路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New33話

ダンジョン51階層、へレスを始めとする破壊の使者(ブレイクカード)はモンスターを(ころ)しながら地上を目指す途中、犬人(シアンスロープ)の団員がへレスに尋ねた。

「ねぇ、団長。ミクロをあのままにしてよかったの?」

「あぁ?」

「59階層を少し覗いてみたときに面白い怪物がいたんだけどミクロ死ぬかもよ?」

犬人(シアンスロープ)の団員は58階層到着の時に暇つぶしに59階層を覗きに行った時に例の『穢れた精霊』を目撃していた。

ミクロや【ロキ・ファミリア】には『穢れた精霊』を倒せれないかもしれない。

そう思い、へレスに聞いてみたがへレスは鼻で笑った。

「ハッ、バカ言え。俺のガキがその程度でくたばるわけねえよ」

槍で襲いかかってくるブラックライノスを貫く。

「這い上がってくるさ、あいつはな」

僅かに痛みが走るへレスの横腹。

最後の交差する瞬間、ミクロはへレスを視認できていなかった。

にも関わらずミクロはへレスの横腹に一撃入れていた。

「ようやく俺の足元までやって来やがったか……」

神妙な表情を浮かべながら横腹に手を置くへレス。

「強くなれ、ミクロ。限界なんてぶっ壊してな」

それは親としての言葉なのか、自分の目的の為の言葉のかはへレスしかわからない。

 

 

 

 

 

 

