路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New02話

ベルが【アグライア・ファミリア】に入団して皆から歓迎された次の日の朝、ベルは昨日早く寝てしまったせいかまだ外は薄暗い時間帯に目を覚ましてしまった。

「早く起き過ぎた……」

二度寝しようと思ってベッドに寝転がるが意識はしっかりと覚醒してしまっている。

どうしようかと悩むベルは気分転換すればまた眠くなるかもと思い、部屋の外に出る。

入団したばかりでまだ慣れない廊下を歩いていると声が聞こえてその方に足を動かす。

「何だろう?こんな時間に誰か起きているのかな?」

そう思って声がする方に足を動かしていくとだんだん声がはっきりと聞こえてきて中庭の方に足を運ぶとそこにはミクロとセシルが模擬戦を行っていた。

いや、模擬戦というよりもミクロの一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)のように見えたベルは顔が引きつく。

大鎌を振るうセシルにミクロはセシルの脚を蹴って地面に倒す。

「セシル。足もと不注意」

「はい!もう一度お願いします!」

再び模擬戦を再開する二人を見てこれが冒険者の訓練なんだと思い、ベルは二人を見入ってしまうとミクロがベルの視線に気づいてセシルの大鎌を掴んで止めてベルの方に視線を向ける。

「ベル。おはよう」

「あ、お、おはようございます!団長!セシルさん!」

「うん、おはよう」

二人に近寄ってベルは申し訳なさそうに二人に謝罪する。

「す、すみません、お二人の訓練の邪魔をしてしまって」

「問題ない」

「気にしなくてもいいよ。こんな朝早くからするのは私とお師匠様ぐらいだしね」

全く気にしていない二人だが、ベルはそれでも申し訳がないと思っているとミクロがベルに問いかけた。

「ベルは武器は何を使うつもりなんだ?」

「えっと、ナイフにしようと思っています。初心者でも扱いやすいと聞いて」

「戦ったことは?」

「えっと、ありません……」

「わかった」

ベルの言葉に頷くミクロを見てセシルは察した。

「…お師匠様、つかぬ事お聞きしますがベルをどうなさるおつもりで?」

「どうもしない。戦い方をどう教えようか考えているだけ」

その言葉にセシルは遠い眼でまだ薄暗い空を眺める。

そして心の中でベルを応援する。

「ベルも一緒に訓練する?」

「え、いいんですか?僕なんかが参加しても」

「問題ない。ナイフを使うつもりなら俺が適任だろうし一人増えても問題ない」

戦い方を教える前に今のベルの長所と短所を見つけておきたいという本音を伏せてミクロはベルも朝の訓練に参加させることにした。

「じゃ、まずは俺と戦おう。これを使って」

「ええええええええっ!!い、いきなり団長と戦えないですよ!?」

ナイフを手渡して模擬戦をしようとするミクロだがいきなりミクロと模擬戦をすることにベルは驚愕の声を上げた。

「まずはベルの実力を見るには相手をした方がよくわかる。難しく考える必要はない」

ナイフを渡して少し距離を取るミクロにベルはナイフを握り締めてミクロに視線を向ける。

「遠慮はいらないから全力で来い」

「………わかりました」

ナイフを逆手に持って構えるベルを見て本当に戦ったことがないとすぐに判断できた。

隙だらけで自分の間合いも作れていない。

今のままダンジョンに連れて行ってら危ないかもしれないと思っているとベルがナイフを持って向かってくる。

だが、動きも雑で隙だらけな上に攻撃手段がナイフだけ。

技も駆け引きもない。

更に言わせれば視野が狭く、間合いもバラバラ。

変に警戒しているのか弱腰になっている。

「こんのっ!」

掛け声とともに一閃するがミクロはあっさりと躱す。

なるほどと判断して今度はベルの防御、回避力を確認するべく攻撃する。

手加減はした状態でもベルは回避も防御も上手くできずに何回も地面に寝転がる。

「うぅ…」

地面に倒れて立ち上がろうとするベルにミクロは待ちながら痛みにも慣れていないことも把握する。

