激突するリューとジエン。
木刀を持って持ち前の高速戦闘を駆使するリュー。
高速で動きながら木刀を攻撃を繰り出すがジエンは難なくリューの攻撃を防ぐ。
しかし、リューもそれは承知済み。
相手は自分よりLv.が上でミクロが何度も苦戦を強いられた【シヴァ・ファミリア】の一員、それも
格上だと分かった上でリューは戦いに挑んでいる。
ミクロを守る為にリューは戦う。
「まずはお手並み拝見と行こう」
『アビリティソード』の剣の姿が変化してジエンは攻撃してくるリューの攻撃を回避して、背後に回り込む。
「ッ!?」
『アビリティソード』の『敏捷』で速度を上げるジエンの動きは高速戦闘を得意とするリューの速さを上回った。
「ほう、躱したか」
それでも日頃から自分より格上のミクロと模擬戦を行っているリューはなんとかジエンの攻撃を回避することが出来た。
「しかし、無傷とはいかなかったようだな」
横腹から滲み出る血はリューの服を赤く染めていく。
「ミクロなら今の一撃を確実に回避しただろう」
その言葉にリューは否定できない。
普段からの模擬戦でもリューはミクロに攻撃を通すことが出来ずにいた。
技と駆け引きにより稀に攻撃が通ることがあるがそれでも大したダメージは与えられない。
ミクロと比較されて自分の弱さに悔やむリューだがそんなことは関係ない。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々愚かな我が声に応じ、今一度星の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
足元に空色の
それも攻撃を行いながら続ける『並行詠唱』。
「見事なものだ。並行詠唱のみならリヴェリアを越えるか」
攻撃、移動、回避、詠唱、防御を含めての五つの行動を高速で同時展開するリューの『並行詠唱』にジエンは称賛の言葉を送る。
「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」
詠唱を終わらせたリューはジエンから距離を取って魔法を発動する。
「【ルミノス・ウィンド】!」
緑風を纏った無数の大宝玉をリューはジエンに向けて放つ。
今まで何度もミクロ達を救ってきたこの魔法はリューの切札ともいえる。
しかし、その魔法の前にしてジエンは落ち着いた表情で剣の姿を変える。
「っ!?」
そして、その光景にリューは眼を見開いた。
剣の姿が変わったと同時にリューの魔法は吸い込まれるかのように剣に収まっていく。
「頂いたぞ、貴様の魔法を」
刀身が緑色に輝く剣にジエンは剣を振るうと先ほどリューがジエンに放った自分の魔法がそのまま自分自身に返って来た。
「くっ!」
襲いかかってくる緑風の大宝玉をリューは緊急回避。
「あぐっ!」
しかし、全てを回避することは出来ずリューは自分自身の魔法を受け地面に倒れ伏す。
「どうだ?自分の魔法を受ける気分は」
歩み寄ってくるジエンにリューは顔をだけ向けてジエンの剣を見るとその視線に気づいたジエンは説明する。
「今のは貴様の魔法を剣に付与させてそれを放出させた。それがこれだ」
対象の魔法を剣に吸収してそれを剣に付与させる、もしくはそれを放出を可能にするのが『魔力』の能力。
「素晴らしいだろう?シャルロット副団長が作製したこの
誇らしげに語るジエンだが、その表情はどこか憂鬱そうだった。
「やはり、才能を持って産まれてきた者は格が違う」
「………随分と才能に固執しますね」
ミクロのことについてもシャルロットのことについてもジエンは特別や才能あるなどまるで恨めしそうに言う。
