路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New14話

「ねぇ、ミクロ君。どうして~ベル君にあんなこと言ったの~?」

浴室から出たミクロ達は食堂に向かう途中でアイカはそう尋ねた。

もう少し人を疑った方がいい。とミクロはベルにそう告げた。

「ベルは人の悪意を知らない」

だから警戒がない。

だから疑わない。

それがどれだけ辛いことをベルは知らな過ぎる。

「俺は家族(ファミリア)や友達は信用して信頼している。だけどそれ以外の奴らの事はそうしていない」

極端に分けている。

信用、信頼できる者とそうでない者をミクロは区別している。

「確かに~ベル君は純粋だもんね~」

ミクロの言葉に同意する。

アイカからしてみてもベルの心は汚れがない真っ白な心を持っていた。

このオラリオではその性格の持ち主はどれだけ愚か者かアイカもよく知っている。

「だけど、それを含めてベル君のいいところだよ」

「知ってる」

それでもミクロはベルのその白い心がベルの長所だと理解している。

それでも家族(ファミリア)を守る為には最低限の警戒は教えておかなければならない。

アイカは後ろからミクロを抱きとめる。

「ミクロ君は頑張り過ぎだよ。少しは自分に優しくしてあげてね」

「……頑張る」

「頑張ることじゃないんだけどね~」

ミクロの返答に苦笑するアイカ。

二人は食堂に辿り着くとベル以外の皆が集まっていた。

「………」

「?」

リューと目が合うミクロだがリューは頬を薄っすらと赤く染めてミクロから視線を逸らすがミクロは何故視線を逸らしたのかわからなかった。

しかし、その反応にアイカの笑みは深くなる。

「リューちゃん。抜け駆けはよくないな~」

「………………」

アイカの言葉に無言で返すリューだが、その真っ赤に染まっている耳が肯定を表している。

「どうしたの?」

「何でもないよ~」

二人の態度に疑問を抱いたティヒアが声をかけるがアイカは何でもないように答えるとリューの耳打ちする。

「負けないからね」

それだけを告げた。

例えリューがティヒアが誰かがミクロに近づけたとしてもアイカは諦める気は微塵もなかった。

それどころかむしろ余計にやる気が出た。

「す、すみません!遅くなりました!」

「問題ない」

慌てて食堂にやってきたベルだが、皆はまだ食事前で別に慌てる必要はなかった。

出来る限り皆で食事を取る。

それが【アグライア・ファミリア】の数少ない規則(ルール)

