路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第三話

【ミアハ・ファミリア】の犬人(シアンスロープ)のナァーザと【アグライア・ファミリア】のミクロはそれぞれの主神の命により、二人でダンジョンに潜っていた。

ナァーザはLv.1でも後半の方で【ステイタス】も当然ミクロより高い為、ナァーザは内心で少し得意げに笑っていた。

派閥は違えど新人であるミクロに先輩として指導しようと考えていた。

ナァーザの使用武器は弓でミクロはナイフと投げナイフ。

遠距離でサポートしつつ指導しようとナァーザは考えていた。

『ギィャ!』

『ギャギャ!』

ダンジョン五階層で襲いかかってくるゴブリン、コボルト、ダンジョン・リザードをミクロは的確に急所を狙って倒していた。

それはもうナァーザの援護が必要ないほどに。

だけど、ミクロの戦い方が普通じゃなかった。

倒せるモンスターは素早く倒して、危ない攻撃は躱すものの、自らモンスターの口に腕を喰いつかせて動きを封じてから倒していた。

自分を傷つけながらモンスターを倒していた。

下手をすれば腕を噛み千切られてもおかしくないそんな行動をミクロはずっと行っていた。

時には投げナイフで牽制や蹴りなども放つが戦い方が危なすぎる。

でも、ナァーザが一番気になるのはそこじゃなかった。

モンスターを倒すにしろ、何らかの反応はある。

それが新人なら当然だ。

だけど、ミクロは返り血を浴びても顔色どころか眉一つ動かさずにモンスターを葬っていた。ただ作業をこなすかのようにモンスターを倒していた。

「…………」

そんなミクロがナァーザは少し薄気味悪くなった。

ミクロのことはミクロの主神であるアグライアからだいたいは聞いていたけどここまでとはナァーザは思ってなかった。

次第にミクロの手によってモンスターは倒されて、休憩を取ることにした。

「……どうしてあんな戦い方をしてるの?」

「効率がいいから」

昼食を取りながらナァーザはミクロの戦い方を尋ねるとミクロは素っ気なく答えた。

「わざわざ攻撃を躱すより、ワザと喰らって動きを封じた方が確実に倒せる」

「…………」

問題ないかのように答えるミクロにナァーザは何も言えなかった。

少なくともナァーザはそんな戦い方はしない。いや、したくもなかった。

それを平然とやってのけるミクロはやはりおかしい。

正直、ナァーザはあまり関わり合いになりたくなかったが主神であるミアハに。

『ミクロと仲良くしてやりなさい。ナァーザの方が年上なのだから』

そう言われていた。

それからナァーザは昼食を取りながらもミクロに質問した。

「ナイフの扱い方はどうやって覚えたの?」

「俺をいたぶって楽しんでいた冒険者の中にナイフで斬りつけてくる奴もいたからいつのまにか体が覚えていた。体術も同じ。あいつらは死なない程度に痛めつけるのが上手かった」

