路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十七話

ミクロに弟子入りを懇願したセシルをミクロは二つ返事で了承した。

「ほ、本当ですか!?」

「うん」

「やったぁあああああああああああッッ!!」

ミクロの弟子になれたことに飛び跳ねながら喜びの声を上げた。

「アグライアや皆にも紹介するから中に入って」

「はい!お師匠様!」

敬礼するセシルを連れてセシシャと一緒に本拠(ホーム)に帰還したミクロ達。

セシルは目を輝かせながら本拠(ホーム)内に視線を向ける。

「ミクロ、よろしいのですの?」

「別に断る理由がない」

耳打ちするセシシャにミクロは問題ないと答える。

随時団員募集しているミクロ達にとって希望者を追い返す理由がない。

魔道具(マジックアイテム)などの欲に目が眩んだ者なら一目見たらすぐにわかる。

だけど、セシルにはそれがない。

「あ、ミクロ君~お帰り~」

「ただいま、アイカ」

露出が多い家政婦(メイド)の恰好で遭遇したアイカ。

見慣れているミクロとセシシャと違ってセシルはアイカの恰好を見てすぐに顔を紅潮させる。

「あれ~?その子は入団希望者かな~?」

「俺の弟子」

「よ、よろひくお願いしましゅ……」

「私はアイカだよ~よろしくね~」

呂律が回っていないセシルを見てアイカは微笑みながら挨拶する。

「それじゃあ~ミクロ君~また後でね~」

「わかった」

小さく手を振ってその場から離れていくアイカに少しずつ落ち着きを取り戻したセシルはミクロに尋ねた。

「ど、どちら様なのですか?」

「ミクロの専属家政婦(メイド)ですわ。まぁ、貴女もすぐに慣れますわよ」

嘆息気味に答えるセシシャにセシルは尊敬の眼差しでミクロを見つめる。

「さ、流石はお師匠様です……あのような恰好をした女性を見ても動揺もしないとは」

「………」

これは何か言った方がいいのだろうかとセシシャは思ったが黙っておくことにした。

そんなセシルを連れてミクロは主神であるアグライアの部屋に到着した。

「アグライア」

「あら、お帰りなさい。その子は入団希望者かしら?」

「はい!セシルと申します!先ほどお師匠、【覇者】様に弟子入りしました!よろしくお願いします!!」

元気ある声にアグライアは微笑ましく笑みを浮かべる。

「それじゃ入団試験を受けて貰いましょうか」

「え?」

「一応は受けて貰わないと他の子に不公平でしょう?」

ミクロに弟子入りしたとはいえ、入団するとは別問題。

弟子入りしたからといって他の人も受けた試験を素通りさせるわけにはいかない。

「わ、わかりました!何をすればいいのでしょうか!?」

入団試験を受けて正式に【アグライア・ファミリア】に入団する為にセシルは受けることにした。

「セシル。貴女の覚悟を教えて頂戴」

「覚悟、ですか?」

「ええ、貴女は何故冒険者になりたいのかその理由を教えて頂戴」

冒険者は常に死と隣り合わせ。

覚悟がない者が行けばそれは自殺と同じ。

なら、そうなる前に一人の神として何故冒険者になりたいのか、それを貫く覚悟があるのか訊かなければいけない。

「か」

「か?」

「かっこよくなりたいからです!!」

「「………」」

予想の斜め上の言葉にアグライアとセシシャは目を見開く。

でも、確かに年齢を考えばセシルの言葉は年相応のものだとわかる。

かっよくなりたいや可愛くなりたいなど強く思う年頃ならその答えも納得はいく。

「え、あ、ちょ、ちょっと待ってください!違います!今のは少し違うんです!!」

静かになった空気を感じ取ったのはセシルは慌てふためきながら先ほどの言葉を直す。

「わ、私は、誰かに憧れる存在になりたいんです……でも私は引っ込み思案で言いたいこともちゃんと言えずその夢を一時は諦めたこともありました……」

そんなセシルの前に現れたのがミクロだった。

自分と年も変わらない男の子が【ファミリア】の団長。

戦争遊戯(ウォーゲーム)』の時も大人達を倒して圧勝。

強くてかっこよくてこんな人に自分は憧れていたんだと思うとセシルはどうしても夢を諦めることが出来なかった。

そこでセシルは決意した。

冒険者になってこの人のようになろうと。

その為に冒険者になることに反対していた両親を説得。

働いて金を溜めて武器を買って憧れの存在がいるミクロの【ファミリア】に足を運んだ。

「ダメ、でしょうか……?」

そんな理由で冒険者になってもいいのかという不安が過るがアグライアは微笑む。

