路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第38話

ギルドから突如言い渡された『強制任務(ミッション)』に従いミクロ達はギルドからの封書が来た翌日には封書に記されていた24階層の北の食糧庫(パントリー)を目指していた。

「それにしてもおかしな依頼ね」

ミクロ達は23階層まで足を運んでいてモンスターとの戦闘が終えて一休憩を取っているとティヒアがギルドからの封書を再度読んでそう呟く。

「確かに。討伐でも採取でもないただ向かうだけ、それも極秘だなんて」

パルフェも同様に首を傾げる。

「あたし達が考えても仕方ないさ、行ってみたらいいだけさ」

特に深く考えず休憩を取るリュコス。

「問題はギルドが何故私達に強制任務(ミッション)を申し込んだか」

【アグライア・ファミリア】の等級(ランク)はB。

強制任務(ミッション)』はダンジョンでの異常事態(イレギュラー)処理や強力なモンスター討伐など少なくとも上位の派閥の冒険者に言い渡されるもの。

いくら名をあげたからといえど『強制任務(ミッション)』それも極秘が何故自分達に言い渡されるようになったのかその理由がわからなかった。

「ミクロはどう思いますか?」

「わからない。でも、行ってみればわかる」

尋ねたリューは返答するミクロの様子がおかしいことに気付いた。

「そろそろ行こう」

様子を尋ねようと思ったがその前にミクロが立ち上がって全員に進むように進言する。

全員が休憩を終わらせて24階層にある北の食糧庫(パントリー)を目指して足を動かす。

向かい度に襲いかかってくるモンスターだが、既に30階層まで足を運び魔道具(マジックアイテム)も常備しているミクロ達の敵ではなかった。

モンスターを倒しながら24階層に到達して目的地点である北の食糧庫(パントリー)を目指す。

「そろそろ目的地点に到着する。全員いつでも迎撃準備」

ミクロの言葉に頷いて返答して前へ進むと赤い光が見えてきた。

それが石英(クォーツ)のものだとすぐに判明して奥へ進もうとした瞬間ミクロは足を止めてリュー達に制止の合図を出す。

「誰だ?」

ミクロは自分達の前に何かがいることに気付いた。

『……気付かれてしまうか』

その声と同時に浮かび上がる漆黒の影。

黒ずくめのローブを全身に纏った謎の人物。

両手には複雑な紋様の手袋(グローブ)をはめており肌の露出が一切ない。

性別もわからないその存在にミクロは黒ずくめの男が身に着けているローブと手袋(グローブ)に注視する。

「そのローブと手袋(グローブ)魔道具(マジックアイテム)……魔術師(メイジ)?」

魔道具(マジックアイテム)を作製できるミクロはすぐに黒ずくめが身に着けている物が魔道具(マジックアイテム)だと気づいた。

「その通り。私はしがない魔術師(メイジ)さ。それと出来れば警戒を解いて欲しい。君達に危害を加えるつもりはない」

「全員取りあえず警戒を解いて」

敵意がないことにミクロは一応は警戒を解く。

万が一に何かしたとしてもミクロなら一瞬で対処できる。

「すまない。まずは名乗ろう私はフェルズ。今はウラノスの雑用役をやっている」

「ウラノス……っ!?」

ウラノス。

その言葉にリュー達は目を見開き驚愕する。

「君達に指令を出した神の使いとして私が、いや、私個人の意思も含めてここにやってきた」

「それでいったい何の用があって俺達を呼んだ?」

淡々と目的を告げろと言うミクロにフェルズは手を前に出す。

「その前に私の話を聞いて欲しい。ミクロ・イヤロス」

フェルズはフードを手袋(グローブ)で掴み取り、剥ぎ取った。

「―――――――――――」

そこでリュー達の時が止まる。

何故ならフェルズは白骨の髑髏であったからだ。

「『スパルトイ』!?」

『深層』に棲息する骸骨のモンスター『スパルトイ』と思い声をあげるリューだがフェルズは緩慢な動きで顔を横に振った。

「生憎モンスターではない。私は元人間、『賢者』と呼ばれていた者だ」

『賢者』。

彼の魔法大国(アルテナ)で永遠の命を発現する魔道具(マジックアイテム)『賢者の石』の生成者。

だが、その『賢者の石』を主神に床に叩きつけられて破壊されたフェルズは無限の知識を求めるあまり永遠の命に執着し、不死の秘法を編み出した。

しかし、その反動で肉と皮は腐り落ち、骸骨のような姿になってしまった。

故に『愚者(フェルズ)』と名乗っている。

「お前の話はわかった。だけど、何故俺達にそれを話した?」

正体を明かしたフェルズの前にミクロは変わらず問いかける。

「これからの事に対して前もって知って欲しかった。味方となってくれるかもしれない君達に」

