路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

33 / 202
第33話

「ミクロの母親、シャラ達の副団長であるシャルロットのせいでシャラ達は捕まったニャ」

メイスを振り回しながら自身の経緯を話すシャラにリューは木刀で応戦しながらシャラの言葉に聞き覚えがあった。

【シヴァ・ファミリア】。

風の噂で聞いた程度だったが団員の一人一人が常識はずれに強く、凶悪で残忍な性格を持っている者が多い【ファミリア】。

今対峙しているシャラの狂喜に満ちた笑みを見て改めてそれが事実だと思い知らされる。

そして、強いということも。

同じLv.にも関わらずシャラの俊敏さにリューは手を焼いている。

リュコス達も同様にシャラ以外の団員達と交戦しているが苦戦を強いられている。

「ミクロはシャラ達の【ファミリア】の子供ニャ。お前等の仲間じゃないニャ」

シャラの口から語られるミクロの出生の秘密。

ミクロが【シヴァ・ファミリア】の眷属の子供だと知ってリュー達は少なからずのショックを受ける。

「それが何ですか?」

「ニャ?」

だけど、リュー達にとってはその程度のことだった。

「過去など関係ない。ミクロはミクロだ。その程度の事で私達がミクロの事を見限る訳がない」

助けを求めているのであればミクロは誰であろうと助けてきた。

リュー、ティヒア、リュコス、パルフェはミクロによって救われた。

後ろめたいことにも気にも止めずに手を差し伸ばして受け入れてきた。

「ミクロは私達【アグライア・ファミリア】の団長だ。【シヴァ・ファミリア】など関係ない」

リューはハッキリとシャラにそう告げた。

それを聞いたシャラの狂喜の笑みは深くなった。

「面白いニャ。その信頼ごとシャラ達が壊してあげるニャ」

加速するリューとシャラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、強い」

ミクロと対峙しているセツラは攻め倦んでいた。

左手に装着している白い布に魔力を送り、光の弓を形成するミクロは光の弓に右手を沿えると、弓の弦が引かれるように上下に伸びた光がしなり、一本の矢が生み出される。

弦を引いて光の矢を放つ。

ミクロ専用魔道具(マジックアイテム)『ヴェロス』。

左手に装着している白い布に魔力を送ることで光の弓を形成させて矢を放つことが出来る遠距離用の『魔道具(マジックアイテム)』。

「くっ」

放たれた矢を回避して接近するセツラにミクロは再び矢を放つと一度に複数の矢がセツラを襲う。

その矢を回避、槍で防ぐが後退を余儀なくなされる。

何の策もなく必要以上に近づければ自身の体が風穴だらけになることが明白だからだ。

ミクロが放つ矢は射程も長く、威力も高い。

Lv.差のおかげで今はかすり傷程度で終えているセツラだが、いつ自身の体に風穴を空けられるかわからなかった。

矢の動きは普通の矢と同じ軌道だが射程と威力が桁外れに高いことと放つ矢の形態まで変えることが出来る。

射程は短いが広範囲で放つことが出来る『散弾』。

射程と威力を高めた『貫通』。

威力射程ともに申し分ないが発射までに数秒時間がかかる『砲弾』。

その三つを使い分けてミクロはセツラと距離を取りつつ攻撃を仕掛けている。

「ハッ!」

セツラは槍を投げた。

投げ槍のように投擲する槍を回避するミクロの一瞬の隙に狙いを定めて一気に接近。

矢を放つことが出来ないほど接近することに成功したセツラは腰にかけている短剣でミクロを攻撃する。

「なっ!?」

だが、瞬時ミクロは姿を消した。

そしてセツラの背後からミクロは姿を現して殴り飛ばした。

「くぅ!」

苦痛の声をあげるセツラは咄嗟に両腕を交差して防御に成功したがあまりの威力に腕の骨に罅が入る。

ミクロの腕には腕力を上げる魔道具(マジックアイテム)『イスクース』が装着されている。

不意とはいえ、その威力にセツラは驚愕するがそれ以上に先ほどミクロが消えたことが気掛かりだったがその答えは自然にたどり着いた。

「影を移動する魔道具(マジックアイテム)ですか……」

「正解」

ミクロが脚に装着しているブーツに視線を向けるセツラにミクロは淡々と答えた。

影を瞬時に移動できる魔道具(マジックアイテム)『スキアー』。

装備した者に影移動を可能にさせる魔道具(マジックアイテム)

