十ヶ月の修行を終えたミクロはエスレアとの決着をつける為にリュー達と共に37階層に足を運ぶとそこにはエスレアが待ち構えていたように立っていた。
「よく来た」
「ああ」
エスレアの言葉にミクロは前に進むと一度振り返る。
「行ってくる」
その言葉にリュー達は頷いて応える。
ミクロはエスレアの近くまで足を運ぶとエスレアはミクロの強い眼差しを見て笑みを深めた。
自分が絶対に勝つという自信に満ちた目をしていることに気付いたエスレアは
「別れは済ませたか?」
「俺が勝つからその必要はない」
皮肉を込めて軽口を言うがミクロは素っ気なく返した。
ナイフと梅椿を構えて神経を研ぎ澄ませていることはエスレアも気付いている。
修行中とは比べ物にならない程の集中力をエスレアに向けている。
どのような攻撃にも対処できるように一瞬の動きも見逃さないようと。
「面白い」
そんなミクロを見てエスレアも長剣を鞘から抜く。
ミクロを鍛えて良かったと言わざるを得ないとばかりにエスレアの瞳はミクロを見据える。
「いい眼だ。
エスレアはミクロを強敵と認めて破壊の対象として捉える。
「壊れるのはお前だ、エスレア」
「ではどちらが
互いに得物を構えて二人は同時に動き出す。
動き出すと同時に最初に驚いたのはエスレアだった。
同時に動き出したはずなのにミクロの方が先に攻撃を仕掛けてきた。
ナイフと梅椿から放たれる斬撃にエスレアは防戦を強いられる。
速く、鋭く、重いミクロの連撃はエスレアの反撃も許さないように怒涛に攻め続ける。
だが、エスレアが驚いたのはそこではない。
いや、それにも十分に驚かされているがそれ以上に自分が攻撃をする前に攻撃を封じられているミクロの瞬速の読みと駆け引きに驚きを隠せれなかった。
まるでこちらの動きが読まれているかのような動きをするミクロにエスレアは防御しながらもその理由に気が付いた。
「修行中の時から私の動きを把握していたのか!」
「ああ」
ミクロは修行中の時には既にエスレアの動きを把握していた。
だが、いくら把握できても体がついてこれなかった。
その為、防御、回避は出来てもそこから攻撃することは出来なかったが今のミクロは違う。
【ステイタス】を更新された今のミクロならエスレアと互角以上に戦える。
このまま押し切ろうとするミクロだがそう簡単に倒せる相手ではないことはミクロ自身が良く知っている。
エスレアの長剣がミクロの頬を掠める。
「今度は私の番だ」
ミクロがエスレアの動きを把握しているようにエスレアもミクロの動きを把握している。
虚を突かれたことに驚いたがそうとわかれば大したことではないエスレアは今度は自分から攻め始める。
怒号の連撃に今度はミクロが防戦を強いられる
だが、それを予測していないミクロではない。
「剣を捨てろ」
「ッ!?」
エスレアは自分から長剣を手放したことにエスレア自身も驚愕する。
ミクロは防戦中に『フォボス』をエスレアの視界に入れて暗示をかけた。
それによりエスレアは自分から長剣を手放したその隙を利用してミクロはエスレアに斬りかかる。
「まだそんな
エスレアは自身の身体から氷を召喚させてミクロの攻撃を防御した。
「だが、隠していたのはお前だけではない」
エスレアの回し蹴りがミクロの腹部に直撃して壁に叩きつけられる。
「私のこのスキルはどこからでも氷を召喚することができる。今のように体から氷を召喚して即席の氷の鎧を作ることも可能と同時に」
エスレアに蹴られたところから血が溢れ出るミクロ。
「氷の武器も作ることもできる」
エスレアの脚に氷の棘が纏わり、棘の先端には血が付着していた。
回し蹴りをする直前に脚に氷の棘を召喚させて纏わせて殺傷能力を高めて攻撃した。
修行中では一度も見せなかったエスレアの隠し玉。
予想以上に厄介極まりないスキルにミクロは眼帯を取り外す。
それと同時にミクロはスキルも発動した。
ドクン、と心臓が跳ね上がるように鳴り、壊したいという衝動に駆られる。
『
ミクロに変化に気付いたエスレアは挑発するように手招きする。
「来い」
直後――――ミクロは地面を粉砕し、エスレアへ砲弾のごとく爆走した。
先ほどとは違う圧倒的身体能力にエスレアは歓喜の声を上げる。
「いいぞ、いいぞ!その調子でもっと私を楽しませろ!!」
跳ね上がるように強くなったミクロの攻撃を捌きながら攻撃を繰り出すエスレアに対してミクロは防御を無視して攻撃する。
傷を負いながらも攻撃するミクロにエスレアは氷の鎧を身に纏うが鋭さが増したミクロの攻撃はその氷の鎧を砕く。
