路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第52話

衝突し合うミクロとアイズの必殺技は周囲に影響を及ぼした。

リヴェリアが二人の衝突前に結界を展開させてリュー達を守った。

衝突し合う二人の余波によって木々は薙ぎ払われて砂煙が舞ってしまい視界が阻まれて二人がどうなったのかわからなかった。

「アイズとミクロはどうなったの!?」

「うっさい!私に聞かないでよ!!」

「アイズさん!?」

「ミクロ……」

「お師匠様!!」

まだ見えない二人を心配するリュー達。

時間が経つにつれて砂煙は収まり始めると一つの影が見えた。

ミクロかアイズか。

まだ影しか視認できないリュー達はそのどちかまではわからなかった。

そして、砂煙が完全に収まってその姿を視認できたフィンは静かに勝者の名を口にする。

「この勝負、ミクロ・イヤロスの勝ちとする」

立っていたのはミクロで地に伏せていたのはアイズだった。

「アイズさん!?」

「お師匠様!!」

結界が解かれると同時にリュー達は二人に向かって駆け出す。

ミクロは駆けつけてくれたリューに体を預けるように倒れる。

「もう、動けない……」

最後の一撃で精神疲弊(マインドダウン)寸前まで精神力(マインド)を消費して更に魔法の酷使による反動でミクロは立っているだけでやっとの状態だった。

「お疲れ様です。ゆっくり休んでいてください」

「うん……」

リューに背負われるミクロは大人しくリューに体を預ける。

アイズの方に視線を向けるとアイズもティオナに肩を貸してもらってようやく立っていられる状態だった。

どちらが勝っても負けてもおかしくなかった戦いだった。

「負けちゃった……」

負けたことに悔しそうに呟くアイズ。

「いや、どちらも素晴らしい戦いだったよ。だけど、次からは周囲のことも気にかけてはくれないかな?」

表情は笑っているが目は笑っていないフィンの言葉に二人は周囲を見渡すと周辺が自然災害に会ったかのように荒れ果てていた。

もし、ここがダンジョンでなく地上だと考えるだけで頭が痛くなるフィン達だった。

「ごめん……」

「ごめん、なさい……」

やり過ぎたことに素直に謝罪する二人。

二人から謝罪を受け取ったフィンはそれ以上は何も言わなかった。

「ミクロ!今度はあたしと戦って!」

「私もいいかしら?さっきの戦いを見て私も戦いたくなったわ」

「ケッ」

二人の戦いを見てミクロと戦いたくなったティオナとティオネ。

ベートは苛立つように悪態を吐くがミクロの実力を認めた。

「問題ない。また今度なら」

流石に今日はもう戦えないミクロはティオナ達に今度戦うことを約束する。

「…………」

「むぅ」

セシルとレフィーヤは目が合うとセシルは無言で不敵に笑みを浮かべるとレフィーヤは悔しそうに呻く。

憧憬する二人の戦いは二人にとってこれ以上ないくらいの戦いでもあった。

そして、二人は同時に思った。

この人とは気が合うけど相容れない、と。

憧憬を抱く気持ちは一緒でも憧憬する人が違う。

「……私の名前はセシル。お師匠様の弟子」

「レフィーヤ・ウィリディスです」

笑みを浮かばせながら握手する二人の眼はこいつには負けたくない対抗心に燃えていた。

互いに宿敵(ライバル)と認め合う二人。

「ミクロ・イヤロス。すまないが君の杖を見せてはくれないだろうか?」

「わかった」

リヴェリアの頼みにミクロは『リトス』から魔杖を取り出してそれをリヴェリアに渡す。

「ほう」

感嘆の声を上げるリヴェリアはミクロの魔杖が自分が持つ『マグナ・アルヴス』と変わらない性能を持っていることに気付く。

施されている装飾も取り付けられている魔宝石も杖自体の性能も全てを含めて素晴らしいの一言に尽きる。

魔導士であれば誰もが欲しがるであろう魔杖にセシルと睨み合っていたレフィーヤも思わず見惚れる程。

