路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New35話

ベル達が18階層に訪れて現在は野営地にある天幕にいる。

ミクロはベルが【ランクアップ】したことはアグライアから聞いていた為、中層には行くのだろうと踏んでいた。

その為にリオグとスウラ、Lv.2でも上位の【ステイタス】を保持している二人にベルと共に行動するようにアグライアに進言しておいた。

天幕の中で横たわっているリオグに視線を向けてミクロは次にベル達に視線を向ける。

正座しているベル達にミクロは軽く息を吐いた。

「正座しなくていい」

その一言を告げるが一向に正座を解かない。

ベル達は他の冒険者からモンスターを押し付けられる怪物進呈(パス・パレード)にあったが、ミクロの魔道具(マジックアイテム)『レウス』のおかげで何とか危機は脱した。

予想外の事が起きてリリは地上の帰還をベル達に進めたがリオグとスウラが首を横に振った。

予想外の出来事はダンジョンでは当然であり、それに慣れて対処できるようにしなければならない。

二人は新人であるベルとリリそして【ヘファイストス・ファミリア】に所属しているヴェルフ・クロッゾを連れて18階層へ目指した。

その途中でリオグがゴライアスを見ておこうと言って全員でゴライアスがいる縦穴に落ちて何とか18階層に辿り着いた。

事情を聞いたミクロは特に言うことはない。

ベル達にダンジョンを慣れさせるために18階層に来たのは否定する気はない。

下手に安全でダンジョン探索を行えばいざという時に対処しきれなくなる。

手っ取り早く慣れさせるためならミクロも同じようなことをした。

他派閥であるヴェルフを巻き込ませたことに関しては何とも言えないがパーティとして来ている以上こちらの方針に文句を言わせるつもりはない。

問題は怪物進呈(パス・パレード)でモンスターを押し付けてきた冒険者の方だ。

極東の戦闘衣(バトル・クロス)と言えばミクロでは思い当たるのは一つだけ。

極東出身の神の眷属【タケミカヅチ・ファミリア】。

話では仲間を一人背負っていたと聞いたがミクロにはそんなことはどうでもいい。

家族(ファミリア)を危険に晒した者をミクロは許す気はない。

如何なる事情においても家族(ファミリア)に手を出す奴はミクロの敵に等しい。

地上に帰還次第、即行動しなければと考えそれを頭の片隅に置いておく。

「ベル達は地上に帰還する時は俺達と共に行動してもらう。出発は【ロキ・ファミリア】と同じ二日後だからそれまでゆっくりしていろ」

『はい!!』

異口同音に返答するベル達は立ち上がって天幕から出て行く。

「はぁ~~~~~~、あれが【覇者】か!?」

「う、うん、ボク達の団長だよ」

緊張が解けて勢いよく息を吐くヴェルフは改めてミクロのことに驚かされた。

ヴェルフもそれなりにミクロの噂を耳にしている。

実際に会って見ても自分より年下の子供としか思えない。

ただ会って見ただけならヴェルフはミクロの事をそれほど恐ろしくないと思っていただろう。噂が一人歩きしたと思っても良かった。

しかし、リオグを連れてゴライアスを平然と討伐して帰って来たミクロは無傷だった。

その姿を見てヴェルフは思った。

【覇者】にとってゴライアスは敵ではないと思わざるを得なかった。

自身の派閥である椿・コルブランドとはまた違う【ファミリア】の首領(トップ)

「凄すぎんだろう……」

ぼやくヴェルフはベル達一緒に共に行動しようと踏み出す。

「ヴェルフ・クロッゾ」

後ろから声が聞こえて振り返るとそこには先ほどまで話していたミクロがいた。

「お前と話がある。戻ってくれ」

「お、俺と……?」

予想外な指名に眼を見開くヴェルフ。

ミクロは椿と専属契約している冒険者ということは椿から聞いたことがある。

そんな奴が自分と話があるものなのかと考えるとヴェルフの表情が不意に険しくなる。

「ヴェ、ヴェルフ……?」

「ああ、悪い。先に行っていてくれ。俺はお前さんの団長と話をしてくる」

ベル達を先に行かせて一人天幕に戻るヴェルフはミクロと向かい合う。

「俺に何か用ですか?」

「敬語じゃなくていい」

一つの派閥の団長として敬語を使うヴェルフにミクロはそれを止めさせる。

「あー、じゃ俺に何か用があるのか?あんた、椿と専属契約してんだろう?」

その言葉に頷いて肯定するミクロは口を開く。

「ベル達とはパーティを組んでいるのか?」

「ああ、ベルに頼み込んで『鍛冶』のアビリティを獲得するまでって契約だ。もちろんこっちも武器や防具は無料(ただ)でする。それぐらいの筋は通す」

ヴェルフはベルと直接契約してベルの武器と防具を作ると契約した。

「なるほど、わかった」

納得するミクロを見てヴェルフは少しだけ安堵した。

団長として団員であるベルを心配してヴェルフという人物を探った。

納得したミクロを見て疑いは晴れたのだろうと思いヴェルフは外に出ようと踵を返す。

「話がそれだけなら俺は行くぞ?」

「まだある。ヴェルフ・クロッゾ、【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)をする気はないか?」

