路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New34話

59階層での『穢れた精霊』との激戦を終えたミクロ達は撤退行動に移り、現在は18階層で休息を取らなければならない状況に陥っている。

「まさか毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大群と遭遇(エンカウント)するとは……」

18階層の南端部の森林で【ロキ・ファミリア】と共に野営地を作製して毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の猛毒を受けた者を休ませている。

帰還途中で毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生という『異常事態(イレギュラー)』に襲われて【ロキ・ファミリア】は三分の一以上は行動不能になっている。

「パルフェがいて助かった」

ミクロ達【アグライア・ファミリア】も被害を受けたが幸いにもミクロが毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒を中和する秘薬を団員全員分を作っていた為に今では全員無事に行動して【ロキ・ファミリア】の援護に回っている。

ミクロ本人も魔杖を持って猛毒を受けた者に全治癒魔法をかけて治しているが数が多く、消費する精神力(マインド)も多い為に休憩を挟みつつ治療を行っている。

「【卑小の我は祈る。光り輝く生命の粉塵は汝に万能の治癒を施し、あらゆる怪我と病を癒す。我は汝を想い、汝の為に我は身を呈して祈りを捧げる】」

毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の猛毒を受けた【ロキ・ファミリア】の団員にパルフェは詠唱を口にする。

「【セラピア・キュア】」

魔法の発動と同時に降りかかる光り輝く粉塵は【ロキ・ファミリア】の団員に降りかかると体の一部に変色した痣が消えて呼吸が整い始める。

魔法が終わると何事もなかったのように起き上がる。

「あ、ありがとうございます!助かりましたよ、【聖癒の小人(リトル・セェア)】!」

「いえ、では私は次へ行きますね」

礼を述べる【ロキ・ファミリア】の団員に一礼してパルフェは次の患者に向けて詠唱を口にする。

パルフェの二つ目の魔法は高位の治癒魔法。

傷だけでなく毒までも浄化させて癒しを施すその魔法がミクロがフェルズから教わって全治癒魔法と遜色ないほどの効果がある。

何故ならパルフェには【支援救済(サポートディア)】というスキルによって魔法効果が増幅している。

そのスキルによって普通なら特効薬が必要な毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)までも解毒するほどの効果がある。

一歩引いて仲間を支えたいというパルフェの優しさから発現したスキル。

パルフェの魔法はいつもミクロ達を助けてくれる。

それでも猛毒を受けた人数が多すぎる為に現在はベートが特効薬を買い占めに地上に向かっている。

「本当に君達がいてくれて助かったよ……」

ミクロの隣でフィンが苦笑を浮かべていた。

椿が作った『不壊属性(デュランダル)』の武器に『魔剣』が三十振り以上、そこに【ヘファイストス・ファミリア】にドロップアイテムを譲らなければならないなかで予想外の出費で特効薬の買い占め。