「……貴様にはわからないだろう。才能ある者とない者との圧倒的なまでの差別感を。私はエルフだ、それなのに魔法が一つも使用することができない。それでも、私は努力した。魔法が使えなくても剣術を磨けばいいと自分自身を律して剣を振るい続けた。だが、何も変わらなかった!」
「かは……ッ!」
ジエンはリューを蹴り飛ばす。
「周囲から落ちこぼれと呼ばれる度に心がすり減らされる気持ちがわかるか!?魔法が一つも使用できない不安と恐怖が理解できるか!?自分と周囲との劣等感を味わったことがあるか!?」
激情に任せて地面に倒れているリューを蹴り続けるジエンだが、蹴るのを止めて上を向く。
「……しかし、そんな私をシヴァ様は救ってくださった。そして、私はあの方に忠誠を誓った」
その時のことを思い出すかのように告げるジエンは手に持つ『アビリティソード』を強く握る。
「そしてシャルロット副団長は私に力を与えてくださった。この力で私は今まで見下してきた同胞たちを葬った。その時の奴等の恐怖、嘆き、絶望を見るたびに私の心は満ちていった」
同胞であるエルフを葬ることで知った破壊の快楽。
劣等感で苦しめられてきたジエンにとってそれは悦びだった。
「………それは間違ってる」
「何?」
倒れているリューは全身に力を入れて何とか立ち上がりながら言葉を続ける。
「本当にミクロの母親であるシャルロットさんは貴方に力だけを与えただけでしょうか?私はそうは思わない」
「何も知らない貴様が何を言う?」
話したことも見たこともないリューにジエンは訝しむ。
「ええ、その通りです。私はシャルロットさんのことはミクロから聞いた程度しかしりません」
訝しむジエンの言葉をリューは肯定した。
「それでも私はシャルロットさんのことを尊敬している」
真っ直ぐな瞳でリューは言い切る。
「シャルロットさんのミクロを愛する想いは誰よりも強かった。自分の子供を幸せを願い、自分の命さえもミクロに与えた」
犠牲になるのは美点ではない。
それでもシャルロットのおかげでミクロは死ぬことはなかった。
自分の命をミクロに与えて自分の子供を守った。
誰よりもミクロを想い、愛して守り続けた。
「シャルロットさんは素晴らしいお方というのは同意しましょう。しかし、私は腑に落ちない。それほど素晴らしいお方が本当に力だけを貴方に与えたのか」
自分が装備している
「きっと意味があったはずです。ミクロが私にこの
ミクロがリューに『アリーゼ』を与えた時は感謝だった。
何かしらの意味と想いを込めてシャルロットはジエンに『アビリティソード』を与えたとリューは思っている。
「それなのに貴方は自身の欲求を満たすだけでその意味を探ろうともしなかった。シャルロットさんの想いを貴方は踏み躙っている」
木刀を捨ててリューは小太刀を抜刀する。
「本当の貴方は認めて欲しいだけあったはずだ。魔法が使えない自分ではなくジエン・ミェーチという一人のエルフとして認めて欲しかっただけのはずだ」
「………れ」
「ミクロならきっと何も言わず貴方を倒すだけで終えるでしょう。彼は優しい、貴方の全てを受け止めて真正面から貴方を倒そうとここに来たはずだ」
「……黙れ」
「私はミクロ程強くもなければ全てを受け止められるほど器も広くはない。それでも、私は言います。私は愛する人をミクロを守る為に戦います」
「黙れぇぇぇぇえええええええええええええええええええええッッ!!!」
激昂するジエンは感情のままに怒鳴り散らしてリューに攻撃を仕掛ける。
ジエンの剣を小太刀で防ぐなかでジエンの攻撃は勢いを増す。
