路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New19話

一週間後にある【ロキ・ファミリア】の遠征に同行することになった【アグライア・ファミリア】。その団長を務めているミクロはその事をアグライアに報告するとアグライアは微笑みながらミクロの頬を引っ張った。

「どうして貴方はそう勝手に決めちゃうのかしら?」

主神に一言も告げることなくその場で即了承したミクロにアグライアは怒っていた。

「ひんにゃのいいひゃいけんになる」

頬を引っ張られながら答えるミクロは皆のいい経験になると言いたかった。

【アグライア・ファミリア】の到達階層は37階層。

次の遠征では40階層を目指す予定だったが【ロキ・ファミリア】の遠征に同行することになり、急遽予定が変わった。

ミクロの頬から手を離すとアグライアは疲れたように息を吐いた。

【ファミリア】や皆のことを考えて行動しているとはいえ、もう少し誰かに一言ぐらい相談してから決めて欲しかった。

「それと、明日からベルはアイズに俺はレフィーヤを一週間鍛えることになった」

その言葉を聞いてアグライアはもう一度ミクロの頬を引っ張って今度はぐりぐりと頬を動かす。

一応ロキとはそれなりの良好は築き上げている。

ミクロ本人もアイズ達と仲が良い。

派閥同士が懇意しているなかとはいえ、互いの子を別の派閥に鍛えるとは前代未聞だ。

自派閥で培ってきた知識と技術を提供しているようなもの。

二大派閥である【ロキ・ファミリア】それも【剣姫】と名高いアイズがまだ新人のベルを鍛えるのはありがたいが問題はレフィーヤの方だ。

死ぬことはないだろうが余計な心の傷(トラウマ)を負うかもしれない。

ミクロの事だから【ファミリア】に関わる重要なことは話さないだろうが下手にレフィーヤに何かあったらそれに付け込みあの悪神(ロキ)が何をしてくるかわかったものじゃない。

はぁ~と深く溜息を出してアグライアは手を離す。

「決めちゃったことは仕方ないけど次からは私かリューにでも一言ぐらい言いなさい。それと、リュー達にもこのことを話しておくのよ?」

「わかった」

アグライアの言葉にミクロは頷いて肯定するとアグライアの部屋を出て今回の事をリュー達に知らせに行く。

アイズが指導してくれると聞いたベルは嬉しさと申し訳なさでいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、黄昏の館の正門前にミクロ達は来ていた。

約束通り今日から一週間レフィーヤはミクロの下で、ベルはアイズの下で師事を受ける為に。

ミクロ達が到着した頃には既にフィン達は待っていた。

「一週間よろしく頼むよ、レフィーヤ」

「ご、ご指導よろしくお願いします!」

「よろしく」

頭を下げるレフィーヤにミクロも挨拶するとベルに視線を向ける。

「ご、ご教授をよろしくお願いします!」

「……うん、よろしくお願いします」

アイズに頭を下げるベル。

互いに師事を仰ぐ者に挨拶を済ませるとレフィーヤはぎろりとベルを睨んで近づく。

「いいですか?くれぐれもアイズさんに無礼がないように!アイズさんは貴方と違ってとても強くて綺麗で可憐でちょっと天然なところも可愛くてキャッ!は、離してください!?セシルさん」

鬼気迫る表情で迫っていくレフィーヤをセシルが首根っこを掴んで遠ざける。

「いいから行くよ。私の修行時間も抜いて来てるんだからその辺り忘れないでね」

「そ、そうかもしれませんが私はこの人間(ヒューマン)に礼儀を教えなくては……ッ!?」

「はいはい、憧れの人が別の人に独占される気持ちはわかるけど私達も訓練しないと。そうですよね?お師匠様」

「ああ、フィン。夕方頃には帰す」

それだけを言ってスタスタと歩き出すミクロ達にレフィーヤはセシルに引きずられながらアイズさ――――――ん!!と叫んだ。

「えっと、私達も行こうか?」

「は、はい!」

アイズ達も別の場所で訓練を行う為に動き出す。

アイズ達が見えなくなったところでレフィーヤは自分の足でミクロ達についていく。

「はぁ~」

溜息を吐くレフィーヤ。

訓練とはいえアイズと二人きっりになるベルに嫉妬と憤りを感じながらもこれは派閥同士が決めたことと考えて自分を納得させる。

チラリとレフィーヤは二人に視線を向ける。

セシルは自分と同じLv.3の冒険者であり、ミクロの弟子でもある。

武器は背に担ぐ大鎌が有名で【魂狩り(ソウルハンター)】という二つ名が神々から与えられた。

憧憬を抱く者同士ではあるが憧憬する人が違う自分の宿敵(ライバル)