「休む?」

だいたいのベルの実力を把握したミクロはベルの様子を見て一休憩するか声をかける。

「もう一度、お願いします!」

「わかった」

だが、ベルは続けることを選んだ。

それに応えるようにミクロは再び相手をする。

結局ベルが動けなくなるまで続けた。

動けなくなったベルを見てセシルはいつもこんな感じで気を失っているんだなと感慨深く頷いていた。

「大丈夫、じゃないよね」

「……もう、動けません………」

地面に上向きで転がるベルにセシルは苦笑する。

倒れているベルをミクロは担いで食堂まで運ぶ。

「そろそろ朝食だから行くぞ」

「はい」

「……はい」

ミクロに背負わられてベルは食堂まで運ばれると椅子に座らせられる。

「セシル。ベルの分の食事も持って来て」

「はい」

ベルの分の食事もセシルに運んでもらいミクロは椅子に座る。

「……セシルさんは毎朝団長と訓練しているんですか?」

「うん。基本的には毎朝行っている」

ベルの問いにミクロは当然のように答えるとミクロがベルに昨日のことについて確認を取る。

「ベル。今日は昨日言った通りまずはギルドで登録を終わらせてからベルの装備を整えに行く」

「はい」

「装備を整えたらベルはしばらくは鍛えてもらう。ベルはダンジョンに関する知識はどれぐらいある?」

「……すみません、殆どわかりません」

「わかった。なら、勉強も必要だな」

着々とベルのスケジュールを決めていくミクロはベルに告げる。

「今のベルは弱い。だからまずは鍛えてからダンジョンに向かって欲しい。ダンジョンはいつどこで命を落とすかわからない。だから最低でもモンスターから逃げるだけの力はつけて欲しい」

「……はい」

『弱い』という言葉に胸を抉られる。

「今は弱くてもいい。これからが大事。強くなれるかはベル次第だけど何かあれば俺達の誰でもいいから頼れ。家族に遠慮は無用だ」

告げられたその言葉にベルは一瞬目を見開く。

「はい。僕、頑張ります!」

「頑張れ」

ミクロにとってベルはもう大事な仲間であり家族。

だからベルに何かあれば助けるのは当然であってベルはミクロが自分の事を家族だと認められていたことが嬉しかった。

「ベル~、朝ごはん食べれる?」

「あ、すみません!セシルさん!自分で運びます!」

ミクロの分を含めた三人分の食事を運んでくるセシルを見てベルは自分の分ぐらいは持とうと動く。

それから食事を終わらせてミクロ、セシル、ベルの三人でギルドに向かった。

「あの、団長。僕なんかの装備を買うのに時間を使ってしまってよろしいのですか?」

「問題ない。大抵の仕事は終わらせている」

仕事はしっかりと終わらせてベルの装備を買うのに付き合っている。

「ベル。下手に気を遣う必要はないよ。あと、私の事は呼び捨てでいいよ。敬語もいらない」

「えっと、セシル……でいいの?」

「うん、それでお願い」

異性を呼び捨てにすることに慣れていないベルはおどおどしながら確認するとセシルは微笑を浮かべて頷く。

中央広場(セントラルパーク)を通り過ぎてギルドに到着するとミクロは一人のハーフエルフの女性職員に声をかける。

「エイナ。手続きをお願い」

「イヤロス氏。今日はどのような手続きを?」

「新人の登録」

ベルを指すミクロにギルド受付嬢であるエイナ・チュールは瞳を盛大に輝かせているベルに視線を向ける。

「は、初めまして!昨日【アグライア・ファミリア】に入団しましたベル・クラネルと言います!」

緊張気味に挨拶するベルを見てエイナは小さく笑った。

「新人の登録ですね。かしこまりました。では、こちらの書類にサインを」

「ベル。サイン」

「はい!」

書類にサインをするベルを終始微笑ましく見守るエイナにベルは書類をエイナに渡す。

「はい、確かに。えっと、ベル君でいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「私のお節介かもしれないけどダンジョンはとても危険なところなの。だから、冒険者は冒険しちゃいけない」