「ミクロ・イヤロス。これをどこで?」

「母親の形見」

「……そうか、すまない」

「問題ない」

ミクロの言葉を聞いたリヴェリアは謝罪して魔杖をミクロに返す。

「今日は本当に済まなかったね。何か困ったことがあれば言ってくれ。出来る限り力になろう」

アイズの頼みを聞いてくれた礼としてフィンはミクロにそう告げるがミクロは首を横に振った。

「友達の頼みを聞くのは当然」

「……そうか」

当たり前のように言うミクロの言葉にフィンは嬉しそうに微笑を浮かべた。

「……ミクロ。次は私が勝つ」

「次も俺が勝つ」

ティオナに肩を借りながらアイズは再びミクロに再戦を約束する。

この人に勝ちたいという気持ちとアイズの負けず嫌いが発揮。

これはまた苦労しそうだな、とフィンは苦笑を浮かべていた。

こうしてミクロとアイズの戦いはミクロの勝利に終わりを告げてミクロ達は地上に帰還後、フィン達と別れて互いの本拠(ホーム)に帰って来た。

「………」

ミクロは自室で寝転がりながらアイズの事について考えていた。

前回の戦いでミクロはアイズから自分と近い何かを感じた。

それが今回の戦いで、正確にはアイズの魔法を見て何となくわかった気がした。

「……精霊?」

神に最も愛された子供、神の分身。

完全なる不死ではないが何世紀にも及ぶ寿命でエルフ以上の強力な魔法と奇跡の使い手。

アイズの(エアリエル)を見て体が何かを共鳴するような気がしたミクロはそう結論を出すが自分でもおかしいことを言っている自覚はある。

何故ならアイズは間違いなく人間(ヒューマン)

『神々』や『精霊』は神聖な存在感がある上に子を産めない。

仮にアイズが精霊だとしたら見た時すぐにわかる。

なら、答えは一つだけ。

自分と同じようにアイズには精霊の血が流れている。

誰もが聞けばありえないと思われるような言葉だが、ミクロ自身がそのありえない存在の為その可能性は十分に考えられる上に精霊なら前例も存在していた。

『クロッゾ』。

椿からヴェルフという鍛冶師のことを聞いたことがあった。

ヴェルフ・クロッゾの初代はモンスターから精霊を庇い瀕死の重傷を負ったが精霊は自身の血をクロッゾの分け与えて復活した。

そして、神に【恩恵(ファルナ)】を授かったことによりスキルが発現。

強力な魔剣を打てるようになった。

ヴェルフ・クロッゾは精霊の血筋を受け継いでいると椿がそう言っていた。

神血(イコル)がその身に流れている少年(ミクロ)

精霊の血が流れている少女(アイズ)

前に感じたのは互いに流れている血が共鳴したせいだったかもしれないと結論を出した。

「ま、いっか」

結論を出したミクロはそれ以上はどうでもよさそうに寝返る。

例えアイズに精霊の血が流れていようがアイズはアイズ。

自分が気にかけるようなことは何一つない。

それよりもこれからのダンジョン探索をどうするかやセシルをどう鍛えて行こうなどの方が重要だと判断した。

ダンジョン探索に関しては話し合いは既に終えている。

しばらくは37階層辺りで踏み止まって団員のLv.がある程度上がってからその先に進むことになった。

【アグライア・ファミリア】の団員はまだLv.1の方が多い。

最低でももう何人かは【ランクアップ】を果たすまで踏み止まり深追いはしないと話が纏まっていた。

明日からはセシルを重点的に鍛え上げて行こう考えていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「ミクロ君~いいかな~?」

「問題ない」

「お邪魔しま~す」

寝間着姿のアイカが部屋に入って来てアイカはミクロの隣に寝転がる。

ミクロは特に気にも止めずそのまま寝ようとする。

「ふふ~お休み~」

「お休み」

アイカに抱き着かれながらミクロは眠りについた。

 


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