覗きを行った男性団員達には一ヶ月の雑用という罰を受けるようになって話は終わった。
リュー達のいったい何を覗いたのか結局理解できないミクロだったがリューを始めとした女性団員達はミクロはそのままでいいと真剣な表情で言われたためミクロはそれに頷いた。
『遠征』が終わって今日一日はダンジョンに潜らずずっと
魔石の換金及びドロップアイテムの交渉はセシシャが既に数人の団員を連れて商人や商業系の【ファミリア】に交渉に向かっている。
どれだけこちらに利益が増えるかという不安はミクロにはない。
セシシャなら何とかすると信じているから。
ミクロは自室で『遠征』に持って行った
次の『遠征』の事も考えて今からでもそれを行わなければ間に合わない。
透明化できるローブも気配は消せるようにはなるが、視線だけはどうしても難しい。
リューのような第一級冒険者や感覚が鋭い者なら視線だけで存在を察することが出来る。
難しいと思いつつミクロは手を動かす。
半日かけてミクロは『遠征』に持って行った
「何をしよう」
そう呟くミクロ。
試作段階の
特に思いつかなかったミクロは中庭に行って鍛錬でもしようと思い足を動かす。
「ほら、そこがまだ汚れてる!」
「キリキリ働きなさい!」
「うぅ、はい……」
中庭に向かう途中で女性団員達に叱られながら掃除している覗きをした男性団員達。
「俺も手伝おうか?」
何もすることがなく手伝おうと思い団員達に声をかけた。
「いえいえ!団長がする必要はありません!」
「でも、
「ありません!全部こいつらが悪いのですから!団長はゆっくりしていてください!」
だけど、遠慮されて丁重にその場から離される。
「………」
何かをしないと落ち着かない気持ちがある。
何かをしようにも今日するべきごとは
「あら、ミクロ」
「アグライア」
アグライアはミクロの表情を見てすぐに察して微笑む。
「私と散歩でもしましょう」
「わかった」
差し伸ばされた手を握って二人は
「それにしても本当に変わったわね、ここも」
「皆が住めれるようになった」
結成当時は物置部屋のような
感慨深く頷くアグライアにミクロも同様の意見を述べる。
街中を適当に歩きながらアグライアはミクロに話しかける。
「ミクロも今となっては団長ね。本当に立派になったわ」
「皆のおかげ」
そう答えるミクロにアグライアは苦笑する。
「貴方自身も頑張っているってことよ。私から見ても貴方は本当に立派よ」
立派と言われても自覚がないミクロはただ首を傾げるだけ。
その反応にアグライアは微笑みミクロの手を引っ張る。
「今日は私に付き合って貰うわ」
「わかった」
アグライアの言葉に素直に返事をするミクロは色々な場所に連れて行かされた。
衣服、食事、遊びなど娯楽とは疎遠なミクロにとっては何が楽しいのかわからなかった。
だけど、自分の隣で笑っているアグライアを見て楽しいのだろうと思えた。
「ふぅ、久しぶりに遊んだわ」
やりきったと言いたげなアグライアの顔は満足そうだった。
満足げに歩いているとジャガ丸くんを売っている露店を見つけた。
「塩味二ついただける?」
塩味のジャガ丸くんを買ってそれをミクロに渡すとアグライアは早速それを食べ始める。
アグライアは神だ。
その力は今は封じてはいるがこうして美味しそうにジャガ丸くんを食べている姿は本当に人間らしいとミクロは思った。
「食べないの?」
「食べる」
ジャガ丸くんに噛り付くミクロにアグライアは微笑みながら言う。
「美味しい?」
「塩味が濃い」
「あらあら」
中々辛口なコメントに苦笑した。
だけどミクロらしいと思いつつ自分もまた一齧り。
それからも二人は街中を歩きだすとアグライアはミクロに尋ねた。
「ミクロは今は楽しい?」
あまりの唐突の言葉にミクロは即答できなかった。
「私は今も楽しいわ。ミクロと出会えたおかげでね」
「俺もアグライアと出会えてよかった」
「ありがとう。ねぇ、ミクロ。覚えている?私が何の為に下界に降りてきた理由」
「この世界を堪能する為」
そうね、と答えるアグライアはミクロに新しくできたもう一つの夢を話した。
「でもね、今はもう一つ貴方の未来が見たい」
「俺の?」
「ええ、貴方が本当の家族を作って子供を育てて暖かく過ごせられる。そんな未来を見てみたいの」
成長するミクロを見てアグライアはこの先のミクロの人生も見てみたくなった。
家族を作って笑っているミクロの成長を。
未来のミクロの隣には誰がいるのかも密かに楽しみにしているのは内緒。
「………」
だけど、ミクロはアグライアの言葉に頷くことが出来なかった。
父親であるへレスはオラリオを破壊しようとしていた【ファミリア】の団長。
今も
母親のシャルロットはミクロを救う為に命を捧げた。
それがミクロの家族とよべる存在。
「俺は今のままがいい」
仲間として【ファミリア】の家族として今のままで生活する方がいい。
そうすれば自分のような存在は現れない。
それが一番良い選択だとミクロは思った。
そんなミクロをアグライアは抱き寄せる。
「ミクロ。下界の子供は成長するの。不変である
「…………」
「皆、きっと貴方を受け入れてくれる。何者であろうともきっとね」
「……うん」
返答するミクロの頭を撫でて手を繋ぎ
「あら、ミクロ、それに主神様もお帰りなさいませ」
「ただいま」
「ええ、ただいま」
「ミクロ。貴方が渡してくださいました
ミクロが前に渡した義眼の
目が見えるようになるだけの何の能力もない
「取りあえずは売上を把握した上で今後も交渉に使う予定ではありますがいかがないます?」
「それで。可能なら値上げできるように頼む」
「承知致しましたわ。はい、これが今日の結果とそれとギルドから一通の封書を預かりましたわ」
「ありがとう」
ギルドからの封書。
何だろうと思いミクロはその場で封蠟を剥がして中を確認した。
『これは極秘
『
ギルドから発令する絶対命令。オラリオに所属する【ファミリア】と冒険者はこれに必ず従わなければならない。
その『
「………」
そして、アグライアも横からその内容を見てすぐに察した。
「借りを返せということね」
アグライアは静かにそう呟いた。