「守るだと!?それは才能ある者、強者のみが許される言葉だ!貴様如きがミクロを守れるわけがない!!」
剣の姿を『力』に変化させて薙ぎ払う。
回避した後ろにある巨大な柱がその一撃を持って破壊された。
後退いつつ防戦するリューに対してジエンは言葉を続ける。
「過去現在、未来永劫においてもミクロ以上の才ある者は誕生しない!ミクロは守られる存在ではない!!それは私よりも貴様の方が知っているはずだ!!」
ミクロは守ったことはあるが守られたことはない。
守られる前にその人以上に強くなり、強者を倒して圧倒的速さで強くなった。
リューは今までも守られたことはあっても守ったことはなかった。
的確に抉ってくるジエンの言葉がリューの心を抉る。
「それでも私はミクロを守る!!」
だけど、それが諦める理由にはならなかった。
「彼は一人の
「なっ!?」
リューはジエンの剣を弾いた。
「私はミクロを支えたい!愛する人に苦しい想いをさせない!」
剣を弾いて際限のない怒涛の連撃を乱打する。
「もう、ミクロだけには背負わせはしない!!」
超連続攻撃にジエンの身体に傷が出来る。
誰よりも傷付き、苦しんできたミクロをリュー守りたい。
例え、ミクロより弱くても、才能がなかろうと。
この想いだけは諦めたくはなかった。
「戯言をほざくな!!そのような感情論で才能を上回ることは不可能だ!必要なのは力だ!他者を踏みつけられる程の力!その力を手に入れて私はここまで来た!!」
『アビリティソード』をその手に収めてジエンは
「それなら私は私を超えて強くなればいいッ!!」
痛み体に鞭を入れて全身全霊で攻撃を続けるリューにジエンは後退を余儀なくなれる。
「私はミクロと仲間達と共に未来を歩む!!」
ミクロを守る為に、仲間達と共に未来を進む為。
その想いを糧にリューの【ステイタス】は限界まで引き上がる。
それに対してジエンはリューの言葉に冷静さが欠けていた。
『アビリティソード』という力を手に入れた自分を否定された。
過去の忌々しい記憶が脳裏に過ぎ、怒りで冷静さが欠けて攻めあぐねていた。
「ッ!?」
しかし、天はジエンを味方した。
天井から降って来た岩石がリューの頭に直撃し、攻撃の手が怯んだ。
「死ね!!」
怯んだその隙が致命的な隙を生み出してしまった。
猛烈な弧を描いた剣身がリューに襲いかかる。
回避も防御も間に合わない絶体絶命。
「リュー!!」
「信じてる!」
「はい!」
刀を受け取り、居合切りの構えを取る。
回避も防御も間に合わない僅差の時間の中でリューは攻撃に移る。
しかし、ミクロの登場とリューが持つ刀に警戒したおかげかジエンは一瞬で冷静さを取り戻して『アビリティソード』の剣の姿を変えた。
『耐久』に変えたこの形状はかつては深層の階層主でさえも破壊することができなかったほどの堅牢さを誇る。
例えミクロが渡した刀がどれほどの業物だろうとこの剣を壊すことは不可能。
ミクロとの距離はまだある。
なら、一度防御した上でリューの隙を攻撃して倒すと考えるジエンにリューは抜刀した。
「なっ!?」
鞘から抜かれた刀には刀身が存在しなかった。
しかし、ジエンの身体は切り裂かれた。
「な……に………?」
切り裂かれたジエンは地面に膝を付き視線をリューの持つ刀に向けてようやくその正体がわかった。
「これは……」
実際に使ったリューもその刀を見て驚いた。
「それの名は『
二人の下に駆け付けてきたミクロがその刀の名を告げた。
「お前が持つ
鞘から抜くと同時に周囲の風を収束させて風の刀身を作り出す
ジエンは風の刃によって切り裂かれたのだ。
「馬鹿な……ッ!?