それを使い足元の影からセツラの影に移動して攻撃した。

ミクロはセツラと距離を取って木の影に入り再び光の弓『ヴェロス』を発動させる。

「いったいいくつの魔道具(マジックアイテム)を身に着けているのですか?」

「答える義理はない」

「確かに」

苦笑を浮かべながら槍を拾うセツラ。

「それがミクロ君の戦い方ですか?」

「ああ」

ミクロは全てに優れている。

だが、一つの事に特化することはできなかった代わりに編み出したミクロの答えは全てに対応できる万能スタイル。

相手が接近戦を得意とするなら遠距離で攻撃。

相手が中距離戦を得意とするなら近・遠距離で攻撃。

相手が遠距離戦を得意とするなら影を移動して接近戦に持ち込む。

近・中・遠距離全てに対応できるようにミクロは自分専用の魔道具(マジックアイテム)を作製して自分なりの戦い方を手に入れた。

全てに優れているミクロにしかできない全距離対応型戦闘スタイル。

それを可能として100%の能力を発揮できる魔道具(マジックアイテム)を作製した今のミクロに入り込む隙はない。

「今の一撃でお前は腕に力が入らない。降参して全てを話すというのならここで終わる」

「何を言っているのです?腕に罅ができた程度で――っ!?」

その時セツラは気付いた。

自身の腕に全く力が入らなかったことに。

そして気付かなかった。

ミクロに視線を向けた時に骸骨の指輪が視界に入っていたことに。

相手に強烈な暗示を掛けることが出来る『フォボス』。

自然な動作の中に組み込めばこの魔道具(マジックアイテム)もそれなりの役に立つ。

もう腕を上げることもできないセツラだが、ミクロは油断はしない。

速やかに的確にセツラを倒す為に矢の形態を変えて溜める。

『砲弾』として放つ矢は放つまで数秒の時間が有する。

矢が太くなることに気付いたセツラは直感で直撃はまずいと気づいた。

「動くな」

「っ!?」

だが、ミクロは逃がさない。

一瞬視線をミクロに向けた瞬間にミクロはセツラに暗示を掛ける。

暗示に掛かったセツラは指一本動かすことが出来ない。

動かなくなったセツラに『砲弾』は完成してミクロは照準をセツラに定めて放つ。

矢というより閃光に近いその矢は真っ直ぐとセツラに向かっていく。

「【我が身は先陣を切り、我が槍は破壊を統べる】!」

セツラは詠唱を唱えた。

「【ディストロル・ツィーネ】!」

次の瞬間、放たれた矢は斬られた。

「なるほど、相手に暗示を与える魔道具(マジックアイテム)ですか、発動条件はまだ不明ですが暗示とさえわかれば油断しなければ問題はありませんね」

ミクロの魔道具(マジックアイテム)『フォボス』を見切ったセツラは淡々とそう告げながら黒い槍で肩を叩く。

「まさか、こうも早く私の切り札の一つを出すことになるとは流石はへレス団長とシャルロット副団長の子供だ」

「………」

ミクロはセツラが握っている黒い槍に視線を向ける。

先ほどまで持っていたと槍とは違い、『ヴェロス』と同じ魔力で形成された槍だと気づく。

「しかし、これを発動した以上もう手加減は出来ません。腕の一本なくなる覚悟はした方がいいでしょう」

黒い槍を構えた瞬間、ミクロの目の前にセツラが現れた。

瞬時に『スキナー』を使用して影移動して回避するミクロはセツラと離れた場所から出て矢を放とうとしたがその前にセツラの槍が迫って来た。

ナイフと梅椿を取り出して槍を捌くが、一つ一つの攻撃が激しく、空間事削り取るような攻撃に防戦を強いられる。

「なるほど、ミクロ君は接近戦が苦手というわけでもないようですね」

傷を負いながらも致命傷を避けているミクロにセツラは称賛の言葉を送る。

「なら、もっと速くしましょう」

加速する槍の連続攻撃。

今、影に入ろうとしたら確実にミクロの腹に大きな風穴が開く。

「それ!」

「っ!?」

下からの切り上げにミクロは上空に打ち上げられる。

「さぁ、どうしま」