「ぐ……!!」
氷の鎧ごと攻撃を受けたエスレアは後方に吹き飛ばされるがすぐに体勢を整えてミクロの頭上に氷の氷塊を召喚するがミクロはそれを回避する。
しかし、その回避した先には既にエスレアが待ち構えていた。
長剣を振り払うエスレアにミクロは身を屈めて回避するがそれを読んでいたかのようにエスレアの蹴りが炸裂。
「これはどうだ!?」
上空に蹴り上げられたミクロの周囲に氷の
「――――『アリーゼ』」
ミクロは『アリーゼ』を発動させて宙を蹴って一部の氷の飛礫を破壊して致命傷を裂けることに成功した。
ミクロの脚にはいつも履いている『スキアー』ではなくリューに与えた『アリーゼ』が装着されている。
影で移動できることは既にエスレアも承知している為ミクロは万が一のことも考えて『スキアー』から『アリーゼ』に履き替えていた。
その万が一の警戒が役に立ち何とかなったミクロは地面に着地する。
「なかなかどうして楽しませてくれる!本当にお前は
Lv.6であるエスレアと互角に渡り合えているミクロ。
そんなミクロとの戦いをエスレアは心から楽しんでいる。
「………」
それに対してミクロは神経を研ぎ澄ませたままエスレアを捉える。
エスレアの実力は身を持って修行中に思い知らされたミクロだからこそ知っている。
エスレアはまだ何か隠していることに。
「だが、残念なことに楽しむ時間はすぐに終わるからこそ楽しいものだ」
それは言外に終わりにしようと告げるエスレアは詠唱を唱えた。
「【雪原の白き前触れは全てを凍結して崩壊へと誘う】」
エスレアの足元から青色の
詠唱を止めようと駆け出すミクロはエスレアに攻撃するがエスレアは攻防を繰り広げながらも詠唱を続けた。
「【
並行詠唱を行うエスレアは詠唱を続けるに対してミクロは距離を取る。
「【砕け散る者にせめてもの慈悲と美景を与えよう】」
「【駆け翔べ】!」
エスレアから大幅に距離を取ったミクロは詠唱を唱えて魔法を発動する。
「【無常の吹雪が汝を冥府に導く】」
エスレアは詠唱を終わらせえ魔法を発動する。
「【フルフォース】!」
「【アースフィア・スファト】!」
白緑色の風を纏うミクロに対してエスレアが放ったのは回避不可能のブリザード。
触れた者を全て凍結させる絶対零度の凍結魔法。
「全開放!」
回避不可能のブリザードにミクロは白緑色の風を体に纏って正面から突貫する。
「愚かな」
自分の放つ最大魔法に無謀にも突貫するミクロにエスレアは落胆した。
いくら風を纏おうと超短文詠唱で発動した魔法に負ける道理はない。
風ごとその身も凍らせ崩壊する。
「あああああああああああああああああああああああああッッ!!」
「なっ!?」
咆哮を上げてブリザードを突破したミクロにエスレアは驚愕する。
ありえないとそう思った時、ミクロの左手には見覚えのある魔杖が握られていた。
「そうか!お前はあの二人の血を受け継いでいるんだったな!!」
ミクロは無謀にブリザードに突貫したわけではない。
回避不可能なほども広範囲の魔法を見てミクロは避けれるのが不可能と即断してエスレアの魔法の一点に集中して突貫した。
そうすることで下手に避けるよりも
『リトス』から魔杖を取り出して魔法の力を強化させてミクロはブリザードを突破した。
無論、無傷というわけではない。
身体の至る所に凍傷を負い、
普通なら魔法に向かって突貫するなんて無謀極まりないことはしない。
どう回避、防御するかを考えるが普通だ。
だが、ミクロは回避も防御も不可能と即断してブリザードに突貫して生き永らえた。
刹那の時間の中で判断、実行したミクロの行動力をエスレアは評価した。
あと一秒でも遅れていれば今頃は勝敗は決していた。
常識に囚われない発想力に行動力を見せたミクロにエスレアは懐かしく感じた。
【シヴァ・ファミリア】最強の二人、へレスとシャルロット。
壊せないものはないと呼ばれるぐらい目の前の障害を破壊してきたへレス。
如何なるものでも壊すことが出来ない不滅とまで呼ばれたシャルロット。
二人揃って【シヴァ・ファミリア】最強の矛と盾。
その二人の血を受け継いでいるミクロにエスレアは長剣を構える。
「面白い!」
同じ魔法を放てるほどの
二人に残された方法は自分の手で敵を倒す。
再びぶつかり合う二人の得物に高い金属音が鳴り響く。
ミクロは魔杖を捨てて梅椿を抜刀してナイフと梅椿でエスレアの攻撃を捌きながら反撃するがエスレアも同様に捌きながら攻撃を繰り出す。