もう一人はミクロ。

その名を知らない者はこのオラリオでは存在しないと言えるくらいの有名人。

何から語ればいいのかわからないくらいほどの数多くの武勇伝がある。

もちろん、その実力は本物。

【アグライア・ファミリア】団長、【覇者】ミクロ・イヤロス。

Lv.6の冒険者。

手に持つ魔杖《森のティア―ドロップ》に強く握る。

その実力者からレフィーヤは『並行詠唱』を身に付けなければならない。

以前にミクロが見せた『並行詠唱』はレフィーヤから見ても凄いとしか言えなかった。

当たり前のように『並行詠唱』を使用して18階層では魔法円(マジックサークル)を展開した上での長文詠唱からの魔法の行使。

純粋な魔導士特化の自分とは比べるまでもない。

自分が得意とする魔法だけでもレフィーヤはミクロに劣る。

「レフィーヤ」

「は、はい!」

突然声をかけられて驚くレフィーヤにミクロは尋ねる。

「レフィーヤは『並行詠唱』はどこまでできる?」

「え、えっと……軽く走りながらなら………」

「そうか。知識は?」

「一通りはリヴェリア様から教わっています」

「わかった」

ミクロの質問に正直に答えるレフィーヤにミクロは頷く。

再び前を向いて歩き出すミクロにレフィーヤはどういう意図でそんな質問をしたのかと訝しむとセシルが遠い目で空を眺めていた。

「レフィーヤ。今の内にこの綺麗な青空を見ていた方が良いよ?」

「え?セ、セシルさん……」

突然何を言っているのかわからないレフィーヤはそのままミクロ達と共にダンジョン5階層、西端の『ルーム』に足を運んだ。

『魔法』の試射(テスト)、あるいは魔導士の砲撃訓練は、ダンジョン内で行うのが通例である。

都市の中で攻撃魔法を放とうものなら街や市民に被害が及び、ギルドの御用になる。

「えっと、私は何をすればいいのでしょうか?」

師事を受けるミクロに自分の訓練内容を尋ねるとミクロは答える。

「今日からまずは三日間、セシルと戦って貰う。セシルは武器の使用とレフィーヤは魔法の使用を禁止した状態で」

「はい!」

「え?」

ミクロの師事に当たり前のように返答をして鎌を置くセシルにレフィーヤは異議を唱えた。

「ちょ、ちょっと待ってください!私は魔導士です!『並行詠唱』の訓練を行うのではなかったのですか!?」

魔導士に魔法を使うなと言われたらレフィーヤに残されたのは苦手な白兵戦のみ。

それに対してセシルは前衛職。

白兵戦は得意中の得意。

「魔導士でも接近戦を行うこともある。この三日間は『並行詠唱』を身に着ける為の前準備」

「前準備……?」

聞き返すレフィーヤにミクロは頷いて答える。

「セシル。いつも俺と模擬戦をするつもりで戦え」

「わかりました!行くよ、レフィーヤ!」

「え、ちょっと待って………ッ!」

駆け出すセシルにレフィーヤは咄嗟にリヴェリアから教わった棒術を駆使するがセシルはそれを躱してレフィーヤに接近して腹部に一撃当てる。

「かは……」

肺から空気が出ていくレフィーヤにセシルは情け容赦なしに連撃を行い、顔面を殴って怯んだその隙に足払いをして地面に倒してからの止めで顔すれすれに拳を止める。

「……えっと、大丈夫?」

予想以上に的中したセシルは思わず倒れているレフィーヤに声をかけるがレフィーヤは気を失っていた。

いつものミクロ相手ならこの程度は全く通じずに余裕で反撃されて自分が地面に転がっているが魔導士とはいえ同じLv.だとこうも違うのかと力加減を間違えた。

ミクロはレフィーヤに近づいて『リトス』から高等回復薬(ハイ・ポーション)をかけて傷を治してからレフィーヤを起こした。

「問題ない。続けて」

起きたレフィーヤに問題がないことが発覚して続きを強制させるミクロに青ざめるレフィーヤは抗議した。

「ま、待ってください!模擬戦を行うことはまだわかります!ですが、魔法もなしに前衛職であるセシルさん相手に私が勝てるわけがありません!?せめて、魔法の使用だけでも認めてください!!」

「それでは訓練にならない。セシル、容赦する必要はない。同じLv.なら死ぬことはそうそうない」

レフィーヤの申し出をきっぱりと拒否してセシルに告げるミクロ。

「構えて、レフィーヤ。お師匠様も何か考えがあってそう言っているんだから」

師であるミクロの指示に従うセシルは構えるのを見てレフィーヤも咄嗟に構える。

「あと、慰めにもならないけどお師匠様相手はもっときついよ」

「本当に慰めにもなりませんよ!?」

Lv.6との模擬戦なんてどんな酷烈(スパルタ)と叫びたいレフィーヤ。

それでもセシルは遠い目をして告げる。

「私やベルはほぼ毎日お師匠様と模擬戦してるんだよ?」

言外にレフィーヤはまだ手加減されていると告げる。

頬を引きつかせるレフィーヤは思った。

日頃からどんな酷烈(スパルタ)を受けているのかと。

そんなレフィーヤにセシルは再び突撃する。

「やっほー!ミクロ!」

「ティオナ」

二人の模擬戦を見守っているミクロにティオナが歩み寄って来た。

「なになに!?レフィーヤが組み手!?どんな訓練してるの!?」

「『並行詠唱』を身につける為の前準備」

レフィーヤの様子を見に来たティオナは予想外にも魔導士であるレフィーヤが組み手をしているとは思ってもみなかった。

「あ、でもやっぱりレフィーヤは白兵戦が苦手なんだね。セシルは動きに無駄がないのかな……?」

二人の戦っている様子を見て思ったことを口にするティオナは二人の戦いを見て体が疼き始めた。

戦いたくてしょうがないその気持ちをミクロにぶつける。

「ミクロ!あたし達もやろう!!」

ミクロから貰った『リトス』から大双刃(ウルガ)を取り出すティオナにミクロもナイフと梅椿を手に取る。

「わかった」

レフィーヤ達が模擬戦をしている横でミクロ達も模擬戦を開始する。

「いっくよー!」

突撃してくるティオナに構えるミクロ。

『遠征』までの一週間。それぞれの訓練が始まった。


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