路地裏で女神と出会うのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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New37話

突如現れたジエンの登場に驚きを隠せれないベル達。

キュオはジエンから距離を取って口を開く。

「まさか、魔法が使えないエルフがまだ生きていたとは思わなかったよ」

嘲笑を浮かべながら挑発めいた言葉を述べるキュオ。

「おかげで私は闇派閥(イヴィルス)と行動しないと行けなくなったんだから」

元々はジエンが闇派閥(イヴィルス)の協力者として行動していたが連絡が絶たれ死んだと思われたジエンの代わりにキュオが闇派閥(イヴィルス)と協力している。

「というかシヴァ様に忠誠を誓ったあんたがどういうつもり?」

「……確かに私はシヴァ様に助けられ忠誠を誓った身だ。これはシヴァ様の反逆行為だということは重々承知している。しかし、私はミクロと同胞に気付かされた。恩を仇で返してきたシャルロット副団長の為に私は貴様達と敵対する道を選ぶ。そして、最後は自害するさ」

自身の為に『アビリティソード』を託してくれたシャルロットの恩を仇で返してきたジエンはミクロ達との出会いでそれに気づかされた。

だからジエンは一人のエルフとしてキュオ達と敵対する道を選び、最後は償いとして自ら命を絶つ覚悟でこの場にいる。

「『アビリティソード』を持たないあんたが私に勝てると思っているの?」

「勝ち負けは私にはない。私はただ恩を報いる。それだけさ」

「ふ~ん、まぁ、いいけどね!」

ナイフと短剣を持って仕掛けるキュオにジエンは剣でキュオの攻撃を防ぐ。

攻めるキュオに受けるジエンの攻防にベル達は茫然と見つめていた。

「ベル、大丈夫……?」

「う、うん。僕は大丈夫……だけどあの人は……」

助けてくれたジエンに視線を向けるベルは目に見えない攻防が繰り広げられている。

「ジエン……同胞を葬ってきたエルフの仇敵……」

ぽつりとレフィーヤは呟く。

レフィーヤはジエンの事を話しだけなら聞いたことがあった。

多くの同胞を葬って来たエルフの仇敵。

その仇敵がどうして自分達を守る為に戦っているのかがレフィーヤは理解出来なかった。

二人の話の中でミクロが出てきた。

なら今戦っているエルフはミクロによって変えられたのかという疑問が脳裏を過ぎる。

「レフィーヤ!危ない!」

「きゃ!」

無理矢理頭を沈められるレフィーヤは咄嗟に顔を上げると剣を持つ闇派閥(イヴィルス)の残党とセシルの大鎌がぶつかり合っていた。

「ここで始末しろ!!」

レフィーヤの魔法から生き残った闇派閥(イヴィルス)の残党は武器を持ってレフィーヤ達に襲いかかってくる。

心身既にボロボロのセシル達は闇派閥(イヴィルス)の残党にとって格好の的。

すぐに始末できると息巻いていると。

「ハァアアアアアアアアアアッッ!!」

怒声と共に残党を吹き飛ばすセシル。

「生憎とこういう状況はお師匠様のおかげで慣れてるよ!!」

大鎌で吹き飛ばしていくセシルの闇派閥(イヴィルス)の残党は驚愕に包まれる。

日頃から心身共にボロボロになるまでの酷烈(スパルタ)を受けているセシルにとって特に問題はなかった。

そして、その酷烈(スパルタ)を受けてきたベルとレフィーヤも立ち上がる。

立ち上がる二人は互いを守るように背を預け合う。

互いを守るように陣を作る三人を放ってキュオとジエンの攻防は一層激しさが増す。

「【解き放て】」

超短文詠唱を唱えてナイフと短剣に怪しい光が纏う。

「【クロニティ】」

二振りの得物から放たれる斬撃にジエンは辛うじて回避する。

キュオの放出魔法は精神力(マインド)を消費する分だけ高威力の魔力を放出する。

キュオは魔力を得物に纏わせて飛ぶ斬撃を放つ。

「ハァ!」

だが、ジエンはその斬撃を回避しつつも再び接近して得物を交える。

「相変わらず剣術だけは一流ね」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「だけどこういうのはどうかな?」

