【ロキ・ファミリア】との遠征中、58階層に引きずり落とされたミクロに待ち受けていたのは【シヴァ・ファミリア】の最高戦力、
そして、【シヴァ・ファミリア】団長であるへレスがミクロに迫りかかる。
鋭い突きが襲いかかるがミクロはナイフと梅椿で受け流すがへレスはそこから体を捻らせて薙ぎ払いを行う。
ミクロは態勢を低くして攻めるがへレスは瞬時に槍を短く持ち直して防御する。
「どうして俺がここに来るとわかった?」
「街を歩いていたら普通にわかるだろう。面白そうだからここで待っていただけさ」
特に理由はない。
本当にただミクロと遊びにきただけ。
金属音が鳴り響き、ミクロは距離を取りながらも周囲にいる
「おいおい、言っただろ?親子水入らずだって。そいつらに手は出させねえよ」
そんなミクロの心情に見透かして告げるへレスにミクロは武器を収めた。
「あ?」
怪訝するへレスにミクロは言う。
「自首して欲しい」
ミクロはへレス達に自首を進めた。
「俺はギルドともそれなりに深い繋がりがある。自首してくれたら罪を軽くするように頼んでいる」
ミクロはもう一度へレスと会ったら言うつもりでフェルズに頭を下げて頼んでいた。
万が一にへレス達が自首してきたら罪を軽くして欲しいと。
「罪を償ったら俺に
ミクロはへレスが
それでもミクロにとってはこの世界でたった一人の父親。
幼い頃の父親との思い出や記憶がなくともミクロは本当の家族としてこれから思い出や楽しい記憶を作っていきたい。
自身の望みを告げるミクロにへレスの口角が上がる。
『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!』
だが、返って来たのは哄笑だった。
へレスだけでなく
「何か勘違いしているみたいだな、ミクロ」
哄笑のなかでへレスがミクロに言う。
「確かにお前は俺とシャルロットの子だ、それは違いねえ。だけどな、俺は別にお前の事を愛しているわけじゃねえ」
槍を肩にかけてへレスは当然のように告げた。
「俺は俺のやりたいことがある。その為にお前を利用しているだけだ。俺達の間に親子の愛情なんてものは存在しねえ」
目的の為にミクロを利用しているに過ぎないへレス。
「………わかった」
それが現実ならミクロはそれを受け入れるしかない。
「なら、引きずってでもギルドに連れて帰る」
その上で無理矢理にでも罪を償わせる。
へレスが目的の為にミクロを利用しようとするのなら、ミクロも自分の望みの為にへレス達を捕まえることにした。
武器を構えなおすミクロにへレスは口笛を吹いてもう一度槍を構える。
「いいぜ、その意気だ。おい!てめえ等はうるせえ竜どもを何とかしてろ!」
団長であるへレスの指示に従い壁から産まれてくるモンスター達は
「さぁ、再開だ」
ミクロは眼帯を取り外して
更には『レイ』を発動させて体に電撃を迸る。
相手の視界から物事を見ることができる
「おっと、速ぇ」
ほぼ瞬間移動に近いミクロの高速戦闘にへレスは槍で受け流す。
視界を覗き見してもへレスの目にはミクロは捉えていない。
純粋な経験と実力でミクロの動きを先読みして捕捉している。
なら、とミクロは上空を跳び『ヴェロス』を展開させて射程と威力を高めた『砲弾』をへレスに向かって放つ。
「そらよ!」
だが、へレスはそれを両断した。
地面に着地するミクロは前例があった為に特に驚くことはなかった。
ただ以前はセツラの魔法によって切断されたと違ってへレスは先ほどから使っている槍で両断した。
「……
へレスが使っている槍はシャルロットが作製した
「その通り。シャルロットは『神秘』『魔導』だけでなく『鍛冶』のアビリティを発現させていた冒険者でな、これはその中でも特注品だ」
柄から矛先まで黒で覆われた槍。
「
その矛先に触れたものを全て破壊する無慈悲の槍。
その槍はジエンが使用していた『アビリティソード』をも上回る。
「気をつけろよ?この槍の前にはどんなに耐久が高かろうと無意味だからな」
突貫するへレスは突貫と同時に槍でミクロを串刺しにする。
だが、そこにミクロの姿はなかった。
へレスの背後から姿を現すミクロは『スキアー』を使用して影移動でへレスの背後を取ってナイフと梅椿で斬りかかる。
「おっと」
だが、へレスは危な気なくそれを防いだ。
ミクロがへレスに『スキアー』を使用したのは今のが初めて。
初見殺しの
「なかなかだが、まだ甘い。背後から現れた瞬間と同時に動きを察知したら容易に防げるぞ?」
ミクロが影から姿を現して攻撃をするまで一秒もかかっていない。
へレスは刹那の間にミクロの動きを察知して攻撃を予測し、防いだ。
ぐるんと回るへレスの槍。その柄でへレスはミクロの腹部に直撃させて吹き飛ばす。
「喜べ、ミクロ。今のお前は同じ年の頃の俺よりも数倍は強ぇ。ただ経験が足りないのは惜しいな」
へレスはミクロは強いとは認めたが自分と同じ領域に至るまで経験が足りないことに悔やんだ。
