路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十一話

『遠征』当日。

ミクロ達は準備を終わらせて『遠征』に向かう一団(パーティ)中央広場(セントラルパーク)まで移動していた。

『遠征』に向かわない団員達も見送りに来て励ましの言葉などをかけている。

『遠征』の一団(パーティ)にはミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)を持ちながらも緊張と興奮が収まらない。

「これより『遠征』を開始する」

部隊の正面でミクロが言葉を飛ばす。

「今日の遠征の目標到達階層は37階層。皆も知っているが『深層』はより強いモンスターとの戦闘を行う。つまり、命の危険性も上がるということだ」

ミクロの言葉に何人かは緊張のあまり表情を硬くして唾を飲み込む。

【アグライア・ファミリア】の構成員は殆どがLv.1。

Lv.1の自分が『深層』に足を運んで生きて帰れるのだろうかという不安が走る。

「だけど、俺は信じている。お前達は死なないと。必ず誰一人欠けることなく生きて帰ると。それでも死ぬかもしれないという時は俺が全力でお前達を守ると約束する。だからお前達も約束して欲しい。生きて帰ると」

『遠征』に向かう団員達はミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)を強く握りしめる。

緊張しつつもミクロの言葉に安心感が生まれる。

「『遠征』出発」

こうしてミクロ達は新たな階層37階層を目指して『遠征』を開始した。

『遠征』の一団(パーティ)はミクロの後ろに続くように足を動かす。

団長であるミクロが先陣を切ってダンジョンを進む。

襲いかかってくるモンスターはミクロが『ヴェロス』で速攻で倒しながら下へと向かう。

そして、上層から中層まで向かって18階層で一休憩した後でミクロ達は『下層』へ向かう。

「ここからは予定通り隊列を組む」

前衛をリューとリュコス。

中衛をミクロ。

後衛をティヒアやパルフェ達。

いつもならミクロが前衛でリューが中衛だが、今回は目標到達階層だけあって効率を重視して複数の魔法を放つことができ、尚且つ攻守共にこなせるミクロが中衛をすることになった。

