路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第七話

リューが【アグライア・ファミリア】の一員になって約二ヶ月が経った頃。

ミクロを鍛える為に五階層にある正方形の広大な空間『ルーム』で実戦形式での模擬戦を繰り返していた。

人目の少ないルームでミクロは主力武器であるナイフ、不壊属性(デュランダル)の特性を持つ梅椿、投げナイフ、アリーゼに買ってもらった鎖分銅全てを駆使する。

それに対してリューはアルヴス・ルミナというエルフの森に生える大聖樹の枝から作り出された木刀のみ。

Lv.の差もあり、木刀のみで相手をするリュー。

模擬戦が始まってから防戦一方が続くミクロは辛うじてリューの木刀を防ぐとほぼ同時にナイフを捨てて至近距離で投げナイフをリューに投擲。

だが、至近距離にも関わらずリューはあっさりと投げナイフを回避する。

「フッ!」

「クッ!?」

木刀を防いでいた梅椿を弾き飛ばされてリューはがら空きとなったミクロへとトドメをさす。

「ッ!?」

トドメをさそうとした瞬間、リューは背後から迫ってきていた鎖分銅の存在に気付いた。

投げナイフを投擲した腕から鎖が伸びて先ほど放ち、突き刺さっている投げナイフを軸に鎖分銅でリューの背後から奇襲を仕掛けた。

だけど、それだけじゃ足りないと言わんばかりに投擲用の投げナイフを持って正面からもリューへと攻撃を仕掛ける。

背後からの鎖分銅と正面からの投げナイフに挟まれたリュー。

「――――ッ」

「終わりです」

だが、リューは鎖分銅も投げナイフも全てを弾き返してミクロの腹部に木刀を当てる。

「無理だったか……」

「いえ、Lv.に差がなければ私も危なかった。考えましたね、ミクロ」

ミクロの策に称賛の言葉を贈るリュー。

本当に強くなってきているとリューは思ってる。

戦い方を教え始めて早七ヶ月。

基礎しか教えていないにも関わらずに自分の武器の応用もきちんとこなして戦っている。

七ヶ月でそこまでこなすミクロの器用さにリューは少々驚愕している。

「リュー、もう一回」

「いけません。今日はこれで終わりです」

模擬戦を続けようとするミクロにリューははっきりと断った。

Lv.4であるリューは殆ど疲れてはいないが、Lv.1であるミクロは既に疲労が溜まっていてこれ以上続けるのは危険だとリューは判断した。

「どうしても?」

「どうしてもです」

再度尋ねるミクロにリューの答えは変わらなかった。

だけど、内心はミクロの変化に少し嬉しかった。

表情は初めて会った時から変わらず無表情で今もそれは変わらない。

だが、最近は自分から何かをしたいなど言い始めた。

今のように模擬戦を続けたいという懇願は少し前のミクロなら想像もできなかった。

与えられたら与えた分をきちんとこなすような機械のような雰囲気から少しだけ人間らしさが出てきた。

その変化にリューは本当に少しだけ嬉しかった。

「仕方がありません。模擬戦の代わりに私の魔法をお見せしましょう」

そして、そんなミクロにリューは甘かった。

リューはルームを出てしばらくすると大量のモンスターを引き連れて戻ってきたリューはミクロに下がっていなさい、と告げる。

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々】」

詠唱を唱えるリュー。

「【愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

詠唱を唱えるリューにモンスターの大群は襲いかかってくる。

だけど、リューは慌てる素振りも見せずに淡々と詠唱を続けた。

「【―――――――来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿して敵を討て】」

目前とまで迫ってきたモンスターに襲われる前にリューは詠唱を終わらせて魔法を発動した。

「【ルミノス・ウィンド】」

緑風を纏った無数の大光玉がリューの周囲から生まれて、一斉放火された星屑の魔法はモンスターに叩き込まれた。

大群だったモンスターはリューの魔法で消えて灰になった。

魔法種族(エルフ)に相応しい高威力の魔法だとミクロは思った。

「これが私の魔法です。貴方が魔法に目覚めた時の参考にするといい」

ミクロにはまだ魔法が発現されていない。

呪詛(カース)はあるがあれはモンスターより対人の方に効果がある呪詛(カース)