「ギルド、ウラノスの味方?」

「そうとも言えるがその説明の前に私はどうしても君に謝らなければいけない」

「俺に?」

初対面の相手に謝罪されるような覚えはミクロにはない。

あるとすればそれは一つだけ。

「【シヴァ・ファミリア】の関係者なのか?」

「正確にはシャルロット・イヤロスの友人だ。ミクロ・イヤロス。今から話すことをどうか最後まで聞いて欲しい。その後で私を好きにしてくれても構わない」

「わかった」

真意あるその言葉にミクロはフェルズの話を聞くことにした。

フェルズはフードを被り直して話した。

「君の母親、シャルロット・イヤロスを殺したのは私だ」

あまりの率直の言葉にミクロ達は驚愕に包まれる。

「数十年前。私は偶然彼女と遭遇した」

フェルズは語った。

自分とミクロの母親、シャルロット・イヤロスとの出会いから。

フェルズはウラノスに拾われてウラノスの下で働いている時に偶然にもシャルロットと遭遇した。

『貴方が幽霊(ゴースト)?』

怖気づくもなく平然と話しかけてきたことを今でも覚えている。

正体を晒してもシャルロットは怯えるどころか逆に興味を示してフェルズの体を触りまくったこともしっかりと覚えている。

忘れもしない彼女(シャルロット)の笑顔を。

「こんな姿になった私を彼女は当たり前のように受け入れてくれた」

それからもフェルズはシャルロットと出会っては魔法や魔道具(マジックアイテム)の事について語り合った。

「彼女は君と同じ『神秘』のアビリティと『魔導』のアビリティを発現していた。そのおかげか彼女との話が良く弾んだ」

【シヴァ・ファミリア】所属シャルロット・イヤロス。

不滅の魔女(エオニオ・ウィッチ)】という二つ名を持つLv.6の冒険者。

魔術師(メイジ)であり、魔道具(マジックアイテム)作製者であるシャルロットの実力は本物だった。

常識に囚われない発想力、類稀な才能を持つ天才。

『賢者』と呼ばれたフェルズでさえ思いもよらない考えをもつシャルロットに驚かされるばかりであった。

「これがその一つだ」

フェルズが取り出したのは一つの水晶。

「これは溜めた魔力の分だけ強力な結界を展開することが出来る。彼女の作品だ」

そうミクロ達に説明してフェルズは話を続けた。

シャルロットとの関係が続く中でシャルロットは一人の男の子を身ごもった。

「その男の子は……」

「ああ、シャルロットのお腹の中にいたのはミクロ・イヤロス。君だ」

リューの言葉に肯定して答えるフェルズ。

「当時の私は素直に彼女を祝福した」

おめでとうとフェルズはシャルロットにそう告げるとシャルロットは嬉しそうにありがとうと礼を言った。

それから数ヶ月後、一人の男の子ミクロが産まれた。

だけど、【ファミリア】の主神シヴァがミクロに自身の血を与えて死にかけたところをシャルロットは代償魔法を使用してミクロを助けた。

その代わりにシャルロットは体が弱くなり、動くには車椅子が必要になるほど病弱になってしまった。

フェルズはそんな彼女を何とかしようとしたがシャルロットはそれを頑なに拒んだ。

自分より愛する我が子を守れた。

それが嬉しいとシャルロットは言った。

誇らしげに言うシャルロットにフェルズは何も言えなかった。

それからもフェルズは何度も彼女の部屋を訪れた。

赤ん坊だったミクロに近づくと大泣きされたことが少しショックだった。

だけど、微笑ましく笑うシャルロットが見れるのなら悪くないと思えた。

「俺は赤ん坊の頃にお前と会っていたのか?」

「ああ、君が私の事を覚えていないのも無理はない」

既に出会っていたミクロとフェルズ。

なるほどと思いながら話に耳を傾ける。

それからもフェルズは何度もシャルロットに会いに行った。

シャルロットと話をしつつミクロの成長を見守る。

そんな生活を送り始めて数年後、ある変化が訪れた。

『フェルズ。貴方に頼みたいことがるの』

初めての頼まれごとにフェルズは快くそれを承諾した。

だが、その内容はあまりにも酷なものであった。

「オラリオの破壊」

「君の言う通りだ」

【シヴァ・ファミリア】がオラリオを破壊するべく計画を練っていた。

その計画を知ったシャルロットはそれをギルドに報告する、いや、【シヴァ・ファミリア】を解体させてほしいとフェルズに懇願した。

団長であるへレスを始めとして団員の殆どが手の付けられない程破壊に悦びを覚えてしまった。

【ファミリア】を解体させる以外の方法はなかった。

『わかった』

フェルズはシャルロットの意志を尊重する為にもそれをウラノスに知らせてゼウス・ヘラの【ファミリア】に【シヴァ・ファミリア】の団員を捕らえるように『強制任務(ミッション)』を発生させた。

