「以上が【ロキ・ファミリア】と合同で『遠征』に向かうメンバー。各自『遠征』が行われる日までに準備を行うこと」
『はい!』
『遠征』二日前の夜にミクロは【ロキ・ファミリア】と共に未到達階層である59階層に向けての『遠征』のメンバーを発表した。
「頑張ってね~セシルちゃん」
「うん……頑張る」
『遠征』メンバーに選ばれたセシルに声をかけるアイカにセシルは緊張気味に返答する。
初めての『遠征』が【ロキ・ファミリア】と向かう未到達階層。
不安と緊張で胸がいっぱいだが、師であるミクロに恥じないように意気込みを上げる。
「皆さん!頑張ってください!」
『遠征』に向かうメンバーに応援の言葉を送るベルはメンバーには選ばれなかった。
ベルはまだLv.1だから仕方がないとはいえ、少しだけ期待していないといえば噓になる。
憧憬するアイズと一緒に冒険したかったと思うベルにリリは半眼を作る。
「ベル様、顔がだらしないですよ」
「え、そ…そうかな?」
「ええ、それはもうだらしない顔でした。【剣姫】様との特訓がそんなにも楽しかったのですか?いいえ、楽しかったのですよね」
「えっと、怒ってる?」
「いいえ、リリはこれっぽちも怒ってはいませんよ。ベル様が強くなって頂けるのならリリも嬉しいです。ええ、他の皆様とパーティに加えて頂いて一生懸命仕事に明け暮れるほどに」
ニコニコと笑顔で語るリリにベルは冷や汗を流す。
ベルがアイズの下で訓練している間、リリは【ファミリア】のメンバーと共にダンジョンに潜ってサポーターの仕事をしていた。
リリの機嫌をどう取ろうかとおどおどするベルにリリは拗ねるように顔を背ける。
その二人の様子を団員達はニヤニヤと笑みを浮かべながら見守っていた。
「おいおい、ベル。いちゃつくとはいい度胸だ。ちょい表に行こうか?」
「おい、泣くなよ」
嫉妬の涙を流しながらやきをいれようとするリオグに他の男性団員達が止めに入る。
「い、いちゃついてません!」
「そ、そうです!誤解なさらないでください!」
リオグの言葉を顔を真っ赤にして否定する二人だが、その言葉は他の団員達には届かなかった。
「クソ!俺だっていつかは……いつかは美女を彼女にしてみせるからな!!」
妬ましい叫びを上げるリオグにやれやれと呆れる団員達。
因みにリオグは『遠征』メンバーに選ばれずにお留守番。
「にしてもベル。実際のところどうなんだよ?【剣姫】と二人きっりで訓練してんだろう?なんか進展あったのか?俺にだけこっそり教えてくれよ」
「あ、それは私も気になる。どうなの?ベル」
「……えっと」
男女問わず詰め寄ってくる団員達にどうすればいいのか迷う。
実際のところ模擬戦でボロボロにされているとしか言えないがそれを知らない団員達が気になるのは当たり前だ。
強くて美しいで評判の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに鍛えられて何もない方がおかしい。
面白い
「だ、団長の方はどうなんですか!?」
咄嗟の判断でベルは皆の視線をミクロに移させた。
と、思って安堵するが視線は変わらずベルに向かれていた。
「ベル、わかってねえな……」
「ええ、わかってないね」
「え、ええ……?」
『団長の
団員達は口を揃えて言い切った。
【アグライア・ファミリア】では主に二つの訓練方法がある。
一つはミクロの下で行う訓練。
もう一つは各自個々のペースで行う訓練。
団員達は主に後者を選択している。
何故ならミクロの
心身共に追い詰めて気絶させられるか、動けなくなるまで行われる。
そのミクロの訓練の前に色恋沙汰に気を回せる余裕なんて塵もない。
「……そこまできつくない」
団員達に反論の言葉を送るミクロ。
初めてセシルを鍛え始めた時から徐々に加減を知って行き、そこまできつい訓練は行ってはいない。
「セシルがその証拠」
「………え、えっと、皆さん。お師匠様はしっかり手加減してくれますよ?」
「セシルちゃん、そこは言い切って上げようよ……」
動けているセシルに視線を向けてセシル本人も師であるミクロを援護しようとするが言葉を濁らして言い切れず。