モンスター相手にはやはり魔法の方がよかった。

「どうでしたか?私の魔法は」

「……威力も高く、早く、攻撃範囲も広かった」

思った素直な気持ちをリューに告げるミクロの答えに満足そうに頷く。

「さぁ、帰りますよ」

「わかった」

魔法を見て満足したミクロはリューと一緒にダンジョンを出て本拠(ホーム)へと向かう途中、ミクロは金髪の少女と肩をぶつけた。

「すみません」

「こちらこそごめんなさい」

互いに謝罪して去って行く金髪の少女をリューは目を細めて見ていた。

「……【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン」

世界最速で【ランクアップ】を果たしてLv.2になったアイズ・ヴァレンシュタイン。

その先には赤い髪をした【ロキ・ファミリア】の主神ロキがアイズにセクハラして殴られていた。

「リュー、どうかした?」

「……いえ、何でもありません」

肩がぶつかり合った本人はアイズの事が全く興味ないかのようにリューに声をかける。

もう少し世間体を気にさせた方がいいだろうかと、リューは少しだけ思った。

子供の教育に悩む母親のように、手のかかる弟に困る姉のようにリューは心配していた。

頭を悩ませているリューのことに気付かないミクロは本拠(ホーム)へと帰宅。

「ただいま」

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい」

本拠(ホーム)へと帰るとアグライアがいつものように微笑みながらミクロ達の帰りを待っていた。

 

ミクロ・イヤロス

Lv.1

力:C646

耐久:B701

器用:A856

敏捷:A812

魔力:D553

 

【ステイタス】の更新を終わらせるアグライアは改めてミクロの成長に驚かされる。

約七ヶ月でAクラスアビリティが二つもある。

才能と素質に加えて自分よりLv.が上のリューと毎日のように模擬戦をしている。

この調子だと本当に一年以内に【ランクアップ】出来るかもしれないとアグライアはそう感じた。

ついこの間【ミアハ・ファミリア】のナァーザが【ランクアップ】を果たしてLv.2になったが、それでも六年という時間をかけてだ。

ミクロの成長に喜びはあるけど心配でもあるアグライア。

「はい。次はリューの番よ」

ミクロの【ステイタス】の更新を終えて、次にリューの【ステイタス】を更新させる。

「終わったら教えて」

出て行くミクロを確認してリューは上着を脱いで【ステイタス】の更新をしてもらうリュー。

「んー、やっぱり貴女はそんなに上がっていないわね」

「そうでしょうね」

更新しながら能力値(アビリティ)そこまで上がっていないことに納得するリュー。

Lv.4であるリューはミクロに合わせてずっと上層にいた。

能力値(アビリティ)が上がらないのは当然だとリューは思った。

「……リュー、ミクロの成長について貴女はどう思う?」

更新中にアグライアはリューに問いかける。

「早いですね。ミクロの成長には私も驚かされます」

ミクロを鍛えているリューもアグライアと同じ心境だった。

「安心してください、アグライア様。いざという時は私がミクロを守ります」

「……そうね、その時が来たらお願いするわ」

同じ心境なだけあってそれ以上は語らないアグライアとリュー。

すると、不意にリューはテーブルに置かれている手紙が視界に入った。

「アグライア様。あれはもしや……」

「……ええ、『神の宴』の招待状よ、ロキから」

―――『神の宴』。

下界に降り立った神達が顔合わせるために設けられた会合でどの神が主催するか、日程はいつなのかは全く決まっていない。

そして、今回の主催は二大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】が主催で開かれる宴。

「参加されるのですか?」

「一応ね。招待状が来たのに無視するのも悪いし、それに招待状の内容を読んだら尚更ね」

疲れたように息を吐くアグライアに訝しむリュー。

 

 

 

 

 

 

 

 

