路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New07話

本拠(ホーム)の中庭でミクロはベルを鍛えていた。

ナイフと両刃短剣(バゼラード)の両刀を駆使して猛烈な攻めを繰り出すベルに対してミクロはそれを冷静に捌く。

「ふっ!」

不意にベルは下段蹴りでミクロのバランスを崩そうとするがミクロは足を上げて下段蹴りするベルの足を踏みつけて防御した。

「防がれたらすぐに動け」

「ぐっ!?」

アドバイスしながら蹴りを放つミクロにベルは直撃して地面に何度も転がって起き上がる。

「ほら動く」

「っ!!」

追撃するミクロにベルは両腕を交差して防御するがミクロの拳はベルに当たる前に止まってベルの脚を蹴って倒す。

最後にベルの喉元にナイフを近づける。

「反応はいいけど、まだ技と駆け引きが足りない」

「………はい」

差し出された手を握って立ち上がるベルにミクロは言う。

「ベル。明日は休め」

「え……」

「今のお前ではこれ以上は無駄だ」

『豊穣の女主人』の騒動から数日、ベルは強くなる為に必死にミクロの酷烈(スパルタ)を受けている。

元々ベルは素直で飲み込みも早く才能もある。

事実この数日でベルは急成長とも言える成長速度を叩き出している。

だが、それだけでは意味がない。

「それに明日の怪物祭(モンスターフィリア)で俺はアグライアの護衛をすることになっている。ベルも祭りに行けばいい」

「………怪物祭(モンスターフィリア)?」

聞き覚えのない言葉に首を傾げるベルにミクロが説明した。

怪物祭(モンスターフィリア)は年に一回開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催の催しで闘技場を一日貸し切ってモンスターを調教する。

「ベル。冒険者にはそれぞれの冒険をする理由がある。それを考えろ」

それだけを告げてミクロは中庭から去って行く。

「僕は………」

ベルはミクロの後姿を見てそれ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物祭(モンスターフィリア)当日にミクロはアグライアと共に東のメインストリートを歩いていた。

祭りというだけあって多くの一般人が賑わって今や東のメインストリートは祭り一色に染まっている。

「相変わらずのお祭り騒ぎね」

隣にいるアグライアは賑わう亜人(デミ・ヒューマン)を見てそう呟く。

街中を歩くアグライアにミクロは無言で行動を共にしている。

そんなミクロにアグライアは声をかける。

「ベルの事が気になるの?」

考えを見透かしているかのように言う主神の言葉にミクロは小さく頷く。

「ベルの成長は俺以上に速い。例のスキルがベルを急成長させている」

団長であるミクロにはベルが持つスキル【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】を知らされている。

