海岸の町   作:アイバユウ

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第8話

 

「カオリちゃん!」

 

写真家の男性と落ち合う場所に着くと彼は待ちきれずに私たちが乗っている車のドアを開けた

よほど心配だったのだろう。彼の顔色は悪かった

 

「外傷はないわ。ただしばらくは心の整理が大変でしょうけど」

 

ルミナは冷静に言うが、写真家の男性の表情は明らかに怒っている表情であった

 

「あなたたちは自分達を監視していたんですか」

 

そうでもなければ自分達の行動が知られるはずがない。つまり元から尾行されていた、ということになる

それは信頼していた相手に裏切られたという事を意味していた。

彼とてルミナの存在を知らぬわけはなかった。あの小さな町だ。誰かが入ってくれば噂になる

彼女の事とて噂になり耳にしていた。彼女はあの旅館の関係者を除いてもっともカオリに近きもの。

そんな彼女がカオリを裏切ったと知れば彼女は壊れてしまう。カオリが裏切られる事をひどく嫌うことはよくわかっていた

 

「私はカオリを守るのが使命なの。それをわかってほしい」

 

彼にとってそれは苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。

 

 

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結局その後、私は彼の運転する車であの町に帰っていった

でも、こころの中では裏切られたというよりも、彼を傷つけてしまったという気持ちのほうが大きかった。

たとえ少しでも彼のことを知っていて使徒であった彼のことも知っているからこそ、そうだったのかもしれない

あの町に着いたのはちょうどきれいな夕日が見れる時間だった

 

「どうしてここに止まったの?」

 

もう少しで私の家というところで彼は車を止めた。そこはがけの上にある展望台の前。

彼は車を降りると少し話をしようかと言い、私を誘って展望台のベンチのほうに歩き出した。

展望台からは雄大な海にゆっくりと沈もうとする太陽。

カオリはベンチに座り、その横に男性も座った。二人は黙って風景を眺めていた

が、黙り続けていた私が話し始めた。

 

「バカな男の子が一人いたの」

 

「その子は、自分がどんなに非力なのかわかっているから誰にも関わろうとしないの」

 

「でも、2人の女の子が来て、その男の子の心を溶かしたの」

 

「でも、結局男の子は二人を見捨てるしかできなかったの」

 

「自分は非力だってわかっていたから」

 

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「バカな男の子が一人いたの」

 

「その子は、自分がどんなに非力なのかわかっているから誰にも関わろうとしないの」

 

「でも、2人の女の子が来て、その男の子の心を溶かしたの」

 

「でも、結局男の子は二人を見捨てるしかできなかったの」

 

「自分は非力だってわかっていたから」

 

それは自分の苦しみ、逃れる事のできない罪なのだ

 

「バカな男の子は二人を殺してしまった事に後悔でいっぱいだったの」

 

「苦しんで苦しみつくした彼は再びすべてを元に戻そうとしたの。まるで赤ちゃんが崩れた積み木をつみなおすかのように」

 

「でも、元には戻らなかったの・・・そうよね。自分が元の形がどんなものなのかわかっていなかったのだから」

 

「もういいよ。カオリちゃん」

 

彼はそういうが私は話をやめなかった

 

「それでも、バカな男の子はもとにもどそうと」

 

「もういいんだ!カオリ!」

 

彼は強い口調でそういうと私を抱きしめた。もう泣いている君を見たくない。彼はそう言った

私は泣いていたのだ。『バカな男の子の話』をしながら泣いていたのだ

もういいんだよカオリちゃんとやさしい口調で慰めるかのように言っていた

私は自分が泣いているという事を理解してはいなかった。いや今までの話には一切感情がこもっていなかった。

まるで機械から発せられる言葉のように単調に話していた

 

「もういいんだよ。かおりちゃん」

 

「君は君なんだよ。『水川カオリ』なんだ」

 

そのとき、少しだけ私は彼の言葉の真意を感じた

 

彼は・・・・・・私のこと・・・

 

 

 

だがそれは叶わぬこと。人と神様は違うのだ

 

 

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「それで、彼の容態は」

 

真っ白い部屋で一人の少年がベットで寝ていた。腕には点滴がされておりここが病院だという事がわかる

部屋の中には少年以外に2人の女性が立っていた。金髪で白衣を羽織っている女性はネルフで技術部長をしている赤木リツコ。

もう一人は先ほどベットで寝ている彼と共にいた葛城ミサトだった

 

「幸い、彼らの通報で早期発見されたから命に差し障る事はないわ」

 

「で、あいつらはなんて言ってきたの」

 

「ネルフの護衛ってそんなものなのですかという嫌味よ」

 

「監察局の連中!」

 

それはネルフという狂犬につけられた飼い主。

 

だが、それもあの子を守るために存在するのだと彼らが知るのはまだ後の話だ

 

 

 

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