『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
「団長!もう無理ですよ!!」
「大丈夫。頑張れ」
ダンジョン17階層でミクロとリューを除いた団員達に階層主である『ゴライアス』と戦わせている。
【アグライア・ファミリア】が結成されて三年が経ち、ミクロはアグライアに条件付きでダンジョンに潜っていい許可を貰った。
それは団員達の強化。
【アグライア・ファミリア】の団員は殆どはLv.1。
これから『深層』に足を運ぶとすれば更なる戦力強化が望ましい。
その為には偉業の達成【ランクアップ】を果たさなければならない。
それなら階層主であるゴライアスと戦わせたら何人かは【ランクアップ】を果たすかもしれないし、最悪【
「団長の鬼畜!!」
「もし死んだら恨んでやる!!」
ミクロの恨み言を叫びながらも武器を持って戦う団員達を見てまだ大丈夫と判断する。
「セイ!」
「ハッ!」
強化魔法で強化したリュコスと弓矢で攻撃するティヒアを中心に団員達はそれに続くようにゴライアスと立ち向かう。
もちろんミクロ達も何もしていないというわけではない。
危ない攻撃を防いだり、団員達を援護したりなど後方から魔法で団員達を助けている。
「【フラーバ・エクエール】!!」
後衛の魔法部隊からスィーラを始めに数多くの魔法をゴライアスに放つ。
一部から『ヴァルシェー』により放たれた魔法攻撃も加わってゴライアスは怯む。
「ソラッ!!」
その怯んだ隙を見逃さずリュコスはゴライアスに膝をつかせる。
「今の内に前衛は攻撃をしな!!」
『おおっ!!』
リュコスの掛け声に前衛を務めている団員達は一斉にゴライアスに攻撃を仕掛ける。
だが、Lv.3のリュコスならともかくLv.1の団員達の攻撃にゴライアスの固い皮膚は切り裂くこともできない。
「【汝の鋼の肉体を脆き肉体へ変えよう】」
それを見て中衛を担うエルフの団員スウラが詠唱を唱えた。
「【ディリティリオ】」
スウラから放たれる紫煙がゴライアスに直撃する。
すると前衛達の攻撃がゴライアスに通用するようになった。
スウラの
どんなに耐久に優れている者でもこの魔法を浴びたら体が脆くなってしまう。
しかし、強力な魔法の為使用すれば自身の耐久も低下してしまう為スウラは極力この魔法の使用を控えていた。
「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」」
中衛もチャンスを見逃さず攻撃を加えるがそれでも相手は階層主。
いくら耐久が低下しているとはいえまともな攻撃を与えることが出来ない。
「リュー」
それを見たミクロはリューに魔法の詠唱を頼む。
「【今は遠き森の加護、愚かな我が願いに耳を傾けて慈悲と加護を】」
「【イス・サーフル】」
増幅魔法を発動させたリューはそれをスィーラに譲渡する。
「ありがとうございます!」
礼を言ってスィーラはもう一度魔法を唱える。
「【天に轟くは正義の天声。禍を齎す者に裁きの一撃を。鳴り響くは招雷の轟き。天より落ちて罪人を裁け】!」
リューの増幅魔法により魔法効果を増幅させたスィーラから溢れる魔力を感じ取ってリュコス達はゴライアスから離れる。
「【フラーバ・エクエール】!!」
放たれた雷属性の魔法は先ほどより威力はけた違いに跳ね上がってゴライアスの体に直撃する。
だが、それでもゴライアスは倒れることはなかった。
単純な威力不足。
いくらゴライアスの耐久を低下させて魔法の威力を上げてもLv.1ではゴライアスに手も足も出ない。
「十分よ」
「ああ、十分だよ」
そこでティヒアとリュコスは動いた。
「【狙い穿て】」
超短文詠唱で唱えるティヒアの矢に魔力が纏う。
「【セルディ・レークティ】」
放たれた矢に