「ここまで戦えるとは予想していなかったぞ!」
満身創痍でありながらも互角以上に戦いを続けるミクロに対する正直な気持ちだった。
「だが!」
ミクロのナイフと梅椿が宙を舞い、無防備になったミクロ。
「これで終わりだ!」
得物を失い無防備になるミクロに止めをさす為に心臓に狙いを定めてミクロに突き刺さる。
「……お前ならそこを狙ってくると思っていた」
「な…ッ」
確かにエスレアの長剣はミクロの胸元に突き刺さった。
だが、心臓にまでは到達することはできなかった。
驚愕するエスレアの隙を見逃さずにミクロは隠し持っていた氷の棘をエスレアの胸元に突き刺した。
「かは……」
血を吐き出して膝をつくエスレアは自分の胸に刺さっている氷の棘を見て気付いた。
ミクロを蹴った時に脚に氷の棘を纏わせていた。
これはその時のものだとすぐに理解した。
「手に入れたのは偶然だけど、武器にも使えると聞いて持っていた」
ミクロは蹴られたと同時に偶然にも氷の棘が一本折れて自身の体に突き刺さっていた。
エスレアから氷の武器も作れると聞いてそれを隠し持っていた。
「……ふ、用意周到なことだ……」
顔を上げて視線をミクロの胸元に向けるとそこには鎖が巻き付いていた。
「私が
「お前なら止めに心臓を狙ってくると思った。それだけだ」
ミクロはエスレアと戦う前から鎖分銅を胸元に巻き付けていた。
それが鎧の役割を果たしてエスレアの長剣を防ぐことが出来た。
「それにこれぐらいの賭けをしなければお前には勝てない」
万が一に狙いが喉や頭などだったらミクロは間違いなく死んでいた。
だけど、それぐらいの賭けを行わなければ勝てない程エスレアは強敵だった。
それでもミクロは賭けに勝ってエスレアに勝利した。
「………なるほど、私は賭けに負けたということか」
目を閉じて闘気を消すエスレアにミクロはエスレアに戦う気がなくなったと判断してナイフと梅椿を拾ってリュー達に告げる。
「勝った」
その言葉を聞いて喜び、安堵するリュー達はミクロに駆け寄る。
「……いい仲間に巡り合えているのだな」
「ああ」
微笑を浮かべながら言うエスレアにミクロは返答する。
「だが、詰めが甘い。隙を見せてどうする?」
「ミクロ!?」
突然、声を荒げるリューにミクロは振り返るとエスレアは氷の短剣を召喚して振り下ろそうとしていた。
「相手が死ぬまで警戒を解くな」
自身の心臓に目掛けてエスレアは短剣を突き刺した。
自害したエスレアはその場に仰向けになるように倒れる。
「何で……?」
自ら死を選んだエスレアの行動に理解出来なかったミクロにエスレアは答えた。
「………どうせ、生きたところでこの戦い以上の悦びはない。なら、ここで死んだほうがいい思い出を持って地獄に行ける」
これ以上の楽しい戦いはないと判断したエスレアはこの先つまらない人生を送るぐらいならここで死を選んだ。
深々と突き刺さっている氷の短剣は消えてそこから更に血が噴き出す。
「私に……勝った褒美として聞け……Lv.7になれ、ミクロ………そうでなければ、団長に勝つことは困難だ………あいつは正真正銘の化け物だ。……【猛者】と引き分けるほどのな」
オラリオ最強の冒険者、【猛者】オッタル。
オラリオで唯一のLv.7の冒険者。
へレスはその【猛者】と引き分ける程の実力者と知らされた。
「お前のこの先を……地獄で見届ける……」
エスレアの瞳から光が消えた。
「………」
ミクロはエスレアを瞼を閉じて目を閉じさせる。
「鍛えてくれてありがとう」
理由はどうであれ鍛えてくれたことに感謝の言葉を述べる。
エスレアを抱えてミクロはリュー達に告げる。
「帰ろう。俺達の
ミクロ達は地上に帰還する。
エスレアとの決戦から数日後。
ミクロはLv.6になったことに都市は騒めく中でミクロはリューと共に18階層にあるアリーゼ達の墓参りに来ていた。
「アリーゼ、俺はLv.6になった」
花を供えて簡潔にそう告げるミクロ。
「まだまだ足りない所もあるけどリュー達と一緒にこれからも頑張って行く」
「ミクロには私達がついていますから安心してください」
二人は墓参りを終わらせてすぐに地上に目指す。
【ファミリア】に帰ったらまだまだやらなければならないことがあるなかで二人は時間を作ってアリーゼ達の墓参りに足を運んでいた。
「また来る」
「また来ます」
一度振り返ってそう告げて再び前へ歩き出す。
「それにしても遂にミクロは私以上に強くなりましたね」
