路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第39話

ミクロの母親シャルロットの真相を聞いたミクロは自分でも理解できない涙を流した。

そんなミクロをリュー達は優しく包み込み励ます。

ミクロが落ち着きを取り戻したのを見計らってフェルズは声をかける。

「ミクロ・イヤロス。もう大丈夫か?」

「問題ない」

いつもより少し表情が明るくなったような気がするミクロを見てフェルズは何故ミクロ達をここに呼んだのかその本題に入ることにした。

「私について来てくれ」

フェルズに言われるがままについて行くミクロ達。

食糧庫(パントリー)に到着するミクロ達の前には冒険者のように武装しているモンスターの集団がいた。

モンスターを見て反射的に武器を構えるリュー達だがミクロが手で制した。

「大丈夫」

そう言ってミクロは集団の一番前にいるモンスター『リザードマン』の方に足を向ける。

「お、おい」

止めようよするリュコスをリューが止めた。

「彼を信じましょう」

ミクロが何の確証もなしに近づくとは思えない。

だからリューはミクロを信じて見守る。

『リザードマン』の前に歩み寄ったミクロは握手を求めるように手を差しだす。

「よろしく」

モンスター相手にミクロは人間と同じように挨拶すると『リザードマン』は口を大きく開けてミクロに噛みつこうとした。

『!?』

その行動にリュー達は反応するが『リザードマン』の動きはミクロに噛みつく寸前で止まった。

「俺の肉はマズイと思うぞ」

怯えもなく武器を抜くどころか自分の肉はマズイと『リザードマン』に告げる。

「――――――――ァはははははははははははははははははっ!」

その反応に『リザードマン』は人語の響きを持つ笑声を上げる。

「面白え!フェルズ!お前の言う通りだ!」

「そうだろ。彼はシャルロットの息子だからね」

流暢に喋り出す『リザードマン』にフェルズは当然のように答える。

「モンスターが……言葉を」

人語を話す『リザードマン』にリュー達は状況が理解出来ずに唖然としていた。

「オレっちは、リド。見ての通り蜥蜴人(リザードマン)だ」

「よろしく、リド。俺はミクロ」

「おう。『ミクロっち』って呼んでいいか?」

「問題ない」

握手を交わす人間(ミクロ)蜥蜴人(リド)は友人のように言葉を交わす。

「にしてもミクロっち。さっきは何で避けもしなかったんだ?」

「噛みつかないとわかっていたから」

ミクロはリド達を一目見てから通常のモンスターとは違うと断定出来た。

モンスターが冒険者の装備を身に着けているのを見て知性があると踏んだミクロは戦闘ではなく会話を求めているのではないかと推測した。

戦闘ならわざわざ待ちかまえなくても奇襲をするなり方法はある。

何より今回は極秘の『強制任務(ミッション)』。

ウラノスそしてフェルズはミクロ達にリド達を会わせる為に呼んだ可能性が高い。

そして、リド達から敵意は微塵も感じられなかった。

それらを踏まえてミクロはリドは攻撃はしないと判断した。

それからもミクロはリド達の後ろにいるモンスターと握手する。

言葉を話せる者、話せない者もいるなかでミクロは多くのモンスターと握手を交わす。

モンスターと握手を交わすミクロを見てリュー達は茫然とする。

「ね、ねぇ、普通にモンスターと会話しているミクロがおかしいの?それともミクロについて行けていない私達がおかしいの?」

「あたしに聞かないでおくれ」

状況が呑み込めれないティヒアは近くにいたリュコスに声をかけるがリュコスは頭を押さえながらそう答える。

「フェルズ。彼等は何なのですか?」

リューの言葉にフェルズは答えた。

「彼等は『異端児(ゼノス)』。見ての通り知性があるモンスターと思ってくれて構わない」

異端児(ゼノス)』。

正しき系統から弾き出された、異分子。

通常のモンスターより、高い知性を有し、心を持っている怪物(モンスター)

