路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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第九話

「う、うわああああああああああッ!!」

「逃げろ―――――――――――ッ!!」

怪物の宴(モンスター・パーティ)を乗り越えた冒険者達の前に現れたのは全身が黒い強化種のオークを見て心が折れて戦意を無くすとオークに背を向けて逃げ出した。

それを見たオークは手に持っている天然武器(ネイチャーウェポン)を投げた。

投擲された天然武器(ネイチャーウェポン)は回転しながら逃走している冒険者に直撃してダンジョンの壁まで吹き飛ばされると動かなくなった。

投げた天然武器(ネイチャーウェポン)に変わって別に天然武器(ネイチャーウェポン)を持つオークは次に誰に狙おうか狙いを定めるように見渡す。

『ブフゥ!?』

「少し硬いな」

強化種のオークにミクロは接近してナイフで斬りかかったが、予想より硬いオークの体にかすり傷程度の傷しか負わせられなかった。

天然武器(ネイチャーウェポン)の棍棒を振るうオークの攻撃をミクロは回避してもう一度斬りかかる。

体格を利用して死角へと移動しつつ斬りつけるミクロ。

「おい、今の内だ!」

「ああ、あいつが囮になってくれている間に逃げるぞ!」

ミクロがオークと戦っている間に他の冒険者はミクロを囮にして逃走する。

ミクロは特にそれを気にせずにオークに攻撃を続ける。

頭から足先まで有効な場所があるかどうか手探りで探す様にナイフで斬りつけるミクロ。

『ブファッ!』

付きまとうミクロが鬱陶しいかのように縦横無尽に棍棒を振り回すオークの攻撃をミクロは距離を取って回避する。

「……有効打は一撃もなし」

冷静に観察するオークの体にはかすり傷程度しか存在しなかった。

自分の攻撃では大してダメージは与えられないことを知ったミクロはどうするか次の手を考える。

「ミクロ!逃げるわよ!?」

次の手を考えているミクロの手をティヒアは握って10階層に向かって逃走した。

「あんなのに私達が勝てるわけがない!」

ティヒアの言葉は正しかった。

何故なら強化種には常識が通用しない。

Lv.1でどうこうできる存在ではないのだ。

なによりやっと見つけることが出来た自分だけの英雄をティヒアは死なせたくなかった。

これが自分のスキルの影響だとしてもこれ以上はティヒア本人が拒絶した。

10階層へ向かう階段まで到達すると突然ティヒアは誰かに突き飛ばされた。

「な―――っ」

何するのよ!?と叫ぼうとした時、自分の近くに鈍い音が聞こえた。

そして、自分の目の前には壁に磔状態になっているミクロと足元にはオークが使っていた棍棒があった。

「嘘でしょ……」

オークからティヒアがいるところまで何十(メドル)もの距離がある。

それを的確にティヒアとミクロを狙って投げた。

それに気づいたミクロはティヒアを突き飛ばして自分だけが棍棒の餌食になった。

「あ、ああ………」

壁から崩れ落ちるミクロにティヒアは声を震わせた。

やっと見つけることが出来た自分の英雄が。

自分が余計なことをしたせいで動かなくなってしまった。

ミクロから流れる血を見て力が抜けるように座り込む。

思い出す過去の傷(トラウマ)

