路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十四話

「では、まずは弁明を聞きましょう」

リュー達女性団員達に囲まれた状態でミクロは正座されられていた。

男性団員達とアイカを連れて本拠(ホーム)に朝帰りしたミクロ達は体中に染みついた甘い香水の匂いでリュー達に『歓楽街』に行ったことが速攻でバレた。

「リオグ達に男の遊びを教わる為に行った」

正直に話すミクロにリュー達も納得する。

ミクロが自発的にそんなところに行くわけがない。

リオグ達を見てそれはすぐに判明してリオグ達は他の女性団員達に連行されて別の部屋にいる。悲鳴が聞こえてくるが今はそんなことはどうでもよかった。

「あんたは何をしてたんだい?」

リュー達はそれが気になっていた。

一線を越えたか超えていないのか。

それが知りたかった。

「話をした」

「それだけかい?」

リュコスの言葉にミクロは頷いて肯定するとリュー達は安堵した。

どうやらミクロにはまだ早いのだと安堵してリューはミクロに告げる。

「もうあそこに行ってはいけない。いいですか?」

「何で?」

行ってはいけないと言われてミクロは首を傾げて尋ねる。

ダンジョンならまだ危ないから理解出来る。

だけどあの場所には種族問わずの多くの男女いたにも関わらずどうして自分は行ってはいけないのかミクロにはわからなかった。

「そ、それは……」

言葉を濁らすリュー。

下心なしの純粋な質問にどう答えればいいのかわからなかった。

「は~い、ちょっと待って~」

「あ、アイカ」

ミクロの後ろから抱き着いて来たアイカはリュー達に制止の言葉を述べる。

だけど、ミクロに抱き着いたことに何人かは嫉妬の炎に包まれる。

「離れなさい!」

「え~やだ~」

ミクロから引き剥がそうとするティヒアだがアイカは予想したかのように躱すとより密着する体勢になった。

「ミクロ君、止めさせて~」

「ティヒア。止めて」

「ミクロ……」

アイカの言葉通りにミクロから制止の言葉を告げられるティヒアは動けない。

「アイカ。着替えは終わったの?」

「終わったよ~」

着替えの為離れていたアイカは今は衣装(ドレス)から家政婦(メイド)の恰好になっているがかなり露出が激しい。

肩は見えているし、スカートの丈も短い。

『歓楽街』に着ているような恰好でミクロ達の前に現れたアイカにリューは表情を険しくする。

「ミクロに淫らな真似をするのは止めなさい」

「それを決めるのはエルフちゃんじゃないと思うけど~」

目線が鋭くなるリューにアイカは変わらず間延びするのんびりとした口調で答える。

「ミクロを困らせるな」

「ミクロ君がそう言ったのかな~」

二人の間に激しい火花が幻視されているかのような空気に女性団員達は後退りする。

「さっきの話なんだけど~ミクロ君の行動をどうして貴女が決めるかな~?」

「……彼は私達の団長だ。それなりの行動をしなければ他に示しがつかない」

「嘘はダメだよ~」

リューの言葉にアイカはあっさりと嘘だと見破った。

「歓楽街には多くの人が集まるから人を見る目はそれなりにあるんだよ~。それで、エルフちゃんはどうして嘘をついてまでそんなことを言うのかな~?」

歓楽街では単純に獣性を沈める為に集まる者もいれば癒しを求める人もいる。

数多くの人を見てきたアイカは嘘をついているかぐらいすぐにわかる。

「ここは女の子が多いからそういうのに嫌悪する子も多いのはわかるけど~男の子にもどうしても必要なことだってあるんだよ~。もっと寛容にならないと嫌われちゃうよ~」

周囲を見渡してリュー達にそう告げるアイカ。

【アグライア・ファミリア】は女性のほうが圧倒的の多い為どうしても女性の発言の方が強くなってしまう。

性に奔放なアマゾネスもいるが団長が人間(ヒューマン)であるミクロの為、人間(ヒューマン)の人数が一番多い。

そのせいかどうしてもそういうことに厳しくなってしまうのかもしれない。

そういうことが全くと言っていいほどわからないミクロは先ほどからアイカが何を話しているのかイマイチ理解出来なかった。

だけどそれとは反対にリュー達女性団員はアイカの言葉に当てはまることがあった。

そういうことに嫌悪感はあるからこそアイカの言葉が胸に突き刺さる。

「私よりミクロ君を困らせているのはエルフちゃんのほうじゃないかな~?」

「っ!?何を!?」

「だって~そうやって行動を制限したら困るのはミクロ君の方だよ~。エルフちゃんはそれでいいかもしれないけど~ミクロ君が窮屈になって何をすればいいのかわからなくなっちゃうじゃないかな~」

