心を落ち着かせましょう。
食事を済ませて満たされた私は、とりあえず寝ることにした。
ネイト君のことは気になるが、時間が経ったとはいえ、ついさっきまで核爆弾から逃げていたのだ。
ノーラさん達のこともあったし、もう体力の限界だ。
ちょうど、少々臭うが、御誂え向きなベッドがある。
ここで一眠りさせて貰おう。
こうして、テツオは寝床に身を委ねた。
Vaultスーツ越しでも分かる、このマットレスは良いものだ。
柔らかな綿の弾力に感涙を覚える。
しかし彼は微睡みの中で、背中の微かな違和感に気付く。
何かがマットレスの下に挟まっている。
まさか、ゴキブリが中に入り込んでいるのか?
仕方ない、引きずり出してやろう。
テツオはマットレスの中に手を突っ込み、違和感の正体を引きずり出す。
だが彼の手には生物ではなく、無機物、まだ動きそうな小さな機械が握られていた。
腕時計の要領で腕に装着する携帯型個人用ターミナル。
質量保存の法則に喧嘩を売る実在する四次元ポケット。
身体情報をスキャンし、個人のパラメータを数値化、そして個人の持つ能力を引き出す人類の秘密兵器。
Pip-Boyだ。
何故こんなところに?
不思議に思った彼は、このベッドを少し調べてみた。
マットレスを引っぺがされた寝台に、全ての答えがあった。
小さな白骨死体、片手に拳銃を、もう片方には熊の人形が握られている。
この機械の持ち主は、ベッドに挟まったまま亡くなったようだ。
「ああ、可哀想に……南無阿弥陀無。」
だが、このPip-Boyさえあれば、あらゆる困難に立ち向かう術として活躍してくれるに違いない。
最早、この子の為に置いていくという選択肢はない。
「君のこれは貰っていくよ、安らかに眠ってくれ。」
軍用の物は、神経に直接つながるため、痺れるような痛みを伴うと聞いたことがある。
だがこれは、そういった接続機器らしきものは付いていない。
どうやら、民間用に作られたものらしい。
テツオは、左手にPip-Boyを取り付けた。
すると、沈黙していたディスプレイに文字が浮かび上がる。
<初期化中……完了>
<身体データスキャン中……完了>
<ステータスをS.P.E.C.I.A.Lに反映>
Level : 15
Name : Tetuo Tanaka
Strength : 4
Perception : 6
Endurance : 5
Charisma : 5
Intelligence : 8
Agility : 3
Luck : 10
<取得可能なPerk(2)があります>
<Perkメニューから取得してください>
成る程、自分はとても運の良い人間らしい。
生き残れたうえに、このPip-Boyを見つけ出せたのも頷ける。
Perkとは、Pip-Boyの機能を最大限に活かし、個人の持つ能力を開花させる機能のことだ。
人のあらゆる体験を数値化したもの、いわゆる経験値に基づき、持ち主に新しい力を与えてくれる。
その機会を今、得ているのだ。
彼は目に付いたPerkを取ってみることにした。
<Luck10>
・Goddess of favor(Rank.1)
・貴方は女神様の寵愛を受けている!巡りの良い出会いに恵まれる!
<Intelligence8>
・Secret service(Rank.1)
・貴方は組織の庇護対象になった。Vats攻撃時、スナイパーが召喚される。
Pip-Boyが僅かに振るえ、持ち主に新たな力を授ける!