59階層。

アイズ達はリヴェリアの結界内で焦土とかした階層を見渡して言葉を失っていた。

勝ち誇るように笑みを浮かべている『穢れた精霊』。

『アビリティソード』が破砕して女体型の魔法を一身に浴びてしまったミクロ。

「お師匠様!!」

悲痛の叫びを上げるセシルにリューは今すぐにでも駆け出したいという衝動にかけられる。

ミクロがいた場所は円環状の窪地(クレーター)が出来ていた。

膨大な『魔力』が収束された魔法を直撃したミクロは生きているのかさえわからない。

ただわかるのは勝ち誇った笑みを浮かべている女体型。

「ミクロ………」

声が漏れるアイズの悲観の嘆き。

50階層では同じ境遇である自分を慰めてくれたミクロ。

自分よりも強く、誰よりも仲間を信用して信頼を寄せている。

才能、不断の努力、揺るがない意志を持つ現代の英傑。

紛れもない『英雄』の『器』。

『ハハ』

女体型は笑う。

勝利した喜びか、強敵を倒した歓喜か、脅威が消えた安堵か。

笑う女体型にフィンは全員に指示を出す。

「【壊れ果てるまで狂い続けろ】」

その瞬間、詠唱が聞こえた。

『ッ!?』

「【マッドプネウマ】」

放たれた黒い波動は女体型に直撃した。

窪地(クレーター)から姿を現したミクロは傷をあるももの五体満足。

呪詛(カース)を女体型に与えてミクロはフィン達のところに戻って来た。

「痛かった……」

「それで済むのはてめえだけだ」

あれほどの魔法を直撃したにも関わらずその一言で済ませたミクロにベートは呆れるように言い放った。

「ミクロ――――!!心配したじゃん!!」

「なっ!?」

「ああっ!?」

「ごめん……」

怒りながら抱き着いてくるティオナに謝罪の言葉を述べるミクロとその光景に驚愕の声を上げるリューとセシル。

「総員、ミクロの無事を喜ぶのは後だ!せっかくミクロが開いてくれた活路を無駄にするな!!」

ミクロの呪詛(カース)を受けて精神汚染が進行する女体型は苦しみもがく。

花弁も半分は焼き崩れて防御力は低下しており、触手も新種の数は先ほどより激減している。

そのチャンスを逃すことを許さずフィンは全員に号令を出すと全員の戦意が燃え上がる。

「ミクロばっかりいい恰好させないよ!!」

「私達も負けていられないわね」

「負けてられっかッッ!!」

アイズも銀の剣と共に戦意を燃やす。

燃え上がる気迫に満ちる第一級冒険者達。

「ミクロ・イヤロス。まだ戦う意志はあるかい?」

燃え上がる第一級冒険者達のなかでフィンは活路を開いたミクロにまだ戦う意志を問いかけるとミクロは首を縦に振った。

「俺は皆を守る為に戦う。それに……」

ミクロの脳裏には激戦の末に勝利したベルとミノタウロスの決闘風景を思い出す。

「俺は『冒険者』だ」

まだ体は動く。

なら全身全霊を賭けて冒険をしなければ命を賭して冒険したベルにあわせる顔がない。

「なら、女神(フィアナ)の名に誓って僕は君達と共に勝利を掴もう」

「俺は主神アグライアの名に誓う。勝利の光を俺達の下に届ける」

互いに信仰する女神の名に誓いを立てて奮起する。

笑みを浮かばせるフィンは指示を出す。

「前は君に任した。後ろは任せてくれ」

「わかった」

ナイフと梅椿を持ってアイズ達と共に前衛に出るミクロとリュー。

「行くぞ!!」

フィンは号令を放った。

猛る冒険者達は咆哮を上げるモンスター達のもとへ突貫する。

「【駆け翔べ】!!」

魔法を発動させて誰よりも速く動き出すミクロはアイズ達に指示を出す。

「アイズは魔法を温存しろ。最後の一撃はアイズが決めて、残りはアイズを守る」

ミクロの体は限界寸前、いや、もう限界を超えている。

それでも無理矢理にでも体を動かして皆を勝利に届かせる為に前へ出る。

アイズの力を温存させて動き出すとベートがミクロに吠えた。

「ミクロ!」

その一言で理解したミクロは風をベートの《フロスヴィルト》に装填させる。

装填されてベートは気付いた。

アイズの風がじゃじゃ馬ならミクロの魔法は暴れ馬だ。

それを知ってベートは顔に凶笑を張り付ける。

「上等だ―――」

この程度を使い込ませなくてどうすると自分に発破をかける。

強さを飽き足らず求め続けている餓狼は歯を食い縛り、目の前にいる新種に突貫する。

「がるぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

哮り声と共に蹴撃を繰り出すベート。

その勢いは新種だけでは飽き足らずそのまま女体型にまで攻める。

『【突キ……進…メ雷鳴………ノ槍、代行者タル……我ガ名…ハ雷精霊(トニトルス)………雷ノ化身……雷ノ女王……】』

ミクロの呪詛(カース)により精神汚染が進んでいる中でも女体型は短文詠唱を唱えて魔法を発動させた。

『【サンダー・レイ】』

豪雷の大矛。

しかし、脅威と呼べるほどではなかった。

何故なら先ほどまで放った広範囲殲滅魔法に使用した『魔力』を再蓄積(リチャージ)する前にミクロの呪詛(カース)を受けてしまった。

更には今も女体型の精神は汚染させている。

今の女体型の精神状態は正常ではないどころか悪化している。

その精神状態と残った『魔力』で使った短文詠唱の魔法は第一級冒険者達には脅威にもならない。

「ティオナ、ティオネ。弾け」

「わかった!!」

「ええ!!」

『!?』

大双刃(ウルガ)斧槍(ハルバード)で轟雷の大矛を弾き落とす。

前衛の様子を見てフィンもリヴェリア達に指示を出す。

「リヴェリア、レフィーヤ、【疾風】は詠唱を始めろ!ラウル達は後ろからくる新種を『魔剣』で倒すんだ!セシル、後ろは君に任せる!」

「ああ」

「ええ」

「はいっす!」

「わかりました!!」

「はい!」

後ろから押し寄せてくる新種の群れをラウル達とセシルに一任するフィン。

セシルは両手に大鎌を手にするとその内に一つ不壊属性(デュランダル)の大鎌を椿が持つ。

「借りるぞ」

当たり前のように大鎌を使いこなす椿にセシルは唖然としながらも自分も新種と対峙する。

正直、セシルはもの凄く怖いと思っている。

死ぬかもしれない恐怖が全身を襲ってくる。

だけど―――。

「そんなことはいつものこと!!」

ミクロの酷烈(スパルタ)に数え切れないほど死にかけているセシルにとって珍しくもない。

「――――【終末の前触れよ、白き雪よ】」

玲瓏たる旋律が紡がれていく。

女体型から二〇〇(メドル)離れた位置で咲く翡翠色の魔法円(マジックサークル)が美しい華を沸騰させる。

その陣の中で二人のエルフも詠唱を歌う。

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々愚かな我が声に応じ、今一度星の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ、押し寄せる略奪者の前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ】」