シャルロットも同じ【シヴァ・ファミリア】の一員。それも副団長。

それ何の処罰は覚悟しているだろうが、フェルズはシャルロットとミクロだけでも逃がそうと考えていた。

シャルロット自身に何の罪もない。子供であるミクロにはまだ親が必要。

二人の為にもフェルズはシャルロットの説得を試みた。

君に罪はないなど、子供であるミクロの為になど様々な言葉を投げたがシャルロットは決して首を縦に振ることはなかった。

だけど、フェルズは諦めなかった。

今日こそはと意気込みシャルロットの部屋へ向かおうとしたがそこにシャルロットとミクロの姿はなかった。

荒らされた部屋を見てシャルロットが計画を公にしたことがバレたと気づき団員に連れて行かれたと察したフェルズはすぐに団員達に捕まっているシャルロットを見つけた。

団員達を倒してフェルズは傷だらけのシャルロットに魔法をかけようとしたがシャルロットがそれを拒んだ。

もう意味がないとシャルロットの言葉にフェルズは気付いた。

ミクロがいないことにそして、シャルロットの命があと僅かなことに。

『代償魔法を使ったのか』

『ええ、私の命を全てミクロに与えた』

笑みを浮かばせながら答えるシャルロットにフェルズは憤りを感じた。

『何故そのようなことを。君の子供はどこにいる?』

『誰にも見つけられないわ。そういう魔道具(マジックアイテム)をミクロに使ったんですもの』

「何故、ミクロの母親はそのようなことを」

「それしかミクロ・イヤロスが生きる方法がなかったからだ」

シヴァに見つかればシヴァはミクロを破壊の限りを尽くす最悪な存在へと仕立て上げる。

そして、そのシヴァの血が流れているミクロをゼウス・ヘラの【ファミリア】に知られたらどうなるかわからない。

最悪の場合殺される可能性もあった。

ミクロを生かす方法は誰にも見つけられずに生きて行く。

その為にシャルロットはミクロに魔道具(マジックアイテム)を使ってミクロを隠した。

絶対に誰にも見つけられないように。

フェルズは悔しかった。

頼ってくれなかったことに、何もできない自分自身に。

そして、シャルロットは息を引き取った。

フェルズは魔法を使おうとしたが、手が途中で止まった。

シャルロットはそれを望んでいないという勝手な解釈で。

「それから私は君を探した。だけど、見つけることは叶わなかった。だけど、君が生きていることを私は知ることが出来た」

「【ディアンケヒト・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)

戦っているミクロを見てフェルズはすぐに気付いた。

ミクロが生きていることに。

だけど、立場上すぐに会いに行くことも出来ず、やっと今になって再開を果たすことが出来た。

「ミクロ・イヤロス。私は自分の勝手な解釈で君の母親であるシャルロットを見殺しにした。私の罪を君に裁いて欲しい」

「断る」

間髪入れずにミクロは言った。

「お前は俺の母親の意志を尊重しただけだ。俺はお前を許す」

即決だったミクロの答えにフェルズは虚空を仰ぐ。

「……ああ、間違いなく君はシャルロットの子だ」

ない瞳があればきっと涙を流していただろう。

『フェルズ……ありがとう』

最後のシャルロットの言葉を思い出す。

何もできなかった自分を許すかのように優しく告げるシャルロットの言葉。

だからこそ、フェルズはミクロにこれだけは伝えなければいけなかった。

「ミクロ・イヤロス。君はずっと一人で辛く、苦しい思いをしてきただろう。だけど、これだけは理解してほしい。シャルロットは今でも君の事を愛している」

『私はこの子を産めてよかった』

愛しくミクロを抱きかかえるシャルロットの表情は本当に幸せそのものだった。

心から本当にミクロの事を愛している。

フェルズのその言葉を聞いてミクロの頬に涙が流れた。

「ミクロ……」

始めて見るミクロの涙にミクロ本人も言われて初めて自分が泣いていることに気付く。

「なんで泣いているんだ?」

自分でも何故泣いているのかわからないミクロは涙を拭う。

だけど、溢れ出てくる涙が止まらなかった。

そんなミクロをリュー達は抱きしめる。

「いいのです。今は素直に泣いてください」

「私達が受け止めるから今は泣いて」

「子供らしいところでもたまにはあたしらに見せな」

「泣いていいんだよ」

涙を流すミクロにリュー達は優しく包み込む。

そんなミクロ達を見てフェルズは呟いた。

「シャルロット。君の子供は良い仲間と出会えているよ」

今は亡きシャルロットにそう呟く。

 


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