「…………」

聞くんじゃなかったとナァーザは後悔した。

だけど、聞けば聞くほどミクロは悲惨な生活をしているんだなとも思ってしまったナァーザ。

「………」

「………」

なんて声をかければいいのかわからなくなったナァーザ。

互いに無言になるミクロとナァーザ。

静かなダンジョンの中で昼食を食べているミクロの粗食音だけが響く。

どうしようと悩むナァーザ。

そのことを気にも止めずに淡々と昼食を食べ続けるミクロ。

「わ、私に何か質問ある・・・?」

精一杯思考を働かせて尋ねるナァーザ。

ミクロは視線を一度ナァーザに向けるがすぐに元に戻す。

「ない」

一言でナァーザの言葉を一蹴した。

それを聞いたナァーザの尻尾は怒りを表しているかのように逆立つ。

せっかく考えて聞いているのに素っ気なく答えるミクロにナァーザは苛立ちを感じていた。

「好きな食べ物は何?」

「喰えれば何でも」

「好きな本は?」

「本なんて読んだことない」

「お勧めのお店ってある?」

「知らん」

「ゴブリンとコボルトどっちが可愛い?」

「興味ない」

「ミアハ様ってイケメンだよね」

「さぁ?」

「ポーション飲む?」

「飲む」

全然会話が続かなく全て一言で片づけられてしまう。

会話を繋げようとする気がないのか、面倒なのかはナァーザはわからなかった。

それでもナァーザは頑張ってミクロと仲良くなろうと質問した。

「アグライア様のことどう思ってる?」

「………」

そこで初めてミクロに変化があった。

悩んでいるかのように見えるその表情。

ナァーザはその答えを待っているとしばらくしてミクロが口を開いた。

「………わからない。ただ俺には眩しい女神だと思う」

絞り出したかのように答えるミクロにナァーザはほくそ笑む。

そして理解した。

ミクロ・イヤロスは自分以外との関わり方がわからないだけなのだと。

手を伸ばしてミクロの頭を撫でるナァーザ。

「続き…しようか?」

コクリと頷くミクロ。

昼食が終えた二人は装備を整えてもう一度モンスターと戦う。

モンスターに向かっていくミクロの背後からナァーザは弓矢を構えて矢を放った。

連携が取れているわけではなかったが、ナァーザは今はこれでいいと思いながら次の矢をモンスターに放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミクロとナァーザはダンジョンから地上に戻った時はすでに夕日が沈みかけていた。

