【アグライア・ファミリア】が結成されてから早くも二年が経過。
始めはミクロ一人から始まった【ファミリア】だが、二年という月日の時間で見違えるぐらい変化した。
団員数は三十人を超えて
仲間と出会い、助け助けられて困難を乗り越えてきた。
そのミクロ達は現在
「おおおおおおおっ!くたばれ!団長!!」
吠えながら手に持っている大剣を振り上げる男性団員は嫉妬の咆哮を上げて大剣を振り下ろすがあっさりと躱されて回し蹴りを喰らい壁まで蹴り飛ばされる。
「叫ぶ必要はない」
「お、おっす」
注意され、気を失う男性団員。
「次」
集まっている団員達に視線を向ける。
今日は月に二回ある【ファミリア】の団員全員で行う模擬戦。
主にLv.2以上のミクロ達相手に他の団員はどう戦うかを考える。
強敵相手にどう冷静に対応して戦うかもしくは逃げるかを判断して生き残るための術を考えさせる。
隙がなく多才な武器と
近接戦闘、主に徒手空拳を使うリュコス。
遠距離で攻撃を繰り出すティヒア。
総合的戦闘能力が高いリュー。
それぞれと戦わせて団員の総合的能力を高める戦闘訓練。
それを行って団員達を鍛えていくミクロ達。
「よろしくお願いします!」
「ご教授お願い致します」
「よろしく」
頭を下げるフールとスィーラはそれぞれの武器を持ってミクロと対峙する。
ミクロ達は基本的には一人で相手になるがフールなど他の団員達は
「はぁ!」
短剣を振るうフールの攻撃を躱してミクロは初めは何もせず回避に専念する。
「【天に轟くは正義の天声。禍を
杖を構えて詠唱を唱えるスィーラ。
詠唱を止めようと動こうとするがフールが短剣を振ってそれを阻止する。
「ハアァァァ!」
振り下ろす、振り上げる、振り払う。
意地でもスィーラの邪魔をしないようにフールがスィーラを守る。
「【鳴り響く招雷の轟き。天より落ちて罪人を裁け】」
詠唱が終えたとほぼ同時にフールは大きく後退。
「【フラーバ・エクエール】!」
スィーラの杖から放たれた雷属性の魔法は宙に弧を描き、ミクロに襲いかかる。
短文詠唱より放たれたにも関わらずその規模は大きく回避困難。
スィーラのありったけ
強敵相手ということを想定した上での模擬戦に申し分ない魔法。
その一撃はミクロを中心に降り注ぎ爆撃と言って相違ない広範囲魔法に中庭全体が揺れる。
「スィーラ……」
「えっと……」
頬を引くつかせるフールにスィーラは冷や汗を流す。
ミクロがいた場所には大穴が空いており、ミクロ本人の姿はなく流石の本気の一撃に他の団員達は目を見開かせる。
やりすぎ。と誰もが思った。
「いい一撃だった」
「だ、団長!?」
突如フールの背後から現れたミクロに驚愕する二人。
「ご、ご無事で」
ミクロが無事だったことに安堵するスィーラはほっと胸を撫でる。
「危なかった」
「危ないで済むんですか!?」
叫ぶフールの言葉に他の団員達も同意するように頷く。
スィーラの魔法は回避困難ではあったが不可能ではない。
だから回避できたと当たり前のように告げるミクロ。
同意するように頷くリュー達だがフール達はその考えが理解出来なかった。
同じように回避しろと言われても出来るわけがないと自信を持って言える。
それだけスィーラはの魔法は凄かった。
だけど、それ以上にミクロの実力の底が見えないことに実感できた。
多くの偉業を達成してきたミクロ・イヤロス。
改めて自分達の団長の実力に驚かされる。
「でも、詠唱はもっと早くできるようになった方がいい。敵は詠唱を待つほど馬鹿じゃない。リューみたいに並行詠唱も出来れば問題ない」
「…努力します」
ミクロの助言を胸にしまうスィーラ。
発動の失敗や魔力の暴発を防ぐために停止して魔法を行うが、並行詠唱を身に付ければ動きながらでも魔法を発動することが出来る。
だが、並行詠唱は難物の代物。
その技術を身に着けるにはまだまだ訓練がスィーラには必要だった。
思ったこと、気付いたことを口にしながら訓練を続ける【アグライア・ファミリア】。
「さぁさぁ!休憩にしますわよ!」
手を叩いて休憩をするように催促するセシシャ。
訓練に熱が入った団員達はその言葉に落ち着きを取り戻して休憩に入る。
地面に座りながらセシシャから配布される水の入った容器を受け取る団員達。
