路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第34話

リュー達を人質に取られたミクロは抵抗することなくシャラのメイスを浴び続ける。

血が流れようが、骨を砕かれようが絶妙な力加減で殺さない程度に痛めつけるシャラ。

少しでも長く壊すことを楽しむ為にシャラはミクロを嬲り続ける。

「にゃは~、それにしても頑丈だニャ」

メイスにこびり付いているミクロの血を払いながら愉快気に笑うシャラは正直にミクロの頑丈さに驚く。

ミクロの白い髪は赤く染まり、腕の骨は変な方向に曲がり、顔は原型がわからないほど腫れている。

「ミクロ……」

目を逸らしたくなるほど痛々しい姿になったミクロにリューは涙を流す。

こうなった原因は自分達にある。

もっと強ければ、警戒していればと後悔する。

「もう止めて……」

ティヒアは悲痛の声で止めるように懇願したがシャラは聞く耳持たずにメイスでミクロを殴る。

「くそ……」

リュコスは自身の弱さに嫌気をさした。

誰もが弱さに嘆き、後悔しているなかでミクロはリュー達に言った。

「大丈夫……これぐらい何ともない」

グシャという鈍い音が響く。

「まだ喋れるとは流石のシャラも驚きニャ」

「問題……ない」

再びメイスを喰らう。

既にスキル『破壊衝動(カタストロフィ)』は発動している。

だけど、リュー達を守る為にその衝動を抑えてシャラの攻撃に耐え続ける。

「全員で生きて帰るようにと、アグライアに、言われ」

ゴキと鳴り響く。

「しつこいニャ」

「俺は団長……皆を、守る」

ドゴと打ち叩かれる。

「何なのニャ?」

どれだけメイスを喰らってもミクロは決して倒れなかった。

立っているだけでやっとのはずなのにそれでも倒れない。

その異様な光景にシャラ達は首を傾げる。

普通ならとっくに命乞いをしてもいいどころか死んでいてもおかしくないほどメイスで叩きつけたのにミクロは倒れなかった。

両足でしっかりと立ち、目をシャラ達から逸らさらなかった。

「………」

そんなミクロにシャラは首を傾げながらメイスを指先で器用に回す。

そしてあることに閃いた。

「にゃ~るほど。ミクロの場合はこっちの方が壊しがいがありそうニャ」

笑みを浮かばせてリュー達に歩み寄るシャラ。

リュー達を壊してその後でミクロを完膚なきまでに壊そうと考えていた。

そのシャラにミクロは言った。

「………情けないな」

「にゃに?」

その言葉を聞いたシャラはピタリと歩むのを止めた。

「抵抗しない俺を壊すことも出来ないなんて情けない以外なんて言えばいい?」

挑発的な言葉を述べるミクロにシャラは頭がおかしくなったのかと思ったがそれは違うとすぐに断言できた。

あのへレス団長とシャルロット副団長の子供がそう簡単に壊れたりはしない。

二人の実力が嫌という程知っているシャラはミクロが何かを狙っていると推測した。

瀕死の状態で立っている、生きているだけで精一杯のミクロにいったい何ができるのか?

いや、出来たとしてもミクロよりLv.が上の自分が倒されるとは思えなかった。

「面白いニャ」

人質を取られて、自身の身も瀕死の状態で何ができるのか?

