路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

37 / 202
第37話

覗きを行った男性団員達には一ヶ月の雑用という罰を受けるようになって話は終わった。

リュー達のいったい何を覗いたのか結局理解できないミクロだったがリューを始めとした女性団員達はミクロはそのままでいいと真剣な表情で言われたためミクロはそれに頷いた。

『遠征』が終わって今日一日はダンジョンに潜らずずっと本拠(ホーム)でゆっくりと過ごすことにしている。

魔石の換金及びドロップアイテムの交渉はセシシャが既に数人の団員を連れて商人や商業系の【ファミリア】に交渉に向かっている。

どれだけこちらに利益が増えるかという不安はミクロにはない。

セシシャなら何とかすると信じているから。

ミクロは自室で『遠征』に持って行った魔道具(マジックアイテム)の点検と可能な限りの改善を行う。

次の『遠征』の事も考えて今からでもそれを行わなければ間に合わない。

魔道具(マジックアイテム)に関してはミクロにしか作製できないのだから。

透明化できるローブも気配は消せるようにはなるが、視線だけはどうしても難しい。

リューのような第一級冒険者や感覚が鋭い者なら視線だけで存在を察することが出来る。

難しいと思いつつミクロは手を動かす。

半日かけてミクロは『遠征』に持って行った魔道具(マジックアイテム)の点検を終えて次に向けての改善を用紙にまとめて一休憩取ることにした。

「何をしよう」

そう呟くミクロ。

試作段階の魔道具(マジックアイテム)の改善は後でやるとしてこの後何もすることがない。

特に思いつかなかったミクロは中庭に行って鍛錬でもしようと思い足を動かす。

「ほら、そこがまだ汚れてる!」

「キリキリ働きなさい!」

「うぅ、はい……」

中庭に向かう途中で女性団員達に叱られながら掃除している覗きをした男性団員達。

「俺も手伝おうか?」

何もすることがなく手伝おうと思い団員達に声をかけた。

「いえいえ!団長がする必要はありません!」

「でも、魔道具(マジックアイテム)を貸した俺にも少しは責任が」

「ありません!全部こいつらが悪いのですから!団長はゆっくりしていてください!」

だけど、遠慮されて丁重にその場から離される。

「………」

何かをしないと落ち着かない気持ちがある。

何かをしようにも今日するべきごとは魔道具(マジックアイテム)の改善とセシシャの交渉の結果を聞くことだけ。

「あら、ミクロ」

「アグライア」

本拠(ホーム)内を適当に歩いているとアグライアに遭遇した。

アグライアはミクロの表情を見てすぐに察して微笑む。

「私と散歩でもしましょう」

「わかった」

差し伸ばされた手を握って二人は本拠(ホーム)を出た。

「それにしても本当に変わったわね、ここも」

「皆が住めれるようになった」

結成当時は物置部屋のような本拠(ホーム)が今となっては城のように立派になった。

感慨深く頷くアグライアにミクロも同様の意見を述べる。

街中を適当に歩きながらアグライアはミクロに話しかける。

「ミクロも今となっては団長ね。本当に立派になったわ」

「皆のおかげ」

そう答えるミクロにアグライアは苦笑する。

「貴方自身も頑張っているってことよ。私から見ても貴方は本当に立派よ」

立派と言われても自覚がないミクロはただ首を傾げるだけ。

その反応にアグライアは微笑みミクロの手を引っ張る。

「今日は私に付き合って貰うわ」

「わかった」

アグライアの言葉に素直に返事をするミクロは色々な場所に連れて行かされた。

衣服、食事、遊びなど娯楽とは疎遠なミクロにとっては何が楽しいのかわからなかった。

だけど、自分の隣で笑っているアグライアを見て楽しいのだろうと思えた。

「ふぅ、久しぶりに遊んだわ」

やりきったと言いたげなアグライアの顔は満足そうだった。

満足げに歩いているとジャガ丸くんを売っている露店を見つけた。