逃げ場のない上空にどう対応するかと思い顔を上げると光の弓を形成して自分の下にいるセツラに向かって再び『砲弾』を放った。

だが、セツラは容易にそれを躱した。

着地するミクロは更に後退してセツラと距離を取る。

「ふむ。上空に打ち上げられると同時に光の弓を形成してすぐに溜めていましたか。その判断は正しい」

まるで教え子の成長を喜ぶ先生のように褒めるセツラ。

「………」

ミクロは無言でセツラの魔法の分析を行っていた。

セツラの魔法は自身の身体能力を向上と魔力で作り出す黒い槍がセツラの魔法と推測した。

只でさえセツラはLv.4の上に身体能力を向上されたら先程の動きにも納得できる。

普段からリューと模擬戦をしていなければ先ほどの戦闘でミクロは倒されていた。

だけど、一番脅威なのはあの黒い槍だった。

もし、ミクロのナイフと梅椿に『不懐属性(デュランダル)』が付与されていなければ確実に武器は破壊されていた。

それだけの威力と切れ味があった。

どうするかと打開策を考えるミクロにセツラは声をかけた。

「ミクロ君。君はどうして特別か知っていますか?」

「知らん」

「でしょうね。ですから私の切り札を出したミクロ君に褒美としてその秘密を教えましょう」

丁度いい時間稼ぎと思いながらその言葉に頷いて返答した。

「ミクロ君にはシヴァ様の血、神血(イコル)が流れているのは知っていましたか?」

「ああ」

「実はというとミクロ君だけではないのですよ。神血(イコル)を与えられたのは。シヴァ様は眷属の間で出来た子供には全員に自身の血を与えていたのです。ですが、神の血は下界の子供には強すぎる。与えられたと同時に体が耐え切れなくなりすぐに死んでしまう。ここまで言えばわかるでしょう?」

言わなくてもミクロは察した。

「ミクロ君だけなのですよ。神の血に耐えられることができたのは。だからこそミクロ君は特別なのです」

「何故シヴァは自分の血を子供に与えた?」

「流石の私も神の考えまではわかりませんよ。さぁ、続きと行きましょうか」

黒い槍を構えるセツラにミクロは構える。

「何ニャ、まだ終わってないのかニャ?」

「おや、シャラさん」

姿を現したのはシャラと【シヴァ・ファミリア】の団員達に捕まっているリュー達。

「リュー、皆」

「ミクロ……すみません」

ボロボロの体に動きを拘束されているリューが謝罪の言葉をミクロに送る。

リュコスやティヒア達も同様に動きを封じられている。

「随分と数が減りましたね」

「厄介な魔道具(マジックアイテム)もあったけど一人人質に取ったら面白いくらい反撃しなくなったニャ」

リュー達を見下す様に笑うシャラは視線をミクロに向けた。

「さぁ、どうするニャ?シャラ達悪役らしく抵抗したらこいつらの命はないぞと言って欲しいかニャ?」

「らしいではなく完全な悪役ですけどね」

「にゃはは。言えてるニャ」

笑う二人にミクロは何もできなかった。

いや、何かをしようとすれば確実にリュー達が殺されてしまうからだ。

「ミクロ……彼らの狙いは貴方です。私達に構わず逃げなさい」

「うるさいニャ」

逃げるように催促するリューの頭部にシャラはメイスで殴った。

「生殺与奪はシャラ達にあるニャ。人質は大人しくしてるニャ」

「俺はどうすればいい?」

これ以上リュー達を攻撃されないようにセツラ達の視線を自身に向けさせる。

「にゃふふ。それじゃ抵抗するなニャ」

笑みを浮かばせて歩み寄るシャラはメイスをミクロに叩きつける。

「にゃはははっ!」

次々にメイスでミクロに攻撃するシャラ。

それを一心不乱に浴び続けるミクロは抵抗することなく大人しくメイスを喰らう。

その光景にセツラは呆れるように息を吐いた。

「やれやれ、【撲殺猫】の本性が現れましたか」

敵を一方的に叩き、壊すことを何よりの楽しみとする狂喜の猫人(キャットピープル)

それが【撲殺猫】シャラ・ディアブルの本性。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。