路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第58話

「………」

岩に背を預けているミクロはゆっくりと目を開ける。

体力を少しでも回復する為に睡眠を取っていたミクロは僅かな気配の動きを察知して目を覚ました。

昨日よりも多く睡眠が取れたと思いながら神経を研ぎ澄ませる。

その時、ミクロの頭上から氷塊が降って来た。

氷塊の影を利用して『スキアー』で回避するミクロは背後から迫りくるエスレアの攻撃を防ぐ。

「よく反応した!」

気配を消してミクロの背後から攻撃したエスレアは自分をしっかりと捉えていたミクロを褒めながら長剣を振るう。

ナイフと梅椿でエスレアの攻撃を防ぎながらミクロはエスレアの動きを予測して最小限の回避行動で体力の消費を抑える。

「これも躱せるか!?」

エスレアの周囲から氷の飛礫(つぶて)が召喚される。

エスレアのスキル『氷魔召喚(イエロサモン)』。

精神力(マインド)を消費することで氷を召喚することが出来る。

詠唱が要らない魔法のようなスキルは間違いなくレアスキル。

召喚する氷を自在に操るエスレアは氷の飛礫は真っ直ぐミクロに襲いかかるがミクロはすぐに『ヴェロス』で氷の飛礫を撃ち落とす。

「いいぞ、いい感じにお前は強くなってきている!その調子でもっと強くなれ!」

ミクロが強くなっていくことに喜びの声を上げるエスレアの攻撃の過激さが増す。

ミクロが【ファミリア】から離れて早十ヶ月。

ダンジョン深層域でミクロはエスレアとずっと戦い続けている。

死んだらそれまでということでエスレアは実戦方式でミクロを鍛えている。

食事も睡眠も戦いの中で取りながら二人は十ヶ月間戦い続けている。

エスレアにもモンスターからにも常に周囲を警戒しなければ死んでしまうという極限状態に晒されながらもミクロは生きてエスレアの訓練に耐え続けている。

強くなって【ファミリア】を仲間を守る。

その確固な決意を胸に秘めてミクロはエスレアと戦い続けていた。

「そこだっ!」

エスレアの蹴りがミクロに直撃してミクロは岩盤に叩きつけられる。

「追加だ!」

そこにエスレアは氷塊を召喚してミクロに追撃する。

「【駆け翔べ】!」

咄嗟の判断でミクロは魔法を発動させて白緑色の風を纏って氷塊を回避してエスレアに接近する。

「便利な風だな!」

接近するミクロに長剣を振り下ろすエスレアにミクロはナイフと梅椿を交差させて防御して振り払ってエスレアに斬りかかるがエスレアは体を捻らせてそれを躱す。

「いい攻撃だがまだ甘い」

躱したと同時にエスレアは回し蹴り。

ミクロは壁に叩きつけられるがそこにエスレアの追撃が来ないことを疑問を抱いた。

魔法か何か別の何かと警戒するミクロにエスレアは長剣を鞘に納める。

「ここまでだ」

十ヶ月間戦い続けたエスレアはここでミクロの修行を完了させた。

「……何故このタイミングで?」

一時も止めることなく戦い続けてきたにも関わらず唐突ともいえるこのタイミングでミクロの修行は完了した。

「お前は強くなった。少なくとも私に傷を負わせるぐらいにはな」

右頬を見せるとそこには僅かだが傷ができていた。

「合格だ。お前は地上に戻って【ステイタス】を更新させて37階層に来い。そこで私は待っている」

踵を返してこの場から去ろうとするエスレアは一度足を止めて振り返る。

「お前との戦いを楽しみにしている」

笑みを浮かべるエスレアはそれだけを告げてその場から姿を消える。

ミクロもいつまでも深層域に留まれば命に関わる為すぐに移動する。

魔道具(マジックアイテム)で姿を消してモンスターの戦闘を最小限に抑えてミクロは下層まで戻り、一度18階層で休憩を取ってから地上に帰還した。

十ヶ月振りに見て陽の光を全身に浴びるミクロは生きて帰って来れたと安堵する。

「やっと、帰って来れた……」

修行を終えて地上に帰って来たミクロは駆け足で自分の本拠(ホーム)を目指す。

どれだけ強くなれたかはわからないけど今はただ皆の元に帰りたかった。

次第に近づく【ファミリア】本拠(ホーム)にミクロはあることに気付いた。

本当に帰ってもいいのだろうかと。

ミクロはこの十ヶ月間仲間を守る為に修行をしてきた。

だが、十ヶ月間【ファミリア】を放置してきたのも事実。

いくらリューに任せてきたとはいえ、ミクロは勝手な理由で離れていた。

前のように過ごせるか、嫌われてはいないのだろうかとミクロは気付いた。

