路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十五話

「はい、終わったわ」

アグライアはミクロが『身請け』した女性アイカに『恩恵(ファルナ)』を刻む。

「これからは貴女も私達の家族よ。よろしくね」

「こちらこそ~よろしくお願いしま~す」

のんびりと返事をして服を着直すアイカにアグライアはアイカの写したアイカの【ステイタス】に視線を向ける。

人間(ヒューマン)のアイカに魔法のスロットが二つあるがまだ魔法は発現していない。

素質はあるのだろうけどアイカはダンジョンに潜るつもりはないから案外このままなのかもしれないと思いつつ次にスキルを見る。

 

本質看破(スマトリェーチ)

・本質を見抜く。

 

アイカにスキルが発現していた。

本質を見抜くスキル。娼婦として働いて多くの人を見て来たアイカだからこそ発現したのかもしれない。

「アイカ。一つ聞いてもいいかしら?」

「どうぞ~」

「先ほどの貴女の行動はどういうつもりだったの?」

女性団員達に対する宣戦布告とリューを煽るような発言。

もし、ミクロが庇わなければアイカの頭と体は離れていたかもしれない。

「ふふ、アグライア様もご存じのはずですよ~」

アイカは笑みを浮かばせたまま意味深に告げる。

「だからこそ~ミクロ君にダンジョンに行くのを禁止にしたのでしょう~?」

「………」

アグライアは無言になりアイカはそれを肯定と受け取った。

「皆~ミクロ君に甘えてるから~ちょっとお説教しただけですよ~」

「そう」

アグライアはなるほどと納得した。

アイカのスキルはそこまで見抜くことが出来るということに。

いや、スキル云々よりもアイカ自身の観察力、洞察力が長けている。

それを一つに纏まったのがこの『本質看破(スマトリェーチ)』なのだと。

「それじゃ~私は行きますね~」

「ええ、もういいわ」

露出の多い家政婦(メイド)の恰好で部屋を出ていくアイカにアグライアはアイカという存在はこの【ファミリア】に良い存在になるかもしれないと思考を働かせる。

アイカの性格を含めてもしかしたらミクロ以外の団員達に良い影響を与えてくれることに願う。

アグライアの部屋を出てアイカはある人物に会いに行くために本拠(ホーム)内を歩きまわると目的の人物を発見して接近する。

「エルフちゃん、見~つけた~」

目的の人物リューに近づくアイカだがリューは冷たい眼差しでアイカを睨む。

「……何の用ですか?」

「ん~、ちょっとお話しない~?」

「結構です」

冷たくあしらってその場から離れようとするリューにアイカは告げる。

「そうやって自分の都合の悪いことから逃げるのかな~?」

「何を……?」

アイカの言葉に足を止めて向かい合うリューにアイカは変わらず言う。

「エルフちゃんって~自分の嫌いな相手は無視するタイプでしょう~?そして~自分の逆鱗に触れた者を反射的に攻撃してしまう感情的な子かな~?」

「何が言いたい?」

「ミクロ君に甘えすぎる、ううん、依存するのはよくないよ~って話だよ~」

「……私は別にそのようなことはありません」

アイカの言葉に否定の言葉を述べるリューだが、アイカはなるほどと納得気味に頷く。

「無自覚なんだね~。それじゃ~教えてあげる~。依存してるよ、自分が思っている以上に」

間延びしたのんびりとした口調が突如真剣な声音変えるアイカ。

「生真面目すぎるからかな?エルフちゃんは自分でも無意識にミクロ君に頼ってる。推測だけど、エルフちゃんが感情的、激情にかられた時ミクロ君に止められたことあるでしょう?」