「思った以上に、あっけないものだな。」
しかし、彼は実感する。
温かなオーラを先ほどから感じるのだ。
そして、彼はベッドに横たわる仏さまに向き直る。
「この拳銃も貰っていこう。大切に使わせてもらう。」
だが、肝心の弾丸が何処にも見当たらない。
こんな丸腰の状態で、何が起きているか分からない外に出るわけには行かない。
何か武器になるものはないか。
■
そして、監督官の部屋で、彼は大きな銃器を発見する。
「これは、使えそうだが……」
机の上のターミナルを見て分かったが、これが監督官の「楽しい玩具」なのだろう。
あらゆる有機物を一瞬にして氷結させる強力な兵器。
クライオレーターという名前らしい。
ーー欲しい
不思議な魅力がある。
あの銃口を見てみろ、脚線美が素晴らしい。
全体の図太く見えてこじんまりとした、若大将の様な出で立ちだ。
銃身から溢れ出る冷気の湯気が、溢れ出るエネルギーを押さえつけようと奮闘する超次元的な存在の様にも、今すぐにでも獲物に噛みつきたいと吠える狼の様にも見える。
ああ、今すぐにでも手にとってやりたいのだが……
それを分厚いガラスケースが拒むのだ。
どうにかしようにも、鍵なんて見当たらない。
ピッキングをしようにも、日常生活でする機会があるはずもなく、そんな技術は私に無い。
とりあえず、使えるものはないかPip-Boyのインベントリを調べて見る。
すると、「サーシャへ」というホロテープを見つける。
ホロテープ、使い勝手の良い記録メモリーだ。
どうやら、音声データが中に入っているらしい。
<再生中>
(男の声)「サーシャ、このテープを聴いているということは、すでに僕は死んでいることだろう。Vaultの統率は絶望的だ。人々は食料を求め、争いあっている。それどころか、親しかった隣人を食べる者まで現れ始めた。サーシャ、いいかい……今から父さんは、君に酷いことを言う。どんなことをしても生き残ってくれ。Vaultから脱出するんだ。君の大きさなら、食堂のダクトから監督官室に行くことができるはずだ。父さんのターミナルを使えば、外に出られるようになる。だから、人の気配がなくなるまで、ベッドの下に隠れていてくれ。大丈夫、ブギーマンはいないよ。子グマのティミーも一緒だ。愛してる、サーシャ。」
<再生終了>
話の内容からすると、これはこのVaultの監督官から娘に宛てたメッセージのようだ。
おそらく、このPip-Boyの持ち主だった子が、サーシャだったのだろう。
しかし、彼女は言いつけを守ったまま、マットレスの下で息を引き取ったらしい。
Pip-Boyのインベントリに、大量のゴミが入っていた。
レトルトのステーキの箱、ファンシーラッドケーキの箱……
中にはまだ食べられる物がいくつか入っていたが、殆どが食料品の空箱。
彼女はずっと、ずっと、時を待っていたのだ。
ーーダクトか
辺りを見渡すと、ロッカーの足元に、少し大きめの通風口があった。
蓋は、簡単に外しことができた。
中を覗き込むと、ダクトの中に小さな封筒が置いてあった。
「『よく頑張ったね、これは父さんからの贈り物だよ。あの大きな銃をPip-Boyにお入れ。きっと役に立つ日が来るだろう』……私は、本当にこれを持って行っていいのだろうか。彼らが残した物を、娘への愛を、私は冒涜しているのではないだろうか。」
封筒の中身は、鍵だった。
ああ、きっと、これは最低な行いだ。
先ほどまでの「欲しい!」という衝動は、いつの間にか消えていた。
だが、このまま彼の無念をないがしろには自分はできない。
「貴方達の死は、無駄にはしない。」
そうだ、私は鍵を回す手に力を込める。
がちゃりと、歯車の回る音が聞こえ、蓋が開く。
ずっしりと、その銃身の重みを腕に感じ、Pip-Boyのインベントリにクライオレーターを収めた。
「そういや、一睡も出来なかったなあ」
■
テツオは今、大きなエレベーターの中にいる。
ゆっくりと、それは地上に向かっており、頭上のシャッターが開いた。
そして、目の前の光景に涙を流す。
サンクチュアリ・ヒルズ、彼が住んでいた街。
それはもう、昔の面影を残してはいなかった。
緑が失われた、黄色い地獄。
だが、遠方からでも分かった。
「人が住んでいる……のか?」
彼は堪らず、坂を滑り降りた。
<Fallout Guide>
[Perk]
Pip-Boyが与える特殊な能力、または技能のことです。
本作では、個人の潜在能力を最大限に引き出したものと解釈されているため、テツオの持つ取得可能Perkには、原作に無かったものがあり、またPerkの取得可能条件がネイトさんと違ったりしています。
また、ネイトさんが当たり前にできることができなかったりします。
[Perk紹介]
<Strength1>
・Dream catcher(Rank.1)
・貴方はダーツの達人だ!投擲武器の命中率が上がる。
<Perception1>
・Analyzer(Rank.1)
・敵の気配を感じる?敵対している生物の方向がマップに表示されるようになる。