不安を感じながらもミクロは本拠(ホーム)の門の前まで帰って来た。

でも、その門を開けることを躊躇ってしまう。

不安と恐怖で立ち竦むミクロは門を開けるどころか一歩踏み出すこともできない。

前なら簡単に開けられた門がこんなにも大きく重く見えてしまう。

この場から逃げ出したいそう思ってしまう。

「……お師匠様?」

聞き覚えのある声に振り返るとそこにはセシルが立っていた。

「セシル……」

「お師匠様!!」

十ヶ月振りに再開したセシルはミクロに駆け寄って抱き着く。

「今まで……どこに行ってたんですか………心配、しました………」

「……ごめん」

ミクロの胸に頭をえぐりこみながら涙を流すセシルにミクロは謝罪して頭を撫でる。

「心配かけた……」

「……おかえりなさいませ、お師匠様………」

「ただいま」

再会を果たす師弟ミクロとセシル。

ミクロは今初めて帰って来れたと思えた。

不安も恐怖も消えたミクロはセシルと共に門を開けて本拠(ホーム)に帰って来た。

「団長!?団長ですか!?」

「何!?団長は帰って来たのか!?」

「皆!団長が帰って来たぞ!!」

ミクロが本拠(ホーム)内に入ると次々に団員達がミクロの前に現れる。

「今までどこに行っていたんですか!?」

「団長!よく帰って来た!」

「皆、団長の帰りを待っていました!!」

離れていたことに怒る者、帰って来たことに喜ぶ者、帰ってくることを信じてくれた者。

団員達はミクロが帰ってくるのを待っていたかのように騒ぎだす。

「あら、やっと帰ってきましたの?」

「ミクロ君、お帰り~」

「セシシャ、アイカ……」

十ヶ月前と変わらない態度でミクロの帰りを労う二人。

アイカは早速と言わんばかりにミクロに抱き着く。

「お帰りなさい」

「強くなったんだろうね?」

「パルフェ、リュコス……」

「アイカ!ミクロから離れなさい!」

「え~、やだ~」

「ティヒア…」

歩み寄ってくるパルフェ達にミクロからアイカを引き剥がそうとするティヒア。

暖かくも懐かしい本拠(ホーム)と仲間達に囲まれるミクロ。

すると、団員達の間を割ってミクロに歩み寄って来た一人のエルフ、リュー。

「………」

無言でミクロの傍まで歩み寄るとリューはミクロの頬を叩く。

乾いた音が本拠(ホーム)内に鳴り響き、騒いでいた団員達は一斉に静かになる。

「……これで貴方を叩いたのは三回目だ」

一回目は路地裏で初めて出会った時。

二回目はリューの代わりにアリーゼ達の仇を取った時。

そして今回で三回目。

「……四回目はないようにしてください」

「……ごめん」

もう心配をかけさせないでほしいというリューの気持ちを察してミクロは素直に謝罪した。

謝罪を聞いたリューは微笑を浮かべてミクロに言う。

「お帰りなさい」

「ただいま」

『団長が笑った!?』

始めて見たミクロの笑顔に団員達は驚愕の声を上げるがミクロはすぐにいつもの表情に戻る。

帰ってくるまでの締め付けられるような気持ちが不安と恐怖で今、胸にあるこの暖かい気持ちが嬉しいという感情だとミクロは理解した。

「お帰りなさい、ミクロ」

「ただいま、アグライア」

主神のアグライアに帰ってきたことを報告してミクロは早速【ステイタス】の更新を行って貰うとアグライアは更新したミクロの【ステイタス】を見て目を見開く。

 

ミクロ・イヤロス

Lv.5

力:SS1023

耐久:SSS1378

器用:SSS1287

敏捷:SSS1256

魔力:SSS1298

堅牢:E

神秘:G

精癒:G

適応:H

 

SSSというアビリティの限界突破。

始めて見るアビリティの限界突破にミクロはこの十ヶ月間何をしてきたのか想像も出来なかったがきっと過酷なんて生易しいと呼べるほどの修行を積んできたとアグライアは推測した。

取りあえずは更新した【ステイタス】を用紙に写してそれをミクロに見せるが特に何も言わずに用紙を捨てる。

ああ、この辺は変わっていないと内心で苦笑しているとミクロはアグライアに告げる。

「アグライア。明日戦ってくる」

エスレアという乗り越えなければならない障害。

きっとエスレアを倒さない限りこの先を進むことが出来ない。

だからミクロはこの先を進む為にもエスレアと決着をつける。

その決意を汲み取りアグライアは一言だけミクロに告げる。

「生きて勝って来なさい」

「当然」

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