ミクロはヴェルフを勧誘するとヴェルフの足が止まる。

「ヴェルフ専用の工房と必要な道具はこちらで用意する。必要な素材も資金も出来る限り提供する」

「………本音を言ったらどうだ?」

美味い餌に惑わされるどころか怒りを少しだけ露にするヴェルフだがミクロは気にも止めずにその先の言葉を口にする。

「お前の事は椿から聞いている。『クロッゾの魔剣』を【アグライア・ファミリア】為に打って欲しい」

「俺は魔剣を打たねえ!!絶対にだ!!」

怒鳴り散らすヴェルフ。

「俺は魔剣は絶対に打たねえし、打ったとしても売らねえ!あれは人を腐らせる!!」

武器は使い手の半身、苦楽を共にする魂の片割れ。

鍛冶師の矜持と誇りにかけてそういう武器を使い手に渡さなければならない。

それを信念にヴェルフは魔剣を嫌い、魔剣を打とうとしない。

「それだけの力を何故使わない?」

「何だと!?」

「俺なら使う。仲間を家族(ファミリア)を守る為ならどんな力でも使う。お前はベル達が危機に瀕しても『クロッゾの魔剣』を使わないのか?」

「それは……!?」

言葉が詰まるヴェルフ。

今回のヴェルフ達の探索は無事に18階層まで来れることが出来た。

だけどそれが出来たのはミクロが作製した魔道具(マジックアイテム)とリオグとスウラの存在が多い。

「魔剣を打てと強制はしない。必要に応じた分だけ打ってくれればいい。それ以外は普通の鍛冶師としてベルのパーティメンバーとして行動を共にしてくれればいい」

ヴェルフの横を通って天幕を出て行くミクロは最後にヴェルフに告げる。

改宗(コンバージョン)するならいつでも歓迎する。話はそれだけだ」

天幕から出て行くミクロにヴェルフは手を強く握りしめて悪態を吐く。

「くそったれ……」

悪態を吐いて乱暴に頭を掻き毟る。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

野営地を歩きながら先ほど勧誘を促したヴェルフのことについて考えていた。

ミクロはヴェルフの魔剣を打たないという考えが理解できない。

ミクロは推測でヴェルフは魔剣を強化できるスキルを保持していると考えている。

ミクロも魔道具(マジックアイテム)を強化するスキルを保持している為にそれは簡単に推測ができた。

勧誘の際に同じパーティーメンバーであるベル達を引き合いに出してみたがそれ相応の反応を示した。

少なくともヴェルフ・クロッゾ本人は仲間を大切にする人物だと判明。

一応は揺さぶりをかけてはみたが、これからもベル達とパーティメンバーとしていて貰った方が良い。

そうすれば改宗(コンバージョン)する可能性が上がって【アグライア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)してくれれば【アグライア・ファミリア】はもっと強くなれる。

ミクロにとって【ファミリア】は大切な家族。

家族を守る為ならミクロはなんだってする。

「……ミクロ」

「アイズ」

野営地を歩いているとミクロはアイズと遭遇した。

「どうした?」

「ベル達は……大丈夫?」

「問題ない」

約一名は現在天幕でうなされていることを放って無事を伝えるミクロにアイズも胸を撫でおろす。

「よかった……」

ベル達の無事に安堵するアイズはそれ以外にも聞きたいことがあった。

「ベルは……Lv.2になったの?」

「うん」

アイズの言葉を肯定する。

一ヶ月半で【ランクアップ】は自分とミクロの最短記録を大幅に塗り替える。

その力の秘密がアイズは知りたい。

しかし【ステイタス】を聞くのは禁制(タブー)だということをアイズは知っている。

知りたいでも聞いてはいけない。

葛藤するアイズにミクロは声をかける。

「模擬戦する?」

「………うん」

落ち着かせる為にアイズはミクロの案を呑んだ。

戦えば少しは落ち着くかもしれない。

そう思って野営地から少し離れて二人は得物を持ってぶつかり合う。

遠征帰りということもあり、互いに本気は出さずに普通に模擬戦を行う。

そのぶつかり合う音に連れられて団員達は集まり始めた。

「……全く、遠征帰りというものを」

模擬戦を行っている二人を見てリヴェリアは頭を押さえる。

近くにいるリュー達も呆れるように息を吐いた。

「いいなー!あたしも交ざりたい!」

模擬戦をしている二人を見てティオナが不満気味に文句を飛ばす。

「団長とアイズさん………」

ベル達も二人の模擬戦に目を奪われる。

憧憬する二人が戦っている。

次元が違う二人の動きを捉えることはできないベルだが、心なしかベルには二人が戦いながら楽しく踊っているように見えた。

「あ、ベル、リリ」

「セシル……」

「セシル様」

同じミクロの下で師事を受けている仲ということもあり、ベルとは仲が良いセシルが二人に歩み寄る。

「ベルはもう中層に来たんだ。私でも一年以上はかかったのにな……」

やや悔し気に言うセシルにベルは苦笑する。

「それにしてもお師匠様とアイズさんは仲がいいよね。今日の遠征での戦いも凄かったし」

「え……?」

「お師匠様の魔法とアイズさんの魔法って同系統でね、最後の一撃、お師匠様とアイズさんの魔法の合体技で倒したんだよ」

凄かったと感慨深く思い出すセシルにベルはそれどころではなかった。

――――――――ガンッ!と音を立て『ショック』という言葉がベルの頭上に降って直撃する。

ベルは【ランクアップ】したことによって少しは二人に追いついたと思っていた。

だけどそれ以上に二人の仲が進展したこと驚きを隠せれない。

ショックを受けて放心状態のベルに気にもせずセシルは師であるミクロの活躍を自慢げに話を続ける。

まさか――――という言葉が脳裏を過る。

今はまだ友達と思っている二人は互いの気持ちに気付き合ってその先へ―――――。

「ベル様?ベル様!どうなされました、ベル様!?」

揺するリリにベルは反応を示さない。

しばらくベルの放心状態が続いた。


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