「セシル。今日のあんたがミクロから受けた訓練の内容を言ってみな」
「え、えっと……魔法の武器でたくさん斬られて骨を折って……
リュコスに言われた通りに今日受けた訓練の内容を話すセシルだが、それ以上は言いたくなかった。
余談だが、レフィーヤも
「よしよし」
セシルを抱きしめて慰めるアイカ。
「ミクロ、大丈夫です。貴方は間違ったことをしていない」
慰めの言葉を送るリュー。
「……今度、『遠征』から帰ってきたら皆鍛える。団長命令だから拒否できない」
「団長!こんな時に権力を使うなんて卑怯だぞ!」
「そうだそうだ!俺達にだって選択の権利ぐらいあるぞ!?」
異議を唱える団員達に言葉をミクロは受け付けない。
「こんな時の団長権限。権力は使うものだとリオグから教わった」
『リオグ!!お前の仕業か!?』
「違ぇよ!!団長!あれは酒に酔った勢いで言っただけですよ!?」
騒ぎ始める
暖かく、賑やかなこの【ファミリア】に入れてよかったと改めてベルは思った。
「ベル!お前なに笑っていやがる!?お前も団長の訓練受けることになるんだぞ!?」
声を飛ばされるベルの顔は笑みを浮かべたまま青くなる。
セシルの次にミクロの訓練を受けているベルにとってもそれは恐怖で体が震えるほど嫌だった。
「団長!僕は朝の訓練だけでいいですよね!?」
『ベルが逃げた!!』
「ベルも一緒に皆と訓練するから問題ない」
しかし、受けつけてはくれなかった。
セシルはもう諦めてアイカの胸に顔をうずめながら泣いていた。
今泣かずいつ泣けばいいのかと。
アイカはそんなセシルの頭を何度も優しく撫でた。
「……ゴライアスをもう一度行くとして今度はリュコス達を抜きに……」
「まずいぞ!団長が訓練の内容を考え始めた!!」
「団長止めて!訓練の相手を階層主にしないで!!」
「次マジで死ぬから!!」
阻止しようと動き出す団員達だが、Lv.6のミクロの身体能力に誰もミクロを捕まえられない。
ミクロを捕まえようとする団員達にそれから逃げるミクロ。
その光景を眺めるリュー達は疲れるように息を吐いた。
「まったく、飽きないね。あいつらも」
「そうね。まぁ、ミクロの訓練がきついのは同意するけど」
「ま、まぁ、ミクロも皆の事を考えてだから……」
呆れるリュコスとティヒアに苦笑を浮かべながらミクロを庇うパルフェ。
「あんたが原因だけどね」
「……すいません」
ミクロの
それをミクロは当たり前のように受けてそれがミクロの基準となり、ミクロなりに改良を加えた。
しかし、どれもが気絶か動けなくなるのが当然のようになっている。
「そっちに行ったぞ!!」
「あ、団長!シャンデリアに乗るなんて卑怯ですよ!?」
「とっ捕まえて訓練の軽減願いを受理させてもらいますよ!!」
いつの間にか
「わかった。朝までに俺を捕まえたら訓練はなし。だけど捕まえられなかったら訓練を倍にする」
シャンデリアに乗っかりながら皆の懇願を聞き入れて勝負を開始する。
「
「乗った!!皆行くぞ!!」
『おおっ!!』
「もう!何なんですか!?やっぱりここも
「リリルカ!言っとくがお前も参加させられるんだぞ!うちは冒険者もサポーターも関係ねえからな!!」
「えええええええええッッ!!?何なんですか!?リリはサポーターであって冒険者ではありませんよ!!」
「だから関係ないの!?団長ならこう言うよ?サポーターだから戦えない理由にはならないってね!リリも頑張って団長を捕縛しよう!!」
「ああもう!!わかりましたよ!!やればいいのでしょう!!やれば!!」
「そうだよ、リリ!!二人で頑張って団長を捕まえよう!!」
「はい!ベル様!!」
『そこ!いちゃつくな!!』
「「いちゃついてません!!」」
騒音と言っていいほど叫び出す団員達にミクロは話が纏まったことから皆に告げる。
「勝負開始」
それから朝まで団員全員による追いかけっこが始まった。
しかし、相手はLv.6であるミクロ。
その身体能力の前に誰もが膝をついて勝負はついた。
「勝った」
後に主神であるアグライアから説教を受けた。