「『精霊』………!?あんな気持ち悪いのが!?」
アイズの言葉を聞き、視線の先の存在に向かってティオナが叫ぶ。
美醜の混在を現す『穢れた精霊』のその威容に、一同はうろたえる。
ミクロ達の視線の先で『彼女』は笑い続けながら二人の少年少女に向かって呼びかける。
『アリア!ペアレント!!』
子供のように呼び続け、たどたどしく言葉を紡ぐ。
『会イタカッタ、会イタカッタ!」
「………っ!?」
「………」
『貴方達モ、一緒二成リマショウ!?』
アイズとミクロに向けられている言葉の羅列に、ばっと彼女へ振り替えるティオナ達。
『―――――貴方達ヲ、食ベサセテ?』
「断る」
間髪入れずにミクロは即断したが精霊であったものは三日月の笑みを浮かべた。
次の瞬間、『魔石』を献上していた残る芋虫型と食人花が、勢いよく反転し『彼女』の黒き意志に従うように、冒険者達へ―――――アイズとミクロへ照準を向ける。
ほぼ同時に、階層の出入り口である連絡路が轟音を立てて緑肉で塞がれた。
「総員、戦闘準備!!」
誰よりも早く上げるフィンの号令に混乱しかけたティオナ達の体は反応し、武器を構える。
ア八ッ、という『彼女』の一笑とともに、戦端は開かれた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
我鐘の吠声を響かせ五十を優に超える芋虫型と食人花がミクロ達のもとに驀進する。
押し寄せる黄緑と極彩色の塊に冒険者達は
「セシル、お前は周囲の新種を倒せ。リューは一緒に来てくれ」
「は、はい!」
「わかりました!」
セシルに指示を出したミクロもナイフと梅椿を持って前衛に出る。
「フィン、儂も前衛に上がるぞ!?」
「どうせいつもとやることは変わらねえ、ブッ殺すッ!!」
ミクロ達に続いて飛び出すガレスとベートに動揺を振り払ってアイズも戦線に加わる。
レフィーヤやラウル達に指示を飛ばすフィンに続き椿も太刀を持って食人花を惨殺。
「手前も手を貸そう」
「ありがとうございます!」
セシルを助太刀する椿もセシルと共に新種を倒していく。
『フフッ』
迫りくる長大な触手群に対し、疾走しながら迎撃する冒険者達だが、その触手群は速度と威力を兼ね備えた攻撃。
「【駆け翔べ】!」
ミクロは魔法を発動させて風を纏うとそれと同時にリューは
一〇〇
「やっぱり」
新種のモンスターには魔法が有効だったことからもしやと思い、ミクロは魔法を発動させたがそれは正しかった。
先ほどまで傷一つ負わせることが出来なかった触手を切り刻めた。
二人を要に前進するアイズ達。
その時だった。
女体型が微笑みを浮かべたのは。
『【火ヨ、来タレ―――――】』
次の瞬間、
「詠唱!?」
全員の驚愕が重なり合った。
巨大な下半身のもとに展開される広大な
禍々しい紋様と立ち昇る紅の魔力光が、女体型の全身を包み込む。
広域展開された紅の
そして吹き上がった『魔力』の出力。
「リヴェリア、結界を張れ!?」
ティオナ達が聞いたことのない余裕を失った声音で命令を下すフィンにリヴェリアも焦った表情で詠唱を開始した。
「砲撃っ、敵の詠唱を止めろ!?」
「せ、斉射ッ!?」
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」
『魔剣』による同時射撃と数百発に及ぶ炎矢が女体型に殺到した。
59階層を光で包む一斉放火に対し、敵は下半身に備わる十枚の巨大な花弁を正面に並べる『彼女』は笑みとともに詠唱を続け、怒涛の砲撃と閃光と衝撃を撒き散らし激しい爆発を生むがレフィーヤ達の視線の先で、無傷の花弁と女体型が悠然と存在していた。
「……………」
ミクロは眼帯を取り外して
『【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヨ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号砲ヲ我ガ愛シイ英雄ノ命ノ代償ヲ―――】』
「【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契りを結び、大地の歌をもって我等を包め。我等を囲め】」
女体型とリヴェリアの同時詠唱のなかリューも詠唱を唱える。
「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々愚かな我が声に応じ、今一度星の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」
触手を切り裂きながら『並行詠唱』を行うリュー。
しかし、驚愕することに女体型は『超長文詠唱』にも関わらず、その詠唱速度はリヴェリアも上回っていた。
それでもスキルにより高速詠唱を獲得しているリューの方が一手早い。
「【来たれ、さすらう風、流浪の旅人。空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ。星屑の光を宿し敵を討て】」
