誰もが寝静まむ深夜の時間帯にミクロは一人で武器を振り回していた。
激しく動き回りながらミクロは前に戦ったアイズを想像しながら頭の中で模擬戦を行っていた。
「………」
だけど、途中で動きを止めて軽く息を吐いた。
ミクロはいつも使っているナイフと梅椿以外の武器も使おうと思えば使える。
素手でも十分に戦える。
だけど、それだけだった。
素手ならリュコスより劣り、弓を使ってもティヒアより劣る。
そこに己の長所を活かす発展アビリティがある。
ティヒアはLv.2の時に『狙撃』を発現させて、リュコスはLv.3で『拳打』を発現させた。
リューに至っては木刀と小太刀で接近戦を行いながら強力な魔法で相手にトドメをさすことができる。
自分が絶対に負けないという能力をミクロは持っていなかった。
一点に特化された能力、特技とも言えるものはミクロにはない。
精々体が頑丈なのと『
全体的に優れているミクロにとってそれ以上になれる何かがなかった。
だから今使っているナイフと梅椿を極めようと誰もいない時間帯である深夜で武器を振っていたがそこで新たに気付いたことがあった。
それはこれ以上伸びしろがないということ。
二年間ミクロは今持っている武器で戦ってきた。
初めの頃よりかは使えるようにはなったが今では中々上達していない。
限界がきたとすぐに察した。
体格が優れていないミクロはその理由は路地裏での生活のせいだろうと理解していた。
まともな食事にありつけず、痛めつけられもすれば体がおかしくなるのも頷ける。
骨を折られることも当たり前のようにあった。
しかし、そんなことは言い訳にならないし今更どうしようもない。
そのことを承知でミクロはナイフという軽く小回りの利く武器を選んだ。
だけどその限界が訪れた。
恐らく他の武器を使ってもそれは変わらないどころかそれ以下。
「限界か」
こればかりはどうしようもなかった。
今までは他で補ってきたがアイズとの模擬戦でそれも難しくなってきたと気づいた。
「何をしているのですか?」
「リュー」
背後から聞こえた声に振り返るとリューが立っていた。
「何を悩んでいるのか教えてはくれませんか?」
「……俺はこれ以上強くなれるかわからない」
「貴方は今でも強い。そこまで強くなることに拘る必要があるのですか?」
冒険者の大半はLv.1で生涯を終える。
Lv.3のミクロはその時点で十分に強い。
「俺は団長になった。なら団員の誰よりも強くなる必要がある」
一つの【ファミリア】を背負う団長とという責務。
団員の誰よりも強くならなければ示しがつかない。
「リューや皆は優しい。だから弱いままでいるのも甘えるままでいる訳にもいかない」
「ミクロ……」
その言葉にリューは言葉を詰まらせる。
優しいのは貴方の方だと言いたかった。
リュー達が今のように過ごせているのも全てはミクロのおかげ。
誰よりも速く駆け付け、守り、助け、手を差し伸ばしてきてくれた。
その事が何よりも嬉しく感謝している。
だけど今のミクロになんて声をかければわからなかった。
碌に人を励ましたことのないリュー。
大切な人が悩んでいる。
それなのに自分は慰める言葉も思いつかないのかと悔やむ。
『しゃんとしなさい!リオン!』
「っ!?」
突如聞こえた
死んだ
「ミクロ」
声をかけ、手を握りしめる。
「貴方は一人じゃない。私も【ファミリア】の皆も貴方の力になる。だから一人で悩むのは止めてください」
頭の中で精一杯言葉を選んでミクロを励ます。
「互いに助け合うのが
自分の中の精一杯の言葉を告げた。
「わかった」
リューの言葉に頷く。
どうにか励ますことが出来たことに安堵してリューは小太刀を抜刀する。
「それではあの時の続きをしましょう」
模擬戦を行おうとしたが主神であるアグライアに止められて中断された模擬戦。
こうしてミクロの悩みを少しでも解消できたらと思いその望みに応える。
ミクロも武器を構えてリューと対峙する。
「遠慮はいりません。私も全力で応じます」
「わかった」
互いに駆け出して得物をぶつけ合う。
その光景をアグライアは窓から見ていた。
「やっぱり下界の子供の成長はいいものね」
衝突しまう二人を見ながら微笑するアグライアだが、時間を考えて欲しかった。
その夜、鳴り響く金属音や衝突し合う音で団員達は目を覚ましてから眠れずその日は寝不足になった。
リューに励まされてから数日後、ミクロは自分なりの答えを見つけ出していた。
自分を活かす戦い方を、自分だけの武器を見つけ出した。
他の誰にでも真似できないその能力。
リュー達が見れば一言で片付けろと一蹴するほど散らかっている部屋でミクロは自分だけの『
リューの言葉を聞いて思いついたこの『
だけど、これが自分の特化された能力だというのは確かだった。
「出来た」
完成した三つの『
これをどう活かすか殺すかはこれからのミクロに掛かっている。