路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New26話

互いに損傷(ダメージ)を負いながらもその瞳から戦意は消えてはいない。

得物をその手に強く持ち、倒すかを思案する。

戦闘を続行するなかで二人は再び衝突しようとした時、二人の中心に槍が突き刺さる。

「そこまでにしよう」

「フィン……」

「フィンか……」

黄金色の髪をした小人族(パルゥム)であるフィンを始めにティオナ達やリュー達もその場に立っていた。

二人の中心に歩み寄って槍を引き抜くとフィンはミクロを睨むように視線を向けた。

「ミクロ・イヤロス。どうして君がオッタルと戦ってアイズがこの場にいないのか理由も状況も僕には全くわからないが先ほどの風は君の魔法だということは理解出来た。その上で言わせてもらう。君は仲間を巻き込むつもりで大技を出したのかい?」

フィンは視線をセシルに、正確にはセシルに背負われているリリに向ける。

「【疾風】が駆け付けるのがあと少し遅ければ先ほどの技で彼女は巻き込まれていたはずだ。仲間を早く助けに行きたい気持ちはわからなくないけど目の前にいる仲間のことも考えなければ団長として失格だ。君はもう少し冷静な子だと思っていたんだけどね」

「……ごめん」

「謝るのは僕ではなく彼女にだ」

「わかった」

呆れるように言うフィンだが、実際にはそこまで強く言える立場ではなかった。

相手はオッタル。

それを相手に周囲に気を配れる余裕なんてない。

全力で立ち向かわなければ倒されるのはこちらの方だ。

ミクロが冷静さを欠けていたのは確かだが、全力を出さなければいけないことも確か。

それ以前にミクロはまだ子供。

冷静さを欠けてしまうのも仕方がないことだが団長としての立場でいるのなら同じ一つの【ファミリア】の団長として言わなければならない。

フィンは内心でオッタルと互角以上に戦えるミクロの実力に称賛すると今度はオッタルに視線を向ける。

「やぁ、オッタル。何故この場所で、この時にミクロと矛を交えたのか、理由を聞いてもいいかな?」

「敵を討つことに、時と場所を選ぶ道理はない」

「もっともだ。では、それは派閥の総意、ひいては君の主の神意と受け取っていいのかな?女神フレイヤは僕達とミクロ・イヤロス達と戦争をすると?」

笑みを浮かべながら尋ねてくるフィンに、オッタルは黙る。

小人族(パルゥム)の長槍の穂先が鋭い輝きを放つ中で、オッタルは口を開いた。

「……俺の独断だ」

低い声音で、そう告げる。

武器を全て放棄し歩み出すオッタルはフィン達を素通りした。

「お前達が徒党を組む以上、俺に勝ち目はない」

「そう言ってもらえて助かるよ。僕達も、君とはことを構えたくない」

真横を抜く際に、冷静に語る猪人(ボアス)にフィンも声を返す。

それ以上はもう何も言わず、去って行くのを確認して気配が感じられなくなるとミクロは倒れた。

「ミクロ……!」

「お師匠様!?」

「ちょっ!ミクロ!?」

「おい、しっかりしやがれ!」

倒れたミクロに駆け寄るとミクロはリューの腕を掴んで顔を上げる。

「俺を……ベルのところへ……」

魔道具(マジックアイテム)と魔法の酷使によって身体に多大な損傷(ダメージ)を負ったミクロをリューは背負る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

茫然自失するベルを見据えて、片角を失ったミノタウロスは天を仰いで喉を震わせた。

どうしてこうなったのか?と思考が動くベルはいつものようにリリと共にダンジョンに潜っていた。

本拠(ホーム)前で遠征に向かうミクロ達を見送っってすぐにダンジョンに行き、9階層にまで来ていた。

それなのに、中層にいるはずのミノタウロスがどういう訳か9階層に出現した。

大剣を手に持つミノタウロスを見てベルは動けなかった。

始めて遭遇(エンカウント)した時の殺されかけた恐怖が鎖となってベルの身体を縛り付ける。

手足が鎖に繋がれているように重い体を無理矢理動かして辛うじてリリだけは逃がすことは出来たベルだが、状況は最悪に等しい。

魔法もかすり傷程度の傷しかつけられず、致命打にはならない。

―――勝てない。

猛々しく空に向かって雄叫びをあげる狂牛は、絶望にしか見えなかった。

委縮した体が恐怖で震える。

勝てない、という言葉が頭の裏を何度も反響した。

その時だった。

ベルの前に金髪の剣士が現れたのは。

『ゥ、ヴォオ……!?』

ミノタウロスは何も喋らないアイズを見据えて怯えて後ずさっていく。

「アイズ……さん……」

「もう、大丈夫だよ」

アイズが、ベルを庇う様にミノタウロスと対峙する。

―――――大丈夫ですか?