突き刺さっただけでそれでもゴライアスにとってはその程度しかなかったがティヒアは不敵に笑った。
「狙い通り」
「そこだよっ!!」
リュコスはゴライアスに突き刺さった矢を蹴ってより深く突き刺した。
「あああああああああああああああッ!!」
咆哮を上げて空中で身を捻らせて回転しての二度蹴り。
そして、矢はゴライアスの内部にある魔石に届いた。
『オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ………』
魔石を砕かれたゴライアスは灰に姿を変えて残ったのはドロップアイテムである『ゴライアスの硬皮』だけ。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
ゴライアスが倒されて数秒後、大歓声が巻き起こる。
疲労も傷も今は気にも止めずに喜び合う団員達。
魔石を狙っての最後の一撃が通用してよかったと安堵しながらその場で座り込むリュコスとティヒア。
「お疲れ様」
「パルフェもね……」
「……お疲れさん」
『ヴァルシェー』を使って魔法攻撃を繰り返していたパルフェは二人に歩み寄って労いの言葉を送る。
「ミクロも無茶言うわよ、本当に」
「本当だよ」
「アハハ…」
階層主と戦わせるように強要したミクロの愚痴を言う二人にパルフェは苦笑する。
「でも、あいつは一人でゴライアスを倒したんだよね」
「ええ、それが私達とミクロの違いね」
前にミクロは一人でゴライアスを討伐した。
Lv.4だったとはいえたった一人でゴライアスを倒したミクロ。
今回のゴライアスの戦闘でそれがどれだけ困難なのか思い知らされてそれを一人で達成したミクロがどれだけ強いのか嫌という程理解できた。
「私達もまだまだね……」
「必ず追いついてみせるさ」
ミクロに追いつくためにより上を目指す二人にパルフェに口には出さなかったが気持ちは二人と全く同じだった。
ミクロがダンジョンに潜ることを禁止されてからもミクロ抜きでダンジョンに潜って気付いた。
ミクロの存在がどれだけの助けになっているのかを。
そして、前にミクロが『身請け』で連れてきたアイカのミクロに甘えているという言葉が今も胸の奥に深く突き刺さったまま。
その通りだと思い知らされた。
「アイカにも負ける訳にはいかない……」
突如現れたアイカの存在がティヒアの心を大きく動かす。
『支えるだけでいいのかな~?』
心を見透かされているかのようなアイカの言葉が脳裏を過ぎる。
それを聞いてティヒアは支えるだけの存在だけではなくミクロを助けられる存在になろうと覚悟を改める。
「お疲れ、三人とも」
ティヒア達に歩み寄って来たミクロは三人に労いの言葉を送ってパルフェにドロップアイテムを渡して魔法に収納して貰った後で全員で地上に帰還した。
そして、治療を終えた者から早速と言わんばかりにアグライアに【ステイタス】を更新して貰った。
多くは【ランクアップ】を果たすことは出来なかったが【
【ランクアップ】するのも時間の問題と思いつつ全員の更新を終わらせる。
その結果、リュコス、ティヒア、パルフェ、フール、スィーラ、スウラ、ドワス、カイドラ、リオグは【ランクアップ】を果たした。
リュコスはLv.4。
ティヒアはLv.3。
パルフェ達はLv.2に【ランクアップ】した。
危険を冒してまで階層主であるゴライアスと戦った甲斐があったと歓喜する。
「新しい『魔法』や『スキル』も発現した子は何人かいるし、喜ばしい結果になれて良かったわ」
「おめでとう~」
「おめでとうございますわ」
一度の多くの【ランクアップ】を果たした上に『魔法』や『スキル』も発現。
その喜ばしい結果にアイカ達も称賛の言葉を送る。
「ミクロ君もお疲れ様~」