賑わいながら談話をする者もいれば静かに食事を取る者もいる。

または団長であるミクロの食事の面倒をみる者もいればベルをからかいながら食事を取る者もいる。

それぞれの好きなように食事を取り家族のように暖かく今日の一日最後の食事を進める。

楽しい食事が終えるとベルはミクロの部屋に足を運ぶ。

「団長。入ってもいいですか?」

『問題ない』

返答を聞いて入室するベル。

「失礼します」

部屋に入ってベルは目を見開いた。

道具(アイテム)魔道具(マジックアイテム)に使用すると思われる素材が棚に並んでいたり、壁一面には本がぎっしりと詰められている。

それ以外にも工房にありそうな道具や設備までも存在していた。

それ以外にも武器や魔道具(マジックアイテム)と思われるものまで部屋の壁に飾られている。

ベルの部屋は一言で言えば質素。

あまり物がない自分の部屋と比べたらミクロの部屋は逆の色々な物で溢れていた。

元は広い部屋なんだろうが溢れている物で狭く思えてしまう。

「ちょっと待ってくれ。もう少しで一区切りつくから」

「わ、わかりました」

作業机と思われるテーブルでミクロは何かを作製していた。

食事が終えたばかりだというのに休む暇もなく手を動かしているミクロにベルは団長となればやっぱり色々と忙しいんだなと考えていた。

周囲にある武器などに視線を向けるベル。

武器までも作れるかはわからないが装飾品などは魔道具(マジックアイテム)かなと思ったベルは一つの短剣に目が留まった。

切っ先から柄まで全ては紫紺色に染められている短剣。

ベル自身はナイフと両刃短剣(バセラード)を使用するせいかその短剣がベルは気になって手を伸ばした。

「ベル。待たせ―――ッ!?」

一区切りついたミクロは振り返るとベルが紫紺色の短剣に手を伸ばしている事に気付き、その手を掴んで止めさせる。

「それに触れるな」

「す、すみません!」

手を掴まれたことに正気を取り戻したベルはミクロに頭を下げて謝罪する。

「……いや、謝る必要はない。これは元々ベル用に作製した物だ」

「え?」

棚からそれを取り出したミクロは丁寧にその短剣を鞘に納める。

「もし、自分に危険が訪れた時はこれを使え。それまではこれを鞘から抜くな」

「そ、そんなに危険な代物なんですか?」

「上手く使えば強力な武器になる」

そう言ってミクロはベルに短剣を手渡す。

これがどんなものかは説明されていないベルだがせっかく団長であるミクロが自分の為に作製してくれた物を無下には扱えない。

受け取るベルにミクロは本棚に近づいて一冊の本を取り出してそれをベルに渡す。

「……これが魔導書(グリモア)

手と口を震わせながら受け取るベル。

読むだけで魔法が発現する魔導書(グリモア)

それほど貴重なものを頂いた以上読まない訳にはいかなかった。

「強くなりたいのなら読んだ方がいい」

「―――――はいっ!」

その一言でベルは決意を固めた。

強くなる為、少しでも早く追いつく為にベルはミクロの部屋を飛び出して自室で早速魔導書(グリモア)を開いて文字の海に引きずるこまれる。

【絵】が現れてそれは人の姿となり、もう一人のベルが姿を現した。

『じゃあ、始めよう』

瞼が開いた。ベル自身の声が聞こえた。

『僕にとって魔法って何?』

わからない。

けど、漠然と凄いもの。

モンスターを倒す必殺技。英雄達が使いこなす起死回生の神秘。

強くて、激しくて、無慈悲で、圧倒的で。

一度は使ってみたいと望んで止まらない、純粋な憧れ。

『僕にとって魔法って?』

力だ。

強い力。

弱い自分を奮い立たせる、偉大な武器。

人を守る立派な盾なんかじゃない、癒しの手なんて綺麗なものではない。

立ちはだかるものを打ち破って道を切り開く、英雄達の力。

『僕にとって魔法はどんなもの?』

もの?

魔法ってどんなもの?

雷だ。

魔法と聞けば雷。真っ先に思い浮かぶのは雷。

強くて、激しくて、荒々しい。

弱い僕には似つかわしくない、どこまでも強い閃光の雷。

僕は、雷になりたい。

『魔法に何を求めるの?』

より強く、あの人達のもとへ。

より速く、あの人達もとへ。

雲の隙間を瞬くあの光のように。

空を駆け抜けるあの雷霆のように。

誰よりも、誰よりも、誰よりも。

誰よりも速く。

あの人達の隣へ。

あの人達の瞳の中へ。

『それだけ?』

叶うなら。叶うなら。叶うなら。

英雄になりたい。

あの時から憧れていた、今も馬鹿みたいに憧れ続けている、英雄になりたい。

お伽噺に出てくる彼等のように、誰もが称えて認めてくれる英雄に。

情けない妄想でも、格好悪い虚栄心でも、みじめになるほど不相応な願いだったとしても。

僕は、あの人達が認めてくれるような、英雄になりたい。

『子供だなぁ』

……ごめん。

『でも、それが(きみ)だ』

本の中のベルは、最後に微笑んだ。

そしてすぐに、僕の意識は暗転した。

ベルが目を覚ました時は外はすっかり暗く深夜の時間帯になっていた。

読んでいた魔導書(グリモア)も読み終えていてその役割も終わった。

ベルはすぐにアグライアの下に訪れて【ステイタス】を更新して貰った。

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:B756

耐久:E478

器用:B787

敏捷:A866

魔力:I0

 

