海岸の町   作:アイバユウ

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第92話

私がこの旅館に戻ってきて翌日、静かな1日が始まった

平和な日常が返ってきたのだ。これからはもう邪魔されることはないだろう

助けてくれる大切な人が私の部屋の隣に住んでくれている。これからはいつでも一緒だ

たとえ彼が元ゼーレの人間だとしても今は私にとっては大切な人間だ。

私のことを守ってくれる。そして愛してくれている。本当の意味で。だからこそ嬉しいのだ 

家族以外で初めてそんな人物に出会えたから。今まで信じれるのは家族だけだったがこれからは違う

ようやくもぎ取った平和だ。大事にしたい。部屋を出るとちょうど隣の部屋のユウさんも部屋を出てきた

 

「カオリちゃん。これから朝ごはんかな?」

 

「はい。食堂で」

 

「なら僕もそうさせてもらおうかな。一緒に食事にしよう。1人よりも2人の方が楽しいと思うからね」

 

ユウさんはそう言うと私はそうですねと返事をして一緒に本館の食堂に向かった。

幸いな事にまだ食堂は人が少なかった。いつものおじさんが私用の朝食を用意してくれた。

量は少ない食事だが私にはすぐにお腹いっぱいになってしまうものだ

ユウさんも同じように食事をもらっていたが私よりも断然多かった

当然といえば当然だ。私はもともと小食なのだから。一方彼は鍛えられた戦士だ

食事はよくとらないと

 

「カオリちゃん。今日はどうするつもりかな?」

 

「たぶん午前中は海岸の砂浜に行きます。お酒の注文をしにいかないといけないですから」

 

「大変だね」

 

「外に出る時はこれぐらいしかありませんから」

 

そう、私がこの家から出かける時は、おかあさんかお父さんに用事を頼まれた時がほとんどだ

あとはあの綺麗な砂浜に座り海を見に行くときだけだ。それ以外でこの家を出ていくことはまずない

平和だからといってもまだ私は臆病なのだ。昔からの体質は簡単には変わるものではない

いつも逃げてはだめだと思っているがどうしても逃げる方を選んでしまう。

ダメな私なのだ。だけど今日からはそうはいかないと決めたのだ

もう目の前の現実から逃げるのではなく受け止めるのだと。そうでなければ前に進むことができない

 

「あの砂浜に行くなら一緒に行こうね」

 

「でもユウさんに迷惑を」

 

「僕は君を守るためにいるんだから、どこまでも付き合うよ。それが地獄でもね」

 

その言葉に私はとても嬉しかったが砂浜に行くのは1人が良いと思った。ユウさんの心遣いにとても嬉しいが

あまり束縛されるのは好きじゃないので。私はこの町でのびのびとして生きていきたいのだ

自由に小鳥が翼を広げて飛び立つかのように。私とユウさんは量は全然違うのに食事を終えるタイミングはほとんど同じだった

同じように食事を終えるといつものように裏口に言ってネコの食事である猫缶を取り出した。

いつものように皿の上に盛り付けるとそれを持って本館と別館の間の中庭に向かった

すると私が来るのが分かっていたかのようにネコさんたちが待っていた。

 

「おなかがすいたのね」

 

ネコたちの前に置くと仲良く大人のネコも子猫も一緒になって食べ始めた

私はそれをベンチに座りながら見ていると途中で食べるのを止めた子猫が私の足元に近づいてきた。

1頭を抱きかかえるとまた1頭と続いて近づいてきた。私は仕方なく近づいてきたネコさん達をベンチの上に抱き上げる

すると丸くなって眠り始めた。まだ朝だというのに。私は羨ましいわねと思いながらも今のこの平穏が嬉しかった

 

「カオリちゃんはネコにモテモテだね」

 

ユウさんが後ろから近づいてきた。

 

「きっとエサをくれるから好かれているんですよ」

 

それが本当なのかどうかはわからない。でもきっとネコさんたちは私のことを好きだと思っているのだろう

そう願いたい。


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