路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New13話

「シッ!」

ダンジョン7階層でベルはナイフと両刃短剣(バセラード)でキラーアントを倒していく。

そしてモンスターを倒すベルのすぐ近くには一人の少女がバックパックを持ってモンスターの死骸を一箇所にまとめていた。

ベルがサポーターとして契約した他派閥のサポーター、リリルカ・アーデ。

「セイ!」

『ギシャアアッ!?』

断末魔を上げて絶命するキラーアントにベルは一度周囲を見渡して他にモンスターがいないことを確認して息を吐いた。

「ベル様は本当にお強いのですね」

「ううん。僕なんてまだまだだよ」

褒めるリリに苦笑しながら謙遜するベル。

目標としているミクロやアイズに比べればまだまだ足りない。

「御冗談を。普通なら3人以上でパーティを組むんですよ?それを単独(ソロ)で倒し切れるのはベル様の実力です」

リリの言葉通り、本来ならパーティを組んで攻略するのをベルは単独(ソロ)で行っている。

「ベル様はどうしてお一人なのですか?ベル様の【ファミリア】なら他にも冒険者様方とパーティを一緒にさせてもらおうとは思わないのですか?」

「……そうなんだけど僕はまだまだ他の皆と比べて弱いし足手まといにはなりたくないんだ……」

あははと笑いながら言うベル。

「やはり上位派閥それも【アグライア・ファミリア】の皆様方はお強いのですね」

「え、そうなの?僕はまだ他の皆の実力がよくわからないからとにかく強いとしか言えなくて……」

「……ベル様はもう少しご自身の【ファミリア】のことを知るべきです」

呆れ気味に言うリリにベルは言葉を詰まらせる。

「【アグライア・ファミリア】は五年前に結成された【ファミリア】とリリは聞いています」

「五年前?」

「ええ、とはいえリリも詳しくは存じませんがたった五年で【ファミリア】を上位派閥まで上り詰めたのは【アグライア・ファミリア】のみです」

「それってすごいことなの?」

「当然です。たった五年で上位派閥まで上り詰めるなんて普通では考えられません」

その異常ともいえる速さで強くなっていった【アグライア・ファミリア】。

「特に団長の【覇者】ミクロ・イヤロス様の話題は尽きません」

「ど、どんな話題なの……?」

「一つの【ファミリア】の精鋭をたった一人で倒し切ったり、魔法が直撃したにも関わらず平然としていますし、階層主を一人で倒したことも割と有名ですよ」

「そ、そんなに………」

リリの言葉を聞いて唖然とするベル。

目標の一人がそれだけの実績を積み重ねているなら自分は何年かければ追いつけれるのかと頭を悩ませる。

「ベル様。よく【アグライア・ファミリア】に入れましたね」

「……僕もそう思う」

今になってよくそんなに有名な【ファミリア】に入れたことに疑問を抱く。

「まぁ、【ファミリア】の事に関してはベル様が聞いた方がいいでしょう。それより今日はこれくらいにしましょう」

「あ、うん。そうだね」

リリの言葉に同意するベル達は地上に目指す。

その道中でリリはベルが持っている装備に視線を向ける。

リリルカ・アーデは初めからベルの装備を盗む為にベルに近づいた。

お人好しで騙されやすそうなベルはリリにとって格好の的だが、ベルに近づいて一つのミスを犯してしまった。

それはベルが【アグライア・ファミリア】の団員だということ。

上位派閥まで上り詰めた【ファミリア】。その中で団長であるミクロは多くの冒険者達に恐れられている。

万が一に盗みがばれてしまえばリリはどうなるかわからない。

万全を期すまでに今はベルに付き添う。

「さぁ、ベル様。こちらの方が近道ですよ」

「うん」

全ては【ソーマ・ファミリア】から脱退する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