随分長く潜っていたのだとナァーザは思いながらまずは二人でギルドへと向かい換金を行った。

二人で一日潜って二一〇〇〇ヴァリス。

一人一〇五〇〇ヴァリス分けて二人は自分達の本拠(ホーム)へと向かう。

報酬に尻尾を揺らすナァーザの隣をミクロは平然と歩いているとミクロとナァーザの正面にいきなり中年の冒険者達が現れた。

「よぉ、クソガキ。最近見ねえと思ったら冒険者になってたんだな」

ミクロとナァーザの前に現れたのは以前より路地裏でミクロを痛めつけていた中年の冒険者達だった。

「それも女連れとは…羨ましいな、おい」

ニヤニヤと笑みを浮かべたままナァーザに視線を向ける冒険者にナァーザは嫌悪感を抱きながら睨む。

「何か用?」

ミクロは冒険者達にそう尋ねると冒険者達は気に入らないかのように舌打ちする。

「チッ、相変わらず気に入らねえガキだ。まぁいい、少し(ツラ)を貸せよ。安心しろ、殺しはしねえのはお前も知ってんだろ?」

その言葉にナァーザは嫌でも気付いた。

この冒険者達はミクロを痛めつけるつもりだと。

どうにかここから離れようと思ったナァーザはミクロの手を握ってさっさと逃げようと試みたがそうなる前にミクロが首を縦に振った。

「わかった。でも、こいつは関係ないから帰らせてもいいか?」

「……ミクロ!?」

ナァーザだけでも帰らせようとするミクロに冒険者達はゲズの笑みを浮かばせる。

「ああいいぜ。俺達も女を痛めつけるのは心が痛むからな」

どの口が言うか。とナァーザは内心でそう思った。

相手の冒険者達は見たところナァーザと同じLv.1だけど、ナァーザ一人で数人を相手にすることはできない。

そんなナァーザを無視するかのようにミクロを囲んでどこかへ連れて行こうとする冒険者達。

ミクロは一度振り返ってナァーザに告げた。

「すぐ終わるから」

それだけ言ってミクロは冒険者達にどこかへと連れていかれた。

「助けないと……」

ナァーザの行動は早かった。

自分の【ファミリア】に助けを求めようと駆け出すナァーザ。

「無事で…いて…」

そう願いながら走り出すナァーザ。

一方で中年の冒険者に連れて行かれたミクロは人気のない路地裏へと来ていた。

「オラッ!」

そして、待ち侘びていたかのように早速ミクロに殴りかかる冒険者。

ミクロを中心に囲むかのように円を作る冒険者達は殴る、蹴るなどで次々ミクロに暴行を加える。

それに対してミクロは悲鳴一つ上げずにただ殴られ、蹴られている。

下手に痛がれば冒険者達は余計に楽しんでしまうのを知っているからだ。

大人しく殴られ、蹴られていれば次第に飽きてくることもミクロは知っていた。

ミクロは殴られ、蹴られながらもナァーザを逃がすことができて良かったと思っている。

万が一にナァーザに何かあれば【ミアハ・ファミリア】に迷惑がかかる。

中堅の実力を持つ【ミアハ・ファミリア】。その主神と神友同士のアグライアにまで何らかの被害が出るかもしれない。

だからこそ安堵した。

ナァーザを無事で帰すことができて。

「へへっ!本当に泣き声一つ叫ばねえな、ガキ!」

「ああ、相変わらずいい感じにストレス発散出来るぜ!」

ミクロを殴り飛ばす冒険者達はミクロに暴行を加えることに楽しくなってきていた。

だけど、それはすぐに終わりを告げた。

ドクン、と心臓が跳ねるように鳴った。

殴られて動きを止めるミクロを訝しむ冒険者達。

心臓が鳴ると今度はミクロの全身に巡るようにある感情がミクロを支配した。

―――――壊したい。

その衝動がミクロを支配した。

「何止まってんだ!?クソガキ!」

動きを止めたミクロに苛立った冒険者はミクロを殴ろうと接近すると同時にミクロの拳が冒険者の腹に入り冒険者を壁へと叩きつけた。

「――――――へっ?」

その光景に呆ける冒険者達。

冒険者になってまだ数日のミクロがだいの大人を壁へと叩きつけた。

今までミクロを痛めつけてきた冒険者達はミクロの初めての反撃に驚くがミクロにはそんなことどうでもよかった。

ただ、目の前の冒険者達を壊したい。

その感情が衝動に駆られるようにミクロは動き出した。

「このクソガキ、よくも!」

剣を持って斬りかかろうとする冒険者の剣をミクロは素手で掴む。

剣を握った手から血が流れるミクロは気にも止めていなかった。

今更この程度気に留めることもないのと、それ以上に目の前の冒険者を破壊したかった。

ゴキリと鈍い音が路地裏に鳴り響く。

「ウギャアアアアアアアアアアアッッ!」

足を折られて悲鳴を上げる冒険者を無視してまだ壊れていない冒険者に視線を向ける。

「なんなんだ・・・なんなんだ、テメエは!?」

怒鳴り声を出す冒険者達は知らなかった。

ミクロが恩恵を刻まれて『呪詛(カース)』と『スキル』を持っていたことを。

その『スキル』が今、発動していることに。

―――――『破壊衝動(カタストロフィ)』。