「出会ったばかりの貴女に言われたくない」

「出会ったばかりの私にそう言われるほどミクロ君を縛り付けていること気付いてる~?」

鋭い眼光に叫ぶリューに変わらずのんびりとした口調で煽るアイカ。

「真面目なのはいいことだけど~それを他者に押し付けるのは頂けないな~」

「ッ!?」

「リュー!?」

「おい!?」

アイカの言葉に頭に血が上ったリューはアイカに平手打ちをしようと腕を振り上げる。

Lv.5のリューの平手打ちを『恩恵(ファルナ)』を刻まれていないアイカに当たれば最悪の場合死んでしまう。

ただでさえ加減が苦手なリューの平手打ちがアイカに襲いかかる。

そして乾いた音が鳴り響く。

ただし叩かれたのはミクロだった。

「ミ、ミクロ………」

叩いて正気に戻ったリューをミクロは抱きしめる。

「落ち着いて、リュー。俺はリュー達に出会って困った事なんてないから」

「……申し訳ありません」

小さく謝罪するリューを抱きしめながら視線をアイカに向ける。

「アイカもリューや皆を困らせたらダメ」

「は~い、ごめんね、ミクロ君、皆」

明るく謝罪するアイカに重い空気が軽くなる。

「でも、私は今の言葉を取り消す気はないから~」

やっと収まった空気のなかでアイカは宣言した。

「私は私を買ってくれたミクロ君に生涯尽くすつもりでいるから覚悟してね~。改めてミクロ君専属家政婦(メイド)アイカです。よろしくね~」

ミクロを狙っている女性団員全員に対して宣戦布告するアイカは余裕たっぷりに笑みを浮かばせる。

「ミクロ君がやりたいことしたいこと何でもさせてあげるつもりだから~。もちろん夜の方もね~。仲良くしようね~」

笑みも崩さず告げるアイカの言葉に恋心が燃え上がる。

「ただいま~ってどうしたの?」

「あ、アグライア。お帰り」

神会(デナトゥス)』から帰って来たアグライアは帰還と同時に燃え上がる空気に気付いたがミクロと露出が多い家政婦(メイド)の恰好をしているアイカを見てまたミクロが原因だとすぐに判明した。

アイカの事情は簡潔には聞いているアグライアは歓迎してから『神会(デナトゥス)』に行っていたがまさか数時間でここまで空気が変わるとは思いもよらなかった。

「早かったんだ」

「ええ、【ランクアップ】した子は少なかったし、あっさりと終えたわ」

つい先ほどまで行われていた『神会(デナトゥス)』を遠い眼で語るアグライア。

「そうそう、ミクロにも新しく二つ名が決まったわ」

ミクロがLv.2の時に決まった二つ名は【隻眼の暗殺者(ドロフォノス)】。

だが、【ランクアップ】につれて神の気まぐれにより二つ名は変わることがある。

リューは変わることなく【疾風】で終わったが、戦争遊戯(ウォーゲーム)などで活躍したミクロの二つ名は変わった。

「【覇者】。それが貴方の新しい二つ名よ」

新しく決まったミクロの二つ名は【覇者】。

「わかった」

だけど、二つ名などどうでもいいミクロにはそういう二つ名が付けられたという印象しかなくそれで終えた。

「じゃ、俺は寝るからお休み」

昨日から一睡もしていないミクロは二つ名を聞いて眠りに付こうと自室に向かう。

「それじゃ私もミクロ君の添い寝でもするね~」

「待ちなさい」

ミクロについて行こうとするアイカをアグライアは止めた。

「貴方には『恩恵(ファルナ)』を刻んたり、説明しなければならないことや聞きたいことがあるから今から私の部屋に来なさい」

「は~い。ミクロ君、お休み~」

「お休み」

ミクロは自分の部屋で眠りにつく。

その時には綺麗にリオグ達の事は忘れていた。

 

 


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