当時はミクロがLv.1でリューがLv.4にも関わらず今はミクロの方がLv.が上になった。
努力を重ねて激戦を乗り越えてきたミクロは十分に強くなった。
なら、その隣に立てれるようにとリューも研磨を続けなければならない。
「いや、俺はもっと強くならなければならない。リューや【ファミリア】の皆を守る為にも」
だけど、ミクロは今の段階で満足などできなかった。
エスレアの最後の言葉を聞いてミクロは立ち止まる訳にはいかなかった。
もっと強くならないといけないと願い、これからも努力を重ねていく。
「あ、あの、ミクロ……一ついいですか?」
「何?」
「貴方が、その、修行に行く前に私に言ってくれた……その、なんて言いますか………」
頬を赤く染めて落ち着かない様子のリューにミクロは何のことか思い出して言った。
「もちろん俺はリューが好きだよ。ずっと一緒にいたいと思ってる」
平然とそう告げるミクロにリューは耳まで赤く染まり俯く。
「わ、私も……」
「アグライアもティヒアもリュコスもパルフェも【ファミリア】の皆が俺は好きだ」
勇気を振り絞って私も好きと言おうとした矢先にミクロの言葉に首を傾げる。
「大切な俺の仲間であり家族だ。嫌いなわけがない」
「………………………」
数秒間頭が真っ白になったリューはようやく理解した。
ミクロは仲間として家族として好きと言ったことに理解したリューは顔を紅潮させて早足で歩き出す。
羞恥心にかられるリューを知らずについていくミクロ。
「リュー、顔が赤いけど風邪でも引いた?」
「……放っておいてください」
ああ、そうだ、ミクロはこういう人だと改めて思い知らされながらミクロにそっぽを向くリューに何でそっぽを向くかわからず首を傾げるミクロ。
「……本当に酷い
悪気はないとはいえ乙女心を弄んだミクロにこれぐらいの悪口は許されるだろう。
それからしばらくの間はリューはまともにミクロの顔が見れなかった。
ミクロがLv.6になってから数ヶ月が経ち、アグライアは街中を歩いていた。
今日もダンジョンも潜っているミクロ達に暇を持て余しているアグライアは気まぐれに街中を散歩している。
「暇ね……」
そう呟くとアグライアはミクロと出会った時を思い出した。
あの時もこんな風に街中を歩いている時に路地裏で偶然にもミクロを見つけて眷属にした。
当時はたった五年で上位派閥になるとは思ってもみなかった。
また何か出会いがあったりしてと内心苦笑しながら思ってもないことをぼやく。
「強くなってからくるんだな!」
すると、乱暴な声がする方に視線を向けるとそこには一人の少年が尻もちをついていた。
ミクロと同じ白髪の少年で
ミクロとはまた違う興味深いその瞳に興味が引かれたアグライアはその少年の元に歩み寄る。
「あ、貴女は……」
少年もアグライアのこと気付いて視線を向けるとアグライアはその少年の荷物を見てまだこの都市に来たばかりだと察する。
「私の名前はアグライア」
名前を告げて少年の前にある【ファミリア】のエンブレムを見て尋ねる。
「【ファミリア】を探しているのかしら?」
その言葉に少年は小さく頷くとアグライアは少年に手を差し伸べる。
「なら、私の【ファミリア】に来なさい」
「え……?」
アグライアの言葉に
アグライアは手を差し伸ばしたまま何も言わずに少年の答えを待っていると少年は恐れながらもアグライアの手を取った。
アグライアは微笑みながら名を尋ねた。
「貴方の名前は?」
「ベル、ベル・クラネルです。神様」
アグライアと出会った少年ベル・クラネルの物語が始まる。
オリジナル編完結!!
次話は区切りとしてオリキャラ達を人物紹介をします!
その次から原作編スタートします!
ここまで投稿できたのも読者様の励ましがあってこそです!!
原作開始までの五年間のミクロの活躍はいかがでしたでしょうか?
楽しめて頂けたら作者も大満足です。
原作主人公ベル君が出せました!(やや強引だったかもしれませんが)。
個人的意見にもなりますがベル君は【ヘスティア・ファミリア】ではなく【アグライア・ファミリア】に入団することにしました。
悩みに悩んだ挙句に結局はアグライアの派閥に入団するように決めてしまったが私に後悔はありません!
アグライアの眷属として活躍するベル君に応援してあげてください。
あ、ミクロもちゃんと活躍しますのであしからず。
ここで一区切りとして一言。
ここまで読んでくださりありがとうございます!これからも更新頑張ります!!
これからも応援をよろしくお願いします!!