路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十二話

リュー達は何が起きたのか理解できなかった。

異端児(ゼノス)』達を襲撃した【シヴァ・ファミリア】団員ディラ。

ミクロはディラと戦い魔法の鎧を破壊してディラ本人も切り刻んだ。

だけど、気が付けば血を噴き出し倒れているのはミクロの方だった。

「クソ!やっぱりだ!あいつは自分の傷を相手に与えちまう妙なスキルを持っていやがる!」

対峙していたリドはミクロの戦闘を見てその答えに辿り着いた。

「オレっちと戦った時もそうだった!いくらあいつを斬っても傷付いちまうのはオレっちのほうだった!」

悔し気に叫ぶリドにディラは愉快そうに笑みを浮かべる。

「よくわかったな、化け物。お前の言う通りいくらオレを攻撃しようとその傷はそいつに返っちまう。つまりオレを倒すのは不可能だってことだ!」

笑みを浮かべるディラは倒れているミクロに背を向けてリュー達の方に足を動かす。

リュー達もそれを見て武器を構えるがどうすればいいのかわからなかった。

いくら攻撃してもその傷は自分に返ってくる。

そんな相手とどう戦えばいいのかわからなかった。

「どうする?オレと戦うか?」

好戦的な笑みを浮かべてリュー達に問いかける。

歩みを止めないディラにリューはリュコス達に告げる。

「皆さんは地上へ。この者は私が相手をします」

「何を言ってるんだい!?」

「それしか方法はありません」

Lv.4であるディラと戦えるのはこの場でリューだけ。

「………」

まだミクロは生きていることに少しだけ安堵してリューは頭の中でどうするかを考える。

ディラは傷を与えてもそれが自分に返ってくる。

なら、リュコス達を逃がした後でミクロを連れて全力で逃げるのが最善。

そう決めたリューは木刀を握り締めて前へ出ようとした時ディラは足を止めた。

「にしてもよ、何でテメエ等までその化け物を庇うんだ?」

「何を……?」

「そうだろう?その化け物を庇う理由がテメエ等にはあるのかよ?」

リド達を指すディラにリュー達の視線はリド達に向けられる。

「ミクロはあったみたいだが、テメエ等は違うだろう?その化け物を助けようなんて思ってねえだろう?」

『っ!?』

鋭い指摘にリュー達は目を見開く。

ディラの言う通りリュー達はミクロをどう助けてこの場から離脱しようかを考えていた。

その中に『異端児(ゼノス)』は入っていなかった。

リュー達の表情を見てディラは笑みを深ませてリュー達に言う。

「その化け物たちを見捨てるならミクロを含めて見逃してやってもいいぜ?」

「そんなこと」

「出来ねえのか?」

出来ないとは断言できなかった。

リュー達は仲間と『異端児(ゼノス)』を天秤にかけて仲間を選択してしまったからだ。

「……オレっち達を置いてミクロっちを助けてやってくれ」

どうするかと頭を働かせている中でリドがリュー達にそう言った。

「元々はオレっち達が原因でミクロっち達を巻き込んじまったんだ。それにここでミクロっちには死んで欲しくねえ」

恐れもなく恐怖なく普通に接してくれたミクロをリドは死なせたくなかった。

例え自分がここで死ぬことになってもリドは何の後悔もない。

「ダメ……だ、リド」

自ら命を捨てようとするリドにミクロは言葉を飛ばした。

「驚いたな、まだ立てるのかよ」

血を流しながら武器を持って立ち上がるミクロにディラは驚嘆する。

「お前達を、守るって言ったはずだ……」

言葉を続けるミクロだが、体にある傷はどう見ても致命傷。

立っているだけでやっとのはずなのにミクロは歩み出す。

「おいおい、テメエは自分が何を言っているのか理解してんのか!?化け物を守るだと!?化け物を守る理由がテメエにあるのかよ!?」

「友達だ……それだけで十分」

「ミクロっち……」

はっきりとミクロはリド達の事を友達と言った。

たったそれだけの理由で守ると言うミクロにディラは高笑いする。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!おもしれえ!面白すぎるだろう!イカれてるぜ、テメエは!化け物が友達だと!化け物は化け物だ!」