収拾した『魔石』は【アグライア・ファミリア】と山分け。

半分の『魔石』では莫大な遠征費用を全て回収できない為にフィンはミクロに遠征費用を半分持ってもらうことに頼み込んだ。

ミクロは二つの条件を出してそれを了承した。

闇派閥(イヴィルス)に関する情報の無償提供。

今後の友好の関係の維持と協力。

この二つを条件にミクロはフィンの頼みを聞き入れた。

ちなみに治療費は別途支払い。

それでも特効薬よりも格安しているのはミクロの優しさだろう。

フィンは団員達を治療してくれることも含めてミクロ達に感謝している。

「俺達のところの物資はまだ余裕があるから分けようか?」

「……本当に何から何まで助かるよ」

頭を押さえるフィンはパルフェに視線を向ける。

一人一人に治療を施していくパルフェを見てフィンは考える。

フィンには小人族(パルゥム)、同族の再興という野望がある。

落ちぶれている同族に光を女神(フィアナ)信仰に代わる、新たな一族の希望が。

その為にフィンは冒険者となって名声を手に入れる。

しかし、それだけでは駄目だった。

一瞬の栄光では一族を奮い立たせるには至らない。

希望の光は長く在り続けて小人族(パルゥム)達を照らし続けなければならない。

その為にフィンには同族の伴侶が必要だった。

自分の子供を産んでもらう為に。

「パルフェ、交代」

「うん、ちょっと休憩するね」

ミクロとパルフェは交代して今度はミクロが【ロキ・ファミリア】の団員達の治療を始める。

「パルフェ・シプトン、君にも礼を言わせて欲しい。団員達を治療してくれて心から感謝する」

「い、いえ!私にはこれぐらいしか取り柄がないですし、礼を言われるようなことは………」

感謝の言葉を述べるフィンにパルフェは恐縮する。

支援や治療が自分の取り柄だと認識しているパルフェにとってはこれぐらいでしか役に立てない。

「君のような同族に出会えて僕は嬉しく思うよ。それと休憩の途中で済まないが少し時間を頂けないかい?君に話しておきたいことがある」

「私に………?」

【ロキ・ファミリア】団長で【勇者(ブレイバー)】の二つ名を持つ同族であるフィンからの話にパルフェは断ることが出来ず一時その場から離れる。

周囲を警戒しながら歩くフィンの目はまるでどこから襲いかかってくるかもしれない野獣に警戒している目だった。

そして、周囲に誰もいないことを確認してフィンは口を開く。

「率直に言わせてもらう。僕は君に縁談を申し込みたい」

「え――」

思わぬ衝撃の言葉に大声が出そうになったがそうなる前にフィンがパルフェの口を塞いでそれを阻止した。

辺りを見渡して安堵してフィンは手を離す。

「すまない。だけど僕は本気だ」

曇りないその瞳にパルフェは思わず唾を飲み込む。

小人族(パルゥム)の英雄であるフィンからの縁談に驚くなという方が無理だ。

「……どうして私、なんですか?」

「同族の君なら僕達が今どういう存在なのかわかっているはずだ」

小人族(パルゥム)は他の種族と比べると劣っている。

落ちぶれていると言ってもいい。

「僕は一族の再興を何としてでも成し遂げたい。これから生まれてくる新しい同胞のためにも。そのために………後継者はやはり必要になる」

「だから私を……」

パルフェの言葉にフィンは頷いて肯定した。

「今回の遠征で君を見ていた。一族に必要な『勇気』を持っているか否かを」

パルフェは持っていた。

優しさという『勇気』を。

自分よりも他人を優先して治療するその優しさも『勇気』。

自分の身よりも他者を優先するパルフェの優しさがフィンの心を動かした。

「必ず不幸にはしない、それだけは約束する。君に僕の子を産んでもらいたい」

告白(プロポーズ)

同族の憧れの存在であるフィンからの告白にパルフェは嬉しかった。

パルフェは冒険者になることに憧れを抱いたのはフィンの存在を知ったからだ。

小人族(パルゥム)でも冒険者になれると思いパルフェは冒険者になった。

フィンの『勇気』という光に当てられて今のパルフェがいる。

「ごめんなさい」

だからこそ心から謝罪した。

その縁談を受けられないことに。

「理由を聞いてもいいかな?」

「私は今でも貴方のことを尊敬しています。貴方のおかげで私はこうして冒険者になることができました」

パルフェの前の派閥であった【リル・ファミリア】に所属していた頃に犯した罪はあるけどそれはもういい。

そのおかげでパルフェはミクロと出会えた。

「私はこれからも恩人であるミクロ達と一緒に冒険がしたい。私はミクロ達の為にこの身を捧げています」

パルフェはミクロの事が好きだが恩を返したいという気持ちの方が大きい。

「ミクロは私の命を助けて手を差し伸ばしてくれた」

フィンが『勇気』という光を貰い冒険者になった。

ミクロからは『未来』という光を貰ってミクロの手を掴んだ。

いい奴という理由でパルフェを【ファミリア】に誘ったミクロにパルフェは感謝しきれない程の恩がある。

「なるほど」

フィンは両目を瞑り、吐息ともに苦笑する。

脈がないことは親指、直感がそう教えていた。

また振り出しか、とぼやきながらパルフェのことを諦めた。

「わかった、この話は聞かなかったことにしておくれ。それと縁談を申し込んどいて節操がないと思うけど今度君の派閥にいる栗色の髪をしたサポーターを紹介してくれないかい?」