「ほら、貴方の分ですわ」
「ありがとう」
水を貰って飲むミクロは自身の両手を見ながら考えていた。
ミクロは基本的に見たり、教われば大抵のことは会得することが出来る。
だけど、アイズの剣技を直に見て会得は困難、不可能と判断した。
凄まじいあの剣戟を身に着けることが出来ればと考えて試したがアイズの劣化版ぐらいにしかならなかった。
体格が優れていないミクロは普通の男性より細く、小さい。
短所を補うために様々な技術を身に着けている。
ナイフ、投げナイフ、
だが、単純な力なら前の探索でLv.3になったリュコスよりも劣る。
『イスクース』を使えば単純な力技はどうにかなる。
だが、今ミクロに必要なのはアイズの剣技のような一点特化された能力。
戦ったミクロだからわかる。
アイズの間合いはまるで剣の結界。
結界内に入ったものを切り刻む圧倒的剣技。
純粋な勝負なら同じLv.でも勝てる見込みはなかった。
これからの事を考えたらミクロは自分なりの能力を見つける必要があった。
少なくともアイズの剣技を破れるぐらい能力が。
「リュー」
「はい?」
「戦って」
休憩中にも関わらずそう懇願するミクロに驚きながらも了承した。
リューも前にアグライアと共にミクロは【ロキ・ファミリア】に赴きアイズと戦ったことはミクロ本人から聞いて知っている。
きっと何か思い当たることでもあったのだろうと長い付き合いでそれを察したリューはミクロと対峙した。
「団長と副団長の模擬戦!?」
団員達はこれから模擬戦をしようとするミクロ達に興味深く観戦する。
リュコス達も特に何も言わずに戦いを見守る。
一人、休憩ぐらいしなさいと愚痴をこぼす者もいたがその声は誰の耳にも届かなかった。
「リュー。本気できて」
「わかりました」
小太刀を抜刀するリューにミクロも構える。
「行きます」
視線が鋭くなるリューにミクロもどこから攻撃が来ても耐えれるように周囲を警戒する。
「はい、そこまで」
「「っ!?」」
だが、二人の間にアグライアが割って入って来た。
「貴方達が本気で戦ったらせっかくの家が壊れちゃうじゃない。それに今は休憩中よ。しっかりと体を休ませなさい」
アグライアの言葉に団員達は確かにと同意する。
「………」
「そんな不満そうな顔をしても駄目よ」
視線を向けるミクロにアグライアはそう答える。
主神の言葉に二人は言われた通りに休憩を取る。
いつもと変わらない表情と態度だけど付き合いの長いアグライアとリューは拗ねているとすぐに理解した。
子供っぽい反応をするようになったミクロに嬉しさ半分呆れ半分だった。
「思い悩んでいるのね」
ミクロはアイズから何かを感じ取った。
それ以外にもアイズとの勝負の後からどこか思い悩んでいるところがあったことは知っていた。
「………」
リューも何となくではあるがミクロが悩んでいることは察していた。
先程の態度を見て悩んでいる原因は自身の戦闘スタイルだと推測もできた。
ミクロは状況に応じて様々な能力を発揮することが出来る。
物を扱う器用さ、柔軟な思考、瞬間的な判断能力。
魔法、スキル、『
しかし、悪く言えば才能さえあれば誰でもできる。
そして、リューは押し切ろうと思えば押し切れる。
全体的能力が高いミクロにとって弱点と呼べるのは一点に特化された能力。
ミクロが張り巡らせている実力に僅かに空いている穴をこじ開けられることができればミクロを倒すことは難しくない。
最もそこまでたどり着くのは容易ではない上に何重にも策を巡らせているミクロにとっては格好の餌になる。
単純にミクロを上回る実力があり、一点に特化された能力があって初めて成功する。
だけど、ミクロ自身が何かに一点に特化できる能力があればその弱点は消える。
既にLv.3のミクロは大抵の敵は安易に倒すことが出来る。
今も強くなってきているミクロにとってそこまで慌てる必要は本来ならないのだが、それをミクロが望んでいるのならリューは力になるつもりでいた。
脚に装備しているロングブーツに視線を向けながらそう決意する。
「さぁ!再開しますわよ!」
休憩が終わり鍛錬を再開するミクロ達。
団員達との模擬戦を行いながらミクロは自身の戦闘スタイルに頭を悩ませる。