詠唱を完了させてリューは魔法を発動させる。
「【ルミノス・ウィンド】!」
緑風を纏った星屑の魔法は撃ち出してくる触手を全て迎撃。
その一瞬、前方が空いた隙をミクロは見逃さずに『レイ』を発動させて体中に電撃を迸らせる。
短時間での二度目の使用は身体により負担が強いられる。
だけど、そんなことを言っていられる余裕はない。
「リューは水晶の用意」
防御系統の
『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
アイズ達が守りを集中している中でミクロは一人攻撃に向かう。
既に半分の距離は縮め、モンスター達は
「マズイ………!?」
フィンは察していた。
もうすぐ女体型が詠唱を終わらせて魔法を発動してくる。
一瞬早くリヴェリアの防御魔法が速く展開されるが既に距離があるミクロはリヴェリアの魔法の範囲外。
しかし――――。
「―――――総員、リヴェリアの結界まで下がれ!!」
フィンはミクロを切り捨てた。
間に合わないと判断してか、ミクロに何か考えがあるのかは。
そのどちらも考えた上で切り捨ててアイズ達に退避を命じる。
「ミクロ………!?」
「安心してください、【剣姫】。ミクロに魔法は通用しません」
連れ戻そうと動こうとしたアイズにリューが止めに入る。
「【大いなる森光の障壁となって我等を守れ―――――我が名はアールヴ】!」
リヴェリアの手札の中で最硬の防御魔法が行使された。
「【ヴィア・シルヘイム】!!」
リヴェリアの足元に展開されていた翡翠色の
物理・魔法攻撃を全て遮断する『結界魔法』の展開――――――それとほぼ、同時。
詠唱を終えた女体型は、『魔法』を発動させる。
『【ファイアーストーム】』
世界は紅に染まった。
「―――――――――――――――――――」
火炎の精霊を彷彿させる、極大の炎嵐。
前方から吹き寄せる津波と見紛う炎風だったが、それはある場所に吸収されていく。
『!?』
女体型は驚愕に包まれ、アイズ達も目を疑った。
極大の炎嵐はミクロが持つ一本の剣に吸収されていった。
『アビリティソード』の『魔力』は対象の魔法を剣に吸収して付与、放出させることが出来る。
女体型が放つものが魔法である以上、この剣の前では無力に等しい。
『アビリティソード』の刀身が紅色に輝くなかでミクロは付与させたまま前進する。
『【地ヨ、唸レ。来タレ来タレ来タレ大地ノ殻ヨ黒鉄ノ宝閃ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヨモッテ反転セヨ空ヨ焼ケ地ヨ砕ケ橋ヲ架ケ天地ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災―――】!」
迫りくるミクロに焦りながらも長文詠唱を唱える女体型は花弁と新種を自身に周囲に構えて防御態勢を取って詠唱の時間を稼ごうとする。
だが、『アビリティソード』に付与させている女体型の魔法で新種は燃え消える。
花弁の半分は焼け崩れて防御力が低下した。
女体型に迫りくるミクロと女体型との距離は二十
『【代行者ノ名二オイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ
迫りくるミクロに縋るかのように詠唱を歌う女体型は黒き魔力光を纏う。
『【メテオ・スウォーム】!!』
女体型は勝負に出た。
この魔法がミクロの持つ『アビリティソード』で吸収されて防がれてしまえば先ほどのようにそのまま自分に返ってくる。
そうなればほぼ間違いなく倒される。
だが、そうでなければミクロは魔法を浴びて終わる。
弱ったところでミクロを食べればいい。
「………」
ミクロも降り注いでくる魔法と女体型を見て直感でそれに気づいた。
だけど、それは勝負にもならない。
ミクロが持ち『アビリティソード』は母親であるシャルロットが作製した
その性能はミクロでは到底及ばない程高性能。
故に魔法である以上は『アビリティソード』で吸収できる。
『アビリティソード』の『魔力』によって隕石群は剣に吸収されていく。
『…………ッ!?』
自身の魔法が吸収されていく光景に悔やむ女体型。
しかし。
ピキリと『アビリティソード』に罅が入る。
「ッ!?」
まだ半分も吸収できていない状況で剣に入った罅は刀身に伝っていき破砕する。
破砕音が鳴り響く中でミクロは冷静にその答えに辿り着いた。
いくら高性能の武器でもいずれかは耐久値が超えて砕けてしまう。
普通の武器なら鍛冶師によって整備すればある程度は元には戻るが『アビリティソード』を作ったのはシャルロットだ。
いくら同じ『神秘』持ちが整備しても作製者と同等に整備することは出来ない。
ましてや自分より遥かに上の存在であるシャルロットの
整備不足。
それが『アビリティソード』が砕けた原因だ。
「ミクロ!!」
眼前にまで迫りくる隕石群にミクロは直撃を逃れることは出来なかった。
ミクロが最後に視界に入ったのは勝利の笑みを浮かべる女体型の微笑みだった。