腹を抱えて笑うディラ。

リドは怒りと悔しみで手から血が滲み出る程拳を強く握りしめる。

自分が化け物であるせいでミクロが笑われている。

その事が悔しくて仕方がなかった。

「なら、人でありながら神血(イコル)が流れている俺の方がよっぽど化け物だ」

「はぁ?」

高笑いするディラはミクロの言葉に笑うのを止めてああ、そうかと思い出した。

自身の主神であるシヴァが自身の血を眷属の子に与えてミクロはその中の唯一の生き残りだということを思い出す。

「なるほどな、化け物は化け物を寄せ付けるってわけか」

「ミクロっちは化け物なんかじゃねえ!!」

吠えるリド。

だが、ディラは化け物であるリドの言葉に傾ける耳はなかった。

「それで?立ち上がってどうするつもりだ?オレを傷つけることは不可能だということはさっきテメエ自身が味わったよな?」

スキルのおかげで回復しつつある傷だが、その傷はミクロがディラを攻撃した時に傷付いたもの。

不死身であるディラを倒すことはできない。

誰もがそう思っていた。

「お前は不死身じゃない」

ミクロ以外は。

「お前は二つのスキルを使って自分が不死身であるように見せつけているだけだ」

「何?」

ミクロの言葉にディラの表情が険しくなる。

「お前は受けた傷を相手に同化させるスキルと自身の傷を再生させるスキル。この二つを使って受けた傷を相手に返しているように思わせているだけだ」

「っ!?」

ミクロは見切っていた。

先程のディラの戦闘でディラのスキルの正体と弱点を。

「二つは目は単純に自分の傷を再生させる。だけど、初めは俺の攻撃を避けていた。それは回数制限か使用制限など何らかの制限がある」

「………」

「一つ目は一定範囲内における対象者に自身の受けた傷を同化させる。お前の体を斬った場所と同じところに傷ができた。そして、俺が『ヴェロス』で攻撃した時お前は回避した。それはそのスキルの範囲外だったからだ。そうでなければ矢を避ける必要がない」