ミクロが持つスキルで一定以上の損傷(ダメージ)により発動するこのスキルは損傷(ダメージ)を負う度、全てのアビリティ能力が超高補正される。

そして、破壊する対象が消えない限り効果は続く。

「・・・・うああああああああっ!」

逃げようと逃亡を図る冒険者にミクロは投げナイフを投擲する。

「ひぐっ!?」

逃亡を図ろうとした冒険者の足にミクロの投げナイフは刺さり、刺された冒険者はその場へ倒れてしまう。

その冒険者に近づいたミクロは腕を取って小指を握って――――折った。

「あがっ!?」

小指に続けて薬指、中指、人差し指、親指と順番に指の骨を折っていくミクロは折り終わると今度は反対側の指を折り始める。

この光景に先にやられた冒険者達は恐怖に震えて動けなかった。

表情一つ変えずに壊しておくミクロ。

そのミクロに指を折られた冒険者は泣きながら命乞いをした。

「た……頼む………もう二度と……しねえ……俺達が悪かったから………もう、やめてくれ……殺さないでくれ……」

このままだと嬲り殺されると思った冒険者にミクロは答える。

「大丈夫。殺さない程度に壊す方法はお前達が教えてくれた」

そう言って冒険者のポケットからポーションを取り出したミクロはそれを冒険者に飲ませて折れた指を元に戻す。

そして、もう一度同じように小指から折り始める。

「--------ッッ!!」

絶望しかなかった。

終わることがない拷問に近いそれに絶望以外何も感じなかった。

指を折り、今度は手を折って、腕を折る。それが終われば今度は足の骨を指から折って行き大腿骨まで折るとまたポーションを飲ませる。

ポーションを飲むことを拒もうとしても無理矢理の口の中に入れられて手足の骨が元に戻る。それを確認したらまた折る。

ボキ、パキ、ゴキと路地裏に響く鈍い音。

骨を折られている冒険者はもうどの骨を折られているのかさえわからなかった。

「さて、次はどこを壊そうか……」

手足の骨を折り終えたミクロは今度は肋骨に手を当てて折ろうと力を入れる。

「やめなさい」

折ろうとしようとした瞬間にミクロの腕を掴んできた一人のエルフがいた。

「それ以上の非道は私が許しません」

ミクロは視線をエルフのエンブレムに向ける。

剣と翼のエンブレムを見てミクロはエルフが【アストレア・ファミリア】に所属しているエルフだと理解した。

だけど、ミクロはわからなかった。

何故関係のないこのエルフはわざわざ止めに来たのか?

普通なら関わらないように無視するはずなのにわざわざ割り込んできた。

「………」

少し考えてミクロは納得したかのように頷くと近くに倒れている冒険者の仲間をエルフに渡した。

「やる」

「………?」

その行動と言葉の意味が理解できないエルフは首を傾げる。

「お前も痛めつけにきたんだろ?こいつあげるから」

「…………ッ!?」

その一言で理解したエルフはミクロの頬を叩いた。

ミクロは痛めつける獲物が欲しいと思ってエルフに冒険者を渡した。

それなのに何故頬を叩かれたのか理解できなかった。

「貴方は・・・自分が言っていることを理解しているのかッ!?」

怒鳴るエルフに首を傾げるミクロはますます理解出来なかった。

「獲物が気に入らなかったのか?」

「違う……」

「もしかしたら金が欲しいのか?」

「違う………ッ」

「装備品でも狙っていたのか?」

「違う!」

何が欲しいのかと思ってエルフに問いかけるミクロだが全て否定された。

エルフの言葉が理解できないミクロは首を傾げる。

「じゃ、何でここに来た?邪魔するならどこか行ってくれ。お前に迷惑はかけないから」

それだけを告げてもう一度壊そうと冒険者に振り向くミクロ。

「――ッ!?」

だが、後ろか襲ってきた衝撃にミクロの意識は遠くなり、気を失ってしまう。

ミクロの意識を絶たせたエルフに冒険者達は近寄る。

「た、助かったぜ、ありがとうな、エルフの嬢ちゃん」

「貴方方もすぐにここから消えなさい。事情はどうであれ今の私は少々気が立っている」

殺気を冒険者に当てるエルフに腰を引かせてすぐに去って行く冒険者達。

「ちょっとリオン!いきなり飛び出さないでよ!?」

「すみません、アリーゼ」

擦れ違うかのように路地裏へとやってきた少女、アリーゼにリオンは謝罪する。

「まったくもう!……ってこの子誰? リオンが助けたの?」

気を失っているミクロを指すアリーゼにリオンはどう説明しようかと考える。

「被害者であり……加害者でもあります……」

「何よ、それ?まぁいいわ、見たところ冒険者みたいだしギルドへ連れて行けばどこに所属しているかはわかるでしょう」

「そうですね」

リオンはミクロを背負って同じ【ファミリア】のアリーゼと共にギルドへと歩き出す。


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