セシシャが商人兼冒険者として【アグライア・ファミリア】に入団してから数ヶ月後。
セシシャは他の仲間ともすぐに打ち解けて順調に借金を返済している。
そして、ミクロ達はいつものようにダンジョンに潜っている。
襲いかかってくる
そのモンスター達はミクロはナイフと梅椿で切り刻む。
椿の手によって姿を変えた第一等級
そのナイフを振り上げて襲いかかってくるモンスターを斬り捨て投げナイフで他のモンスターの牽制も行う。
現在22階層でミクロ達はモンスターと死闘を繰り広げていた。
「はぁあああああああっ!!」
両手にはナイフを持って宙にいるモンスター『デットリー・ホーネット』とリュコスは戦っていた。
『
「―――『アリーゼ』!」
宙にいる
空から狙撃してくる
「ティヒア!貴女はミクロ達の援護を!」
「わかったわ!」
上から攻撃してくる厄介な
しかし、いつもより数が多いモンスターに苦戦を強いられる。
「【駆け翔べ】」
状況を打破するためにミクロは詠唱を唱えた。
「【フルフォース】」
白緑色の風を纏って高速移動するミクロ。
次々と薙ぎ払うようにモンスターを殲滅してミクロは腕に着けているガントレットをリュコスに投げ渡す。
「リュコス」
「チッ!」
舌打ちしつつ受け取るリュコスはすぐに装着して
「終わりだよ!」
『
「ふぅ」
一息入れてガントレットをミクロに投げ返しながらまだまだ弱いと自己嫌悪する。
強くなりたいと願っているリュコスは次こそは『
「一通り終わりましたね」
空から戻って来たリューは周囲を見渡してから一息つく。
「魔石と『ドロップアイテム』の回収は私達がするから休んでいて」
パルフェと他の団員達は
「今日は数が多かったね」
「それでも何とか今日も生き残れたわ」
周囲を警戒しつつ休憩を取る。
「今日はここで終わりましょう」
リューの言葉に全員が賛成してパルフェ達が魔石と『ドロップアイテム』の回収が終わり次第帰還することを決めた。
パルフェ達の回収も無事に終えてミクロ達は地上へ向けて足を運ぶ。
探索範囲も22階層まで進み特に問題もなく順調に進んでいるミクロ達。
「そういえば今日完成じゃなかった?」
「ああ、そういやそうだったね」
思い出したかのように話すティヒア達にミクロ達も頷く。
「俺達の
【ディアンケヒト・ファミリア】に勝利した暁に
その完成日が今日だった。
どんな感じなのだろうと談話しながら地上に戻ったミクロ達は完成したであろう
「遅いですわよ!」
既に他の団員達も集まっている。
「まぁ、いいですわ。今日はまどろっこいいことは抜きにして新しい
巨大な布で隠された
その全貌を一言で表すなら城。
全体的白色の外観がある城は貴族や王族が住んでいてもおかしくない優雅さがある。
「デカ」
誰もが驚く中でミクロは一言感想を述べて中に入ろうとする。
「いやいやいや!他に何かありませんの!?」
あまりにも淡泊な感想にせっかくもったいぶらせる為に布で隠す様に交渉してお披露目したというのにその感想はあんまりだった。
「………全員住めれる?」
頑張って思考を働かせて出した他の感想にセシシャはがくりと肩を落とす。
その光景に誰もが苦笑していた。
「さぁ、中に入りましょうか」
アグライアを先頭に新しくなった
豪華な内装に椅子やテーブルなども並べられている。
「ディアンに無理言って正解ね」
これだけの
額は指定していなかった為アグライアはせっかくだからと滅茶苦茶な額をディアンケヒトに請求していた。
泣き叫んでいたがそれは気にしないでおこうと頭の片隅に置いた。
リュー達も新しくなった
部屋割りなどを早速決めようと思ったアグライアの前にミクロが言った。
「皆に渡したい物があるから待っていてくれ」
そう言ってミクロは
何だろうと思いつつ声を出す団員達に袋抱えたミクロが戻って来た。
「全員並んで」
ミクロの言葉に疑問に思いつつ言われた通りに並ぶとミクロは一人ずつ指輪を二つ渡した。
