路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第54話

「ぅぅぅぅ……どうしよう………」

自室でセシルは頭を抱えながら部屋に置かれている革鎧(レザーアーマー)とマントに視線を向ける。

ミクロがセシルの為に用意してくれた防具。

とてもありがたいと思いつつもこんな立派な物を自分が装備していいのかと不安が走る。

深層の素材を作られた防具は下級冒険者である自分が装備していいわけがない。

だけど、師であるミクロがセシルの為に用意してくれた防具を無下に扱うことはできない。

今でさえ立派な武器と魔道具(マジックアイテム)を貰った上に今度は防具まで。

凄く申し訳ないと思いつつでもこんな立派な物を頂いたことに嬉しくもあるけど本当にいいのかという不安がある。

「何か、貰ってばっかり……」

武器も防具も全てはミクロから頂いている。

弟子だからと理由で本当に頂いていいのだろうか?

自分はまだLv.1の冒険者だということは重々承知している。

なら、身の丈あった装備を身に着けるのが当たり前だ。

「でも、お師匠様が私の為に用意してくれたし……」

どうすればいいのかと悩む。

悩みに悩んだ末セシルは一睡もできなかった。

「……おはようございます」

「大丈夫?」

「……大丈夫です」

眼の下に隈ができているセシルにミクロは声をかけるがどう見ても大丈夫そうには見えなかった。

「今日は休む?」

流石のミクロも今の状態のセシルにいつもの訓練は厳しいと思い休みを取るか尋ねる。

「いえ……お師匠様が時間を割いて頂いているのに私が休むわけには……」

「休もうか」

だけど、ミクロは強制的にセシルを休ませる。

今のセシルの状態で訓練は危ないと判断したミクロはセシルを部屋まで運ぶとミクロはせっかくできた時間を自分の訓練に使うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、私は……」

「目が覚めたかな~?」

「アイカさん……」

目を覚ますとすぐ隣にアイカが椅子に座っていた。

「よく眠れたみたいだね~」

窓の外から差す陽の光を見て時間はもう正午を回っていることに気付いた。

自分が不甲斐無いばかりにせっかくの朝の訓練を無駄にしてしまい、何より師であるミクロに迷惑をかけてしまった。

申し訳ない気持ちで一杯だった。

「何か悩み事あればお姉さんに話してみないかな~?」

微笑みながら悩みを聞こうと声をかけるアイカに少し悩んでセシルは口を開く。

「実は……」

「うんうん、ミクロ君に新しい防具を頂いたけど~自分には身の丈合わない防具を本当に自分が装備していいのかわからないセシルちゃんは~どんな悩み事があるのかな~?」

「………」

悩み事を口に出す前に悩みの原因をあっさりと看破して告げられた。

アイカは本当に人の心でも読めるのではないかと疑った。

「そんなことないよ~」

考えた言葉でさえ返事をされたセシルはもう観念したかのようにアイカに相談に乗ってもらうことにした。

「私、お師匠様に貰ってばっかりですし、それに私なんかがあんな立派な物を身に着けていいのかどうかわからないのです。それに弟子という理由で貰うのも他の団員の方にも申し訳がなくて………」

他の団員達は基本的は自分達で装備を整えたりしている。

ある程度は【ファミリア】の資金も使われているがそれは本当に少しだけであって殆どは自分で得た収入で武器や防具を買っている。

だけど、セシルは違う。

前に使っていた大鎌は自分で手に入れた物だったが今使っている大鎌はミクロから頂いた物でそこに防具までも加わった。

弟子という立場と理由で甘えてもいいのか。

その悩みをアイカに打ち明けるとアイカは優しくセシルを抱きしめる。

「よしよし~、セシルちゃんはいい子だね~」

「ア、アイカさん……?」

抱きしめられて頭を撫でられるセシルにアイカは優しい声音で言う。

「大丈夫だよ。皆もそんなこと気にしてないからね」

確信に満ちた言葉を告げるアイカ。

「セシルちゃんがミクロ君の次に努力しているのは皆知っているよ。頑張っている子はご褒美を貰うのは当然でしょ?」

団員達は全員知っている。

セシルがミクロの酷烈(スパルタ)に耐えて努力を重ねていることを。

そんなセシルを見て自分ももっと頑張らなければと気合を入れる者もいる。

セシルの頑張っている姿が団員達に良い影響を与えていることをアイカは知っている。

だから努力しているセシルにはご褒美があるのは当然だとアイカは告げた。

「それにミクロ君がセシルちゃんの為に用意してくれた物なんだから身の丈が合わないなんて理由で装備しなかったらミクロ君きっと悲しむから着てあげてね。あ、でも、そんなミクロ君を慰めるのも一つの手かな?」