神の宴当日の夜。

アグライアは宴の会場として開かれたギルドの施設へと足を運んでいた。

白いドレスを身に纏ったその姿に誰もが目を奪われるだろう。

「さぁ、行くわよ。ミクロ」

そのアグライアの隣には自身の眷属である燕尾服を来たミクロがいた。

本日、【ロキ・ファミリア】が開催する神の宴は、自慢の眷属を引き連れて行くという趣向を凝らした宴だった。

アグライアとミクロは会場に入るとすでに何人もの神々やその眷属を引き連れて談話していた。

自分の眷属を自慢する神もいれば、嫌々そうにする眷属もいた。

『アグライアだ』

『【ファミリア】作ったって本当だったんだな』

『あの白髪の子が眷属か?』

神々、主に男神達がアグライアに視線を向けていた。

『なんかぱっとしねえガキだな』

『何でアグライアはあんなガキを眷属にしたのやら』

『いや、待て。もしかしたらスゲー魔法やスキルでも持ってるんじゃねえか?』

アグライアの眷属であるミクロにも視線を向けられるがミクロは気にも止めなかった。

だけど、アグライアはミクロの頭をポンポンと叩く。

「あら、アグライア?」

「フレイヤ。来ていたのね」

アグライアの声をかけてきたのは銀髪の美の女神――――フレイヤ。

「ええ、退屈でしたもの。貴女とも会うのは何百年ぶりかしら」

「さぁ、私も覚えていないわ」

フレイヤと談話するアグライア。

フレイヤは視線をミクロへと移す。

「その子が貴女の子なの?」

「ええ、ミクロよ。ほら、ミクロ、挨拶なさい」

アグライアより前へ出て会釈する。

「初めまして」

挨拶するミクロにフレイヤはじっと見る。

「面白い子を眷属にしたわね、アグライア」

「ちょっかいは出さないでくれる?フレイヤ」

「あら、何もするつもりはないわよ?」

「今は。でしょ?」

「それはどうかしら」

フフフと笑い合うアグライアとフレイヤ。

すると、フレイヤはミクロの頬を撫でる。

「じゃあね」

それだけを言って自身の眷属を連れてアグライア達から離れていくフレイヤ達にアグライアは呆れるように息を吐く。

「まったく、全然変わっていないわね、フレイヤは」

アグライアはミクロの頭を優しく撫でる。

「大丈夫よ。あの女神だけには絶対に手を出させないから」

「わかった」

アグライアから感じた気迫にミクロは意味も分からずとりあえずは了承した。

 

『―――――集まったな!うちがロキや』

 

大広の奥から声が響き渡った。

そこから赤髪の神ロキとその後ろに控えているのはロキの眷属達。

【ロキ・ファミリア】団長、二つ名【勇者(ブレイバー)】、フィン・ディムナ。

副団長、二つ名【九魔姫(ナイン・ヘル)】、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

二つ名【重傑(エルガルム)】、ガレス・ランドロック。

小人族(パルゥム)、ハイエルフ、ドワーフ。

ミクロでも知っている【ロキ・ファミリア】の主戦力。

その背後には二人のアマゾネスと狼人(ウェアウルフ)そして、前に肩をぶつかった金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタイン。

『どや?うちの自慢の子供達は!?ええやろ!?今回はうちの子供達を自慢するために呼んだんやで!』

ドヤ顔で自身の眷属を自慢するロキ。

その後ろでロキの眷属達は呆れるように息を吐いていた。

『今日は自分の子供達を自慢しようやないか!?まぁ、うちの子供達には遠く及ばへんと思うけど』

どこまでも眷属を自慢するロキの挨拶が終えて神々は早速自分の眷属の自慢話を始めた。

「私達は適当に料理でも食べましょう」

アグライアは特に参加するつもりもなく適当にあちこち散策しながら他の神々と談話し始める。

ミクロは特に何もせず会場の端の方で大人しくしていた。

「………」

華やかな会場、豪華な食事、騒がしくも笑い合う神々達。

今、目の前の光景が七か月前のミクロには想像すらしなかったであろう光景。

薄汚い路地裏で腐りかけの食べ物を口にして、冒険者達に痛めつけられてきた路地裏での生活。

こんな俺でも変われたんだな、とミクロは思ったがすぐにそれを否定した。

変われたんじゃなくて、変えてくれたんだなと。

アグライアと出会い、自分を変えてくれた。

ここにいられるのもアグライアのおかげだとミクロは確信した。

神々と談話して微笑んでいるアグライアに視線を向けるとアグライアと目が合うとアグライアはミクロに微笑みながら小さく手を振った。

ミクロは小さく頷いて返事をする。

アグライアの談話が終わるまで大人しくしておこうと思ったミクロ。

「イヒヒ。お前がアグライアの眷属か?」

突然声をかけられたミクロは振り向くと一人の男神とその後ろに控えている犬人(シアンスロープ)がいた。

「俺はザリチュだ。【ザリチュ・ファミリア】をしている神だぜ?イヒヒ」

【ザリチュ・ファミリア】。

中堅の【ファミリア】で悪い噂が多い【ファミリア】。

その主神であるザリチュにミクロは警戒する。

「イヒヒ。そう警戒すんなよ、俺はただ自分の子供を紹介しにきただけだぜ?なぁ、ティヒア」

「はい、ザリチュ様」

ザリチュの後ろで控えていた犬人(シアンスロープ)のティヒアがミクロに手を差し伸ばす。

「私はティヒア・マルヒリー。見てのとおり犬人(シアンスロープ)よ。よろしくね」

「ミクロ・イヤロス」

簡潔に挨拶して手を握るミクロ。

「んじゃな、ミクロ・イヤロス。行くぜ、ティヒア」

「はい」

挨拶だけしてミクロから去って行くザリチュとティヒア。

本当に紹介だけをして去って行ったことに少し疑問を感じたミクロだが深追いはしなかった。

しばらくしてアグライアが談話から戻り、【ロキ・ファミリア】主催の神の宴は何事もなく終わった。

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