労いの言葉と一緒にミクロに抱き着こうとするアイカだったがリューがそれを阻む。
「アイカ。私の前でそのようなことはさせません」
「ふふ~、じゃあ、見てない所でするね~」
互いに笑みを浮かばせているが目は笑っていない二人にその場にいる全員が少し引いた。
「やっぱあいつは女難の相があるね……」
「やれやれですわ」
呆れるように息を吐くリュコスとセシシャ。
「私はミクロ君専属
「そのような戦いは私が受けましょう。アイカ、貴女とは一度真剣に話し合う必要がある」
笑いながらも睨み合う二人。
「あんたは参加しなくていいのかい?」
「するだけ無駄でしょう?」
睨み合う二人にリュコスがティヒアにそう訊くがティヒアは溜息を吐きながらそう答える。
「はいはい、今日は皆疲れているでしょうからしっかりと休むように。ミクロ、貴方はギルドに【ランクアップ】の報告をお願い」
「わかった」
手を叩いて空気を変えるアグライアは【ランクアップ】の報告をミクロに任せる。
「私も行きます!」
「私も!」
「あたしも!」
階層主との戦闘後だというのにミクロと一緒に行動できるという恋心が女性団員達を突き動かす。
「私の話聞いていた?しっかりと体を休ませなさい。セシシャ、ミクロと一緒にギルドの報告をお願い」
「承りましたわ」
ダンジョンに潜っていないセシシャをミクロに同伴させてギルドに向かわせる。
「よろしいのですか?」
「いいよ~、急ぐ必要はないからね~。それにチャンスは誰にでも平等じゃないと~」
慌てず、急かさずにゆっくりと時間をかけて振り向かせればいい。
だから無理に一緒にいる必要はアイカにはない。
ミクロ達が戻ってくるまでアイカは
リュー達もアグライアの指示通りに早めに体を休ませることにした。
一方でギルドに【ランクアップ】の報告に足を運んだミクロ達はギルドの職員に驚かれていた。
『また【アグライア・ファミリア】の連中か………』
『【覇者】の【ファミリア】……』
『すげえ勢いで名を上げていきやがる』
ギルド内にいた冒険者達からも羨望とやっかみなどの声が聞こえてくるがミクロは全て無視する。
報告を終えてミクロ達は
「これはどうしますの?」
セシシャが持っているのは今日リュコス達が討伐して出てきた『ゴライアスの硬皮』。
売買するのならセシシャにいつも任せるが今回はそのつもりはなかった。
「俺が貰う」
セシシャから『ゴライアスの硬皮』を取って『リトス』に収納する。
「
「
「問題ない。許可は取ってる」
「準備がよろしいことで」
二人は
「これからどうしますの?」
「アグライアが許可をくれるまで俺はダンジョンに潜れないから変わらず団員達を鍛えることにする」
大変だと他人事のように思いつつ鍛えられる団員達に同情する。
それだけミクロの鍛錬が
本人はその自覚は全くないが。
そう思いながら二人は
二人はその少女の背中にある大鎌という武器を背負っていることから入団希望者だと思い声をかけることにした。
「私達の【ファミリア】に何か御用で?」
「ひゃ!?」
声をかけると短い悲鳴を上げて驚く少女。
「あ、あの、わ、私はセシルと申します!驚いてごめんなさい!」
頭を下げるセシルに随分と落ち着きがないと思いながら頭を上げるように促す。
「頭を上げて。それでセシルは入団希望者?」
ミクロの言葉に頭を上げるセシルはミクロの顔を見て突然眼を輝かせる。
「も、もしかして【覇者】様ですか!?」
「うん」
「会いたかったです!【覇者】様!!」
ミクロの両手を握って興奮と感動で歓喜の笑顔をむけるセシルにミクロは首を傾げる。
「【覇者】様!どうか私を弟子にしてください!!」
「いいよ」
セシシャは思った。
ミクロは絶対に女難の相があると。
そして、また濃い人が【ファミリア】に集まったと思うと自然に溜息が出た。