路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New09話

怪物祭(モンスターフィリア)の騒動が終えて数日後にミクロはセシルを連れて16階層に来ていた。

「やっ!」

襲いかかってくるミノタウロスの胴を真っ二つにするセシルは先日の騒動でアイズ達と共に新種のモンスターと戦闘を行い、Lv.3に【ランクアップ】を果たしていた。

今回はLv.が上がった身体能力を確かめ、下層でどこまで戦えるかを確認する為に現在ミクロ達は中層に留まっている。

「どうですか!?お師匠様!」

「問題ない」

確認を取るセシルに問題なく頷くミクロ。

次の遠征でセシルも連れて行くが今のセシルの実力なら自分かリューと共に中衛を任せても問題ないと判断した。

「一度19階層で戦って少しでも下層のモンスターに慣れておこう」

「はい!」

次の遠征で目指すは37階層より下の階層。

少しでも実力とモンスターの動きに慣れさせておくためにミクロ達はまずは18階層で休息を取ろうと足を動かす。

「おーい!ミクロー!」

「ティオナ。それにアイズ達」

18階層に向かおうとしたミクロ達に近づいてきたのは【ロキ・ファミリア】のアイズ達だった。

「どうしたの?ミクロも借金返済?」

「違う。【ランクアップ】したセシルの調子を確認」

「【ランクアップ】……」

ミクロの言葉に反応したレフィーヤは視線をセシルに向ける。

それに気づいたセシルは不敵に笑みを浮かばせる。

追いついたよ?