最初の出会いのように。

細い横顔が小さく振り向いて、同じ言葉を告げる。

ズクン、と心臓が打ち震える。

「今、助けるから」

ミクロがオッタルと対峙してくれたおかげで早くこの場所に辿り着いたアイズは心優しい少年、ベルを助ける為に手の中の愛剣(デスぺレート)へ力をこめる。

「ッッッッ!!」

また、同じように、繰り返す様にベルは助けられる。

頭に火がついた。

それまでの感情という感情が一掃される。

馬鹿みたいに一途な気炎が、ベルを縛り付けていた鎖を引き千切る。

もう、助けられるのは御免だ。

弱い自分捨てろ。

ここで高みに手を伸ばさないで、いつ、届く。

ベルはアイズの右手を握りしめながら。

「……ないんだっ」

掴んだ手を引き、驚愕するアイズを背後へ押しやる。

ベルは自分の意志で前へ出た。

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

そして、腹の底から咆哮する。

その瞬間、光と風が襲いかかってくる。

覚えのある光と風にアイズはすぐにミクロの魔法だと気づく。

ベルは驚愕と同時にその光を見て風を感じて強く頷く。

行け、ベル。

空耳だと思われるその言葉がベルの背中を押してくれる。

ナイフを捨てて腰にある紫紺色の短剣と両刃短剣(バセラード)を構える。

ベルの意志に呼応するようにミノタウロスは獰猛に笑って大剣の刃をベルへと向ける。

「いたぁ!アイズゥー!?」

「ちッ、つまんねえことに振り回されてんじゃねえっての!」

続々と駆け付けてくるミクロ達。

ベルの姿を見てリューに背負われているミクロは静かに口にする。

「見せてみろ……お前の力を……」

ミクロは知っている。ベルはもう立派な冒険者だということを。

「勝負だッ……!」

ベルは駆け出していく。

アイズの唖然とした視線をその一身に引き受け、小さな冒険者は待ち受ける巨大なモンスターのもとへ飛び込んでいった。

「ま、ダンジョンで獲物を横取りするのはルール違反だわな。ふられたな、アイズ」

「……」

置いていかれてしまったアイズの背中に、ベートは暢気に言う。

「ミクロ、いいの?あの男の子、Lv.1なんでしょ?」

「問題ない」

ベルと同じ【ファミリア】の団長であるミクロは助けは不要と告げた。

ミクロを背負っているリューやセシルも同じように首を横に振る。

「これはベルの冒険。誰にも邪魔をしちゃいけない」

「ミクロが助けは不要というのなら助ける必要はありません」

同じように助ける必要はないと断言した二人にティオナは不満はあったがベートが口を開く。

「放っておいてやれって。そいつらの言う通りあのガキ、男してるんだぜ?」

「でもさ!放っておけないよ!」

「ティオナ、問題ない。たかがミノタウロスに倒されるような鍛え方はしていない」

「え?」

その言葉にティオナは振り返って少年とモンスターの戦闘を見て目を見開いて固まった。

何故なら押しているからだ。

Lv.1であるベルがミノタウロスを。

形勢こそ、身体能力(キャパシティ)を活かし攻め続けているミノタウロスが終始有利であるが、ベルはミノタウロスの攻撃を躱して傷を与えて行っている。

身体能力(キャパシティ)がミノタウロスが有利でも速さと手数はベルの方が有利。

ミノタウロスの攻撃を紙一重で躱して両刃短剣(バセラード)と短剣で同じところに傷を与えている。

素早く動くベルを捕まえようとしても捕まえてくる腕を蹴って距離を取ってまた攻める。

『ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!』

「ああああああああああああああああああああッッ!」

雄叫びを上げる。

モンスターと人間(ヒューマン)が衝突し、力と速度の戦いは継続される。

ベルの事を良く知らないベート達は驚愕、戦慄する。

「………」

誰もが口を閉ざして凝望するなかでミクロは当然のように見ていた。

何故ならミクロはベルを鍛える時はいつもLv.3相当の実力で何度も気絶させては戦わせてきた。

今のベルにとってミノタウロスの攻撃は止まって見える。

そしてもう一つベルには武器がある。

ミノタウロスの傷具合を見て呟く。

「……そろそろか」

『ヴゥッ!?』

ミノタウロスに異変が生じた。

先程とは一変して動きが雑になってきた。

ミクロがベルに与えた紫紺色の短剣の名は『カタラ』。