「いや、今の俺にはこれが限界だ」
確かにミクロは
それでも一度
「ハハ………やはり才能ある者は格が違う。殺せ」
戦いに負けてミクロの才能を目の当たりにしたジエンは全てを諦めて二人に自分を殺す様に進言する。
「断る」
しかしミクロはそれを拒否した。
「お前を地上に連れて行きギルドに引き渡す。そして罪を償って貰う」
「私を憐れむな……ッ!これ以上生き恥を晒すぐらいなら私は死を選ぶ………!」
憐れむぐらいなら自らの死を選択する。
見下されてきた自分がギルドに捕まれば主神であるシヴァに見限られ、また笑い者にされてしまう。
そのような思いをするぐらいなら死んだ方がよかった。
「………お前にオラリオを去れと言われてからその答えを考えていた」
18階層でジエンに言われてからミクロは
「俺の答えは変わらない。仲間達と一緒に未来を歩む」
「ミクロ……」
リューの手を握って答えを示す。
「この道が破滅の道だとしてもその先にある幸せを掴み取ってみせる」
仲間を、家族を、明日を信じて未来を歩く。
「シヴァ様は君を諦めたりはしない。それは私以外の
その問いにミクロは頷いて肯定した。
明確な答えを聞いたジエンは自虐気味に笑った。
流石は才能溢れるミクロ。才能がない自分とは違いすぎることに。
ミクロはジエンの傍に落ちている『アビリティソード』を手にするとそれをジエンに見せるように持つ。
「ジエン。母さんが何故これをお前に渡したのかわかるか?」
「何……?」
突然の問いに訝しむジエンにミクロは答えた。
「お前は過去に囚われている。だから、これはそんなお前が未来に向かっていける為に母さんはこれをお前に渡した」
「ッ!?」
『これは貴方の過去を断ち切る為のもの。そして貴方の未来を切り開く為の武器。強くなって自分に優しくしてあげて、そうすれば貴方は誰かの為に戦える優しいエルフになってると思うから』
記憶の奥底から蘇るように思い出すシャルロットの言葉。
シヴァに拾われて劣等感の塊だった自分に『アビリティソード』という力を与えてくれた時のシャルロットの言葉が今になって思い出した。
力に魅入られてその時の言葉を忘れていたがミクロの言葉によって思い出すとジエンの眼から涙が流れる。
慈愛に満ちたその言葉が破壊の快楽でしか満たせれなかった心を満たした。
どうして忘れたいたのかと後悔と共に抱えていた劣等感が涙と共に流れ落ちる。
「私の……負けだ………」
敗北を認めたジエンにもう戦意はない。
ミクロは『アビリティソード』を『リトス』に収納してリューに振り向く。
ベシ!
そして、リューの頭を叩いた。
ベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシベシ!!
「ミ、ミクロ……?」
怪我をしているリューに気遣って痛くしない程度に叩くミクロの奇行にリューは戸惑う。
始めて見るミクロの奇行にどうすればいいのかわからない。
ミクロは叩くのを止めて自分の胸を掴む。
「凄く痛かった……リューがいなくなって凄く痛かった」
ミクロが目を覚ました時には
リューにもしものことがと考えるだけで胸が痛くなる。
その痛みを抱えたままミクロはここまで辿り着いた。
「すいません、ミクロ」
心配かけてしまったことにリューは謝ったがミクロはそっぽを向いた。
怒っているように許さないように子供のような反応をするミクロを見てリューは申し訳ないと思いつつ苦笑した。
その時、甲高い破砕音が響かせて
「私に構わず行け。君達の仲間がこの先にいる」
ジエンの言葉にミクロとリューは顔を合わせて頷き合い動き出す。
ジエンは
「強くなれ、君達の幸せを私は願う」
深手を負いながらジエンはその場から姿を消した。
崩落している
情報を交えながらその日の内に地上に帰還した。
ジエンが姿を消したことに気掛かりだったがミクロはもうジエンとは戦うことはないと踏んでいる。
もし、会える機会があれば次こそはギルドに連行して罪を償わせると心に決める。
24階層の
帰還早々に執務室に座っているミクロは取りあえずは最初の問題を解決させようと視線を上げる。
執務室の中央に正座している
スウラから詳細を聞いたミクロにベルは懇願した。
「団長、お願いします!リリを許してあげてください!!」
「俺からも頼むよ、団長」
ベル達からの頼みは二つ。
ベルの
リリルカ・アーデの
正直、ミクロは目の前にいるリリを二度とベルと関われないようにしようと考えているが二人の説得にどうしようかと頭を悩ませる。
【ファミリア】の団長としてもそう簡単にリリを許す気にはなれない。
「リリルカ・アーデ。お前は俺の家族であるベルを罠に嵌めた。それを俺は許す気はない。だが、二人の頼みを無下に扱うつもりもない」
二人の懇願を聞き入れた上でミクロはリリの処罰を言い渡す。
「
「……ッ!はい、ありがとうございます!!」
「団長!本当に、ありがとうございます!!」
「気にするな」
頭を下げるベルにミクロは用紙に羽ペンを動かす。
書き終えるとそれをベルに手渡す。
「それをセシシャに渡して頼め。他に何かあれば言って来い」
「はい!!」
満面な笑みを浮かばせるベルはリリの手を取って喜ぶ。