その好奇心に擽られてシャラはミクロに止めをさすことにした。

団長からは殺すなと言われていない。

なら、(ころ)しても問題はない。

そう決まったシャラはミクロの前に足を止めてメイスを大きく振り上げる。

「最後の言葉ぐらいは聞いてあげるニャ」

その言葉にミクロは甘んじて言った。

「リュー。皆を頼む……」

グシャという鈍い音が周囲に響き渡る。

「―――――っ!!」

頭から血を噴き出してゆっくりと後ろに倒れていくミクロにリュー達は言葉にならない絶叫を上げた。

ゆっくりと倒れていくミクロにシャラは満足そうに笑っていた。

「動くな」

その隙をミクロは逃さなかった。

「っ!?」

ミクロは『フォボス』を使って暗示を掛けた。

シャラでもなく、セツラでもないリューを拘束している冒険者に向かって。

ミクロはシャラのメイスを喰らいながらずっとそれを狙っていた。

止めの瞬間、誰の視線もミクロに釘付けになる。

それを利用してミクロは『フォボス』を使って油断しているリューを拘束している冒険者に暗示を掛けた。

『リュー。皆を頼む……』

リューは瞬時に理解した。

その言葉遺言ではなく、この状況を打破するための伏線だと。

拘束を逃れたリューは自身とリュコス達を拘束している冒険者達を瞬く間に倒して疾風如き速さでシャラに接近する。

「よくも……!」

怒りで顔を歪ませるリューは小太刀を抜刀してシャラに斬りかかる。

「よくも、ミクロをッ!!」

「ニャ!?」

咄嗟にメイスで防御するシャラだが怒涛とも言えるリューの攻撃に防戦を強いられる。

「ァァアアアアアアアアアッ!」

「ッ!?」

感情を爆発させてメイスごとシャラを切り裂いた。

「う、そにゃ……」

体から血を噴き出して倒れるシャラ。

「ミクロッ!?」

切り裂きたと同時にリューはミクロの元に駆け付け詠唱を唱える。

「【今は遠き森の歌。懐かしき生命の調べ。汝を求めし者に、どうか癒しの慈悲を】」

詠唱を唱え終えて回復魔法を発動させる。

「【ノア・ヒール】」

木漏れ日に似た暖光がミクロを包み込む。

駆け付けるティヒア達も持っている回復薬(ポーション)全てミクロにかける。

「無駄ですよ。いくら傷を塞いでも血を失いすぎている。回復薬(ポーション)やその回復魔法でも血までは元には戻りませんからね。最もすでに息を絶えているでしょうが」

「殺すッ!」

淡々と現実を突き付けるセツラにリュコスは殺意と憎しみを込めて攻撃する。

「ミクロ君は自分を犠牲としてこちらの一瞬の油断を利用し、仲間を信じて自身の全てを賭けた。シャラは貴方方の信頼関係を壊すことは出来なかったようですね」

リュコスの攻撃を回避しながら自身の全てを賭けたミクロに一驚する。

高い計算能力と冷静な判断能力、仲間との強い信頼。

それの一つでも欠けていたらミクロを含めてリュー達もここで絶命していた。

目を開けず息をしていないミクロ。

「ミクロ……お願いです、お願いですから目を」

「お願い。死なないで……」

「ミクロ……」

「団長……」

「ミクロ団長……」

涙を流しながらも今も回復魔法をかけるリュー。

ミクロの手を握って涙を流すティヒアとパルフェ。

涙を流しミクロから視線を外すスィーラ達。

「アアアアアアアアアアアアッッ!!」

感情をむき出しにして傷を負おうが構わずにセツラに攻撃を続けるリュコス。

ミクロの死に誰もが悲しみ、嘆き、怒り、後悔する。

その時だった。

ミクロの体に魔法円(マジックサークル)に似た魔法陣が出現したのは。

「あれは……ッ!」

その魔法陣にいち早く気づいたセツラの表情から驚きを隠せない。

「これは……」

白く光り輝く魔法陣。

驚愕と困惑のなかで突如発生した魔法陣。

だが、その魔法陣はすぐに消え去った。

まるで役目を終わらしたかのように。

「けふ」

「ミクロッ!?」