「まさか、憧れる存在になりたい。私はとても素敵なことだと思うわよ」

「それじゃ!!」

「ええ、貴女の入団を認めるわ」

その言葉を聞いてセシルは瞳に薄っすらと涙を溜めて勢い良く頭を下げる。

「ありがとうございます!!」

「ふふ、どういたしまして」

頭を下げるセシルに微笑むアグライア。

「貴方に憧れているようですわよ。何か言いたいことはありまして?」

「特にない」

こっちはこっちで通常通りだと苦笑する。

「セシル。貴女を歓迎するわ」

「はい!よろしくお願いします!アグライア様!」

そこでセシルの背中に『恩恵(ファルナ)』を刻まれて【アグライア・ファミリア】の一員となった。

「ミクロ。この子の教育をお願いね」

「わかった」

「よろしくお願いします!お師匠様!」

セシルの教育を師匠であるミクロに任せるとミクロは早速行動する。

「じゃ、早速ダンジョンに行こうか」

「はい!」

歩き出すミクロについて行くセシル。

その二人が見えなくなってからセシシャはアグライアに尋ねる。

「大丈夫なのですか?」

「問題ないわ。ミクロがいればそう問題は起きることはないでしょう」

何故ならミクロの二つ名である【覇者】は畏怖を込められてできた二つ名だからだ。

圧倒的な強さ、敵を倒す為の容赦のなさ。

何事にも恐れないその姿に神々がミクロに与えた二つ名が【覇者】。

神会(デナトゥス)』でミクロにそんな二つ名をつけた時他の神々に思わず大声を上げてしまったがそれは胸にしまっておく。

ミクロは本当は誰よりも優しい素直な子だということは【ファミリア】の皆が知っていることだから。

「いえ、私が言っているのではそちらではなくミクロの教育にセシルが耐えられるかどうかの話ですわ」

「………」

その言葉にアグライアは何も言えなかった。

一方でミクロは弟子であるセシルを連れてダンジョン一階層に足を運んでいた。

「セシルの武器はその鎌だけ?」

「え、は、はい!これが一番しっくりときて」

大鎌を持つセシルを見てミクロは珍しいと思った。

冒険者としていろいろな武器を見てきたミクロにとって大鎌を使う冒険者はセシルが初めてだった。

「ところでお師匠様。今日は何をするのですか?」

「初日だからまずはセシルがどこまで戦えるか見させてもらう」

まずは分析から始める。

そう思ってミクロは前方にいる数体のゴブリンを見つけて小石を拾ってゴブリンに当てるとゴブリンはこちらに気付き向かってくる。

「頑張って」

「はい!不肖ながら頑張らせていただきます!」

向かってくるゴブリンに大鎌を大きく振り上げて襲いかかってくるゴブリンを切り裂く。

『ギャッ!』

「わ!」

だが、大振りすぎたせいかその隙にゴブリンはセシルに接近して爪で攻撃するがセシルは間一髪で躱した。

「えい!」

『ギッ!?』

数歩引いて間合いを取って大鎌を横薙ぎしてゴブリンを倒したセシルは一息。

「やりました!お師匠様!ゴブリンを倒せましたよ!!」

「おめでとう」

初のダンジョンでゴブリンを二体倒せたことに喜ぶセシルにミクロは言う。

「それじゃ、次に行こうか」

「え?」

喜んでいるのも束の間にミクロは首を傾げながら告げる。

「どこまで戦えるか見させてもらうって言ったはず。取りあえずは回復薬(ポーション)抜きで戦い続けようか」

淡々と告げるミクロにセシルは血の気が引いた。

何故ならミクロは倒れるまで戦い続けろと言っているのだから。

「お、お師匠様、倒れるまで戦ったら危ないのでは……?」

「問題ない。死ぬ前には助ける」

死ぬ前まで戦えというミクロの言葉にセシルの顔は青く染まる。

ミクロは団員達に酷烈(スパルタ)と言われているがそんなことはないと思っている。

安全が確保されているのなら動けなくなるまで戦った方が【経験値(エクセリア)】も稼げるし、戦闘経験も得られる。

それなのにまだ自分の脚で動けるのにどうして途中でやめるのかミクロにはわからない。

リューに戦い方を教わった時も基本的に気を失うまで続けた。

なら、同じように教えてもミクロは何の問題もないと踏んでいる。

「あ、大怪我を負っても動けるなら戦った方がいい。いちいち怪我を治す時間を相手は与えてくれないから慣れた方がいい」

「………はい、がんばります」

ミクロを師に選んだのは間違っていただろうか。

不意にセシルの脳裏のその言葉が過る。

ミクロの言葉通りセシルは指一本動けるなるまで戦い続けた。

 

 


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