「魔法はどうした?遠慮はいらねえ――」
言葉の遮るようにミクロは『ヴェロス』を展開させて『散弾』を放つが、へレスはそれを難なく弾く。
接近するミクロは投げナイフを持ってへレスに投擲。
それを躱す、弾くへレスを中心に煙が舞う。
投げナイフと煙玉のコンボが炸裂してへレスの視界を封じたミクロは背後から襲いかかる。
「それがどうした?」
しかし、へレスには視界を封じられた程度脅威ではない。
背後から襲ってくるミクロを槍で薙ぎ払うがミクロは槍を掴んだ。
『イスクース』によって腕力が上がっているミクロは片手に槍を握ってナイフでへレスに斬りかかる。
槍を握っている以上、へレスが攻撃を回避するには槍を手放すかもしくは直撃するしか方法はない。
どちらにしろへレスに痛手を負わせることが出来る。
迫りくるナイフは真っすぐへレスの胸部に向かっていくがナイフは宙を斬った。
槍を柄ギリギリまで持ったまま下がって回避したへレスは槍を両手に持ってミクロを打ち上げようとしたがそうなる前にミクロは手を離した。
だが、上空に上がった槍は真っ直ぐミクロに振り下ろされる。
「ぐっ」
ナイフと梅椿を交差させて防御するミクロにへレスは感嘆の声が出た。
「ほぅ、それは二つとも
互いに付与された能力を無効にできる。
「運じゃない……これはアリーゼから託された小太刀でナイフはアグライアが俺にくれて椿に打ち直してもらったナイフ」
防御しながら態勢を整えるミクロはへレスに向かって告げた。
「巡りあって託されたものだ……ッ!」
槍を弾き返したミクロは速攻で瞬く間にへレスの懐に潜り込む。
槍は中距離の武器の為、どうしても接近戦は不向きになってしまう。
肌と肌が密着するほど近づけば槍は脅威ではない。
「近づけば脅威ではないと思ったか?」
その考えは甘かった。
ミクロが懐に潜り込んだ瞬間にへレスは槍の穂先手前まで持ち直して短剣と同じようにミクロを突き刺そうとする。
ミクロがナイフや梅椿で斬りかかるよりも早くへレスの槍がミクロに直撃する。
「【駆け翔べ】!」
全開放。
「っ!?」
へレスの懐に接近した状態でミクロは魔法を発動させた。
超接近による魔法の発動にへレスは吹き飛ばされる。
「ブハハハハハハハハハハハ!!団長、だせぇ!!」
竜を殺している
こいつらに仲間としての意識がないということはわかったが今はそれどころじゃない。
風を纏っているミクロは真っ直ぐと吹き飛ばしたへレスを注視する。
ダンジョンの壁まで吹き飛ばされたへレスは立ち上がって口角を上げていた。
「面白れぇ、あそこで魔法を全力でぶっ放すとは思わなかったぞ」
大した
「団長!フィン達がそろそろ来るけどどうする!?」
【ロキ・ファミリア】のフィン達がもうすぐこの場所にやってくることにへレスは舌打ちをする。
「チッ、まだあいつらと戦う気はねえ。ずらかるぞ……とその前に」
槍を下段に構えてへレスはミクロに告げる。
「全力で防御しておけ、ミクロ。俺の技を一つ見せてやる」
へレスの表情から笑みは消える。
「ッ!?」
それと同時に危険を察知したミクロは風の全てを防御に回す。
その瞬間、ミクロは腹部に風穴が空いて壁まで吹き飛ばされた。
「かふ……」
回避も防御も間に合わず気が付けばミクロは腹部を貫かれて壁まで吹き飛ばされていた。
自分の視界と相手の視界からも視認することも出来ず、風の防御までも破壊してミクロに致命傷を与えた。
これが【シヴァ・ファミリア】団長の実力。
これが【
「またな、ミクロ」
去って行く【シヴァ・ファミリア】達にミクロは痛みに耐えながらも詠唱を唱える。
「【這い上がる為の力と仲間を守る為の力。破壊した者の力を創造しよう。礎となった者の力を我が手に】」
必死に詠唱を唱えて魔法を発動する。
「【アブソルシオン】」
詠唱を終えて再び詠唱を唱える。
「【ピオスの
少しでも効力を上げる為に『リトス』から魔杖を取り出して魔法を発動させる。
「【ディア・パナケイア】」
フェルズの全癒魔法。
24階層の報酬として貰ったこの魔法によってミクロが負った傷、蓄積した疲労までも全回復する。
フェルズから貰った魔法のおかげで命拾いしたミクロはへレス達が去った道を眺める。
「………」
強かった。
それがへレスと戦って思ったミクロの感想だった。
オッタルもへレスも恐らくは実力を半分程度しか出していない。
オッタルは『力』が目立ち、へレスは『技』が目立った。
以前に戦ったエスレアの言葉が脳裏を過る。
「Lv.7………」
二人に勝つにはミクロもその領域に辿り着くしかない。
自分はまだまだ弱いことを認識したミクロ。
「ミクロ!!」
「お師匠様!!」
58階層に到着したリュー達にミクロは手を上げて応じる。
無事に合流することができたミクロだが、まだ遠征は終わってはいない。
この先にある未到達階層59階層が今回の遠征の目的なのだから。