ズシン、ズシンと近づくオークはティヒアの目の前にある棍棒を拾って座り込んでいるティヒアに向かって棍棒を振り上げる。

死ぬのか。とティヒアは悟った。

きっとこれは天罰なのだろうと思ったティヒア。

自分が英雄を望み、数多くの人を殺したことに対する天罰。

やっと見つけれたと思ったミクロまで自分を守って死んでしまった。

相手は強化種のオーク。

戦っても、逃げてもどうせ殺される。

死を受け入れるようにティヒアは目を閉じる。

そのティヒアに対してオークは躊躇うことなく棍棒を振り下した。

ドゴン!と振り下ろされた棍棒。

だけど、そこにはティヒアはいなかった。

「え――――」

死んだと思ったはずのティヒアは気が付くと誰かに担がれていた。

「大丈夫?」

ティヒアを抱えているのは先ほどオークの棍棒を直撃して血を流していたミクロだった。

傷だらけになりながらも自分を助けてくれたミクロにティヒアは目を見開いた。

「どうして……?」

生きているのか?助けてくれるのか?その両方を意味するように尋ねるティヒアにミクロは平然と答えた。

仲間(パーティ)は助け合うのが当然だろう?」

「――――――ッッ!!」

その言葉にティヒアは心打たれた。

派閥も違う、自分はミクロを助けるどころか怪我を負わせた。

それだけじゃない。自分のスキルのせいでこのような状況を作った。ミクロと出会ったのも偶然ではなく狙って行った。

もちろんそのことはミクロは知らない。

だけど、これ以上ない嬉しさを感じた。

助けてくれたことにティヒアは心から嬉しかった。

このことを言ったら間違いなく嫌われるだろうどころか軽蔑もされるだろうけど。

それでも助けてくれたことにティヒアは心打たれた。

英雄は存在した。

そう実感できる。

ミクロはティヒアを下ろして梅椿を構える。

「悪いけどここにいて。まだこのスキルは完全にはコントロールできてないんだ」

ミクロは自分が持つスキル【破壊衝動(カタストロフィ)】が発動していた。

体に巡ってくる衝動をミクロはまだ完全には制御できていなかった。

リューとの特訓で鍛えられてある程度はコントロールできるようになったことにミクロは感謝する。

オーク目掛けて走り出すミクロ。

それを迎撃しようと棍棒を薙ぎ払うオークの攻撃をミクロは跳んで躱すとフードをオークを投げつけた。

フードを払うオーク。

だが、そこにミクロの姿はなかった。

「【壊れ果てるまで狂い続けろ】」

『っ!?』

ミクロが自分の背後にいることに気付いたオーク。

だが、気付くのが一足遅かった。

「【マッドプネウマ】」

背後から放たれた黒い波動はオークに直撃した。

『ブファァァァッッ!!』

悲鳴に近いその叫び。

呪詛(カース)がかけられたオークの精神は少しずつ汚染されていき、崩壊へと進んでいく。

精神に異常をきたしたオークはミクロ目掛けて棍棒を振り回すがミクロは回避に専念した。

「まだ遅い……」

ミクロが今まで模擬戦を繰り返してきたのは『疾風』の二つ名を持つリュー。

そのリュー相手に八ヶ月も模擬戦を繰り返してきたミクロにとってオークの動きは充分に見切れた。

だけど、ミクロも余裕があるわけではない。

先程の棍棒のダメージはしっかりと体に残っている。

呪詛(カース)で【ステイタス】は低下しているがスキルのおかげで変わらず動くことが出来ている。

問題はオークを倒す決定打がミクロにはなかった。

オークに斬りかかっても精々かすり傷程度。

このままオークの精神が崩壊するまで自分の体がもつかどうかわからなかった。

オークの攻撃を躱すミクロは自分の体が動く内に倒す算段を考えた。

そして、思いついた一撃必殺を繰り出す為に作戦を開始した。

『ブフォッ!』

棍棒を振り上げるオークにミクロは足場にあった下半身だけの冒険者の遺体を振ってオークの顔に血を撒き散らす。

目に血が入ったオークは怯み乱暴にその血を拭い落そうとする。

その隙にミクロは冒険者が使っていた大剣を両手で持ち上げると全身を器用に使ってオークを斬る。

勢いを利用してもう一度斬りかかる。

胸部に二度斬られたオークの胸部から血が流れるがそれでも傷が出来ただけで致命傷には至らなかった。

血を拭い終えたオークは再び攻撃するに大してミクロは大剣を捨てて回避に専念しつつオークを分析する。

速さは普通のオークと変わらず、力、次に耐久が普通のオークに比べると跳ね上がるように高い。知能はそのまま。

冷静に分析をするミクロに対してオークは冷静さを失っていた。

ミクロの呪詛(カース)を喰らった影響で精神が徐々に壊され、冷静さと判断能力が低下している。

このままでは壊れてしまう。

モンスターの本能がそう訴えていた。

振り回す棍棒にミクロではなく11階層に存在している『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』だけが壊れていく。