ミクロの好感度を上げるという意味で割と本気でそう考えたアイカの言葉にセシルは微笑を浮かべた。

「やっと笑ってくれたね~」

先程の難しい顔から笑顔が生まれたことにアイカも嬉しそうに微笑む。

「アイカさんって本当にお姉さんみたいです」

「ふふ~お姉ちゃんって呼んでもいいよ~」

「うん、アイカお姉ちゃん」

(アイカ)に甘えるように抱き着く(セシル)

落ち着きを取り戻したセシルが早速ミクロが用意してくれた防具を身に着ける。

「ど、どうかな?」

純白の革鎧(レザーアーマー)とマントに包まれてその手には漆黒の大鎌を手に持つ。

「うんうん、似合ってるよ~」

(アイカ)に褒められたセシルは嬉恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。

アイカはそんな初々しいセシルが可愛いと思った。

「そ、それじゃ、朝できなかった分をしてくるね」

「頑張って~」

嬉恥ずかしい気持ちを誤魔化す様に部屋を出ていくセシルを見送るアイカ。

セシルは朝に出来なかった分を行う為中庭に足を運んで素振りから始める。

「あ、セシル。今日は団長と一緒じゃないの?」

「フールさんにスィーラさん…」

中庭で素振りをしている最中に寄って来た二人に素振りを一時中断。

「装備変えたんだね。凄く似合ってるよ」

「ええ、とてもお似合いです」

「あ、ありがとうございます……」

褒められて嬉しく思うセシルの頬は若干朱色に染まる。

「それにしてもセシルも凄いよね。団長の酷烈(スパルタ)を毎日するなんて私達にはできなかったよ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、数日で根を上げて自分で鍛錬を行うようになりましたね」