『リトス』に収納している魔杖を取り出してミクロ達は下層に足を運ぶ。

19階層を下りて20階層に足を運ぶとミクロは不意にリド達の事を思い出す。

先日、フェルズからリド達『異端児(ゼノス)』は隠れ里の移動を近い内に行うと定期連絡がきた。

ここにいる『遠征』一団(パーティ)全員は『異端児(ゼノス)』達の事を知っている。

もしかしたら会えるかもしれないそう思いつつ足を動かす。

「何か来るよ」

前衛のリュコスの言葉にミクロ達は足を止めて武器を構える。

ミクロも魔杖を構えていつでも詠唱が始められるように準備する。

そして物陰から姿を現したのは見覚えのある赤帽子(レッドキャップ)のゴブリン。

「『異端児(ゼノス)』……!」

傷だらけの赤帽子(レッドキャップ)のゴブリンはリド達と同じ『異端児(ゼノス)』だとすぐにわかったミクロはゴブリンに駆け寄り回復薬(ポーション)を飲ませる。

「ミスター……ミクロ………」

「何があった?」

「冒険者の、襲撃に……21階層に、入った時突然に………」

「21階層だな。わかった。後は俺達に任せてゆっくり休め」

ミクロの言葉にゴブリンは気を失う。

「遠征は中止。これより『異端児(ゼノス)』の救助に向かう」

ミクロの言葉に全員が頷いて『異端児(ゼノス)』達がいるであろう21階層に駆ける。

リド達の無事を願いながらミクロ達は緊急時用に持ってきた『ファントーモ』を身に着けて透明化になる。

極力モンスターとの戦闘を避けて大至急22階層に突入する。

「こっちだ!」

血の匂いを頼りにリュコスが先頭に出てそれに続く。

血の匂いを頼りに足を動かしているとミクロ達の耳にモンスター『異端児(ゼノス)』達の悲鳴が聞こえた。

悲鳴を聞いて急ぐミクロ達はようやく現場に到着した。

そこには血だらけで目の前の人間(ヒューマン)の冒険者と対峙しているリドの姿とその後ろには他の『異端児(ゼノス)』達が身を寄せ合って震えていた。

「どうしたよ?化け物。来ねえのか?」

「はぁはぁ、クソ……」

曲刀(シミター)を握り締めるリドは双眼を血走らせて曲刀(シミター)を振り上げて斬りかかる。

だけど、姿を現したミクロがリドの攻撃を防ぐ。

「ミクロっち……!」

「遅れた」

突如姿を現したミクロに驚くが味方であるミクロが現れたことによりリドは緊張が解けてその場で膝をつく。

「後は俺に任せろ」

「すまねえ……」

リドの代わりに目の前の肌黒の冒険者と対峙するミクロに肌黒の男は笑みを浮かべながら訪ねる。

「ミクロ?お前、へレス団長のガキか?」

「そういうお前は【シヴァ・ファミリア】の団員だな」

シャラ、セツラ同様の【シヴァ・ファミリア】の団員と遭遇したミクロはナイフと梅椿を構える。

「ああ、オレの名はディラだ。デカくなったもんだな」

懐かし気に話すディラだが、ミクロは警戒を緩めずにディラに問いかける。

「何故リド達を攻撃した?」

「はぁ?冒険者が化け物を狩るのは当然だろう?オレにしたらお前こそ何で後ろにいる化け物を庇う?そいつらは人類の敵、死んでも誰も困らねえよ」

ディラの言っていることは正しい。

現にミクロ達も『異端児(ゼノス)』達の存在を知ってからもモンスターを討伐している。

「リド達は戦いよりも会話を求めて人と共存することを望んでいる」

それでもミクロは言葉を続ける。

友達であるリド達の為に。

「人との共存?プ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!出来るわけねえだろう!!馬鹿じゃねえか!?」

ミクロの言葉を聞いてディラは高笑いしてリド達を指す。

「化け物が人間様と一緒に暮らせるわけねえだろう!テメエ等はただ狩られりゃいいんだよ!わかったか!?化け物!」

「………ッ」

指摘され、拳を強く握るリドはわかっていたはずだった。

自分は化け物。ミクロのような人の方が変わっていてディラの方が当たり前だという当然のことに。

それでも夢を見てしまう。

ミクロのように手を取り合える夢を。

「大丈夫だ、リド」

そんなリドにミクロは声をかける。

「お前も『異端児(ゼノス)』達も俺が守る。だから諦めるな」

「ミクロっち……ッ!」

人と分かり合えない『怪物』であるリド達はミクロの言葉に喉を震わせる。

「おいおい、正気かよ?あいつのガキがそんなことを抜かすなんて、いや、あの女のガキでもあったな」

面倒臭そうに頭を掻くディラは好戦的な笑みを浮かばせて構える。

「いいぜ、相手になってやるよ。かかってきな」

武器を持たず拳を構えるディラにミクロは駆ける。

「リュー達は『異端児(ゼノス)』達を」

異端児(ゼノス)』達の安全をリュー達に任せてミクロはディラと対峙する。

「オラッ!」

拳を振るうディラの攻撃をミクロは回避してナイフで斬るがディラも避ける。

自分と同じLv.4だと気付いたミクロは構わず攻撃を繰り出す。

だけど、その全てをディラは回避する。

「どうしたどうした!?その程度か!?」

挑発するディラは拳だけでなく蹴りも放つ。

リュコスと同じ体術の使い手だと判明したミクロは距離取って『ヴェロス』に魔力を送り、光の弓を形成して矢を放つ。

「おっと!魔道具(マジックアイテム)か!」

遠距離の魔道具(マジックアイテム)だとわかったディラは近くの岩盤を蹴り砕いて石飛礫をミクロに放つ。

即席の遠距離攻撃だがそれを回避しながら違和感をミクロは感じた。

シャラは残虐で冷酷でセツラは凄まじい槍捌きが印象的だった。

だけど、ディラは好戦的ではあるが破壊を悦んでいない。

それにディラの余裕の笑みはセツラ同様に何か切り札があるとしか思えなかった。

魔法か、スキルか、それとも別の何かが。

それを見極めるためにミクロは光の弓を解いて再び接近する。

「いいぜ!来い!」

接近するミクロをディラは迎え撃つように詠唱を唱えた。

「【鋼の武具を我が身に纏え】!」

超短文詠唱から発動させるディラの魔法。

「【ブロープリア】!」

魔法を発動するとディラは黒色の鎧に身を包みその手には大槌が出現する。

「これがオレの武装魔法!テメエみたいなガキぶっ飛ばしてやるよ!」

鉄兜から顔を見せて大槌を振るうディラの一撃をミクロは正面から受け止めた。

魔法に何か仕掛けでもあるのだろうと思いあえて受けたが特に変化はない。

「なっ!?」

受け止められたことが予想外だったのか驚愕するディラは知らなかった。

ミクロの防御力の前では並大抵の攻撃力では歯が立たない。

ミクロは驚愕しているディラの一瞬の隙を見逃さず一気に攻撃を仕掛ける。

ナイフと梅椿の連続攻撃。

不懐属性(デュランダル)』の特性を生かして鎧の上からディラを切り刻む。

「ぬぐ……ぐぐぐ……」

逃げようとするがミクロは決して逃がしはしなかった。

せっかくのチャンスを無駄にはせずここで一気に終わらせる為に鎧を破壊してディラの体までも切り刻む。

「ダメだ!ミクロっち!そいつを傷つけちゃいけねえ!」

倒したと思った時突如リドがミクロに向かって叫んだ。

いったいどういうことだと思った瞬間、ミクロの全身から血が噴き出す。

「残念だったな」

そして、確かに切り刻んだはずのディラの傷が回復に進んでいる。

「何が……」

突然のことに理解が追いつかなかったミクロにディラは大槌をミクロに叩きつける。

「冥土の土産に教えてやる。オレの二つ名は【不死身拳士(アンデッドブロー)】。誰もオレを傷つけることは不可能だ!」

地面に叩きつけられたミクロの前にディラは高らかに笑った。

 


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