。
中から攻撃しているように見せかけてミクロは煙幕に火を放った。
粉や塵が一定の濃度以上浮遊している状態で火をつけると粉塵爆発が起きる。
『おいこら!【ドロフォノス】!観客のこともちった考えや!』
実況であるロキから何か言ってはいたが無視した。
大人数相手に手段なんて選ぶ余裕なんてないからだ。
残りの【ディアンケヒト・ファミリア】の団員の数は十名もいない上に団長を爆発に巻き込んでくれたおかげで残りは自分よりLv.が低い者だけ。
「【狙撃せよ、炎の矢】!」
魔導士が詠唱を終わらせて狙いをミクロに定めた。
「【フレイムアロー】!」
撃ち出された炎の矢は真っ直ぐミクロに向かうに対してミクロは片腕を突き出した。
「え!?」
観客もろとも驚愕を上げる。
魔導士が放った炎の矢をミクロは片腕で受け止めた。
掌に多少の火傷を負わせた程度に終わった魔法に魔導士の目は恐怖に怯える。
「化け物……っ!」
畏怖を込めたその言葉を気にも止めずにミクロは残りを倒そうと動き出す。
「こんのっ!」
だが、起き上がった【ディアンケヒト・ファミリア】の団長の剣をナイフを取り出して防ぐ。
火傷の痕を負いながらも剣を振るうディアンケヒト・ファミリア】の団長。
【ファミリア】を率いる団長として負ける訳にはいかなかった。
「負けるかっ!」
負けじと剣を振って連撃を繰り出す。
だけどそれはミクロも同じだった。
自身も【ファミリア】を率いる団長なのだから。
「っ!?」
襲いかかってくる剣を直接掴んで破壊する。
そして、ミクロの拳は【ディアンケヒト・ファミリア】団長の腹に深く抉り込む。
「かはっ……」
血反吐を吐いて前のめりに倒れる。
残りの【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達は団長が倒されたことに武器を手放して降参するように手を上げる。
それを見てロキは宣言。
『戦闘終了や!
ロキの言葉に盛況するように声を上げる神々や
その中でアグライア達も喜び、安堵、歓声を上げる。
「お………おのれぇえええええええええええええええええええええええええええええ!!」
一人、野太い叫び声を上げるディアンケヒト。
その隣にいるアミッドはそっと主神の肩に手を置く。
自身の勝利は揺るがないと思っていたディアンケヒトの思惑は一人の少年の手によって壊された。
圧倒的不利と思われていたその戦い。
その常識をも壊して圧倒的勝利を収めた【アグライア・ファミリア】団長、ミクロ・イヤロス。
「勝った」
片腕を天に上げて自身の勝利を示した。
その強さに多くの者が興味、畏怖、憧れなど様々な感情をを抱いた。
神々から
「………」
金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタインもその一人。
「すごい、すごいね、アイズ!?勝っちゃったよ!」
隣でアイズに抱き着くティオナもミクロの勝利に瞳を輝かせていた。
以前、『遠征』の帰還中に偶然にも遭遇したミクロにアイズも少なからずの興味を抱いていた。
たった一年半でLv.3に到達。
それ以外にも様々な噂が流れているミクロと話をしようと思っていたがその時は姿を消していた為断念した。
同じ【ファミリア】の仲間達と勝利を喜びあっているミクロにアイズは視線を向ける。
どうしたらそんなに強くなれるのか?
その答えを知りたい。
自身の