「それを半年以上もしているセシルは本当に凄いし、努力しているよ」

「あ、ありがとうございます!」

先輩でありLv.2の上級冒険者である二人に褒められたセシル。

自分の努力が皆に認められているような気がして凄く嬉しかった。

「あ、あの、お時間がよろしければ模擬戦の相手をしては頂けませんか?」

いつもは朝でミクロと模擬戦を行っているが今はミクロがいない以上他の誰かに頼まなければならないセシルは二人に懇願する。

「んー、今日は特にすることはなかったよね?」

「ええ、鍛錬も終わりましたしよろしいのでは?」

二人は今日はダンジョンに潜らずに自己鍛錬を先ほどまで行っていた。

なら、後輩の頼みを聞くのも先輩の務めということでフールがセシルの相手をすることになった。

「宜しくお願いします!」

「よろしくね」

大鎌と短剣を構える二人を見てスィーラが宣言する。

「それでは始めてください」

開始早々フールは駆け出すとセシルはフールを見て違和感を感じた。

速いけど遅いという違和感。

速いとは思うけどフールの動きが遅く感じてしまう。

「っ!?」

短剣で攻撃するフールの短剣をセシルは回避して大鎌を振るうがフールは背を屈めて回避して短剣でセシルを突く。

「わわっ!」

だけど、セシルは体をズラして避けた。

回避したセシルを見てフールはありえないと思った。

セシルはLv.1で自分はLv.2。

最初の一撃は手加減した攻撃だが今の突きは本気で突いたにも関わらずセシルは回避した。

ギリギリで危なっかしくはあったが確かに回避したセシルを見てフールは普段から団長にどんな酷烈(スパルタ)特訓を受けているのかと内心苦笑した。

「団長……」

貴方はどれほどセシルを苛めているのですか、と内心で呟く。

だけど、それと同時にその特訓に耐え抜いているセシルは本当に強いと思ったフールは下手に手加減をすればこちらが負けると判断して本気を出すことにした。

「行くよ!」

「はい!」

向かってくるフールを見てセシルは少しだけ自信が出てきた。

普段の厳しい訓練の成果が出ていることに。

だけど、善戦するもセシルはフールに敗北してしまった。

やはり、Lv.の差は大きいと改めて実感したセシルだった。

「ま、参りました……」

「ふぅ、危なかった……」

息を荒くして中庭に上向きになるセシルと呼吸を乱してはいるがまだ余力があるフール。

「スィーラ。ごめん、今からダンジョンに付き合って」

「ええ、私もそう思ってました」

セシルを見て熱が入った二人はそこでセシルと別れてダンジョンに向かうことにした。

「よし、まずは【ランクアップ】を目指そう」

フールと戦ってまずは手短な目標として【ランクアップ】を目指すことにした。

前に出会った同じ憧憬を抱くレフィーヤ既にLv.3に対して自分はまだLv.1の駆け出しもいいところ。

まずはLv.2を目指して次にレフィーヤと同じLv.3を目標にする。

ミクロの弟子として恥ずかしくない存在にならなければと意気込むセシルは気合を入れ直してもう一度一から素振りを始める。

「セシル」

「お師匠様…」

素振りをしているところにミクロが現れてセシルは頭を下げる。

「今朝は申し訳ございません!」

「問題ない。それと似合ってる」

用意してくれた防具を見てミクロはそう言うとセシルは再び頭を下げて礼を言う。

「はい!ありがとうございます!お師匠様から頂いた武具を一生大切にします!」

「ありがとう。それじゃ今日からはいつもと違う訓練をするからまずは10階層に行こう」

「はい!」

新しい訓練を行う為にセシルはミクロについて行きダンジョンに潜って10階層を目指している途中でミクロはセシルに尋ねる。

「セシルは魔法を覚える気はない?」

「魔法ですか?」

訊き返すセシルの言葉に頷くミクロ。

魔導書(グリモア)まだ数冊残っているミクロはまだ魔法を覚えていないセシルに魔法を覚えさせようと思いそう尋ねるがセシルは首を横に振った。

「いえ、これ以上お師匠様に甘える訳にはいけません!魔法は自分の力で発現させてみせます!」

武器も防具もミクロから頂いた物。

これ以上甘える訳にはいかず、せめて魔法は自分の力で発現させてみせる。

「わかった」

セシルの意思を尊重してミクロはそれ以上は言わなかった。

モンスターを倒しつつ目標である10階層に到着した二人。

セシルに至っては初めてきた10階層に周囲を見渡す。

朝霧のような霧が立ちこめている10階層。

ここからは大型のモンスターや迷宮の武器庫(ランドフォーム)というモンスターに提供する天然武器もある。

緊張で唾を飲み込むセシルは10階層に足を踏み込むとすぐに大鎌を構える。

「本当に危険だったら助けるから頑張れ」

そう言ってミクロは『リトス』に収納しているある物を周囲にばら撒く。

「え?」

それを見たセシルは素っ頓狂な声を出す。

ミクロがばら撒いた物は下級冒険者でも知っているありふれた物の一つだったからだ。

鼻に襲う異臭は狩りの効率を上げるためにモンスターを誘き寄せるトラップアイテム。

モンスターの食欲を刺激させて設置した周囲におびき寄せる血肉。

それを見たセシルの顔は一気に青ざめてミクロの方に視線を向けるがそこにミクロはいなかった。

その代わりと言わんばかりに大きな足音が複数近づいて来た。

『ブグッゥゥゥゥ……』

始めて遭遇する大型級のモンスター『オーク』。

それも四体が涎を垂らしながら近づいて来た。

初めての大型のモンスターに恐怖で手が震えるが大きく息を吸って気持ちを落ち着かせる。

ただ大きいだけで自分はこんなモンスターよりずっと強い人に鍛えられてきた。

その人の元でずっと努力を重ねてきた。

何よりこんなところで立ち止まる余裕なんてセシルにはなかった。

「やああああああああああああああああああああああッッ!!」

『ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

弱い自分を追い出す様に叫ぶセシルはオーク目掛けて突進する。

オークはそんなセシルを迎え撃つように雄叫びを上げる。

憧憬するミクロに少しでも近づくためにセシルは駆け出す。

 

 

 


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