理性を有している『異端児(ゼノス)』は通常のモンスターにさえ襲われる。

「ウラノスはリド達の声に耳を傾け、人とモンスターの融和を図っている」

リド達『異端児(ゼノス)』は人との対話を望み、共存を望んでいる。

「人とモンスターが……」

無理難題もいいところだとリュー達は思った。

人はモンスターを殺す。

モンスターも人を殺す。

少なくともダンジョンはそういうところでモンスターを憎んでいる者は圧倒的に多い。

いや、それ以前に人はモンスターを恐れている。

人にとって『怪物』とは恐怖の対象なのだから。

「君達が考えていることは正しい。だけど、彼がそれを変えてくれるかもしれない」

ない瞳でミクロを見るフェルズ。

何の違和感もなく『怪物』であるリド達と言葉を交わしているミクロを見てフェルズはリュー達に言う。

「私は彼がミクロ・イヤロスが異端児(ゼノス)の希望になって欲しい。そう願っている」

「何故そこまでミクロの事を?」

「彼がシャルロットの子供だからだ」

リューの問いにフェルズはそう答える。

「シャルロットの子供。その可能性に信じた私は間違ってはいなかった」

恐れられることなく差し向けられた手と笑顔。

ミクロを見て昔のことを思い出すフェルズ。

「皆、リド達が宴を開きたいみたいだから団長命令でリュー達も参加」

リド達のところから戻って来たミクロを見てリュー達は呆れるように息を吐いた。

「そうですね、ミクロはミクロでしたね」

フェルズの言葉に出てきた希望。その言葉にリュー達は何となくわかってしまう。

いつだってどこだってミクロはそうだった。

相手が誰であろうとミクロには関係なかった。

その中にモンスターが加わる。ただそれだけの話に過ぎない。

リュー達は観念したかのようにもう一度息を吐いてミクロと共に『異端児(ゼノス)』に歩み寄る。

 

 

 

 

 

 

「じゃあな、ミクロっち。また会おうぜ」

宴を終えたミクロ達は地上に帰還することに決めてミクロとリドは別れの握手を交わす。

「また」

異端児(ゼノス)』と仲が深まったミクロ達は地上に帰還してことの詳細を主神であるアグライアに報告しなければならない。

「ミクロ・イヤロス」

地上に帰還しようとするミクロにフェルズは呼び止める。

「これを君に渡しておこう」

フェルズがミクロに渡したのは一本の白銀色の杖。

装飾が施されている杖をミクロは受け取る。

「これはシャルロットが使っていた魔杖だ」

「俺の母親が……」

手に持っている杖に視線を向けるミクロにフェルズは杖の名前を告げる。

魔法大国(アルテナ)の魔導士が作製した物をフェルズが手を加えた魔杖『アルゴ・マゴス』。

かつてはミクロの母親シャルロットが愛用していた魔杖をフェルズはミクロに託した。

「性能だけなら『至高の五杖(マギア・ヴェンテ)』にも負け劣らない魔杖だ。君が持っていた方がシャルロットも喜ぶだろう」

「いいのか?俺は魔術師(メイジ)でも魔導士でもない」

確かにミクロは魔法も使える。

だけど、専門ではない為実際の魔導士は及ばない。

「素質は充分にある。魔宝石の交換は私が行おう。これからの異端児(ゼノス)と君自身の為にも是非使って欲しい」

それは哀しみの懇願であった。

フェルズはシャルロットもミクロも助けることは出来なかった。

だからこそ今度はシャルロットの子供であるミクロを少しでも助けになれるようにフェイズはミクロに母親の杖を持たせた。

「わかった」

その意志が通じたのかミクロは杖を背中に背負ってリュー達の元へ歩み出す。

その後姿をフェルズは見守るように見つめる。

「いいのか?」

「ああ、彼はもう一人ではない」

リドの言葉にフェルズは頷き、虚空を仰ぐ。

「シャルロット。これでいいのだろう?」

そう呟いてフェルズはその場から姿を消した。

 

 

 

 

地上へ帰還したミクロ達はすぐにアグライアに『異端児(ゼノス)』達の事を報告するが、アグライア本人もウラノスのところに足を運び『異端児(ゼノス)』達の事を把握していた。

異端児(ゼノス)ね……」

アグライアは取りあえずは協力体制を取ることにした。

ミクロ達の報告を受けた今も『異端児(ゼノス)』のことが理解しがたい。

そして、自分以外にもヘルメスとガネーシャが『異端児(ゼノス)』を知り、協力している。

まだまだこれから厄介なことが起きる。

そう予感されるが今はそれは置いておいた。

「………」

帰って来てから杖を大事そうに持っているミクロの表情は明るくなっているような気がするアグライアは尋ねる。

「その杖はどうしたの?」

「フェルズから貰った。俺の母親が使っていた杖らしい」

「そう。大事にしないとね」

ミクロには少々不釣り合いの長い魔杖。

その魔杖の持ち主であったシャルロットに関してもミクロの口から説明を聞いた。

アグライア本人も素晴らしい母親だと思った。

だけど、それと同時に一つの懸念が生まれた。

何故シャルロットは【シヴァ・ファミリア】に所属していたのだろうか?

きっとまだ自分達が知らない真実が隠されている。

「アグライア」

「どうしたの?」

ミクロは魔杖を握りながらアグライアに言った。

「生きていてよかった。そのおかげで俺は母親の事を知ることが出来た」

笑った。

気のせいと思えるぐらい一瞬だったがミクロは確かに笑みを浮かばせていた。

始めて見るミクロの笑みにアグライアはミクロを抱きしめる。

「生きなさい。これからも必ず生きて皆と一緒に帰って来なさい」

「わかった」

抱きしめられながら頷くミクロにアグライアは良かったと思う。

ミクロは愛情を持って産まれてきた。

それが知ることが出来ただけでもミクロに大きな変化が起きた。

 


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