路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New15話

「……できた」

新しく作成した魔道具(マジックアイテム)が完成してミクロは一息つく。

『ミクロ・イヤロス。少しいいだろうか?』

一息ついている時に眼晶(オルクル)から声が発せられ、それがフェルズからの連絡だと理解したミクロは眼晶(オルクル)を手も持つ。

「どうした?」

『君に冒険者依頼(クエスト)を託したい』

「内容は?」

フェルズからの冒険者依頼(クエスト)を確認するとフェルズはその内容を告げる。

24階層でモンスターの大量発生という異常事態(イレギュラー)が起こっている。

それを調査あるいは鎮圧してほしいとフェルズは言う。

「リド達は大丈夫なのか?」

『ああ、彼等なら問題ない。既に安全な場所に避難している』

「わかった。すぐに向かう」

『恩に着る。まずはリヴィラの街にある『黄金の穴蔵亭』という店に『協力者』がいる』

「わかった」

フェルズとの連絡を絶ちミクロは装備を整える。

「………」

ミクロは何となくではあるがわかっている。

前に18階層で遭遇したジエンと戦うことに。

だけど、ちょうどよかった。

決着をつけるにはこれ以上にないぐらいミクロにとっても都合が良かった。

『ミクロ。入ってもよろしいですか?』

「問題ない」

「失礼します」

部屋に入室してきたリューはミクロの装備を見て目を細める。

「ダンジョンに向かうつもりですか?」

「フェルズから冒険者依頼(クエスト)がきた。24階層のモンスター大量発生の調査と鎮圧」

「では、すぐに皆にも準備をするように」

「いらない。それにリュー達を連れてはいけない」

ジエンと戦うことになればミクロはリュー達を守るほどの余裕はなくなる。

だから一人で行くことにした。

ジエンを倒す為に。

「……やはり、考えは変えてくれないのですね」

「うん。これが最善……の………」

唐突にミクロは眠気に襲われて意識が途絶える。

倒れそうになるミクロをリューは抱えて受け止める。

「なら、無理にでも変えてもらいます」

リューの手にはミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)『レイア』が握りつぶされていた。

睡眠効果の無煙無臭のガスを発生させる『レイア』にミクロは眠りについた。

眠りについたミクロをベッドに寝かせてリューは眼晶(オルクス)を手に取り、フェルズに連絡する。

『君は【疾風】。ミクロ・イヤロスはどうしたんだ?』

「ミクロの代わりに私が行きます。報酬もいりません。内容を教えては頂けませんか?」

『………構わないが、ミクロ・イヤロスがそれを許したのか?』

その問いにリューは首を横に振る。

「私の……独断です。こうでもしなければミクロがまた傷ついてしまう。私はもう守られる訳にはいかない」

リューはいつもミクロに守られていた。

それがリューは嫌だった。

自分だけが安全な所にいて、ミクロだけを危険な目に会わせてきた。

だから、今度こそは守られるのではなく守る。

ミクロを。愛する人を自分の手で。

『……わかった』

真意あるその言葉にフェルズはミクロに伝えた冒険者依頼(クエスト)の内容をリューに伝える。

それを聞いたリューは一度礼を言って連絡を絶つとミクロの手を握る。

「……すいません」

眠っているミクロに謝ってリューはダンジョンに向かう。

ミクロが倒そうとしていたジエンを倒す為に。

「貴方は私が守ります」

 

 

 

 

 