《魔法》

【ライトニングボルト】

・速攻魔法。

 

《スキル》

懸命必死(プロス・パシア)

・死の危険を感じる程に『敏捷』を強化。

・回避能力上昇。

 

「っっ………!!」

知っていたとはいえ魔法が発現したことに歓喜するベルは映し出された用紙を握りしめる。

「【ライトニングボルト】ねぇ………」

速攻魔法とだけ記された詠唱がない魔法。

これはまた珍しい魔法とアグライアは頭を悩ませる。

「かっ、神様……魔法…………僕、魔法が使えるようになりました……!」

「ええ、おめでとう」

歓喜するベルの表情を見てアグライアは微笑む。

こちらも嬉しくなるほど喜んでいるベルにアグライアは微笑みながらベルの頭を撫でる。

「さて、それじゃ早速この魔法について考察しましょう」

子と共に発現した魔法について考察し合うアグライアはベルの魔法は【ライトニングボルト】と発音しただけで、魔法が発動するかもしれないと推測した。

明日にでもダンジョンで試したらいいと言おうと思ったアグライアだが、今すぐにでも使ってみたいというベルの顔を見て苦笑を浮かべた。

「もう今日は遅いから少しだけ試して帰って来なさい」

「はい!」

ベルの心情に気を使って深追いしないようにだけ告げるとベルはダンジョンに向かった。

「……ベル?」

一人鍛錬をしているミクロはベルが本拠(ホーム)から出ていく姿が見えた。

そんなベルを見てミクロはこっそりと後を追う。

ほっとけないと思いつつ後を追いかけるミクロ。

ダンジョン1階層の一本道でベルの前方にゴブリンを見つけてベルは右腕を真っ直ぐゴブリンに突き出した。

「【ライトニングボルト】!」

次の瞬間、閃光が視界を埋めつくした。

「ッ!?」

鋭角的かつ不規則な線上を描く稲妻が、一気にゴブリンの身体を貫く。

貫かれたゴブリンの体は風穴が空いている。

それを隠れて見ていたミクロはベルの魔法を考察した。

貫通力が高い雷属性の魔法。

ベルの魔法を見てミクロはそう思った。

範囲よりも一点集中された威力を持つ無詠唱の魔法。

速さと威力を重視している魔法だとミクロは推測するとベルはダンジョンの奥へ進んでいた。

歓喜の思いが最高潮に達してしまったベルは調子に乗って下の階層に進んでいく。

何度も魔法を連発させてベルは5階層で倒れた。

精神疲労(マインドダウン)になったベルにミクロは明日は訓練増やそうと決めた。

本拠(ホーム)に連れて帰ろうと背負う。

「ミクロ……?」

「アイズ、リヴェリア」

後ろから聞こえた声に振り返るとアイズとリヴェリアがいた。

「その子……」

「ベル。前にアイズが助けてくれた」

「………なるほど。あの馬鹿者がそしった少年か」

二人の言葉に合点がいったリヴェリア。

ミクロと共に酒場にいたもう一人の少年であるベルにアイズはことの発端を作ってしまったことを引きずっている。

「ミクロ、リヴェリア。私、この子に償いをしたい」

「わかった」

「……言いようは他にあるだろう」

頷くミクロにリヴェリアはなにもわかっていないアイズの様子に、諦めてもう何も言わないことにした。

「……アイズ、今から言うことをこの少年にしてやれ。償いなら、恐らくそれで十分だ」

「何?」

リヴェリアは簡潔に内容を伝えて、ミクロはベルをアイズに預ける。

「私はミクロと共に戻る。残っていても邪魔になるだろう」

アイズとベルを置いてミクロ達は地上を目指す。

その途中でミクロは口を開いた。

「ジエンは俺が倒す」

「………すまない」

それだけを告げるとリヴェリアは申し訳なさそうに謝る。

 




あけましておめでとうございます!
今年も路地裏を宜しくお願い致します!!

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