「それは………」

断られるのがオチだろうな、とパルフェはそう思いながら苦笑した。

「パルフェ」

「ミクロ」

持ち場から離れて二人に歩み寄ってくるミクロ。

「後はリヴェリア達がするからリヴィラの街で食料を買わせよう」

「わかった。ではこれで」

「ああ」

一礼してミクロと一緒に離れていくパルフェにフィンは息を吐いた。

「彼女たちにとってミクロ・イヤロスは大きい存在なのか」

ミクロという存在に惹かれてついて行こうとする【アグライア・ファミリア】の団員達。

やれやれと息を吐きながらフィンも自分達の天幕に戻って自身の仕事をこなす。

 

 

 

 

 

リヴィラの街で食料を買わせようとミクロはボールスに会いに来ていた。

「ボールス」

「おう、ミクロじゃねえか!?お前も金をおとしにきたのか!?」

上機嫌のボールス。

少し前に来た【ロキ・ファミリア】の足元を見て法外な値段を売りさばいたボールスはミクロ達が遠征帰りで【ロキ・ファミリア】と共に行動していることは知っている。

日頃から恨みのあるミクロにはより法外の値段で売りさばいてやろうと邪念する。

「ポーカーしよう。俺が勝ったらこの街の食糧をボールスが買って欲しい」

「ふざけんじゃねえ!誰がお前と勝負するか!?」

突然のポーカーの誘いにボールスは怒鳴りながら拒否した。

日頃の恨み、ポーカーでの敗北でミクロに借金をしているボールスはこれ以上借金を背負う気はない。

「買う気がねえなら失せろ!しっしっ」

追い返そうとするボールスにミクロは口を開く。

「ボールスが勝ったら借金を帳消し」

その言葉にボールスの耳がピクリと動く。

その反応を見てミクロは続ける。

「更にはこの街の値段の三倍で食料を買い取る」

ピクピクとボールスの耳は反応を示す。

「追加で今からゴライアスを狩ってその魔石をボールスにあげる」

「よっしゃ!受けて立つぜ!その言葉曲げんじゃねえぞ!?」

「わかった」

ミクロの誘いに乗ったボールスはその時は気付かなかった。

いくら美味い餌を用意されても食べられなかったら意味がない。

一時間後、テーブルに突っ伏して頭を抱えるようになったボールスに付き添いで来たパルフェは苦笑した。

美味い餌に近づく(ボールス)はまた借金が増えた。

ボールスの金でミクロは食料を買い込んでそれを自分達の派閥とフィン達に分け与える。

「ミクロ」

「ティヒア、リュコス」

森の中の果実を取りに行っていた二人は森から出て来てミクロと合流した。

「取りあえずはある程度は果実は取れたわ」

「ついでに襲ってきたモンスターの魔石もね」

「こっちも食料を買った」

食糧も手に入れてミクロ達は自分達の野営地に戻るとミクロは炊事担当に食事を作らせると自身は天幕に戻って(ホルスター)から五つの宝玉を手に取る。

魔道具(マジックアイテム)………」

『アビリティソード』の柄から出現した五つの宝玉はティヒアが使用している魔道具(マジックアイテム)『アヌルス』と同じ効果があると判明した。

性能は遥かにこちらのほうが優れているがこの宝玉が『アビリティソード』の要になっていたことを知ることが出来た。

母親であるシャルロットの魔武具(マジックウェポン)が破砕して幸か不幸かはわからないけどこれで自分の技術を向上させようと決める。

へレスとの戦いで自分はまだまだ弱いと知ったミクロ。

次は勝てるようにミクロはまだ上を目指さなければいけない。

宝玉を(ホルスター)にしまってミクロは天幕を仰ぐ。

「頑張ろう」

天幕を出てミクロも団員達と炊事を手伝う。

訪れる『夜』にミクロ達は【ロキ・ファミリア】と共に食事を取る。

ミクロのおかげで充実な食事を取りながら賑やかな晩餐となった。

