路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第四十八話

セシルを動けなくなるまで戦わせたミクロはセシルの傷を治して本拠(ホーム)に帰還。

「なるほどね~はい、あ~ん」

それを聞きながら食事を食べさせるアイカにミクロはそれを口にして食べる。

その隣にはテーブルに突っ伏しているセシルの姿に誰もが同情の眼差しを向けた。

「しっかし、物好きもいるもんだね」

「それだけ周囲に対するミクロの影響が大きいということね」

ミクロの憧れを抱いて弟子入りしたセシル。

ある意味物好きであり、ミクロに影響された存在ともいえる。

「しかし、動けなくなるまで戦わせるのは些か酷だ」

「リューに鍛えて貰った時は俺はよく怪我もしたり気も失ったから問題ない」

その言葉に団員全員がリューに視線を向ける。

ミクロの酷烈(スパルタ)の原因はお前のせいかと言わんばかりの視線を向けられて気恥ずかしそうに俯く。

ただ単にリューは手加減が苦手なだけであってそういう風に教えたわけではなかったが今更弁明の余地はない。

「それで~セシルちゃんのこれからの方針は決まったの~?」

「一応」

セシルの戦い方を分析してどこをどう修正しようか既に決まっている。

なら、後はそれを実行するだけ。

「……ハッ、私は何を……」

目を覚ましたセシルは起き上がって周囲を見渡すと食堂だと理解出来た。

「これは~セシルちゃんの分だよ~」

「あ、ありがとうございます……」

取っておいたセシルの分の夕食を渡すアイカだが、やはりアイカの恰好のせいもあって直視できない。

露出が多い服だけでなくスタイルもいいアイカと貧相な自分の体をつい比較してしまう。

いや、スタイルなら他の女性団員達も負け劣らず素晴らしいの一言。

そんなセシルをアイカは胸元に寄せて抱きしめる。

「え?」

突然の事に驚愕するセシルの耳に羨ましいと男性団員の声が聞こえたような気がしたが今はそれどころじゃない。

「よしよし~、まだセシルちゃんは成長期だから~心配することはないよ~」

考えていたことが読まれたかのように優しく耳元に囁かれるアイカの言葉と心地よく包み込まれるような暖かい感覚に疲れていた心身が癒されているような気がした。

頭を撫でられると余計に気持ちよくなり瞼が重くなっていく。

そしてセシルはすやすやとアイカの胸元で眠りについた。

この光景を見た団員達はアイカの包容力に驚嘆する。

そしてアイカは余裕の笑みを女性団員達に見せた。

『女ならこれぐらいの包容力はないといけないよ~』

口には出してはいないがそう言われたような気がした。

「ミクロ君~私はセシルちゃんを寝かせてくるね~」

「お願い。部屋はまだ決まってないからアイカと同じ部屋でもいい?」

「もちろんいいよ~」

アイカはセシルを背負って食堂を出る際に一度振り返って笑みを浮かべて自身の部屋へ連れて行く。

「あれが大人の女の包容力……」

誰かがそう口にすると女性団員全員がそれに静かに頷く。

娼婦だったからこそ身に付いたのかもしれない。

だけど、同じ女としてあそこまで到達するには険しい道を進まなければいけない。

出る前に振り返ったあの顔は圧倒的強者からの挑戦的な笑み。

ここまで辿り着けるかな?

強者(アイカ)からの無言の挑発に女性団員達の表情は険しくなり、何事もないように食事を進めているミクロに視線を向ける。

そして、アイカに対しての対抗心が芽生える。

負ける訳にはいかないと恋心を燃やす。

それとは反対に男性団員達はモテるミクロを見てちくしょうと呻き、涙を流していた。

そのモテる要素を少しでもいいから寄越せと妬ましい視線を向ける。

「?」

しかし、それがわからないミクロはただ首を傾げる。

「ご馳走様」

食事を終わらせてミクロは自室に向かうと魔道具(マジックアイテム)を作製する為まずは設計図から取り掛かる。

今日のセシルの戦闘を見てどうしても足りないものを補わせる為にミクロは羽ペンを動かして設計図を書いていると足りない物に気付く。

超硬金属(アダマンタイト)がいるか……」

作製するにあたってどうしても足りない超硬金属(アダマンタイト)

