海岸の町   作:アイバユウ

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第5話

 

朝目を覚ますと、廊下から生徒達の声が良く聞こえてきた。

まだゆっくりしたいとか、しばらくここにいたいとか意見はさまざまだがここが気に入ったようだ。

もっとも、学生は勉強が忙しいのでそれから逃れたいという気持ちもあるのだろうけど。

私にとってはようやくうるさい生徒達といやなお客が帰ってくれるのだから言う事は特にない。

一応見送りをするため、布団から出ると外用の服を着て簡単に髪を整えると外に出た。

廊下には多くの生徒が歩いていた。荷物をたくさん持ち思い出話に花を咲かしている生徒も居る。

 

それにしても、今日も良いお天気、ここ最近雨が降っていないので水不足にならなきゃ良いけどと

ちょっと馬鹿なことを考えながら、連絡通路を渡り本館のロビーに着いた。

そこでは先生が生徒を並ばせ、遅れていない生徒が居ないか確認していた。

 

私はロビーのソファに座るとテレビのニュースを見ていた。

たまに彼らの様子を見ていたが、これから大都会に帰る事をだるいと思っている生徒が多いようだ。

 

「カオリちゃん、ようやく静かに寝れるわね」

 

見送りのために居た仲居のユリさんがうんざりした様子で言った。

どうやら、彼らがうるさくてあまり眠れなかったようだ。私は苦笑いをしながらも今日からはゆっくり眠れますよといった。

今日で団体客はしばらく予約はないので平和な日々が戻ってくる。ようやく平和な日々が戻ってくるのだから嬉しい。

さらに私の場合、あの会うのも嫌な人と離れることができる。私にとってはそれのほうが大きい。

旅館の支配人でもあるお父さんに感謝の言葉とお礼を生徒達が儀礼的に述べると旅館から出て行き始めた。

旅館の傍を走っている道路にはバスが止まっていてそれに乗り始めた

仲居さんたちは見送りのため生徒達と共にバスの傍まで行き、手を振っている。

私も彼らと同じような行動をしたが後ろのほうにいた。

 

 

 

少しずつバスが走り出し、バスが見えなくなるまで見送ると仲居さんたちにお母さんが言った

 

「さあ、片づけをしましょう。それが終わったら今日はもうお休みよ」

 

今日は予約客が入っていないため、これでお仕事は終わり。

ただ後片付けが今回のお客は大変だろうというのは大体予想していたことだが。

実際に部屋の後片付けだけで一日をつぶす事になるとはこのとき誰も予想はしていなかった。

私も布団干しを手伝っていたが、忘れ物がかなりあったので後で宅急便で届けないとお母さんが言っていた。

布団干しも楽ではなくかなりの枚数があったので干せる場所を探すのが大変なほどであった。

 

いつもは草花とネコ達の楽園も今日は布団がいっぱいあり、大人のねこたちは草花と戯れるのではなく、今日は海から吹く風で揺れる布団に背伸びして、布団を掴もうとがんばっていた。

 

草花達も布団のせいで今日は満足に太陽が当たることはないだろうが、子猫さんたちと戯れていた。

ねこじゃらしはやんちゃな子猫の相手に忙しそうだ。

子猫はなんとかして猫じゃらしを捕まえようとするが、風でゆらゆらと揺れるのを捕まえるのは難しいようだ。

あと何年かして大きくなればねこじゃらしに届くようになるだろうが

こんな和やかな雰囲気もあのときには体験できなかったものだろう。

私には使徒とエヴァと自分のことで精一杯だった。それ以外何も考えることはできなかった

それが今では、子猫と戯れたり他人の事も考えられるくらい余裕ができた。

ただ、今でもあの時、あの場所での惨劇は忘れることは永久にないだろう。

 

通路の一面にこびりついた血と死体の山。

おびただしい数の人の亡骸に自分は恐怖に陥り暴走、挙句の果てにサードインパクトをおこすという史上最大の犯罪者。

誰も真実を知る者は居ないだろう。なぜ死人が蘇ったのか。なぜサードインパクトが起こったのに、人は滅びなかったのか

そして、最近の気象観測で地軸が戻りつつあることがわかったそうだ。

セカンドインパクトによって地軸が大幅にずれ、日本は1年中夏真っ盛りになったが、来年か再来年にも季節が訪れるそうだ。

人々にとっては祝福すべき出来事。セカンドインパクトによって地軸が大幅にずれた。

日本は1年中夏であったがずれが解消することによって、作物などさまざまな面で大きな影響があるだろう。

 

そして、動物達にとっても再び住みやすい事になるだろう。

セカンドインパクトによる急激な気象変動によって多くの生物が死滅したが、

最近になって絶滅動物達が戻っているを確認したと。そういう明るいニュースが多い今年はきっと良いことがあるのだろう。

 

 

 

ただ、ひとつだけ、心配事がある

 

 

 