目でそう語っているかのように告げられたレフィーヤの表情が強張む。

宿敵(ライバル)がついに自分と同じLv.になったことに悔しむレフィーヤはむぅと頬を膨らませてセシルを睨むがセシルは余裕の表情を浮かべたまま。

「俺達はこれから18階層に行くけどティオナ達も?」

「うん。ここより下に行かないと返せないからね~」

借金返済でダンジョンに来ているティオナ達は中層よりも下の下層や深層の方が資金集めの効率がいい。

「ミクロ達も一緒に行こうよ!いいよね?フィン」

「構わないよ」

和らげに笑みを浮かべて同行を許したフィン。

「うん、ちょっと待ってくれ」

腕を掴むティオナにミクロは制止の言葉をかけて先ほどセシルが倒したミノタウロスの魔石を拾っては『リトス』に収納する。

「なになに!?どうやったの!?」

突然魔石が消えたことに驚くティオナにミクロは『リトス』を見せて簡潔に説明する。

「持ち運びに便利ね」

「うん」

『リトス』の便利さに素直にそう思ったティオネとアイズ。

その便利さに羨ましがるティオナ。

「いいな、いいな!あたしも欲しい!」

「無理を言うんじゃないわよ」

欲しがるティオナを戒めるティオネ。

欲しい気持ちはティオネも理解できる。

普通は溜まった魔石やドロップアイテムは地上に帰還した換金するか、もしくはリヴィラの街で証文などに変える。

だけど、ミクロが持つ『リトス』があれば地上に帰還することもなく、リヴィラの街で証文に変える必要もなくなる。

だけどそれはミクロがいる【アグライア・ファミリア】のみの特権のようなもので欲しいと言われてそう簡単にはあげられるものではないことをティオネ達は理解している。

「いいよ」

「「え?」」

平然と了承するミクロに呆気を取られる二人にミクロは(ホルスター)から『リトス』を二つ取り出してティオナ達に渡した。

「指に嵌めて指輪に意識を向けたら出し入れができる」

「……えっと、本当にいいの?」

まさか本当に貰えるとは思ってもみなかったティオナは呆気を取られながらも尋ねるとミクロは首を縦に振った。

「それぐらいは別にいい。それに友達の頼みを聞くのは当然」

平然と答えるミクロにティオナは頬は桜色に染まると満面の笑みを浮かべる。

「ありがとう!大切にするからね!」

「そうね。私も大切に使わせてもらうわ」

「うん」

早速と言わんばかりに『リトス』を嵌めるティオナ達は『リトス』に意識を向けるとティオナは大双刃(ウルガ)が収納されて、ティオネは筒形のバックパックが収納された。

「うわ!凄い!これ、こんなにも簡単に取り出せるんだ!?」

何度も大双刃(ウルガ)を出し入れするティオナは本当に嬉しそうにはしゃぐ。

「本当にいいのかい?それなにの価値はあるだろうに」

「友達の力になれたらそれでいい」

そう答えるミクロにフィンは苦笑いを浮かべる。

素直で友達想いのミクロに好感を持つフィンだが、その素直過ぎる性格からか敵対する者や【ファミリア】を傷つける者には容赦がない事が裏付けられた。

「君とは敵対したくないものだ」

「俺も友達とは戦いたくない」

互いの正直な気持ちを告げる二人。

ミクロは単純にアイズやティオナ達と戦いたくないという正直な気持ちだが、フィンはミクロの実力が既に自分より上だと気づいた上で敵対したくないと告げた。

直接戦ったわけではないが前にアイズとの戦いより明らかに強くなっていることは長年の経験からフィンは察していた。

アイズ負け劣らずの近接戦闘。

複数の魔道具(マジックアイテム)