(ホルスター)から小瓶を取り出してそれをジエンにかけようとするが危険を察知したジエンは後退する。

「【解き放て】」

そこに再び斬撃は飛んでくると今度は回避しきれず多少なりの傷を負ってしまう。

「毒か………」

「そう、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒よ」

上級冒険者の『耐異常』をも貫く劇毒を持つ毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)

その毒を武器として扱うキュオの口は三日月のように歪み笑う。

「完全には避けられなかったね」

ジエンの左手が僅かに変色している。

先程放たれた劇毒を完全に回避することが出来なかった。

「相変わらず読めない戦い方をする」

「褒め言葉として受け取っておくね」

先程の意趣返しと言わんばかりに述べるキュオにジエンは劇毒に僅かばかり苦しむ。

キュオは冒険者というよりも暗殺者に近い戦い方をする。

次にどの手を使ってくるか中々読めない。

「一つ聞くけど、ジエンはこっちに戻る気はないの?」

「どういう意味だ?」

「言葉通りよ。皆はあんたのことは死んだと思ってる。知っているのは私だけだからもし戻ってくるなら今回のことは目を瞑る」

「………」

戻ってこいと催促するキュオにジエンは無言だった。

「私は別にシヴァ様の目的とかどうでもいいしね。それに私とあんたは似た境遇のなかだからどうしても殺すのは興が削がれるの。だから戻ってこない?」

「断る」

ジエンは即断した。

「例えその言葉が本意だとしても私は今更そちらに戻るつもりはない」

シャルロットの恩を仇で返して破壊の悦びに呑まれていたジエン。

そんなジエンをミクロと同胞であるリューが救ってくれた。

ジエンは自分の命だけでは秤にかけられない程の恩がある。

そして、その恩を仇で返す愚かな行いをしないと心に深く刻み込んでいる。

返答を聞いたキュオは落胆交じりで息を吐いた。

「そう、残念」

パチンと指を鳴らすと茂みから再び食人花(ヴィオラス)が姿を現す。

そしてその全ての食人花(ヴィオラス)をジエンではなく疲労困憊のベル達に向かわせる。

「クッ!」

先程の戦いで辛うじて戦えているベル達だが、また食人花(ヴィオラス)と戦えるだけの体力は残されていない。

ジエンは三人を守るべく行動する。

「下がれ!」

言葉を投じて食人花(ヴィオラス)から三人を守るジエン。

「【解き放て】」

「ぐっ!?」

その隙をキュオは見逃すわけがなかった。

食人花(ヴィオラス)を使ってベル達を襲わせて守りに入るジエンの隙を狙って斬撃を飛ばすキュオにジエンは苦しまれる。

「エルフさん!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

傷を負ってまでベル達を守ろうとするジエンは咆哮を上げて食人花(ヴィオラス)の首を斬り落としていく。

どうすることもできないベル達はどうにかしようと思考を働かせるがこの状況を打破できる方法が思い浮かばない。

ベルもセシルもレフィーヤも心身共に限界。

動けていられるのはミクロの酷烈(スパルタ)があったからこそだ。

既に気力だけでどうにかできるほど今の状況は優しくない。

Lv.6のキュオ。

襲いかかる食人花(ヴィオラス)