本拠(ホーム)に帰還したベルは荷物を自室に置くと夕食まで時間があると思い、先に汗を流い落とす為に浴室に向かう。

「いつ来ても広いな……」

脱衣所で服を脱いで浴室に足を運ぶと数十人は余裕で入れるほどの湯船やそれに見合う広い浴室。

所々に豪華な造りになっており、装飾も豪華の一言。

主神であるアグライア本人の拘りがあって造られたことはアグライアしか知らない。

ベルは【ファミリア】に入る前はこんなに豪華な浴室など使ったことがなかった為初めは恐れ多かったが今ではある程度慣れてきた。

「……ベル?」

「あれ~ベル君も~お風呂かな~?」

名前を呼ばれたベルはそちらに振り返るとそこには背中をアイカに洗って貰っているミクロの姿があった。

「あ、あああああ、あのッ!」

「落ち着け」

バスタオル姿のアイカを見て顔が一気に紅潮するベルに落ち着くようにミクロが声をかける。

「ア、アア、アイカさんどうして!?い、今は男性の時間のはずじゃ!?」

「私はミクロ君の家政婦(メイド)だよ~。背中を洗うのはお仕事だからね~」

恥ずかし気もなくただ微笑ましく笑みを浮かばせて告げるアイカだが、実際のところは今日が初めてだった。

いつもはリューや他の団員達に妨害されていたがどういう訳か今日はその妨害が緩かった為容易に侵入して入浴中だったミクロの背中を洗いに来た。

「ベル。湯船の浸かる前に体を洗えよ」

「ベル君も~洗ってあげようか~?」

「だ、大丈夫です!自分で洗えますから!!」

手をワキワキと動かすアイカを見てベルはミクロ達の近くに座って体を洗い始める。

しかしどうしてもアイカの方に視線を向けてしまうのは男として仕方がないこと。

「ふふ~どうしたのかな~?」

「い、いえ、なんでもありましぇん!」

思わず噛んでしまったベルにアイカはくすくすと笑う。

ベルの反応が初々しくてどうしてもからかってしまいたくなる。

緊張しながらも体を洗っていくベルは不意にミクロに視線を向けた。

いつもつけている眼帯は今はなくその下は大きな傷跡があった。

身体も鍛えられているというよりもむしろ女性のように細くしなやかな体つきだった。

だけど、その体にはいくつもの傷跡が存在していた。

「どうした?」

「あ、えっと、すみません……」

ベルの視線に気づいたミクロはどうしたのかと尋ねるとベルは視線を外して謝るが今日、リリと話していたことを思い出した。

自分の【ファミリア】のことをベルはまだよく知らない。

「………あの、団長のその傷は?」

だからこそベルは思い切って踏み込んでみた。

もっと自分の家族(ファミリア)のことを知る為に。

「訓練やダンジョンでついた傷。後は戦った時に付いた傷」

正直に答えるミクロにベルは更に尋ねる。

「団長は誰に戦い方を教えてもらったんですか?」

「基本はリューが教えてくれた。後は独学」

ベルの質問に淡々と答えるミクロ。

なるほどとミクロの新しいことが知れたベル。

「どうしたら僕も団長のように強くなれますか?」

「止めろ」

「え……?」

「俺のようになったらいけない」

ハッキリと告げるミクロにベルは思わず息を呑んだ。

それがどういう意味なのかはわからないベルだったがその言葉は酷く重く感じた。

「そういえば~ベル君は魔法は覚えたの~?」

「あ、え、えっとまだですけど……」

急に話を振られてベルはまだ魔法が発現したことがないことを告げるとアイカはミクロに言う。

「ねぇ~ミクロ君。そろそろベル君も魔法を覚えた方がいいよね~?」

「わかった。後でベルに魔導書(グリモア)に渡す」

魔導書(グリモア)……?」

「簡単に言えば読むだけで魔法が発現出来る本」

簡潔に魔導書(グリモア)のことを教えるミクロ。

『神秘』と『魔導』を発現した者だけしか作成できない著述書。

その値段は【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等かそれ以上と説明するとベルの顔が真っ青になった。