「フェルズ。聞こえる?」

『君から声をかけられるとはどうした?』

魔道具(マジックアイテム)の水晶を使ってフェルズと交信するミクロはフェルズに尋ねる。

超硬金属(アダマンタイト)が余っているなら少し分けて欲しい」

『ああ、それぐらいなら構わない。杖と一緒に今度君に渡そう』

「ありがとう」

『いや、また何かあれば言って欲しい』

そこで交信を終わらせてミクロは再び羽ペンを動かす。

設計図を書き終えるとどこか不備がないか確認が終えてミクロは中庭に足を運ぶ。

「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう】」

詠唱を唱える。

「【礎となった者の力を我が手に】」

初めての弟子の為に師であるミクロ自身も少しでも上手に教えられるように。

「【アブソルシオン】」

ミクロ自らも使えるようにならなければいけない。

「【鋼の武具を我が身に纏え】」

それは前に倒したディラの武装魔法。

「【ブロープリア】」

魔法を発動させてミクロの手にはセシルが持っているのと同じ大鎌が握られる。

武装魔法は武器や鎧を具現化させて使えることが出来る魔法。

精神力(マインド)がある限り様々な武具を具現化できる。

だけど鎧の硬さや武器の鋭さなどは使い手の想像力に決まることは既に検討済み。

だけど今回は大鎌を使えるようになる為の訓練の為そこまで重視せずただ大鎌を具現化させただけ。

素振りを始めるミクロは一振り一振り感覚を確かめながら身に着けていく。

どうすればもっと早く振れるのか。

どうすればもっと鋭くなるのか。

そう思いながら修正したり、よかったら身に着くまで振り続ける。

その光景をリュー達は窓から見ていた。

「頑張ってるね~ミクロ君」

「ええ、彼は才能に頼らず努力を重ねている」

出会ってから三年の月日が流れてもミクロが鍛錬を怠る日はなかった。

愚直なまでに努力を積み重ねていることは鍛えたリューが一番よく知っている。

「他の皆も~頑張ってるしね~」

食事が終えてからリュコス達や他の団員達も鍛錬を行っている。

少しでも早く強くなる為に自身を磨き続ける。

「リューちゃんも~無理はダメだよ~」

ここにいるリューも密かに鍛えていることをアイカは一目で見破ったがリューは微笑を浮かべながら首を横に振った。

「団長である彼が頑張っているのに私が頑張らない訳にはいかない」

「そうだね~」

リューの言葉に満足気味に頷きながらミクロを眺める。

汗を流しながらも大鎌を振るうミクロを見てアイカは。

「ふふ~後で背中を流しに行かないとね~」

「させません。ミクロの操は私が守ります」

二人とも本気で言っている為どちらも譲る気はない。

笑みを浮かべながら睨み合う二人に遠くからそれを見てしまったアグライアは驚きながらも静かに笑みを浮かべてその場から離れる。

アイカの存在が他の団員達に良い影響を与えていることに喜びながらそろそろミクロにダンジョンに潜ってもいい許可を与えようと考える。

 

 

 

 

 

「お師匠様!おはようございます!!」

「おはよう」

朝早くから中庭に集まる二人。

「朝は何をするのですか?素振りですか?」

昨日の事もあって確認を取るセシルにミクロは首を横に振った。

「朝はセシルの弱点の克服と弱点を補う技術を教えようと思う」

昨日のセシルの戦闘を見てミクロはセシルの弱点を説明する。

「セシルは大鎌の鎌の部分ででしか攻撃していない。貸して」

「あ、はい」

ミクロに大鎌を渡してミクロは構えを取って鎌を振ったり、時折鎌の柄の部分も使って攻撃するようセシルに見せかける。

「何も攻撃が通用するのは鎌の部分だけじゃない。柄の部分も使えば攻撃の範囲も広がるし相手の意表を突くことも出来る」

「な、なるほど……」

感心の声を上げるセシルにミクロは言葉を続ける。

「次にセシルは防御が下手。だけどこれは模擬戦などで自分で考えた方がいい」

「はい、頑張ります!」

「後はサブで武器を持った方がいい。ダンジョンで得物を失うのは死ぬことと同じだから」

昨日の戦闘でセシルは鎌だけでしか攻撃していなかった。

これでは鎌がなくなればセシルは死んでしまうと思ったミクロの助言。

「後、こういう戦闘方法も使えるようになった方がいい」

予め用意しておいた全身型鎧(フルプレート)と向かい合ってミクロは鎌を振るう振りをして投げナイフを全身型鎧(フルプレート)の脚に当てる。

「今みたいに鎌で相手を威圧してその隙に投げナイフや暗器などで足を狙ったりなどして動きを封じたほうが鎌での攻撃もしやすくなる」

「凄い凄い凄いですよ!!流石はお師匠様!!私の駄目な所の改善から次に必要な技術まで教えて下さるなんて!やっぱりお師匠様に弟子入りして正解でした!!」

尊敬の眼差しを向けるセシルにミクロは大鎌をセシルに返す。

「最後のはまだいいから。まずは改善から始めよう」

「はい!」

「朝食までまだ時間があるから取りあえずは素振り千回から始めようか」

「は……い?」

「だから素振り千回」

一瞬とはいえ忘れていた。

ミクロは酷烈(スパルタ)だということを。

「少ない?」

「いえいえいえ!やります!素振り千回やりますよ!」

半分やけぐそ気味に素振りを始めるセシルにミクロもそれに付き合うようにナイフと梅椿を振るう。

昨日は数時間しか潜れなかったが分、今日は回復薬(ポーション)を使って一日中戦わせてみようと考案する。


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