そして、『朝』。

ミクロとリューは『朝』が訪れる前に日頃の習慣で早く眼が覚めて稽古を行っていた。

ティヒア達が見たらこういう時は休めと言ってくるだろうが習慣となっている為休むと逆に落ち着かない。

「ミクロ、リオンさん」

「アイズ」

稽古という模擬戦を行っている二人にアイズは近づく。

「私も―――」

交ざってもいい?と尋ねようとした瞬間。

『―――――――――――ォォォォォォォォ』

「!」

「ゴライアスか」

地鳴りのごとき巨人の咆哮が鳴り渡った。

次いで、どおおおんっ、という強い振動が届く。

それに察したミクロ達は洞窟前に向かって駆け出す。

「ふぁ―――――――!!死ぬかと思った!!」

「だからリリは言ったんです!!階層主は避けましょうって!!」

「まぁまぁ、全員無事だったんだから……」

「そうだぞ、リリスケ。いい経験になったはずだ」

「いや、俺達にはまだ早かったな」

ベル達【アグライア・ファミリア】の団員達と赤髪の青年が疲れ切った表情でその場で腰を下ろしていた。

ミクロはベル達も声をかけようと近づく。

「馬鹿だな、リリ。団長のしごきは階層主怖えんだぞ。今の内に恐怖に慣れておかねえと団長にしごかれる悪夢にうなされるぜ?」

リオグがふざけた口調でそう話す。

「だからと言って……あ」

「どうしたの、あ」

「ああ、どうかしたのか?」

「ああ、うん。どんまい、リオグ」

リオグの後ろにいるミクロを見て赤髪の青年、ヴェルフ以外はリオグに同情と憐憫の眼差しを向ける。

それに気づかないリオグは怪訝しながらも続けてしまった。

「何言ってんだ、スウラ?まさかもう団長の鬼畜酷烈(スパルタ)に怯えてんのか?今更怯えたって団長が手を抜くわけねえだろう?団長の訓練は階層主すら裸足で逃げ出してしまうぞきっと。団長は怖えからな」

「リ、リオグさん………」

顔を青くしながらもベルは必死にリオグを止めようとするが当の本人は後ろにいる人物に全く気付かない。

「ベルまで何もう顔を青くしてんだ。まぁ気持ちはわかるぜ、団長の酷烈(スパルタ)を受けたら青どころか顔色が白くなっちまうからな!ベルと団長の髪みたいに!!」

ベル、リリ、スウラはかたかたと体が小刻みに震え出す。

恐怖がリオグの後ろに立っている。

これからリオグに降り注がれるであろう恐怖の体現者にベル達は怯えていた。

「おいおい、お前等どうした?俺の後ろにモンスターで……も………………」

振り返るリオグはそれ以上言葉が続かなかった。

モンスターの方が遥かにマシだったと思いながらリオグは全身から汗が流れ落ちる。

「二週間ぶり」

いつもと変わらない声音で話しかけてくるミクロにリオグは全身を激しく震わせながらゆっくりと片手を上げる。

「お、お久しぶりです………団長、さま……………よいお天気で」

「18階層に天候はない」

「お、おっしゃるとおりで………」

ドクンドクンと激しく心臓の音が聞こえてくるリオグは脳をフル活動させて上手い弁明を必死に考える。

神々がリオグに与えた二つ名【情炎の自由人(プロクテリアー)】ことリオグ・リベルテは何かを悟ったように笑みを浮かべる。

「……団長、背、伸びましたね」

「二週間ではそう伸びない」

ミクロはリオグの襟首を掴んでベル達が来た道17階層に向かっていく。

「頑張れば死ぬことはない」

リオグを引きずりながらミクロはリオグと共にゴライアスを倒した。

帰って来たころにはリオグは魂が抜けた抜け殻のように大人しかった。

それを見たベル達は自分達もこうなるのではと体を震わせた。

 

 


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