「それにしても、お天気続きで本当に水不足になるかも。タンクの掃除、やったほうがいいかな」

 

ここ最近天気が良い日が続きっぱなし。雨があまりというかほとんど降っていなかった。

 

「それは大丈夫でしょ。明日から天気は悪くなるって」

 

「そう、なら安全ね。早く出てきたらどうですか。ルミナさん」

 

建物の陰に隠れる場所から一人の女性が出てきた。髪は背中の中ほどまで伸ばし自分と同じように髪が白銀色で紫の瞳をしている

私と同時期に発見されたらしい。ちなみに近所にある小さな家で一人暮らしをしている。

なぜか彼女を自分は知っている気がする。どこかで彼女といたような気が。でもどこで会ったかは思い出せなかった。

彼女に聞いても彼女の答えはいつも同じ

 

『私はあなたを知っている。あなたは私を知っている。でもあなたは覚めていないからわからない』

 

そう答えるだけだ

その意味は分からない。でも彼女は言うように私は知っているのかもしれないが思い出していないのであろう

実際、あのときの事もすべてを覚えているわけではない。一部記憶が飛んでいるところもあるのも事実だ

赤い世界に失われた命、そのとき誰かが私の傍にいたように暖かかった。でもそれが誰だったのか。

そして本当にそこに誰かいたのかすら分からない

事実を知る者は私しかいないのだから誰も知らないのだ。

 

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太陽はそろそろ夕暮れ時、これでようやく平和な日々が訪れる事になるだろう。

今日は予約客が居ないので仲居さんや板前さんたちと楽しくパーティーなのだが、自分は参加はしないことにした。

夜から写真家の男性と少しデート、というか近くの町まで送ってもらって買い物をすることにした。

いつもなら他にも誰か一緒に行くのだが、みんな楽しく盛り上がれるように自分だけで行く事にした。

もっとも、2人で行くのがこれが最初というわけではないので慣れている

行きは写真家の男性が運転をして、帰りは私が運転をする。私も普通免許を取得済みなので問題はない。

ちなみに行き先は第3東京市。そこで必要な日用雑貨等をまとめて買ってくるので結構な量になるし、金額にもなる。

そのため、私が今回大金をあずかることになった。はっきり言って気分は最悪である。

あの街に行くのは嫌いだが、この町から一番近いのは第3新東京市であることは事実だ

 

「そろそろ、第3に行ってくるね」

 

ロビーで一応受け付け業務をしている父に言うと、封筒を渡してくれた。

中身はお金と買ってくるもののリストである。

ちょっと今日は厚みが大きいような気がするが、今は気にしないでおこう。

封筒を受け取ると私は旅館の外に出た。空には重そうな雲が漂っていた。

どうやら、昼間にあった彼女の言うとおり雨が降るようだ

道路にはすでに写真家の彼の車が止まっていてこちらに手を振ってくれていた。

 

「今行きます」

 

私はそう言うと彼の車に駆け寄り、ドアを開けて助手席に乗込んだ。

4WDの車で4人乗りだが、乗り心地は、あえて言わないでおこう

車はゆっくりと走り出したが振動が・・・・。慣れればそうでもないが慣れていない人にはちょっときつい。

おまけに今日は雨だ。暗い中車1台で走るのは肝試しとさして変わらないだろう。

海沿いの外灯もない道を走り、しばらくすると風景は一転する。今度は山道になる。

いくつもの峠がありそれを通過するため4WDのほうがいいのだ。

また一部整備が遅れていて舗装されていないところもあり、この雨でその場所はぬかるんでいるだろう。ちょうど良かった。

 

「眠っていても良いよ。帰り、つらいよ」

 

男性が運転をしながら私を気にかけてくれた。

つらいのは分かっているが、こんな振動がきつければそう簡単には寝れないのも事実だ

外は真っ暗。これでドラマのワンシーンでよくあるような駆け落ちした二人のように見えないこともない。

ただ、今この車にはそんな甘い雰囲気はないが。

愛の逃避行なら最も明るいうちにしたいものだ。こんな暗ければ甘い空気にもなれない。

私はため息をつきイスを少し倒すと眠ろうとした。この車に何度か乗っているし寝つきはいいほうなので大丈夫だろう

 

 

 

人は忘れる事ができる便利の良い生き物。記憶を消す事はできなくても忘れる事はできる。

 

私には世界中のすべてがインチキに見えるときがある。

 

ネルフの偽装、政府の偽装、そして世界の偽装。すべてが偽りだらけの世界に真実はあるのか。

 

マスコミですら偽りの事実に翻弄され、そして世界の人々も偽りの事実に翻弄されているのだ。

 

本当の意味での偽装のない情報など、この世界には存在しないのかもしれない。

 

もしそうならこの世界は偽装された情報に翻弄されている

 

わたしもその一人なのかもしれない。

 

だって、偽りの世界の中に居るのだから

 

 

 

 

 

 

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