ダンジョン8階層。

リリルカ・アーデは10階層でベルを罠に嵌めてベルから盗んだ両刃短剣(バセラード)を強く握りしめて地上を目指していた。

「本当に人が良過ぎですよ、ベル様」

そう言いながらリリは通路を走る。

リリルカ・アーデは盗人、詐欺師と言ってもいい。

実入りの高い職種の冒険者を狙い、特に高価な武具や貴重なアイテムを盗み取っていく。

リリは獣の耳をぺたりと撫で、そっと唇に『詠唱』を乗せた。

「【響く十二時のお告げ】」

すると、リリの頭部にある獣耳が消え失せた。

変身魔法。リリはこの魔法を駆使して多くの冒険者を騙してきた。

だが、一つだけリリはミスを犯していた。

ベルの前に剣を盗んだ冒険者に魔法の行使を見られてしまった。

そして、昨日にその冒険者とベルが密会を見つけてリリは潮時と判断した。

だからベルの装備を盗むことを実行した。

「………」

だけどリリはベルとの関係が終わってしまったことに未練があった。

リリは顔を暗くしたがすぐにはっとなって、ぶんぶん頭を振る。

何を今更、と罪悪感を蹴りつける。

冒険者なんてみんな同じだと心の中で自分に言い聞かせる。

リリルカ・アーデは【ソーマ・ファミリア】の構成員の夫婦から生まれた子供。

生を授かった時点でリリは【ソーマ・ファミリア】の末端に加わることが義務付けられていた。

リリの両親は年端もいかないリリに金を稼いでくるように再三申しつけ、親らしいことは何もせずに力量に合わないダンジョンの階層でモンスターに殺された。

冒険者としての才能がないリリはサポーターへの転換を余儀なくされた。

それからは冒険者達に搾取される毎日。

だからリリは【ソーマ・ファミリア】を脱退して自由を手に入れる。

その為には大量の金がリリには必要だった。

「リリはお一人で何でもできるベル様が羨ましいです!」

リリは戦闘に向いていない非力な身だ。

それでも自分にできるできないを正確に掴んでいったリリは着実に成功を収められるようになった。

7階層に到着したリリは次のルームの入り口に足を進めた。

「嬉しいねぇ、大当たりじゃねえか」

「えっ?」

狭い通路を抜けて、ルームに飛び込ませた次の瞬間横から伸びた足が、身長の低いリリの膝を捉えてバランスを失ったリリは豪快に地面に飛び込んだ。

混乱しながらも地面に手をついて起き上がろうとするが、長い影がリリを被覆しリリが顔を上げる前に強引に掴み上げられて、顔面を思いっ切り殴られた。

「ふぎっ!?」

「詫びを入れてもらうぜぇ?………このっ、糞パルゥムがあっ!」

またもリリは殴られる。

それだけでは収まらないかのように蹴りも入れられ、バックパックが背中から離れて、腹部へ足のつま先が突き刺さる。

「―――――――ぁ!?」

ボールのように吹き飛び、地面にバウンドする。

止まったころにリリは痛みの渦にもがき苦しんだ。

「あっ、づっ、うあぁっ……!?」

「はっはははははははっ!いいザマじゃねえか、コソ泥がぁ!」

チカチカと点滅する視界の中でリリは何とか声の主を見た。

リリのもと雇い主で剣を盗んだ人間(ヒューマン)の冒険者。

リリがベルを捨てる頃だと思い、協力者を募って網を張っていた冒険者は落とし前と都合のいいことを言いながらリリから荷物を奪っていく。

何とか逃げ出さなくては悲惨な末路を迎えると、未だに衰えない凶暴な気配を前に悟った。

冒険者は次にリリが握りしめているつい先ほどベルから盗んだ両刃短剣(バセラード)に手を伸ばすとリリは咄嗟にそれを抱きしめる。

「あぁ?」

抵抗らしい抵抗をしなかったリリがこれだけは奪われまいと必死に握りしめる。

「派手にやってんなぁ、ゲドの旦那ァ」

第三者の声が投じられた。

「……っ!?」

「おー、早かったな」

声の方向には見覚えのある男がいた。

同じ【ソーマ・ファミリア】のカヌゥと呼ばれる中年の獣人。

それがゲドの協力者だった。

「ちょうどいい、ちょっと手伝え。こいつが大事そうに持っている両刃短剣(バセラード)を奪うの手伝え」

「………ッ!?」

その言葉にリリは身を震わせながらも持っている両刃短剣(バセラード)を強く握る。

何故こんなことをしているのかわからない。

ただこれを手放したらあの少年(ベル)との関係も切れてしまうような気がしたとしか言えなかった。

「ほう、いいもん持ってるじゃねえか。おい、アーデ」

「……せん」

「あぁ?」

「お金も魔石も全てお渡しします。ですが、これだけは渡せません」

強い眼差しをカヌゥ達に向けてリリは言った。

だが、その言葉を聞いたゲドの額には青筋を立てて剣を抜く。

「もういい、てめえを殺して貰うまでだ」

カヌゥはそれを聞いてちょうどいいと思った。

どの道リリにはここで消えて貰う予定だった。

わざわざ自分の手を汚さなくていいと思いそれを見守る。

「物騒なことを話しているな」

「っ!?誰だ!?」

声のするほうに視線を向けるとそこには一人の男性のエルフが立っていた。

ゲド達はエルフが身に着けている戦闘衣(バトル・クロス)に刻まれたエンブレムを見て目を見開く。

「【アグライア・ファミリア】……!?」

「……【白弓の魔射(レフティス)】」

「ああ、そこの小人族(パルゥム)は俺の二つ名を知っているのか」

団長のミクロが有名の為あまり知られていない自分の二つ名を呼ばれたスウラ。

「な、何の用だ!?」

吠えるゲドの耳に聞こえたのは何かは当たる音だった。

スウラの両手にはいつの間にか短弓が握られていてゲドの方に向いていた。

視線を下に向けるゲドの両足には矢が突き刺さっていた。

「ああ、あああああああああああああああああああッッ!!」

獣染みた悲鳴を上げるゲドにカヌゥは相手が悪いと背に隠していた生殺し状態のキラーアントを投げつけて逃げようとしたが気が付けば生殺し状態だったキラーアントの頭部に矢が突き刺さっていて絶命していて、カヌゥもゲド同様に足に矢が突き刺さった。