「塩味二ついただける?」

塩味のジャガ丸くんを買ってそれをミクロに渡すとアグライアは早速それを食べ始める。

アグライアは神だ。

その力は今は封じてはいるがこうして美味しそうにジャガ丸くんを食べている姿は本当に人間らしいとミクロは思った。

「食べないの?」

「食べる」

ジャガ丸くんに噛り付くミクロにアグライアは微笑みながら言う。

「美味しい?」

「塩味が濃い」

「あらあら」

中々辛口なコメントに苦笑した。

だけどミクロらしいと思いつつ自分もまた一齧り。

それからも二人は街中を歩きだすとアグライアはミクロに尋ねた。

「ミクロは今は楽しい?」

あまりの唐突の言葉にミクロは即答できなかった。

「私は今も楽しいわ。ミクロと出会えたおかげでね」

「俺もアグライアと出会えてよかった」

「ありがとう。ねぇ、ミクロ。覚えている?私が何の為に下界に降りてきた理由」

「この世界を堪能する為」

そうね、と答えるアグライアはミクロに新しくできたもう一つの夢を話した。

「でもね、今はもう一つ貴方の未来が見たい」

「俺の?」

「ええ、貴方が本当の家族を作って子供を育てて暖かく過ごせられる。そんな未来を見てみたいの」

成長するミクロを見てアグライアはこの先のミクロの人生も見てみたくなった。

家族を作って笑っているミクロの成長を。

未来のミクロの隣には誰がいるのかも密かに楽しみにしているのは内緒。

「………」

だけど、ミクロはアグライアの言葉に頷くことが出来なかった。

父親であるへレスはオラリオを破壊しようとしていた【ファミリア】の団長。

今も要注意人物(ブラックリスト)に載っている言わば犯罪者。

母親のシャルロットはミクロを救う為に命を捧げた。

それがミクロの家族とよべる存在。

「俺は今のままがいい」

仲間として【ファミリア】の家族として今のままで生活する方がいい。

そうすれば自分のような存在は現れない。

それが一番良い選択だとミクロは思った。

そんなミクロをアグライアは抱き寄せる。

「ミクロ。下界の子供は成長するの。不変である神々(わたしたち)とは違って喜びも苦しみも成長と共に乗り越えていく。一人では耐え切れないときは周りを頼りなさい」

「…………」

「皆、きっと貴方を受け入れてくれる。何者であろうともきっとね」

「……うん」

返答するミクロの頭を撫でて手を繋ぎ本拠(ホーム)に帰還する。

「あら、ミクロ、それに主神様もお帰りなさいませ」

「ただいま」

「ええ、ただいま」

本拠(ホーム)に入るとセシシャが交渉から帰ってきていた。

「ミクロ。貴方が渡してくださいました魔道具(マジックアイテム)は二〇万ヴァリスで売ることが出来ましたわ」

ミクロが前に渡した義眼の魔道具(マジックアイテム)『シリーズ・クローツ』。

目が見えるようになるだけの何の能力もない魔道具(マジックアイテム)が二〇万ヴァリスで商人との話がついた。

「取りあえずは売上を把握した上で今後も交渉に使う予定ではありますがいかがないます?」

「それで。可能なら値上げできるように頼む」

「承知致しましたわ。はい、これが今日の結果とそれとギルドから一通の封書を預かりましたわ」

「ありがとう」

ギルドからの封書。

何だろうと思いミクロはその場で封蠟を剥がして中を確認した。

 

『これは極秘強制任務(ミッション)である。【ファミリア】の主戦力は数日以内に24階層にある北の食糧庫(パントリー)に向かえ』

 

強制任務(ミッション)』。

ギルドから発令する絶対命令。オラリオに所属する【ファミリア】と冒険者はこれに必ず従わなければならない。

その『強制任務(ミッション)』がミクロ達に下された。

「………」

そして、アグライアも横からその内容を見てすぐに察した。

「借りを返せということね」

アグライアは静かにそう呟いた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。