闇派閥(イヴィルス)の残党。

この状況を打破するにはベル達では力不足。

「…………ッ」

その時、レフィーヤは残った僅かな精神力(マインド)を使ってでもせめて二人だけでも逃げる隙を与えようと詠唱を口にしようとした時。

その背後でキュオがナイフを振り上げている事に気付かなかった。

「危ない!」

「キャッ!?」

ジエンはレフィーヤを庇ってそのナイフを一身に受けた。

「無事……か………同胞の少女よ………」

「どうして………」

どうして同胞である自分を助けてくれたのかわからないレフィーヤの問いにジエンは力なく笑った。

「これで………少しでも償いになれるのなら………安いものだ」

多くの同胞を葬ってきたジエンのその手は落とすことが叶わない程汚れている。

だけど、それでも助けることで救いを求めることが許されるのならジエンは喜んで己の身を守る盾となる。

ずるりとジエンの身からナイフが抜かれるとジエンはその場でうつ伏せに倒れる。

「【同胞殺し(エルフキラー)】の最後が同胞を庇って命をおとす……か。本当に変わったね、ジエン」

淡々の述べるその言葉には何の感情も込められていない。

本当に変わったんだなという変化の観察だった。

セシルは急いで回復薬(ポーション)でジエンの傷を治そうとするがもう回復薬(ポーション)は手持ちになかった。

元々は予備として数本持っていた回復薬(ポーション)は自分を含めてベル達にも使った為にもう手元に回復薬(ポーション)はなくなった。

ベルとレフィーヤに視線を向けるが二人は首を横に振った。

「どうして…………何ですか?」

ベルは怯えながらもキュオに言葉を投じる。

「同じ【ファミリア】の仲間じゃないんですか……?それなのにどうして……」

ベルはわからなかった。

同じ【ファミリア】の者がどうして殺す事に躊躇いなく殺させるのか。

どうして殺さなければならないのか。

今まで経験したことのないベルにとって無縁だったものをベルは体験している。

「殺すのに理由なんている?」

「ッ!?」

首を傾げて逆に問われたベルは目を見開く。

「ああ、そっか。君達はまだ人を殺したことのないのか。なら、知っておいた方が良いよ、『暗黒期』では人殺しなんて当然のように行われていたんだから。私達のような『暗黒期』の生き残りが君達を殺しにくる可能性だってあるよ。特にミクロの元にいる君達二人はね」

「団長が……」

どうしてそこにミクロの名前が出てきたのかわからない。

セシルもどういう意味なのかわからず怪訝するとキュオが答えた。

「ミクロは私達【シヴァ・ファミリア】の団長、副団長の間で産まれた子供。そしてミクロ自身その手で多くの人を殺している」

「「「っ!?」」」

その言葉に三人は驚愕した。

「う、嘘!お師匠様がそんなことをするわけがない!!」

弟子であるセシルはすぐにその言葉を否定した。

ミクロが人を殺したなんて現実を受け入れたくなかった。

「私は【ファミリア】諜報担当だから情報に嘘は言わないよ。闇派閥(イヴィルス)に加担した【ファミリア】を含めて十人以上は殺したと確かな情報を獲得しているから間違いはないよ」

告げられた現実にベル達は受け入れがたい。

『俺のようになったらいけない』

ベルは不意にミクロが言っていたその言葉が脳裏を過ぎる。

「五年以上前だとミクロはまだLv.1でその時から暗殺できるのはやっぱり才能だね。団長もそうだったし、血に勝る才能無しってね」

「嘘だ……そんな出鱈目私は信じない!!」

吠えるセシルに飄々と聞き流すキュオ。

「まぁ、信じる信じないはご自由に。どうせ、ここで君達は死ぬんだから」

近づくキュオにベルは二人の前に立って武器を持つ。

「君から死ぬ?」

カタカタと体が震えるベルはそれでも真っ直ぐとキュオと向かい合う。

男の自分がここで女の子を守れないなんてかっこ悪い真似は出来ない。

例え敵わなくても二人だけは逃がす。

その決意を胸にベルは恐怖に打ち勝ち、前進する。

「よく耐えた」

その時、聞き覚えのある声が聞こえた。

ベルの前に颯爽と姿を現したミクロはキュオに攻撃して強制的に後退させる。

「団長……」

ミクロの姿を見て安堵したベルはその場で座り込む。

恐怖と緊張が解けて安堵するベル達。

その近くに倒れているジエンを見てミクロは察した。

「ありがとう」

亡きジエンに感謝の言葉を述べてキュオと向かい合うミクロ。

更には。

「クラネルさん、セシル。それに【千の妖精(サウザンド・エルフ)】無事で何よりです」

「もう大丈夫……」

「リューさん!」

「アイズさん!」

空から地上から助けに来てくれたリューとアイズもベル達を助けに来た。

助っ人に来た三人の第一級冒険者。

「リューとアイズは三人を頼む」

ミクロの言葉に頷いて応じる二人にミクロはキュオと向かい合う。

「やっぱり生きていたんだね、ミクロ。どうしてここが………って訊くのは無粋かな?」

レフィーヤやベルの魔法であればけ騒ぎを起こせば誰だって気付く。

「ジエンを殺したのはお前だな」

「そうだよ。一応聞くけど見逃す気はある?」

「ない。お前はここで倒す」

逃がすつもりはないミクロは武器を手に持ち構えるとキュオも武器を手に持つ。

「仕方ない……(ころ)し合うか。どちらが先に壊れるまで楽しもう」

狂喜に満ちた瞳でミクロを見据えて二人はぶつかり合った。


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