「ほら、君のお仲間だ」

動けなくしたカヌゥにスウラは背後に置いていたカヌゥの仲間を見せる。

「……………」

スウラの存在にリリは圧倒されていた。

気が付けばゲドもカヌゥも倒されていた。

「安心してくれ。殺しはしないさ」

ゲド達にそれだけ言ってスウラは通路に視線を向ける。

「……?」

何をしているのかわからないリリは首を傾げているとそれは唐突に姿を現した。

「リリィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」

リリの呼ぶ声と同時に姿を現したのはベルだった。

「ベル様っ!?」

「リリ!大丈夫!?」

心配そうに詰め寄ってくるベルにリリはどうしてここに来たのかわからなかった。

「どう、して……?」

「あの後、他の冒険者がやって来たみたいでさ。どんどんモンスターが……ってリリ!怪我しているよ!?待ってて今、回復薬(ポーション)を」

「ベル。そろそろ俺にも気付いてくれないかな?」

「え、あ、スウラさん!?どうしてここに!?」

声をかけられてようやくスウラのことに気が付いたベルはスウラだけではなく自分の周りに他の冒険者呻きながら倒れている事に気が付いた。

「俺は団長から君達を監視するように頼まれていてね。ついでにその取り巻き達を倒しただけさ」

「団長から……?」

「君を心配しての指示さ。そして、団長の心配通りになってしまった」

短剣を取り出してリリに近づくスウラにベルはリリを守るようにリリの前に立つ。

「な、何をするつもりですか?」

「彼女を痛めつける。二度と俺達の前に現れないように」

「っ!?」

淡々と告げられる言葉にリリの顔は恐怖に染まる。

「ど、どうして!?」

「理由が彼女が持っている」

問いかけるベルの言葉にスウラはリリが持っている両刃短剣(バセラード)を指す。

「それは君が持っていたものだろう?何故彼女がそれを持っている?」

「そ、それは……」

「当ててあげよう。彼女が君を罠に嵌めて奪った物だろう?」

「………っ!」

言葉を濁らすベルにスウラは言い当てる。

「ベル。俺は団長から君達を監視するように頼まれたと同時に状況と判断も任されている。君を罠に嵌めた彼女を許す気はない」

「………!」

言い切ったスウラにベルの表情は強張る。

「それとも君には彼女を守らなければならない理由でもあるのかい?君を騙し、団長から頂いた両刃短剣(バセラード)を奪って殺そうとした彼女の事を」

スウラの言葉は正しいことはベルもわかっている。

「………あります」

「ベル様………」

だけどそれがリリを見捨てる理由にはならない。

「聞かせてもらおうか」

「リリだから」

「――――――――」

栗色の瞳が、一杯に見開かれた。

「君を罠に嵌めたとしても彼女だからという理由で守るのか?」

「はい」

「………………」

真っ直ぐと力強い眼差しをするベルの瞳は例え神でなくとも嘘ではないとわかる。

純粋で真っ直ぐな思いが伝わる。

スウラは苦笑を浮かべながら息を吐く。

「わかった。君に免じて彼女の処罰は保留にしよう」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、主神に誓おう」

ベルの真っ直ぐな気持ちに心打たれたスウラはリリの処罰を保留にした。

「ベル様………どうして……?」

どうしてそこまでして自分を助けてくれるのか理解できないリリを無視するかのようにベルはいつもの優しい笑みを浮かべたままリリに右手を伸ばした。

「リリ。これからも一緒に僕とダンジョンに潜ってくれないかな?」

「―――――――はい」

涙を拭いてリリはベルの手を掴んだ。

「さて、いい雰囲気を邪魔するのは無粋だがベル、君も彼等を地上に運ぶのを手伝ってくれ」

「あ、す、すいません!」

「リリもお手伝いします!」

ゲド達を縛り上げて担ぐスウラにベル達も一人ずつ背負う。

「それと、彼女に一つ提案があるんだがいいだろうか?」

「はい?」

「【アグライア・ファミリア】に来る気はないだろうか?」

「………………え?」

突然の勧誘に一瞬思考が止まったリリにスウラは続ける。

「始めは君がベルを罠に嵌めた時からダンジョンで消えて貰おうと思っていたが君がベルの武器を決して渡そうとしなかったのを見て考えを改めた。色々心配なベルの世話をして欲しい」

わかるだろう?という言葉にリリは思わず頷いて肯定した。

「君の処罰や改宗(コンバージョン)については我らの主神と団長とで決めてもらうが俺やベルが口添えをすれば多少は処罰も軽くしてくれるだろうし、改宗(コンバージョン)も認めてくれるはずだ」

「………いいのでしょうか?」

自分なんかが有名な【アグライア・ファミリア】に入ってもいいのかと思うリリにベルは言う。

「僕は、来てほしい。リリと一緒にいたいし家族になりたい」

その言葉にリリの顔は一気に紅潮した。

それを聞いたスウラはやれやれと呆れた。

取りあえずは一件落着とスウラは団長であるミクロから課せられた任務は終わった。

だが、本拠(ホーム)に帰還した時にはミクロの姿はどこにもなかった。

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