「い、いいですよ!?そんな貴重な物を僕なんかの為に!」

「気にするな」

「気にしますよ!!」

「?」

どこに気にする要素があるのかわからないミクロは首を傾げる。

相変わらず金銭面は雑だと思いながらアイカはミクロの頭を洗っていく。

「五冊あるし、皆読まないからあのまま置いているよりかはいい」

フェルズから貰った魔導書(グリモア)をミクロはまだ持っている。

団員達にミクロは進めてもどういう訳か団員達は読まなかった。

すぐに魔法が覚えられるのにと思いつつ疑問を抱くミクロは知らなかった。

団員達は必要以上にミクロに甘えないようにしていることに。

「あ、アイカも読む?」

「私はいいかな~」

ダンジョンには潜らないアイカもそれを拒否した。

自分よりダンジョンに潜る他の団員達が読んで生存率が上がった方がアイカも嬉しい。

「それに~ベル君は色々あぶなかっしいから~魔法が使えた方が私も安心するな~」

色々な意味で危ないベルに危機感を覚えるアイカ。

「俺も魔導書(グリモア)を使って魔法を発現させた。だから気にすることはない」

「そうなんですか……あ、団長の魔法スロットは何個か聞いてもいいですか?」

「三つ」

「三つもあるんですか!?」

あっさりと告げられる事実にベルは驚愕する。

魔法種族(マジックユーザー)であるエルフなら三つあってもおかしくはない。

実際にリューも三つの魔法スロットがある。

だけどミクロは人間(ヒューマン)

それなのに魔法スロットが三つあることは珍しいことであった。

だけどミクロはあと一つの魔法スロットを魔導書(グリモア)で埋めるつもりはない。

打倒した相手の魔法を吸収する【アブソルシオン】がある為ミクロはあらゆる魔法を行使することが出来る。

魔法に関して今のところ困ることはないミクロは最後の魔法スロットは魔導書(グリモア)ではなく自分の力で発現させることにしている。

「終わったよ~」

「うん、ありがとう」

頭を洗い終えたアイカに礼を言って湯船に浸かるミクロ。

「アイカは入らないの?」

「ん~それじゃお言葉に甘えようかな~」

ミクロの言葉にアイカも湯船に浸かる。

「ベルも来い」

「えっと、お邪魔します……」

身体を洗い終えたベルに手招きするミクロにベルも湯船に浸かる。

三人でも広すぎる湯船にミクロ達はのんびりと浸かるなかでベルは思う。

どうしてミクロはアイカが隣にいるのに平然としていられるのかと。

これが第一級冒険者の実力などとまったく関係のないことを考えてしまう。

「ベル。ダンジョン探索は順調?」

「はい!リリ、他所の【ファミリア】の子ですけどとてもいい子でした!サポーターの腕もすっごく良くて!」

「それはよかった。でも、何かあればすぐに言えよ」

「はい。それに少しでも速く……」

「何か言った?」

「な、何でもありません!」

貴方達に近づきたいと内心で告げるベル。

そのベルを微笑ましく見ているアイカは何も言わず。

「ベル」

「はい?」

「お前はもう少し人を疑った方がいい」

「え?」

どういうことですか?と問いかける前にミクロは湯船から出ていく。

「そろそろ夕食」

そう言ってミクロは浴室から去って行った。

何故あんなことを言ったのかはベルにはわからなかった。

何故ならリリを疑えと言っていると同じだから。

「ん~弟を心配するお兄ちゃんみたいだね~」

背伸びしながら言うアイカは湯船から出る。

「お先に~ベル君」

「あ、はい」

手を振って浴室から出ていくアイカにベルは返事だけする。

まだまだ家族(ファミリア)を理解できていないベルは思った。

「僕はまだ……知らないことが多い」

だからベルはもっと家族(ファミリア)のことを知って行こうと決めた。

 

 


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