「っ!?」

「その反応だとあったみたいだね」

リューの僅かな変化を見破ってアイカは言葉を続ける。

「自分では抑えられない感情をミクロ君に抑えて貰っている。そんなところかな?」

見透かされているように言葉を続けるアイカにリューは手を強く握る。

「それは一種の依存だよ。ミクロ君の傍から極力離れたこともないでしょう?また暴れる自分の感情を何とかして貰う為に無自覚にミクロ君の傍にいる。それに気づいてる?」

「黙りなさい」

瞬時にアイカに接近して小太刀をアイカの首筋に当てる。

少しでもリューの手元が狂えばアイカの首から血が噴き出す。

「それ以上戯言を続けるというのであれば」

「私を殺すのかな?無理だよ。エルフちゃんに私は殺せない。実力ではなくエルフちゃんの正義感がそれを許さない」

アイカの首筋から僅かに血が流れる。

それでもアイカは恐れずに言葉を続ける。

「私はね、娼婦として色んな人を見てきたの。でも、ミクロ君のような暗い眼を見たのは初めてだったよ」

『歓楽街』で初めてミクロと会った時にアイカはその時知った。

ミクロが眼がとてつもなく暗いことを。

「普通の子供はあんな眼をしない。それよりもミクロ君ぐらいの年頃なら色々なことに興味を示すはずなのにミクロ君にはそれがない」

ミクロが普通じゃないことをアイカは見抜いていた。

「ミクロ君と話して気付いたけどミクロ君は傷付くことに慣れ過ぎている。だからこそ、ミクロ君は優し過ぎるのかもしれないことにエルフちゃんは気付いていた?」

「………」

アイカの言葉をリューは無言で応える。

それでもリューの表情を見てアイカは告げる。

「ミクロ君の傍にいるエルフちゃんは自分の事だけでミクロ君の事何も見てなかったんだね。アグライア様がミクロ君にダンジョンに行くのを禁止にする訳だね」

別にリューに限っての話ではない。

殆どの団員がミクロに頼り過ぎている。

団長だから。

強いから。

頼りになるから。

少なからずそう思われてミクロ自身もそれに応じている。

だけど、ミクロに掛かる負担はそれだけ大きくなる一方。

それに気づいたアグライアはミクロにダンジョンに行くのを禁止にさせて無理矢理にでもミクロを休ませることにした。

「ミクロ君はまだ子供なんだよ?副団長であるエルフちゃんがその事に気付かないでどうするの」

リューの手から小太刀が落ちる。

アイカの言葉を聞いてリューはようやく知った。

ずっと傍にいたのに気づくことさえ出来なかったのに出会ったばかりのアイカはリュー以上にミクロの事を大切に想って考えている。

どうして気付くことも出来ずに甘えていた自分に心底嫌になった。

「私は……」

言い返したいけど言い返せない。

それだけアイカの言葉が的確だったからだ。

「半年。私なら半年でミクロ君の心も体も癒してあげられる。それだけ私はミクロ君の事が好きになっちゃったから」

『歓楽街』にいた時ミクロはアイカを『身請け』した。

体目当てではなく純粋に話し相手が欲しいというだけという理由で。

それだけで一〇〇〇万ヴァリスという大金を捨てたミクロがアイカにとって特別な存在になった。

「私は自分の全てをミクロ君に捧げてもいいと思ってるけどエルフちゃんは違うのかな?エルフちゃんの気持ちはどうなの?」

アイカの言葉にリューは思考が定まらない。

答えたいけど答えるのが恥ずかしい気持ち。

素直になりたいけど素直になれない自分。

それを言葉にするのに恐れを感じる。

「私が貰ってもいいのかな?」

「いけません!」

アイカの言葉に咄嗟にそう言ってしまったリューの尖った耳まで赤く染まり、アイカは微笑ましくリューの答えを待つ。

「……す、好き………」

消えてしまいそうなぐらい小さな声で告げるリューの顔はトマトのように赤く染まる。

だけど、勇気を振り絞って告げたその言葉はしっかりとアイカの耳に届いた。

「よく言えました~お姉さんリューちゃんの本音が聞こえて嬉しいよ~」

いつもの間延びしたのんびりとした口調に戻ってリューの頭を撫でる。

「でも、お姉さんも諦めないからね~」

そう言って去って行くアイカは微笑みながら小声で言った。

「手強いな……」

ミクロがアイカの代わりに叩かれてリューを抱きしめた時とアグライアに視線を向けた時に他とは違うミクロの確かな変化に気付いた。

その時のミクロの眼は確かな変化はあったがそれが何かまではアイカにはわからなかったが、少なくともアグライアとリューにミクロは特別な感情は抱いているのは確かだった。

「まぁ、その方が奪いがいがあるかな~」

自分なりのやり方で振り向かせてやればいい。ただそれだけ。

「さ~て、次はティヒアちゃんのところにでも行こうかな~」

次の恋敵(ライバル)の気持ちを知る為にアイカは足を動かす。

 

 

 

 

 

アイカと離れてリューはミクロの部屋に訪れていた。

「リュー?」

「すいません。起こしてしまって」

寝ていたミクロを起こしてしまったことに謝罪しながらリューは机に置かれている一冊魔導書(グリモア)を手に取る。

「ミクロ。これを頂いても?」

「いいよ」

「ありがとうございます。用はそれだけです。寝ていてください」

「うん」

リューの言葉に再び眠りにつくミクロの寝顔をリューは眺める。

その寝顔は年相応の子供の寝顔だった。

アイカの言葉通りだったと改めて思い知らされた。

ミクロはまだ子供で自分より年下なのに頼り、甘えていた。

「情けない……」

言われるまで気付くことさえ出来なかった自分が、ミクロに依存していた自分が本当に情けないと思った。

だからこそそんな自分を変える為にそしてティヒアやアイカ達に勝つ為にリューは魔導書(グリモア)を手に取る。

自室に戻って椅子に座る。

リューの魔法スロットは三つ。その内二つは既に埋まっている。

最後のスロットを埋めるためにリューは魔導書(グリモア)を開くとリューの意識は本の中へと引きずり込まれた

『始めましょうか』

何もない白い空間で真っ黒なもう一人のリューが問いかけてきた。

『私はどのような魔法を望んでいるのですか?』

守りたい。

仲間をミクロを守れるだけの力が欲しい。

『私にとっての魔法は何ですか?』

支えたい。

ミクロの隣でミクロと共に仲間を【ファミリア】を支えられる魔法。

『私にとって魔法はどのようなものですか?』

仲間を助けられる力です。

私はもう二度と大切な人を失いたくない。

それを実行できるだけの力が私の魔法です。

『守り、支え、助ける。それが私の望む魔法ですか?』

はい。

『なるほど、それこそ(あなた)だ』

そこでリューの意識は暗転して目を覚ます。

魔導書(グリモア)は効能を失い白紙になっていることを確認してリューはアグライアのとこに足を運び【ステイタス】を更新して貰い新たな魔法を発現させた。

 

【イス・サーフル】

・増幅魔法。

・発動対象者の魔法効果増幅。

・詠唱式【今は遠き森の加護、愚かな我が願いに耳を傾けて慈悲と加護を】

 

「増幅魔法……」

魔導書(グリモア)によって新たに発現したリューの魔法。

発動対象者の魔法効果を増幅する魔法。

自身を含めた魔法が扱える者にこの魔法を使えば守ることも支えることも助けることもできる。

まだ完全にこの魔法を把握したわけではないがそれでもこの魔法がミクロ達の役に立てればと思うと少し嬉しかった。

恋に燃えるリュー達に対してミクロは今もすやすやと眠りについてまま。


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