ミクロの呪詛(カース)を込めて作製した『呪道具(カースウェポン)』。

傷口から呪詛(カース)を与えて少しずつ精神を汚染させて破壊に導く『特殊武装(スペリオルズ)』。

精神に異常が生じたミノタウロスの動きは雑になり、その分だけベルの攻撃が通るようになる。

しかし、ミノタウロスの鎧と思わせるような分厚い筋肉の前にはベルの攻撃は致命打になることはない。

「【ライトニングボルト】!!」

だが、そんなことはベルも百も承知。

だからこそ、その為の突破口を無理矢理抉じ開けようとしている。

いくら硬い体でも同じところに攻撃すればいずれは致命打に届く。

ベルはミノタウロスの魔石がある胸部を集中的に攻撃する。

何度も何度もミノタウロス以上の強敵(ミクロ)に殺されかけた。

何度も何度も恐怖を抱き、走馬灯も見た。

そのおかげで容易に先読みができるようになった。

こんな奴(ミノタウロス)は強くも怖くもない。

あの人達に比べるまでもない。

筒抜けの一撃必殺はことごとく空を切り、見え透いた軌道は回避して攻める。

速度という十八番を最大限に稼働させて攻め続けると。

『フゥーッ、フゥーッ……!?ンヴゥウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオッ!』

ミノタウロスは大剣を投げ捨てて片角でベルの攻撃を弾いて間合いを取ると両手を地面に振り下した。

両手が地面を踏み締め、頭は低く構えられる。臀部の位置は高く保たれ四つん這いになるその姿は、まさに猛牛。

追い込まれたミノタウロスに度々見られる突撃体勢。

己の最大の(ぶき)を用いる切り札。

なりふり構っていられないほどミノタウロスは追い詰められた。

呼吸を止めたかのように、一瞬、周囲の空気が限界まで張り詰めた。

ベルの眼差しと、ミノタウロスの眼光がかち合う。

そして、

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

突っ込んだ。

一気に縮まる間合いの中でベルはミノタウロスが捨てた大剣を拾って振り下ろす。

砕け散る大剣に対してミノタウロスの角は健在。

だが、そこでベルは終わることはない。

急激な超ブレーキから今まで傷を与え続けてきた場所へ両刃短剣(バセラード)を突き付ける。

十分に与えたその傷口からなら魔石に届く。

貫通する両刃短剣(バセラード)が貫いたのはミノタウロスの左腕。

ミノタウロスは腕一本犠牲にすることでベルの切り札を防いだ。

口端を裂くミノタウロスの双眸は敗者に送りつける嘲笑ではなく、勝利に飢えた者の剛毅の笑み。

ベルの切札を防いだミノタウロス。

だが、それは大きな勘違いだった。

両刃短剣(バセラード)を手放してベルはミノタウロスの顔を掴む。

一瞬の油断。

ベルはこのタイミングを掴み為にあえて同じところを攻撃していた。

そこを攻撃してくると思わせる為に。

そして、それを防いだミノタウロスの気が一瞬緩んで油断するこの瞬間がベルの勝機。

ミノタウロスの身体に魔法を当ててもかすり傷程度だが、それは鎧のような筋肉の上から魔法を当てた場合。

だけど顔はどうだ?

人もモンスターも共通の弱点ともいえる顔は身体と同じぐらいの防御力はあるのか?

ベルの魔法は攻撃範囲は狭いが一点に集中された貫通力と威力はある。

そこに零距離でベルの精神力(マインド)の全てを使った魔法を放てばどうなる?

死の危機を感じたミノタウロスはベルを叩き潰そうと腕を上げるがそれよりも早くベルは魔法を発動する。

「ライトニングボルトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

炸裂。

ミノタウロスは首から上は消し飛んだ。

崩れ去り灰へと変わるとそこにあるのはミノタウロスの魔石のみ。

猛牛の戦士は消えて、少年だけが残される。

「勝ち、やがった……」

勝利をもぎ取ったその背中に、ベートが呆然と呟く。

「……精神枯渇(マインドゼロ)

「た、たったまま気絶しちゃってる………」

動かない少年に、ティオネとティオナも戦慄する。

ミクロは痛む体を無視してリューから降りてベルに近寄って肩に手を置く。

「お前の勝ちだ、ベル」

少年の勝利の宣告を告げた。

 

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