リューの手にはミクロが持つ魔杖が握られている。

前衛に出ているミクロの代わりに魔法をリューに託した。

翡翠色の魔法円(マジックサークル)内にいるエルフ達はそれぞれの魔杖を手に持ち、詠唱を歌い続ける。

更にはリヴェリア・リヨス・アールヴには妖精王印(アールヴ・レギナ)というスキルがある。

これにより魔法円(マジックサークル)に存在する同胞族(エルフ)の魔法効果を増幅させることが可能。

三人のエルフから感じる『魔力』の波動は先ほど女体型が放った広範囲殲滅魔法を上回る出力を兼ね備えていた。

驚異的な『魔力』に気付いた女体型は新種と触手を使って阻止しようとする。

「ガレスとベートは新種を、ティオナとティオネは俺と一緒に触手を破壊する」

「がははっ!人使いの荒さはフィンそっくりじゃわい!」

「言われるまでもねぇ!!」

「わかった!」

「わかったわ!」

新種を鏖殺していくガレスとベートにミクロと共に触手を破壊していくティオナとティオネ。

『――――――ッ!?』

進攻は止まらず、詠唱も止められずに女体型はただ驚愕する。

今にも狂い壊れそうな精神を保とうとする女体型にミクロ達は一切合切容赦なく突貫。

「【焼きつくせ、スルトの剣―――――我が名はアールヴ】!!」

「【―――星屑の光を宿し敵を討て】!」

「【雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】!」

『!?』

ミクロ達に怯まされている隙に三人のエルフの詠唱は完成した。

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

「【ルミノス・ウィンド】!!」

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

大地、魔法円(マジックサークル)から射出される無数の炎柱の全方位殲滅魔法。

無数の大光玉を召喚して緑風を纏った広域攻撃魔法。

夥しい火の雨を降らせる斉射砲撃。

エルフ達が放つ魔法にセシルやミクロ達が戦っていた新種と女体型の触手は全滅。

『アアアアアアアアアアアアアアッ!!』

更には女体型の花弁の装甲(アーマー)も焼け落ちるだけでなく女体型の半身も焼く。

喉を振るわせて悲鳴を上げる女体型は地面から夥しい緑槍を打ち出す。

それが女体型を中心に半径一〇(メドル)、触手の束で築き上げられた円型の壁を作り出して己を守る防壁を築き上げた。

それに驚愕するベート達にミクロは叫んだ。

「アイズ!」

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!!」

ミクロの号令にアイズは魔法を発動させて剣と自身に風を纏う。

「【駆け翔べ】!」

そこにミクロはもう一度詠唱を唱えて自身の魔法をアイズに付与させる。

風に風を使って魔法を強化させるミクロにアイズは目を見開きミクロを見て強く頷く。

疾走して階層の天井まで高く、高く跳躍する。

自身の魔法(エアリエル)とミクロの魔法(フルフォース)が重なり合い、相乗効果を生み出すなかでアイズは《デスぺレート》を握りしめて――――着天。

「リル――」

自身の必殺技で終わらせようと必殺技名を叫ぼうとした時、アイズは小さく笑う。

これは自分だけの力ではない。

皆が力が、ミクロの助けがあってこその力。

視界にミクロが映る。

その隻眼はアイズの勝利を確信している信頼の瞳。

どんな強敵でさえも怯むことなく進攻して絶望的状況下でも果敢にも立ち向かい、仲間に勝利を促すのが『英雄』の条件というのなら。

【覇者】ミクロ・イヤロスは誰よりも『英雄』であった。

この『一撃』は自分だけでなくミクロも含まれ。

この『技』は自分だけでなく仲間も含まれている。

アイズは、剣の切っ先を『穢れた精霊』に向けて叫ぶ。

 

「リル・フルウィンド」

 

神の閃風が放たれた。

閃風は女体型を取り囲んでいる緑槍を貫き、破壊してその勢いは緩むことなく女体型へ突き進む。

『―――――――――――――――――――――――――』

悲鳴を叫ぶ隙も無く不壊の剣は女体型の体躯を斬り分けて肉を抉り取りひた走る。

次の瞬間、巨体を完全に射抜くとともに大地に激突し――――爆砕。

胸部の『魔石』を貫かれ一瞬で灰となった女体型を轟き渡る神嵐の咆哮が吹き飛ばした。

凄まじい衝撃波となって階層全体を震わせて、大量の灰を巻き上げる爆風が荒れ狂った。

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」

冒険者達が腕で顔を覆い、風の激流を凌ぐ。

そして、ダンジョンを鳴動させる衝撃に堪える事しばらく。

身を低くしていたミクロ達が顔を上げて巨大な窪地(クレーター)の中心で地に銀の剣を突き刺していた少女がゆっくりと立ち上がる。

燐光を浴びて輝く金の長髪と、振り返る金の双眸に―――――大歓声が上がった。

「アイズゥ―――――――――!!」

走り出すティオナを始めにこの場にいる冒険者達は勝利を分かち合う。

喜ぶ者、息を吐く者、生きている事に安堵する者と反応は様々。

その中でミクロは(ホルスター)から五つの魔石に似た小さな宝玉を取り出す。

『アビリティソード』が破砕して『穢れた精霊』の魔法が直撃する瞬間、破砕された『アビリティソード』の柄から出現した五つの宝玉が女体型から吸収した魔力を使用して結界が展開された。

その結界のおかげでミクロは致命打を負うことはなく、生き延びることが出来た。

流石のミクロもあの魔法が直撃していたら危なかった。

窮地の状況から守ったのはシャルロットが作製した魔武具(マジックウェポン)

こうなることを見越してジエンに『アビリティソード』を託したのか。

それともジエンを守る為に『アビリティソード』を渡したのか。

どちらにしろミクロを守ってくれたことには変わりない。

「………ありがとう」

ミクロは感謝の言葉を述べて倒れる。

歩み寄って来たリューにミクロは懇願する。

「リュー……頼む」

「まったく、貴方という人は」

無茶をする、と言いながらもリューはミクロを背負う。

こうして59階層の戦闘は幕を閉じた。

 


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