せき込み、目を開けるミクロに歓喜の声をあげて抱き着くリュー達。

「生きてる……?」

「はい、生きてます……」

「よかった……本当によかった……」

ミクロが生きていることに歓喜するリュー達。

遠くからミクロが生きていることに涙を拭うリュコス。

「ああ、なるほど……やはり、シャルロット。貴女はもう……」

哀し気に呟くセツラは先ほどの魔法陣を見てある事実に気が付いた。

「ミクロ君」

ミクロに歩み寄るセツラにリュー達はミクロを庇うように立ちセツラを睨む。

「リュー、皆。どいてくれ」

「ミクロ。ですが」

「団長命令」

こんな時に団長命令を出すミクロに一言何か言いたかったがその前にミクロがセツラの前に立つ。

「ミクロ君。私と戦いなさい。ミクロ君と私の一騎打ちです」

「わかった」

「私は全身全霊でミクロ君を(ころ)します。だから貴方も私を(ころ)す気で戦いなさい」

「わかった」

既に発動している黒い槍をミクロの前に突き出すとミクロもそれに応えるようにナイフを前に突き出す。

「では」

「勝負」

カン。と黒い槍とナイフを軽くぶつけ合って二人は再びぶつかり合う。

迫ってくるセツラにミクロは眼帯を取り外して(ホルスター)から魔道具(マジックアイテム)を取り出す。

神聖文字(ヒエログリフ)で『E』と刻まれている眼球のような魔道具(マジックアイテム)を今はない左目に装着する。

そして、襲いかかってくるセツラの黒い槍を全て迎撃する。

「それがミクロ君のとっておきですか!?」

「答える義理はない」

ミクロが自分用に作製した魔道具(マジックアイテム)『シリーズ・クローツ』。

『ヴェロス』『スキアー』より繊細で時間をかけたミクロのとっておき。

今ミクロが装着しているのは相手の視界を盗み見ることが出来る『シリーズ・クローツ』の一つ。

相手の視点から物事を見ることでどこを狙っているのか瞬時に把握できることによりミクロはセツラの攻撃を防ぎ、時には反撃する。

「【駆け翔べ】」

だけど、それだけでは足りない。

セツラに勝つには今の自分の限界を超えなければならない。

「【フルフォース】」

ミクロは切り札である魔法を発動させる。

白緑色の風を纏ったミクロはセツラと対峙する。

「ぐっ」

白緑色の風を纏ったミクロの攻撃を防ぐがその風までは防ぐことが出来ず傷ができる。

「ハッ!」

だけど、セツラは構わずにミクロの風の中に駆ける。

「シャルロット!貴女の子供はしっかりと貴方の血を、才能を受け継いでいる!ミクロ君!君も母親に感謝するべきだ!」

突然の意味深の言葉に疑問を抱くミクロだが構わずに攻撃を続ける。

「先ほどの魔法陣はシャルロットの魔法ですよ!シャルロットのみが使える代償魔法!そのおかげでミクロ君、貴方は生きているのですから!」

その時、セツラの首にかけていたブローチがミクロに風に斬り飛ばされてリューはそれを掴んで中身を見た。

そこには一人の美しい女性が描かれていた。

「まさか……」

リューは気付いた。

セツラがミクロの前に現れた本当の理由に。

だけど、今の二人の戦いに介入することは出来ない。

見守ることしかできなかった。

「行きますよ!」

セツラは大きく後退して黒い槍を消して最後の切り札を出す。

「【我が願いは叶わずとも我が想いは消えず今も熱く燃え上がり、決して消えない覚悟となって今もあり続ける】!」

魔法を唱えた。

「【我が望みは既に壊れている。だが、我が想いだけは何人たりとも壊させはしない】!」

「【駆け翔べ】」

ミクロはもう一度詠唱を唱えて再び白緑風を纏う。

「全開放」

相手の気持ちに応えるように体中からかき集めた精神力(マインド)を魔法に集中させる。

「【不滅を慕う我が覚悟を受け止めよ】!」

詠唱を終えたセツラはその魔法に全ての精神力(マインド)を捧げた。

ミクロは背後にある岩盤に着壁。