そこに魔法も加われば正直勝てる気がしなかった。

もちろんフィンも負けるつもりは微塵もないがミクロとは敵対しないようにと心に留めておくことにした。

ミクロ達は18階層に目指して歩き始めると17階層では既にゴライアスは討伐されており、そのまま18階層に足を踏み込んだ。

「ん~、ようやく休憩~」

洞窟を抜けてティオナが一段落とばかり伸びをする。

「フィン達も街に行くのか?」

「ん~そうだね。アイズ達はお金を溜めなきゃいけないし」

「……ごめん、フィン」

リヴィラの街での地上の数倍以上の値段がする。

それは宿も例外ではないがフィンの太っ腹の一言で宿の利用が決まる。

ミクロ達も一度リヴィラの街に足を運んで一休憩後に下層に向かう予定。

休憩の時間を利用してミクロはボールスに挨拶ぐらいはしようと考えてリヴィラの街に到着するがいつもより静かな街の様子に訝しむ。

「殺しがあったってホントかよ!?」

「あぁ、ヴィリーの宿だ。人が集まっている!」

街の住民達の声にアイズ達は驚きを露にする。

ダンジョンで殺人はそう珍しいことではないが街中で殺人をする者はまずいない。

宿を利用する予定のフィン達も無関心でも無関係でもいられない為に殺人が起きたヴィリーの宿に向かうと野次馬が集まって中に入るどころか見ることも難しい。

「フィン。先に見てくる」

「あ、お師匠様!?」

『スキアー』を使って人影を利用して宿の中に向かうミクロにセシルは声を荒げる。

上位派閥それも二大派閥の【ロキ・ファミリア】の精鋭の中に置いていかれたセシルの肩身は狭かった。

天然の洞窟を宿屋にしている『ヴィリーの宿』の通路を歩くミクロに初めに気付いたのは臭いだった。

「血か……」

血の臭いそれも濃密と言えるほどの血の臭いを嗅いだミクロはより強い臭いがする場所に向かって足を動かして一つの部屋に辿り着いた。

洞窟の一番奥の部屋は真っ赤に染まっていた。

そして惨憺たる姿で床に横たわるのは頭部を失った男の死体。

首から上は弾けた果実のように成り果て生前の容貌は知るよしもない。

大量の血の海に浮いているのは薄紅色の肉片と脳漿だった。

「お師匠様!」

通路から向かってきたのはセシルとフィン達。

駆け付けてきたセシルはミクロに近づくと不意に部屋の中を見てしまい、顔が青ざめる。

「あ…ああ……」

「落ち着け」

始めて見た人間の死体に体を震わせるセシルに声をかけるミクロは部屋の中に入って部屋の周囲を見渡す。

「争った形跡はないか」

「れ、冷静だね、ミクロ……」

死体を見ても表情一つ変えないミクロは冷静に分析を始める。

「あぁん?おいてめえ等、ここは立ち入り禁止だぞ!?見張り役は何やっていやがんだ!」

「あ、ボールス」

「やぁ、ボールス。悪いけど、お邪魔させてもらっているよ」

怒るボールスに二人は勝手知った様子で話しかけた。

リヴィラの街の大頭(トップ)のLv.3の冒険者であるボールスは今回の事件の調査を主導している。

「僕達もしばらくは街の宿を利用するつもりなんだ。落ち着いて探索に集中するためにも、早期解決に協力したい。どうだろう、ボールス?」

「けっ、ものは言いようだなぁ、フィン。てめえ等といい【フレイヤ・ファミリア】といい、強ぇ奴等はそれだけで何でもできると威張り散らしやがる」

「ボールスがそれを言う?」

「うっせ、ミクロ!てめえもそうだろうが!?」

自分の事を棚に上げて言うボールスは本当のことを言われてそう怒鳴り散らす。

「俺は威張り散らしたことはない」

「ポーカーで散々俺を苛め倒しているお前がそれを言うか!?」

「弱いボールスが悪い」

時折ボールスからポーカーを挑まれて返り討ちにしているミクロ。

ポーカーを行う時ミクロはほぼ必ずボールスに敗北と借金を与えている。

「ケッ、どうせてめえも毎日【ファミリア】の女どもで夜の覇者のように遊んでんだろうに」

「夜の覇者……?」

意味が分からず首を傾げるミクロにレフィーヤは相貌を真っ赤に染める。

【アグライア・ファミリア】は女性団員が多いのは主にミクロの影響が大きい。

その為かミクロは周囲からそのような噂が立てられてそれを信じる者も少なからず存在している。

「お師匠様を貶すことは私が許さない」

セシルはボールスに首に大鎌を当てるとボールスは冷や汗が流れる。

「お、落ち着けてよ……ちょっとした冗談(ジョーク)じゃねえか、【魂狩り(ソウルハンター)】」

「セシル。一応ボールスは街の大頭(トップ)だから殺すのはダメだ」

「わかりました」

「後で好きなだけ痛めつけていいから」

「わかりました」

「よくねえ!!」

喚くボールスを無視してミクロは『リトス』から神の恩恵(ステイタス)を暴くことが出来る開錠薬(ステイタス・シーフ)を取り出す。

「フィン。使っても問題ないよな?」

「そうだね。状況が状況だ。誰も文句は言わないだろう」

問題ないと告げるフィンにミクロは溶液を垂らして死体の背中に【ステイタス】が浮かび上がる。

ミクロは浮かび上がった【ステイタス】を注視して【神聖文字(ヒエログリフ)】を解読してこの場にいる全員に告げる。

「名前はハシャーナ・ドルリア。所属は【ガネーシャ・ファミリア】」

ミクロの言葉を聞いた瞬間――――場は水を打ったように静まり返る。

一瞬、室内から音が消え去ってそして次にはにわかに騒然となる。

「【ガネーシャ・ファミリア】!?」

「おいっ、間違いじゃねえのかよ!」

「間違いない」

瞬く間に上がる悲鳴のような声々にミクロは肯定を取る。

死体の正体が都市有数の実力派【ファミリア】の団員であったことに顔を青くするヴィリー達にわなわなと震えるボールスは、平静を欠いた声で、何よりも看破できない事柄を叫んだ。

「冗談じゃねえぞ――――【剛拳闘士(ハシャーナ)】っつったら、Lv.4じゃねえか!?」

ボールスの口からもたらされた、第二級冒険者の死。

「ボールス……確認させてくれ。この遺体が発見されてからここの物を動かしたりは?」

「………」

無言になるボールスの表情を察してフィンは冷静に口を動かす。

「争った跡も、複数が立ち入った痕跡もナシ……少なく見つもってLv.4……あるいは……殺人鬼は第一級冒険者」

Lv.5(わたしたち)と同じかそれ以上の能力の持ち主」

ハシャーナの遺体を見ながらアイズはそう口にする。

ミクロはハシャーナの遺体に一度瞑目する。

異端児(ゼノス)達絡みとはいえ同盟を結んだ【ガネーシャ・ファミリア】。

同盟【ファミリア】のハシャーナにミクロは小声で告げる。

「仇は取る。ゆっくり休め」

 

 

 


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