光の弓を出してミクロは構える。

「なら、遠距離で攻撃すればそのスキルは使えない」

「………………」

ディラは絶句した。

たった一回。

たった一回の攻防で自分のスキルを見極めたミクロに。

「なんつー洞察力だ……」

ミクロが言っていたことはほぼ正解だった。

ディラは『身体再生』と『損傷同化』という二つのスキルがある。

『身体再生』は文字通り傷を再生するが、体力、精神力(マインド)の消費が激しい為必要以上には使えない。

『損傷同化』は自分を中心に半径5(メドル)という短い範囲のみしか使えない。

しかし、そうすぐに見極めれるものではない。

大抵の奴は一度見れば攻撃できなくなり、こちらから一方的に攻撃することが出来るし、攻撃してきてもスキルで傷を相手に同化させて自分の傷を再生すればいい。

それをたった一回の攻防で見極めたミクロが異常なのだ。

そこでディラは思い出した。

ミクロが誰の子供だということを。

『お前は俺には勝てねえよ』

『私に勝つにはまだ早かったみたいだね』

【シヴァ・ファミリア】の中で圧倒的強さを誇るへレスとシャルロットの子供だということを。

「……ざけんな」

かつて敗北した二人の子供に同様に敗北するのかと思うとディラはその時の雪辱を思い出す。

「ふざけんなぁああああああああああああああああああああああッッ!!」

ディラは吠えた。

魔法の鎧を身に纏ってミクロに突貫する。

ディラは元々【シヴァ・ファミリア】の団員ではない。

勝つことに酔いしれて戦いに身を投じているだけ。

そして、へレスとシャルロットに勝負を挑み完膚なきまでに敗北した。

それが悔しくディラは【シヴァ・ファミリア】へ改宗(コンバージョン)した。

雪辱を返して自分が勝利するために。

だからその子供であるミクロに負ける訳にはいかなかった。

「オレがもうあいつらに負けてたまるかよぉぉおおおおおおおおおおおおッッ!!」

大槌を捨てて拳を構えるディラにミクロは矢を放つ。

「ミクロっち!!」

だが、矢を放つ前に曲刀(シミター)を持ったリドがディラの動きを止めた。

「リド」

「邪魔すんじゃねえ!化け物がっ!!」

排除するかのように拳を連打するディラだが、リドは一歩も譲らずミクロの盾になる。

「リド、避けろ。お前じゃそいつには」

「……いいんだ、ミクロっち。オレっちがミクロっちの盾になる。だから、その間にこいつを倒してくれ」

リドは瞳から涙を流しながら言う。

「……嬉しいんだ、オレっちを友達だと言ってくれて。本当に嬉しいんだ。だから、オレっちも友達としてミクロっちの盾になれねえと」

友達としてミクロはリド達を助けに来たようにリドも友達としてミクロの盾になる。

普通ではありえない人とモンスターの共闘。

「………」

ミクロは更に距離を取って『リトス』から魔杖を取り出して詠唱を唱える。

一撃でこの戦いを終わらせる為に。

「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう】」

「どけぇ!化け物!!」

「どくかよ!!」

武装魔法で武器を取り出して攻撃するディラの攻撃をリドは耐え抜く。

「【礎となった者の力を我が手に】」

「ミクロっちの邪魔はさせねえ!!」

「【アブソルシオン】」

詠唱を終えて再び詠唱を唱える。

「【我が願いは叶わずとも我が想いは消えず今も熱く燃え上がり、決して消えない覚悟となって今もあり続ける】」

その詠唱はかつてミクロに敗北したセツラの魔法。

「【我が望みは既に壊れている。だが、我が想いだけは何人たりとも壊させはしない】」

「ぐぐ……!」

ディラの攻撃に鱗が壊され傷が増えていくリドだが、決して引くことはしない。

例え身が滅びようとも意地にかけてミクロのところに行かせない。

「【不滅を慕う我が覚悟を受け止めよ】」

詠唱を唱え終えて魔杖をディラに向ける。

「リド!」

ミクロの言葉にリドは全力退避。

そして、残ったディラに向けてミクロは魔法を放った。

「【プロミネンスへヴァー】」

セツラが放っていた炎の砲弾は魔杖により強化されて全てを焼き尽くす灼熱の光閃となってディラに放たれる。

「舐めんなぁぁぁああああああああああああああああああああああッッ!!」

だが、ディラはそれを受け止めた。

魔法の鎧で全身を包み込み、力と耐久で受け止めて負った傷を『身体再生』で再生しながらミクロの魔法を受け止める。

「オレはもう負けねえ!!負けてたまるか!!!」

それは勝利への渇望と負けたくないという意地だ。

へレスとシャルロットで敗北を知ったディラはより勝利に飢えた。

いずれ倒す二人に勝つ為にディラに敗北は許されない。

受け止めるディラに対してミクロは更に精神力(マインド)を消費させて魔法の威力を高めるか、それとも別の方法でディラを倒すか策を考えていた。

『他の事を考えたらダメ。魔法に集中して』

「っ!?」

策を考えているミクロの手に誰かの手が添えられる。

その手の先には一人の女性がミクロの傍で微笑んでいた。

「母さん……」

死んだはずの母親がすぐ隣にいた。

いるはずがない死んだはずの母親がすぐ自分の隣にいる。

幻か幻覚はわからないシャルロットはミクロを後ろから抱きしめて魔杖を握る。

『魔法に集中して。そして魔力を高めるイメージするの。そうすれば魔法はもっと強くなる』

「俺、俺は………」

幻でも幻覚でもいい。

会って話がしたいと思っていた母親が自分のすぐ後ろにいる。

向かい合ってちゃんと話がしたい。

『ごめんね。今の私にはこうするしかできないの。こんなお母さんを許して』

許すも何もミクロは恨みも憎しみもない。

謝ってほしいわけでもない。

ただ話がしたい。それだけだ。

「許す……許すから………俺は、俺は……………」

『貴方は強いわ。だって、私達の子供ですもの』

その言葉を聞いてシャルロットは姿を消した。

一瞬だった。

本当に一瞬の間だけでシャルロットと話ができた。

それなのに涙が溢れてくる。

「あああ……」

ミクロは理解した。

この気持ちが悲しみという感情だということに。

涙を流して魔法に集中して魔力を高めるイメージをする。

「あああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

「何!?」

吠えた。

高ぶる自分の感情を発散させるかのように心の底から吠えた。

そして、ミクロの感情が高ぶるように魔法の威力も高まる。

拮抗していたはずなのに突然高まったミクロの魔法にディラは吞み込まれた。

「くそがああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

その言葉を最後にディラは消滅した。

そして、ミクロも精神枯渇(マインドゼロ)になってその場で崩れ落ちる。

「ミクロ!?」

「ミクロっち!?」

ミクロに駆け付けるリュー達やリド達『異端児(ゼノス)』。

回復薬(ポーション)で傷を治してリューは地上を目指す為にミクロを背負う。

「ミクロっち、ありがとう」

気を失っているミクロにリドは静かに礼を言ってリューに背負われているミクロ達の背中を見守る。

「まったく貴方はいつも………」

相変わらず無茶をすると内心で愚痴を言いながらその表情は笑みを浮かべていた。

『友達だ……それだけで十分』

「………」

リド達『異端児(ゼノス)』達を助けることにミクロは一瞬の迷いもなかった。

それなのに自分達はまともに動くことさえしなかった。

それがミクロと自分達の違いなのだろうとリュー達は思った。


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