白緑色の風をナイフと梅椿、脚に纏わせる。

かつてゴライアスの体さえ貫いたその魔法にアグライアが名を与えた。

『そんなに凄い技なら名を決めないとね』

「アルグ・フルウィンド」

「【プロミネンスへヴァ―】!」

主神が名付けた必殺技を唱えてミクロは閃光のように速くセツラに突貫する。

だが、それと同時にセツラは魔法を放った。

拳から放たれる触れたものを全て焼き払う弩級の炎の砲弾。

人一人などあっさりと収まる大きさの炎の砲弾と閃光となったミクロはぶつかり合う。

ぶつかり合う閃光と砲弾。

二人の魔法の余波にリュー達は近づくことさえ許さない。

「ミクロ……」

「勝って!」

心配するリューの隣でティヒアが叫んだ。

「勝ちな!あたしらの団長だろう!」

「勝って、ミクロ!」

「団長!勝ってください!」

「団長!頑張って!」

ティヒアに続いてリュコス達も戦っているミクロに声援の言葉を送る。

仲間の声を聞いたリューもミクロの勝利を願う。

「ぬぐ……ハァァアアアアアアアアアア!!」

セツラは更に魔法の威力を上げる。

体中にある精神力(マインド)を一滴残らず魔法に注ぎ込む。

そして、ミクロの閃光は炎の砲弾に呑み込まれた。

「はぁ……はぁ……」

閃光を呑み込んだ炎の砲弾はそのまま真っ直ぐ突き進み自然消滅。

そして、辺り広がる眼前にミクロの姿はなかった。

「終わりだ」

「っ!?」

セツラの背後から現れたミクロはナイフでセツラを突き刺す。

「な、なぜ……」

背後から現れたことには驚かない。

ミクロが身に着けている『スキアー』を使えば影に移動してセツラの背後に現れることは知っている。

だが、平らな地面に影など存在しない。

それも魔法を使用しているなかでどうやって移動したのか。

「ああ、そういうことですか」

セツラは気付いた。

魔法を放った直線状には一つの穴が空いていることに。

打ち上げた時にミクロが『ヴェロス』で放った矢の砲弾の一撃。

そこには穴があり、影が存在していた。

「必殺技を囮にするとは……その発想力はやはりシャルロットに似ている」

ミクロは『ヴェロス』で放った一撃に出来た穴にある影を利用して背後から奇襲を仕掛ける為に必殺技を囮にした。

魔法がぶつかり合う場所がその穴の上に行くように計算してセツラの魔法の威力が高まったと同時に魔法を解き、影に入ってセツラを刺した。

ナイフを抜いて前のめりに倒れるセツラ。

致命傷を刺されたセツラは自身の敗北を認めて微笑んだ。

「やっと、終われるのですね……」

「………」

ミクロは途中から気付いていた。

セツラは既に壊れている、いや、壊されることを望んでいることに。

わざわざ一対一で戦うより始めからシャラ達と一緒に戦っていればまだ勝てる勝率が高かったにも関わらずセツラはミクロと対戦する時以外何もしてこなかった。

人質を取っている時も。

シャラがミクロを痛めつけている時も。

リュコスが攻撃している時も。

セツラは何もしてこなかった。

ゆっくりと上がる腕が弱弱しくも真っ直ぐミクロに向かって伸びる。

「ああ、シャルロット……私は」

そこで言葉が止まり、伸びた腕は落ちて目の光は完全に消えた。

「………」

ミクロは何も言わずセツラを抱える。

「遠征は中止。ひとまず18階層で休息を取る」

それだけを告げてミクロは18階層に向かって足を運ぶ。

リュー達も何も言わずにただ黙ってついて行く。

「………」

リューは手に持っているブローチを握りしめる。

ミクロを救ったのはミクロの母親であるシャルロット。

そのシャルロットを慕ってミクロに戦いに挑んだセツラ。

いったいミクロの背中にはどれだけのものを背負っているのか。

その考えばかりが頭を動かさせる。

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