だが、それに関してはミクロはどうこう言うつもりはない。

セシルも普通の冒険者に比べれば成長は速い方でもうすぐLv.3に【ランクアップ】するとミクロは踏んでいる。

だけど、問題はそこではない。

「ベルは影響されやすい。ここ最近のベルの動きが俺に酷似してきている」

訓練でベルの模擬戦の相手をしている時にミクロはそう思った。

戦っている相手を観察してそれを模範にする技術はベルは人一倍あったが、ベルはそこから自分の動きにすることが出来ていなかった。

「ベルは自分の長所を活かせていない。それに戦う意志がベルから感じられなかった」

ベルの長所はその脚力にあるにも関わらずにそれを活かせてはいない。

だからミクロはベルにヒントを与えた。

そこからどのような答えを導くのかはベル次第。

「……もし、ベルがその答えを導き出せられなかったら?」

「恐らくベルはもう戦うことも出来ない」

淡々と告げられる残酷な答えにアグライアも思案する。

冒険者になる以上最初の関門のようなもの。

それは誰の手助けがあって通れるものではない。

自分の力で切り開かなければいけない。

「だけど、ベルは必ず答えを出すと信じている」

「………そうね」

それでもミクロはベルを信じている。

自分自身でその答えに辿り着けれるということに。

「さて、それでは私達は私達のことをしましょうか」

二人が辿り着いたのは本日【ガネーシャ・ファミリア】が貸し切っている闘技場。

そこにいる主神ガネーシャにアグライアは用事があった。

二人は近くにいた【ガネーシャ・ファミリア】の団員に声をかけて主神であるガネーシャがいるところまで案内してもらった。

「俺がガネーシャだ!!」

「知ってるわよ」

闘技場最上部の観覧席。アリーナ全体を一望できる位置で像の仮面を自慢するように変なポーズを決めたガネーシャにアグライアは相変わらず変わらないと内心そう呟く。

「久しいな、アグライアよ!お前の子供達の噂はよく聞くぞ!!」

「ありがとう。それよりもこんな時に押しかけてしまってごめんなさいね」

「気にするな!超・有能な俺の団員達がしっかりとしてくれる!というか邪魔だからここで大人しくしていろと怒鳴られてしまった!!」

一々姿勢(ポーズ)を決めるガネーシャにアグライアはやっぱり変わらないと思いつつ本題に入る。

怪物祭(モンスターフィリア)、いえ、怪物との友愛(モンスターフィリア)が正しいかしら?これからの私達の協力関係をどうするか決めておこうと思うの」

数少ない『異端児(ゼノス)』のことをウラノスから知らされているガネーシャにアグライアは今後の事について話し合う為にガネーシャの元に訪れた。

本来ならもっと早くこの事を話そうと考えてはいたが互いに自身の派閥の事もあってこのような機会にしか話し合える余裕がなかった。

そして何より『異端児(ゼノス)』の」情報の共有は最小限にとどめるなければ万が一にこのことが下界の者に知られでもしたらどうなるか容易に想像できる。

ガネーシャ本人も自派閥で『異端児(ゼノス)』の事を知っているのはごく一部の者だけだった。

「お前はどうするつもりだ、アグライア?」

「私は自分の子供達を信じて支えるわ。それだけよ。貴方は?」

「ぶっちゃっけ、わからん」

ミクロを抱き寄せて自身の決断を告げるアグライアにガネーシャは正直に答える。

「ただ」

「ただ?」

「本当に異端児(ゼノス)達が、いや怪物(モンスター)が闘争を望まず、共存を願っているというのなら――――俺は【群衆の主(ガネーシャ)】を止めて――――【群衆と怪物の主(ネオ・ガネーシャ)】になろう!!」

笑みを見せて、グッと力強く親指を上げるガネーシャにアグライアは息を吐く。

「変わらないわね、貴方は」

「俺はガネーシャだからな!!」

自身たっぷりに叫ぶガネーシャとこれからの『異端児(ゼノス)』の事を含めての協力体制を決めた二人の神は手を握り合う。

「ガネーシャ様、ガネーシャ様っ!大変です、一大事です!?」

その時一人の団員が慌てた様子でガネーシャの元に駆け付けた。

「―――――何を隠そう、俺がガネーシャだ!」

「それはもういいから黙って自分の子供の話を聞きなさい」

「あ、はい」

アグライアの言葉にぴたりと動きを止めるガネーシャは団員から話を聞くと地下で捕えていたモンスターが何者かに放たれてという急を要する事態だった。

「脱走した、いや放たれたモンスターの数は何匹だ?」

「きゅ、九匹です。中には、腕利きの冒険者でも手に負えないモンスターも……」

鷹揚に構えるガネーシャは動じることなく、ふむ、と被っている像の仮面を揺らす。

「アグライアよ。頼めるか」

「ええ、ミクロ」

「わかった」

二つ返事でミクロはその場から闘技場の外に駆け出す。

周囲を見渡して左か右かどちらから行こうかと考えていると視界にアイズとロキが入った。

「アイズ」

「ミクロ……」

「なんや、【覇者】。うちとアイズたんのデートを邪魔するつもりかいな?」

「ロキは黙ってて」

叫ぶロキを冷たくあしらうアイズにミクロは簡潔に捕らえられていたモンスターが放たれたことを知らせる。

「ロキ」

「ん、聞いとった。もうデートどころじゃないみたいやし、ええよ、この際ガネーシャに借し作っとこうか」

主神の許可を貰いアイズは儚く輝くレイピアの柄を掴んだ。

「アイズは向こう側を頼む。俺はその反対をどうにかする」

「わかった」

頷いて了承したアイズにミクロは闘技場の壁を蹴って闘技場の天頂部分に到着すると『ヴェロス』を発動させて光の弓を構える。

街中に放浪しているモンスターを視認できるとミクロは矢を放ってモンスターの頭を貫通させる。

モンスターを射るミクロの近くには同じように闘技場の天頂部分を足場に立つアイズはミクロがまた強くなっていると再認識した。

長距離にいるモンスターを正確に頭を射抜くその技術力。

強くなっているミクロにアイズも負けじにモンスターを探して魔法を発動する。

「【目覚めよ(テンペスト)】」

風の気流を纏い直してモンスターを次々切り裂く。

そんなアイズを見て相変わらずの剣技と魔法だなと思いつつモンスターを射ぬくミクロはモンスターの動きに疑問を抱いた。

誰かを襲おうともせず何かを探しているような行動を取るモンスターにミクロは他にモンスターがいないか確認すると東のメインストリートでシルバーバックに追われているベルとアイカを見つけた。

すぐさま矢を放とうとするが斜辺物のせいで狙いが定まらず逃がしてしまった。

「あのままだとダイダロス通りに行くか……」

ベルの逃げる方向を計算してすぐにダイダロス通りに向かうミクロ。

ダイダロス通りは度重なる区画整備で秩序が狂った広域住宅街。

まだオラリオに来て半月程度のベルでは迷子になってしまい袋小路に追い詰められてしまうと判断したミクロはすぐにダイダロス通りに向かって駆け出す。

「止まれ」

一声が投じられた。

なんてことのないそのただの一言にミクロの足は止まった。

ダイダロス通りに向かう路地裏でそいつは立っていた。

錆色の短髪から生える獣の耳は獣人、獰猛と知られる猪人(ボアス)の証。

防具を装着する巌のような巨躯。二(メドル)を超える身の丈。

髪と同じ錆色の双眼が、ミクロを真っ直ぐ見据える。

「【猛者】、オッタル」

【フレイヤ・ファミリア】団長、オッタル。

オラリオ最強のLv.7の冒険者。

「何の用だ?」

単刀直入に告げる問いかけにオッタルは口を開いて答えた。

「貴様の実力を確かめさせてもらう。かつて俺と互角に渡り合えたへレスの子か否かを」

膨れ上がる威圧感にミクロはナイフと梅椿を抜刀。

オッタルも背に担いでいる大剣を抜剣。

本来なら戦うことは後回しにしてベル達を助けに行きたいミクロだが目の前にいるオッタルがそれを許してはくれない。

短期決戦でオッタルを倒してベル達を助けに行く。

「行くぞ」

【覇者】と【猛者】。

二人の第一級冒険者の戦闘が始まった。

 


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