真剣な表情で告げるエイナにベルは唖然とする。

「安全を第一に。生きて帰ることだけを考えてね」

「はい」

エイナの忠告にベルは心に留めておこうと思った。

少しばかりお節介を焼いたことに気付いたエイナは咳払いをする。

「うん、それじゃ、今日から私がベル君のダンジョン攻略のアドバイザーとして監督するから。イヤロス氏もよろしいでしょうか?」

「問題ない」

「僕からもお願いします!」

「うん。改めてよろしくね、ベル君。手続きはすぐに終わるから待っていてくれるかな?」

「はい!」

書類を持って奥に行くエイナを待つこと数分後に手続きが完了した。

これでベルは正式に【アグライア・ファミリア】の一員になった。

登録を終わらせたミクロ達は次にベルの装備を買う為にバベルにある【ヘファイストス・ファミリア】の武器・防具店フロアに足を運ぶ。

「うわぁ……」

数多くの武具に瞳を輝かせるベルだが、すぐに自分の懐具合に気が付いた。

「あ、あの、団長……実は僕手持ちが」

「問題ない。俺が出すから好きな物持って来て」

「え、そんな悪いですよ!」

「ベル。お師匠様の好意に素直に甘えた方がいいよ」

申し訳ないと思ったベルだがセシルの言葉に言葉を詰まらせるベルは素直に好意に甘えることにした。

「取りあえず個々で探して一時間後にここに集合」

「はい」

「わかりました」

ここで別れてベルに合う武具を探し始める三人。

ミクロは適当にナイフや短刀などベルに合うものを物色する。

だけど、時に片手剣なども見てみた。

ベルの力量を見てベルは足腰は強かった為、自分を軸にして戦う迎撃スタイルなども想定して武器を見る。

それから『敏捷』を活かした一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)か。

どちらにしろどのような戦闘スタイルにするかはベル自身に決めさせる。

色々な武具を見て回っているとミクロは一本の両刃短剣(バゼラード)に視線を向けた。

実戦的なのか装飾が全く施されていない無骨なものだが、手に取ってみると予想より軽く、持つ手にも抵抗が殆どないことからミクロはこれを選んだ。

値札のところに三〇万ヴァリスと記されていたが特に気にせずそれを持って集合場所に集まる。

「あ、お師匠様」

「団長」

集合場所には既に二人がミクロを待っていた。

そして、それぞれの選んだものを見せ合う。

「私はこれです」

セシルは持ってきたボックスの中身を二人に見せた。

「ベルは重装備よりも軽装で動き回る方が合っていると思って軽装を選んでみました。どうかな?ベル」

「はい、僕もこれがいいです!」

気に入ったのか嬉しそうに何度も頷くベルにセシルは安堵するように息を吐く。

「ベルは?」

「えっと、僕はこれです」

ベルが二人に見せたのは白いナイフ。

「ええっと、何となく気に入りまして……ダメですか?」

「ベルが選んだものに文句を言うつもりはない」

「ベルが使うんだから良いと思うよ」

気に入ったという理由で選んだベルだがミクロ達はそれに関して特に問題はなく最後にミクロは持ってきた両刃短剣(バゼラード)も含めて纏めて買った。

「団長、セシル。今日は本当にありがとうございました」

「問題ない」

「どういたしまして」

本拠(ホーム)に帰還中にベルが二人に礼を言う。

「明日からは訓練の時でもそれを着て始めるから朝は今日と同じぐらいに起きて中庭に来て」

「はい!」

装備を買って貰い明日からの訓練に気合を入れるベルは気付かなかった。

セシルが憐みの眼差しを向けていることに。

 

 

 


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