「ミクロ。これは?」
「『
尋ねるリューにあっさりとそう告げた。
一つは骸骨をモチーフにした不気味な指輪。
もう一つは赤い宝石が嵌められている指輪。
その二つが『
「護身用に作製した『
同じ指輪をつけてリュコスに呼びかける。
「何だい?」
「試させて」
骸骨をモチーフにした指輪をリュコスに見せる。
「リュコスは足が石のように動かなくなる」
その時、骸骨の眼が赤く光る。
「はぁ?何言って―――っ!?」
何を言っているのかわからず足を動かそうとするリュコスだが本当に石になったかのように動かなかった。
「な、なんだい!?」
脚を動かそうとするが本当に動かすことが出来なかった。
驚きを隠せれないリュコスに誰もが本当の事だと判明した。
ミクロはもう一つの赤い宝石がついている指輪の試す。
指輪にある宝石をミクロは指で砕く。
「息を止めて」
その言葉にリュコス以外全員は息を止める。
困惑しているリュコスは息を止める事ができずに突然倒れた。
驚くリュー達だがすぐにリュコスは寝息を立てていることに気付きとりあえずは安堵した。
「これがこの二つの『
リュコスをソファに寝かせてミクロは改めて全員に持たせている『
骸骨の指輪は『フォボス』。
強烈な暗示を掛けることが出来る。
装備者の言葉に反応して相手に暗示を掛けることを可能とする『
赤い宝玉の指輪は『レイア』。
指輪にある赤い宝玉を砕くと睡眠効果のガスを発生させる『
無煙無臭の為獣人の嗅覚でも嗅ぎ分けることは困難。
「どちらも大したことはないから護身用として使って」
『どこが大したことがないのか?』
口では出さないが誰もがそう思った。
普通に凄いと誰もが思ったがミクロにとっては本当に大したことはない。
『フォボス』は指輪を相手に見せながら言葉を述べなければ効果がない上に所詮は暗示の為暗示だと分かれば何の効果もない。
『レイア』は『耐異常』のアビリティを持っている者には効果がない上に一回使用したら終わり。再びミクロが作るまでただの指輪になる。
長所もあれば短所もある指輪。
だけど護身用にはちょうど良かった。
前にセシシャの話を聞いた時に万が一のことも備えて考案した。
団長として仲間として少しでも危機を回避するために人数分作製した。
「あの、よろしいでしょうか?団長」
「何?」
挙手するスィーラはミクロに尋ねた。
「よろしいのでしょうか?幹部である副団長達はともかく私達のような団員にまで配布して。私達がこれを売る、悪用するとは」
「お前達はそんなことはしない」
スィーラの言葉を遮ってミクロは断言した。
「何故、そう言い切れるのですか?」
断言するスィーラの疑問は最もだった。
ミクロ本人は護身用と言い張るがその効果は明らかに凄い。
売ったらそれなにの金が手に入り、悪用にも使える。
それをリュー達だけではなく団員全員分に配布したら団員の誰かが悪用するかもしれない。
もし、ミクロとスィーラの立場が逆なら本当に信頼する者にしか渡さない。
だけどミクロは団員全員に渡した上で売ったり、悪用しないと言い切った。
「俺はお前達を信用している。信頼もしている。だからお前達はそんなことは絶対にしない」
そう言い切った。
理由がある訳でも根拠がある訳でもない。
ただ本当にそんなことはしないと信じている。
それだけだった。
「……失礼しました」
一礼するスィーラは思った。
器が違う。
本当に信じているからこそ言い切れる。
そう思わされた。
スィーラ以外にも多くの者が照れ臭そうに頭を掻いたり、頬を赤くしたり、中には感極まってミクロに抱き着こうとするアマゾネスもいる。
「団長。凄いね」
「ええ。本当に」
隣にいる相棒のフールもスィーラと同じ心境だった。
新しい
新しくなった
窓の外から見える夕焼けを見てアグライアがそう決めた。
初めてミクロと会って一緒に見た夕日を思い出しながら。