攻撃を回避するミクロはダンジョンの壁に背をぶつけるとオークはチャンスと言わんばかりに棍棒を持ち上げる。

もう後ろに逃げることが出来ないミクロにオークは渾身の力を込める。

『ブッ!?』

しかし、腕を持ち上げた瞬間急に腕が動かなくなった。

首を回して見てみると自分の背後にある迷宮の武器庫(ランドフォーム)の枯木と腕に鎖が巻き付いていた。

そして、気付いた。

ミクロは壁へと逃げたのではなく(トラップ)があるこの場所へと誘導していたんだと。そして、ミクロはナイフと梅椿を持ってオークの両目を突き刺した。

『プギィヤアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

「……やっぱり目までは硬くはないんだな」

悲鳴を上げるオークにミクロは冷静に判断すると、槍を拾ってオークの背後に回る。

ミクロの狙いはオークの胸部にある魔石。

どんなモンスターでも必ずある弱点。

魔石を砕かれたらどのモンスターも必ず灰になる。

『ブフゥゥゥッッ!!』

鎖を振り払って匂いでミクロの位置を特定したオークは真っ直ぐミクロの元へ走る。

それに対いてミクロは反転してオークに背を向けるように走る。

オークの体の硬さはどんなに攻撃してもミクロの力では弱点である魔石には届かない。

壁にまで走るミクロ。

それを追いかけるオークは匂いで動きが止まったことに気付き腕を大きく振り上げながら接近する。

『――――――ッッ』

すると、突然オークの動きが止まった。

自身の胸に何か突き刺さっている違和感を感じて触れると槍が自分の体に突き刺さっていることに気付いた。

『ブフ……』

それに気が付いた瞬間、オークは灰になって灰の中に残ったのはドロップアイテムである黒いオークの皮だけ。

オークが灰になったのを確認してミクロはポケットからポーションを取り出して飲み、応急処置をする。

「成功した」

ミクロは自分の力では魔石には届かないことに気付いた。

だからこそ、オーク自身で倒れてもらうしかなかった。

槍の柄をダンジョンの壁へ当てて槍先をオークの胸部へと定めると後はオークが自分から槍の餌食になった。

冷静さ、判断能力、視覚を奪い、呪詛(カース)を受けた焦りと目を潰された怒りでオークは自分から殺されに来ていたことに気付かせなかった。

オークのドロップアイテムを拾うと座り込んでいるティヒアの傍へ駆け寄り手を差し伸ばす。

「今日はもう疲れたから帰ろう」

「………はい」

頬を赤くしながらミクロの手を握るティヒアは驚きと放心しかなかった。

強化種であるオークを倒した。

それもたった一人で。

驚きと放心しかなかったティヒアだけど一つだけ確信できたことがある。

自分の手を握っているミクロは紛れもない英雄だと。

「やっと……見つけた。私の英雄……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミクロ!?」

強化種のオークを討伐したミクロはティヒアと一緒にダンジョンを出て地上へと出た。

そして、ティヒアと共に本拠(ホーム)へ帰還するとアグライアがミクロに抱き着いた。

「ただいま」

「お帰りなさい……」

いつものように挨拶するミクロ。

「イヒヒ。マジで生きて帰って来やがった」

「ザリチュ様……」

ティヒアの主神であるザリチュがいることに驚くティヒア。

「どうよ、ティヒア?こいつはお前にとっての英雄か?」

「はい」

ザリチュの言葉にティヒアは迷いなく答えるのを見てザリチュは呆れるように息を吐き、頭を掻く。

「んじゃ、ここでお別れだ、ティヒア」

「え?」

「そういう賭けをしたんだよ。俺が勝ったらアグライアは俺を恨まない。アグライアが勝ったらお前をアグライアのところへ改宗(コンバージョン)するってな。イヒヒ、結果は見ての通りさ」

ザリチュとアグライアで勝手に行われた賭けの内容を聞いたティヒアは困惑するがザリチュは可笑しそうに笑うだけだった。

「イヒヒ。どうしたよ?お前が求めた英雄の傍にいられるんだ。嬉しくねえのか?」

「い、いえ、そんなことは…」

「イヒヒ。まぁ、気が向いたら遊びに来な」

困惑するティヒアの頭をポンポンと軽く叩くザリチュは次にミクロの傍へとやって来た。

「よぉ、ミクロ・イヤロス。一ヶ月ぶりだな。これからはティヒアのことを頼むぜ。それとこいつは楽しませてもらった礼だ」

ザリチュは一冊の本をミクロに渡すとそれを見たアグライアは目を見開く。

魔導書(グリモア)じゃない!?どうして貴方がミクロにこんなものを……?」

読むだけで魔法が使えるようになる、魔法の強制発現書。

【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等かそれ以上の値段をする貴重な魔導書(グリモア)をザリチュはミクロに渡した。

「イヒヒ。楽しませてくれた礼さ。それにこいつはこれからも面白いことを巻き起こすと俺の勘が言ってんのさ。先行投資ってやつだよ」

あくまで面白さ優先するザリチュ。

「んじゃな、ミクロ、ティヒア、アグライア。また遊ぼうぜ?」

去って行くザリチュの後姿をティヒアは初めてザリチュの神らしい一面を見た気がした。

自分主義で面白いことを優先する神。

でも、何故か憎めなかった。

その理由が今、わかった気がした。

ザリチュの去った方向に頭を下げるティヒア。

「……お世話になりました」

いなくなった主神に最後の挨拶を交わすティヒア・マルヒリーはその日を持って【アグライア・ファミリア】へと改宗(コンバージョン)して【アグライア・ファミリア】の一員となった。

そして、アグライアはミクロの【ステイタス】を確認すると【ランクアップ】が可能になっていた。

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの記録を塗り替えた新たな存在。

所要期間8ヶ月でLv.2への切符を手に入れたミクロ・イヤロスが誕生した。

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