海岸の町   作:アイバユウ

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第3新東京市(買い物編)
第6話


 

心の安息。そんなものが来るのはいつの事なのか。いまだ先が見えないこの世界に私は彷徨っている。

闇が続く世界に私の安息は程遠い。いつ襲ってくるかもしれない過去を恐れ、今だ出口の見えぬ闇。

やがてトンネルを抜けることができるだろうという光。

その交錯する世界で私は一度、区切りをつけた。忘れるという行為で。

だがそれは完全ではない。そんなものは所詮仮初めの平和に過ぎないのだ。

忘れるという行為はあくまでも時限付の安息でしかない。

いつかは取り戻すかもしれない。その記憶を。そんなものは信用にならない。

もし本当に忘れたいならそれは人として最後の手段をとるか、自分に嘘をつき続けるのどちらかを選ばなければならない。

どちらも茨の道だろう。だが、私にそんな覚悟はなかった。あくまでも一時的な安息を選んでしまった私を。

今では何と愚かだったのかという思いがある。

 

記憶に翻弄され、闇に覆われた世界で生きるのはごめんだ。生きるなら明るい世界で生きたい。

いつかその願いが叶う日が来るだろう。私が明るく本当に安息を手に入れられる日が

そんなことを考えながら私は眠りについた。

 

 

 

「・・・きて、起きてよ」

 

体を揺さぶられて眠っていた私は目が覚めた。どうやら、第三新東京市に着いたようだ。

外を見ると山ではなく、無数のビルが車の周りを覆っていた。車はどうやら第3新東京市の中心部に来ているようだ。

 

「運転、代わる?」

 

私は疲れているであろう彼にそう言葉をかけると、目的地についたら助手席で眠るからそれからで良いよと返してきた

どうやら、最後まできちんと自分で運転していくみたいだ。彼は根がまじめなので途中で捨てたりはしないだろう

車の窓を開けて外の空気を吸うと海岸の町とは違い、ここは空気が悪い。

あの町の空気は澄んでいてきれいなものだったが、この街の空気は汚く不純物の多い空気だ。

都市、それは人が寂しさを紛らわすために作った偽装された場所。

が人はそれですべてを隠せず、偽りの自分をその場所で作り出している。

私自身もそういう場所に身をおいて隠れるようにしていたときもあった。それが都市の怖さ。都市は自分の存在を隠す。

そしていつのまにか自分のことを忘れる。

 

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第三新東京市はもう少しで首都になる。

行政の多くは第三新東京市に移り、さらに経済の中心地として名が知られている。

現在、世界で数多く起こっている新たな勢力分立による戦争によって景気は良好。人通りも多い。

行き交う人々は皆不安のない表情で歩いている。そんな人々を見ていると気分が悪くなりそうだった

 

自分達には関係ないからそんな表情をしていられるのだ

 

もうすこしで、目的地の大きなショッピングセンターに着くようだ

私は車の後部座席に積んでいるカバンを出し降りる用意をはじめる。

頼まれた商品をすべて買うのにおそらく2時間ほど掛かるだろう

気が思いやられるがやらないわけにもいかないので、できるだけさっさと終わらせるに限る。

 

ただ、後ろからこの街に入ってからずっとついてきている後ろの車に乗っている人物がちょっかいをかけなければだが

 

鬱陶しいくらいずっと尾行してきている車の乗務員の一人は見覚えがある。

できれば、接触したくもないがそうもいかないだろう

 

「帰りは少し荒れるかな」

 

私は横で運転している彼に聞こえないようにそう呟いた

 

 

「着いたよ。僕はここで助手席に座って寝てるから買い物終わったら運転して帰ってね」

 

彼はそう言うと運転席から助手席に座る場所を変えた。私はすでに外に下りているので問題ない。

わかったわと私はそう言って行こうとした時、彼が突然紙袋を放り投げた。

突然の事に一瞬驚いたが、私に渡すように放り投げられた袋をキャッチできた。

袋の中身はどうやら女性には少し重い代物だがなに?と彼に聞くと頼まれたものだよと返してきた。

 

「あれね。ちゃんと準備してくれたんだ」

 

「まあね、なにせ可愛い女性のお願いには弱いから」

 

彼は全部補充してあるから気をつけてねとそう言うとイスを倒して寝始めた。

私は受け取ったものをカバンに入れてショッピングセンター内に入っていた。

後ろからついてくる誰かの気配を感じながら

 

 

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「にしてもあんなものをほしがるなんて、怖いね」

 

車の中から彼女を見送ると彼はそういった

あれは昔の知り合いから買い付けたが、彼女があの話を持ってきたときは驚いた。

 

1ヶ月前、夜遅くに彼女は自分の家を訪れた。

私は何の用事なのか見当もつかなかったが、玄関で話をするのもなんだろうと思い彼女を自宅に招きいれた

家の中はそれほど片付いては居ないが別に人が入れないほどの汚さというわけでもないので大丈夫だ

彼女と私がイスに座るととんでもない一言が飛び出した

 

「拳銃を売ってくれませんか」

 

その一言に私は驚いた。私は昔話を彼女に一度聞かせたことがあるがそれはもう何ヶ月も前の話だ

それに最後に冗談だよと付け加えたので、信じてはいないだろうと思ったがどうやら本当に信じてしまったようだ

 

「どうして欲しいんだい」

 

「身を守るため」

 

彼女は淡々と質問に答えるだけだった。いつもの彼女の姿はなくまるで冷たい人形がいるように私は感じた

正直言えば気味が悪かった。いつもの彼女はこんなことをしないことを知っているからなおの事だ

 

「誰から身を守るんだい」

 

私はその次の言葉を今でも鮮明に覚えている。彼女の言った言葉に私はある種の恐怖を覚えた

 

「私を害するものから守るためにいるの」

 

「だから、売って」

 

彼女は無表情でそう言い、ポケットから数万円が出てきた。

私はそれを受け取ってしまった。なぜ彼女があんなものをほしがるかに少し疑問を持ちながらも

拳銃に関しては昔の旧友に安く仕入れてもらった。用意したのは警察や軍でよく使用されているベレッタM92

装弾数は15発だ。女性には少々厳しいかと思ったが本人にいくつかの自分が持っている銃の試射をしてもらったところ

特に問題がなかったのでこれを選んだ。弾数が多いのも選択理由である。

彼女があれをどうするつもりなのか私にはわからないがあれであの子が安心して暮らせるなら安い買い物だと思った。

セカンドインパクト以降、銃は良く流れてくる商品だ。治安の悪化と共に国内でも流通し始めた。

政府も事実上黙認状態。今はそうでもないが抜け道はまだ多い。

私が銃を彼女に格安で売ったのもそれは私が彼女の魅力に引き込まれたのかもしれない

それがどういう結果になろうと私は彼女の幸せを願っている。

 

 

彼女が何をしようとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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